第15話「任務完了の報告をする」
今日は2話、更新しています。
はじめてお越しの方は、第14話からお読みください。
『攻略配信』を終えた俺たちは、レーナ=アルティノと合流した。
その後は車に乗って、魔界の入り口にある『配信者ギルド』の建物へ。
そこで俺と蛍火は、魔界の攻略完了の報告をすることにしたのだった。
はじめに、攻略に参加した者がそろっているかのチェックを受けた。
魔界に人が残っていないことを確認するためだそうだ。
犠牲者や重傷者が出た場合に、ギルド側が救援部隊を出すことになっている。
治癒魔術や、医療機関への手配もギルドがやってくれる。
そんなふうにして、『配信者ギルド』は人命を最優先しているそうだ。
「梨亜=蛍火=ノーザンライトさまと、ブラッド=トキシンこと桐瀬柳也さま……はい、確認しました。おふたりとも、ご無事でなによりです」
手元のディスプレイを見ながら、ギルドの女性は言った。
「『家電量販店』の攻略。お疲れさまでした。所要時間は……3時間25分ですか!? すごいです。Dランクの魔界の、攻略速度ランキング第2位ですよ!?」
「本当ですか!?」
「……それってすごいことなんですか?」
ここはギルド内にある報告所だ。
個室になっているから、まわりに他の人はいない。
いるのは俺と蛍火、ギルドの職員──つまり、俺の正体を知っている人だけだ。
だから仮面は外してもいいんだけど……帰り道のことがあるからな。
今はブラッド=トキシンのままでいよう。
「はい。すごいことです。特にブラッド=トキシンさんは、初参加で記録を出されたのですからね!」
ギルドの女性は目を輝かせて、
「トキシンさまはランク制と、魔界攻略のルールについてはご存じですか?」
「えっと、攻略できるのは、自分のランクよりも同じか、ひとつ下のランクの魔界なんですよね?」
「個人の場合はそうです。パーティの場合はリーダーのランクによって、攻略できる魔界のレベルが決まります。トキシンさまはCランクのノーザンライトさまが一緒でしたので、Dランクに挑戦できたわけです」
「……なるほど」
「Dランクの攻略が4時間を切るのは、本当に珍しいことなんです」
ギルドの女性は興奮した様子で、
「どのように攻略されたのか、とても興味があります。あとで動画を見させていただきますね!」
「ありがとうございます」
俺は軽く頭を下げて、
「ちなみに、1位は誰ですか?」
「東洋魔術師の八重垣織姫さまです。所要時間2時間52分です」
「3時間を切ってるんですか……」
「織姫さまの魔術結社『神那』はすごいですよ。常に視聴者数が150万人を超えていますから」
「はい。わたしの……あこがれの人です」
気づくと、蛍火が拳を握りしめていた。
「わたしは、あの人を超えるくらいの配信者になりたいと思っています」
「蛍火さん」
「はい。トキさん」
「魔界の攻略時間って、そんなに大事なんですか?」
「そうですね。素早く攻略するほど視聴者数が増えますから。無名の者が視聴者数を増やすには、攻略速度を上げるのがいい……これが、攻略配信をする者の常識でもあります」
「それは一例ですよ。ノーザンライトさま」
ギルドの女性はたしなめるような口調で、
「『かっこいい攻略』『確実な攻略』『ふしぎな攻略』でも視聴者数は増えます。無理して速さにこだわる必要はありません」
「で、でも、速さを求める視聴者もいますよね?」
「それはそうですけど……」
「わたしたちは今回、Dランク2位の記録を更新しました。そうすると、それまで2位にランクしていた人や、その動画の視聴者さんたちが見に来るはずです。どうやって記録を更新したのかって」
なるほど。
魔界の攻略にスピードを求める者もいる。
そういう人たちを引きつけるには、素早く魔界を攻略するのがいい、ってことか。
考えることが多いんだな。『攻略配信』って。
「確かに、ノーザンライトさまの攻略動画は、ライブでの視聴者が前回より2千人増えています。ライブでこれですから、最終的に15万人は超えると思います。おめでとうございます」
