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第18話「新たな業務を提案される」

 ──柳也(りゅうや)視点──




 蛍火(ほたるび)の部屋にはパジャマが落ちていた。

 パジャマの下からは小さな布がはみ出している。えっと、あれは……。


「………………少々お待ちください」


 蛍火(ほたるび)の反応は素早かった。

 彼女はパジャマと布を拾い上げ、隣の部屋へ放り込む。

 そのまま、後ろ手にドアを閉めて、


「失礼いたしました」

「……いえ」

「お恥ずかしいところをお見せしました。いえ、わたしは貴族ですから動揺(どうよう)はしません。貴族ですから、パジャマと下着を見られたくらいでは……」

「わかりました。わかりましたから、落ち着いてください」

「…………うぅ」


 蛍火は顔をおおってしまった。


 俺がいるのは、魔術結社『ポラリス』の拠点(きょてん)があるマンジョンだ。

 真新しい8階建てで、蛍火たちはその最上階を借り切っているらしい。


「ここは地脈がいいので、最上階まで魔力が上がってくるんです」


 蛍火は自慢そうな顔で、


「しかも、駅に近いのに家賃が安いんです。魔力に満ちて家賃が安い物件って、なかなかないんですよ」

「マンションの裏が墓地なのは関係ありますか?」

「あります。昔から人は、地脈の良い場所に墓地を作る風習がありましたから」

「……墓地の側って、異能者に取ってはお買い得なんですね」

「その魔力を利用して、マンションの周りに簡易的な術をほどこしています。ここには不審者(ふしんしゃ)はもちろん、訪問販売だってくることはできません。防犯は考えてあるんです」

「さすがですね」

「ありがとうございます。それじゃ、すぐにお茶を()れますね。桐瀬さんは座って待っていてください」


 そう言って蛍火はシンクの方へ。

 俺は言われた通り、キッチンの椅子に座る。


 彼女の部屋は、ごく普通の1LDKだった。

 それに、意外と質素な生活をしてる。

 シンクの横には、カップ(めん)の器が積み上がってるし。


 アパートの1Kに住んでる俺に言えた義理じゃないけどな。

 いや、うちもそれほど悪くはないんだけど。防音はしっかりしてるし、部屋は2階だし。コンロは2口で調理スペースもあるから、手の込んだ料理もできる。

 できれば、もうしばらくは住んでいたい場所だ。

 だから魔術結社『ポラリス』に家賃を払ってもらえるのは有り難いことで、俺が『攻略配信』に参加する理由にもなっている。


 母さんの遺産には、できるだけ手をつけたくないからな。

 あとは……父親に頼るのだけは、絶対に嫌だ。


「そういえば、桐瀬さんに聞きたいことがあったのです」


 蛍火が、俺の前にティーカップを置いた。

 いい香りがした。


「あなたが身に着けたスキルは『属性付与(ぞくせいふよ)』とうかがいました。それで間違いありませんか?」

「そうです。あとは『鑑定(かんてい)』と『護身術(ごしんじゅつ)』。それから『収納スキル』もあります」

「『ワーム』の動きを止めたのは、『属性付与』の力によるものですか?」

「はい。異世界から持ち帰ったナイフに『グレムリン』のコアを組み合わせました」


 俺は異世界ナイフを取り出して、蛍火の前に置いた。


「『グレムリン』は人の邪魔や妨害をする習性があるのか、コアにも『妨害』という属性があったんです。その属性を異世界のナイフに付与したんです」

「『妨害』の属性を持つナイフで攻撃されたから、あの『ワーム』は動きを止めたのですね」

「そうです」

「桐瀬さんは『鉄パイプ』にも属性を付与していましたね」

「そうです。あらゆるアイテムには、属性を付与するための『スロット』が存在しているんです。というか、俺がそれを認識できるだけですけど」


 それは異世界召喚のときに身に着けさせられたスキルの影響だ。

 7年のうちに、当たり前の感覚になってしまったけど。 


「鉄パイプのような工業製品にも、最低1つはスロットがあります。ただ、こっちは一度属性を付与したら解除できません」

「異世界ナイフには、付与したり解除したりできるのですか?」

「ああいう一点物の高級品はそうなります。異世界の貴族が使っていた宝剣なんかにも、入れ替え可能なスロットがついてました」


 実際にスロットを入れ替えたことは、ほとんどない。

『属性付与』した武器を手に戦いに行った連中で、帰ってきたのは、ほんの数人だったから。


「こっちの世界に、属性が入れ替え可能なものがあるかどうかは……わかりません」

「つまり、あなたは魔術的なアイテムを作り出せる、ということですね」

「そうなりますね」

「それを踏まえて、申し上げます」


 蛍火はお茶を一口飲んだ。

 それから、意を決したように俺を見て、


「あなたは、マジックアイテムを売ることで生計を立てられるのではないですか?」


 ──そんなことを、言った。


「桐瀬さまのように『属性』を付与したアイテムを作ることができる方は、めったにいません。いるとしたら、熟練(じゅくれん)錬金術師(れんきんじゅつし)などでしょう」

「そうなんですか?」

「そうです。だから、桐瀬さまが望むのなら、アイテムを売って生計を立てることもできるのです」


 真剣な表情だった。

 蛍火はまっすぐに俺を見つめたまま、続ける。


「もちろん、わたしとしては、これからも桐瀬さまと『攻略配信』をしたいと思っています。ですが……『攻略配信』の他に、安全に生計を立てる方法があると気づいていながら、隠すことはできません。わたしは、貴族ですから」

「……蛍火さん」

「ですから提案いたします」


 蛍火は、すぅ、と、深呼吸して、


「桐瀬さまが、マジックアイテムを売って生計を立てることをご希望ならば、わたしが仲介役となりましょう。他の魔術師たちと話をつけて、あなたが『属性』を付与したアイテムを売却することで生計を立てられるようにします。桐瀬さまはそのようなやり方を望まれますか?」


 次回、第19話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。

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