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第14話「はじめての合同配信(6)」

「では『魔界化コア』を回収しましょう」


『魔界化コア』は、部屋の中央にあった。

 コアからは無数の糸が伸びて、周囲の壁や床、柱に張り付いている。

 まるで蜘蛛(くも)が、巣を張り巡らせているようだ。


「みなさんもご存じの通り『魔界化コア』は建物に巣を作ります」


 蛍火はカメラ妖精に向かって語りかける。


「コアから伸びているのは、魔力の伝導体(でんとうたい)です。ごらんの通り、蜘蛛の糸に近いものですね。コアはこれを張り巡らせて、周囲を自分の魔力で侵食(しんしょく)していきます。そうして建物内部を異常な空間にしてしまうんですね」

「イーザン!? (な、なんだってー)」


 とりあえずリアクションをしてみた。

 角を震わせて、翼をばたばたさせる。


「そうなんですよトキさん。『魔界化コア』は魔界に繋がる門だという説も、魔界の神が姿を変えたものだという説もあるんです」

「イーザン (なるほど)」

「ただ、正体については、まだわかっていないそうですよ」

「ニーデル (そうなの?)」

「魔術組織が必死に研究を続けています。その素材集めとして、コアの回収が重要になってくるんですね。うまくいけば……」


 蛍火は、カメラ妖精に視線を送りながら、


「魔界をもっと簡単に、元の世界に戻せるようになるかもしれません。そうなるようにするのが、わたしたち異能者のお役目です!」

「イーザン (そーだね)」

「それでは、回収を始めます」


 まず、蛍火がコアの周囲を巡りながら、魔術を詠唱する。

 魔界化コア用に開発された『封印の魔術』だ。


 俺はその隣を歩いていく。

 魔物が現れたときに、彼女を護衛するためだ。

 さらにその後ろを、カメラ妖精がついてくる。


 金色の髪をなびかせながら歩く、魔術師の少女。

 それに寄りそうように進む、角の生えた仮面の使い魔。

 その光景は、かなりシュールなものだと思う。

 視聴者さん……楽しんでくれてるといいけど。



「『コアよ。(しず)まりたまえ』──『閉門魔封(リムーブ・ゲート)』」



 蛍火の杖が、光を放つ。

 その光が床を走り、コアを囲むように円を描く。

 光が、コアと周囲の糸に染みこんでいき──


 そして、魔界化のコアが放つ青白い光が、消えた。

 コアと周囲を結びつけていた糸がすべて切れて、コアが地面に落ちる。


「封印完了です。コアの回収をお願いします。トキさん」

「イーザン (了解)」


 俺は手を伸ばし、ぶちっ、という感じで、魔界化のコアをもぎ取った。

 コアを失った魔力の糸たちは、ボロボロと崩れ落ちていく。

 周囲を照らしていた青白い光が、消えていく。


 そうして、しばらく待っていると、魔界は姿を変えていく。

 壁と床が揺れて、震えて──止まって。

 風景がゆがんで……元に戻って。


 気がつくと俺たちは、『家電量販店』の入り口に立っていた。

 さっきまでとは違う。ごく当たり前の店舗だ。


 目の前には陳列台があり、そのまわりにスマホが散らばっている。どれも数世代前のものだ。

 その向こうには電子レンジや冷蔵庫のブースだ。


 商品はどれも床に落ちたり、倒れたりしてる。

『グレムリン』が荒らしたんだろうな。


 その『グレムリン』の死体は、しっかりと通路に残っている。

『ゴーレム』の残骸(ざんがい)もそのままだ。


「梨亜=蛍火=ノーザンライトとトキさん。魔界『家電量販店』を攻略完了です!」

「イーザン (です)」

「お疲れさまでした。面白いと思ってくれた人は、よければ高評価やチャンネル登録をお願いします! それでは!」


 蛍火と俺は、空中にいるカメラ妖精に目を向ける。


「さよーならー」


 カメラに向かって手を振りながら、俺たちは配信を終了したのだった。





 次回、第15話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。


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