「────え」
蛍火が身を乗り出す。
「視聴者数が、15万を超えるのですか!?」
「固定客にできるかは次の動画の内容次第です。がんばってくださいね」
ギルドの女性は、おだやかに微笑んだ。
……この女性、意外と策士だ。
蛍火に、Dランク攻略の最速ランキング2位になったことと、視聴者が増えたことを伝えて、やる気にさせる。
その上で、『配信者ギルド』の職員として、無茶をしないように警告もしている。
これで蛍火が、記録更新のために無茶をして怪我を負ったとしても、自己責任だ。
さすがは異能者を束ねる『配信者ギルド』だ。人を乗せるやり方がうまい。
だけど……こういうやり方は好きじゃない。
「堅実にいきましょう。蛍火さん」
俺はまっすぐに蛍火を見ながら、言った。
「急いで攻略しようとして怪我したり死んだりしたら、なんにもならないんですから」
「で、でも、リアルタイムの視聴者が2千人も増えたんですよ? Dランクの魔界の攻略速度2位でこれです。さらに上のランクの魔界で1位になったらもっと──」
「俺は、急いで成果を上げようとして、壊滅した部隊の生き残りと話をしたことがあります」
「……え」
「彼らは急いで敵地深くに侵入したところで、敵の奇襲を受けました。生き残ったのは数人だけでした。彼らは手足を切り刻まれてから解放されたんです。見せしめのためだったと聞いています。彼らは這って敵地から脱出して、なんとか味方の領域までたどりついたんです」
「そ、そんなことが……」
「無茶をするとそういうことになるんです。蛍火さんは、同じ目に遭いたいですか?」
「い、いえ……」
「だったら、堅実に行きましょう」
「は、はい。トキさんがおっしゃるなら」
「というわけですから、今後ともよろしくお願いします」
俺はギルドの女性の方を見て、一礼した。
彼女は、ぽかん、とした顔をしていた。
でも、すぐにこわばった笑みを浮かべて、
「ええ。ノーザンライトさまとトキシンさまの働きには、これからも期待しておりますよ」
「ありがとうございます」
「ところで、トキシンさま」
「はい」
「あなたは戦場にいらしたことがあるのですか?」
「俺が異能者として登録したとき、身分証明書を提出しましたよね?」
「は、はい」
「履歴書も」
「そ、そうですね。拝見しました」
「俺の年齢は何歳になってましたか?」
「18歳です」
「その通りです。なのに、戦場に行ったことがあるわけないじゃないですか」
「でも、壊滅した部隊とお話になったと……」
「個人情報の観点から、黙秘します」
「……黙秘」
そんな話をしていると、奥から魔術師の男性が出てくる。
ギルドの職員たちだ。
俺たちが提出した『魔界化コア』のチェックを行っていたらしい。
彼らによって『魔界化コア』は、間違いなく本物だと確認された。
俺たちは返還されたコアを受け取り、鞄に入れた。
これからギルドの職員たちは『家電量販店』に入り、魔界化が解除されたかどうかのチェックを行う。クリーンな状態だと確認されたら、元々の所有者に建物が引き渡される。
その後、所有者は土地や建物を処分するか、再利用するか決めるそうだ。
「皆さんの最終目的は、この間際市から魔界を消し去ることです」
ギルドの女性は、最後に、そんなことを言った。
事務的な口調だった。
「魔界が消えれば、多くの土地や建物を再利用できるようになります。町も活性化するでしょう。その利益は計り知れません。間際市から魔界を消し去るまで、がんばってください」
「はい。ありがとうございます」
「了解です」
俺と蛍火は『配信者ギルド』を後にした。
ギルドの駐車場では、レーナ=アルティノが待っていた。
それから俺たちは、彼女の運転する車に乗り、帰ることにしたのだった。
次回、第16話は、明日のお昼くらいに更新する予定です。
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