第13話「はじめての合同配信(5)」
今日は2話、更新しています。
はじめてお越しの方は、第12話からお読みください。
俺は武器にしている鉄パイプを『鑑定』した。
──────────────────────
ランクF:『そこらへんにあった鉄パイプ』
魔界の近くで放置されていた鉄パイプ。
魔術的に強化されているので、かなり堅い。
強化可能スロット:0 (強化用スロット使用済み。変更不可)
──────────────────────
強化スロットが埋まってる。
これ以上、なにかを付け加えるのは無理だ。
物体にはそれ自体を強化するためのスロットが存在する。
異世界の魔法使いはスロットのことを『物体の可能性』と言っていた。
──あらゆるものには進化の可能性がある。
──それを効率的に使うために、『スロット』として認識できるようにしている。
──ステータスや鑑定のスキルもその一種だ。
って。
異世界エルサゥアでは邪竜族に勝つために、あらゆることが効率化されていたからな。「ゲームかよ!」って突っ込みたくなるくらいに。
俺の『鑑定』や『属性付与』も、そのひとつだ。
この『鉄パイプ』のスロットはすでに埋まっている。
魔物のコアを合成することはできない。
となると……別のアイテムを使うしかないか。
「イーザン (よっと)」
俺は収納スキルから、一本のナイフを取り出した。
異世界から持ち帰ったものだ。これを使おう。
──────────────────────
ランク不明:異世界エルサゥアのナイフ。
異世界エルサゥアより持ち帰ったナイフ。
強化金属で作られている。
強化可能スロット:3
──────────────────────
俺は異世界で7年間、ひたすら武器の強化をしていた。監視もされてた。
逃げないように、武器は与えられなかった。
ただ、帰る直前は、監視もゆるくなってたからな。
ナイフや変装用の道具を持ち帰るくらいはできたんだ。
あとは『騒霊ゴーレム』と『グレムリン』のコアを取り出して、と。
──────────────────────
コア:種族『グレムリン』
レアリティ:D
属性:妨害。混乱。
──────────────────────
コア:種族『騒霊ゴーレム』 (付喪神の一種)
レアリティ:D+
属性:意思獲得。自律駆動。
──────────────────────
使えそうなのは『グレムリン』のコアだな。
これを異世界エルサゥアのナイフに合成してみよう。
「エルサゥア、アイテム管理係、桐瀬柳也。アイテム強化を実行する」
小さくつぶやいたのは、異世界でアイテム強化の仕事をしていたときの口上だ。
あの時のことは思い出したくないけど、口上が口癖になってる。
……まぁいいや。さっさと強化しよう。
「空きスロットを確認。属性付与を開始──成功。魔力伝達を確認……良好。内部属性をチェック……チェック終了。検品終了。納品可能!」
そうして、出来上がったアイテムは──
──────────────────────
ランク不明:異世界エルサゥアのお邪魔ナイフ。
異世界エルサゥアより持ち帰ったナイフ。
強化金属で作られている。
『グレムリン』のコアの力で、敵の行動を妨害し、思考を混乱させることができる。
強化可能スロット2 (全3スロットのうち1スロットを使用中)
──────────────────────
「イーザン!」
『グルゥゥアアアアアア!』
俺は魔力で『身体強化』して、『PCワーム』を蹴った。
反動で距離を取り、強化したナイフを構える。
『PCワーム』のWEBカメラが一斉に、俺の方を向いた。
視線の先にあるのは、俺が手にしたナイフだ。
それが貧弱に見えたのか、『PCワーム』は、つまらなそうな声を漏らす。
構わず俺はナイフを繰り出す。
狙いはどこでもいい。ひたすら刺せば、そのうち効果が出るだろ。
目的は、こいつを蛍火に倒してもらうことだ。
できれば画面映えするやり方で。視聴者がよろこぶように。
『グルゥアアアアアアアア!』
『PCワーム』が突っ込んでくる。
俺はそれを転がって避ける。通り過ぎるワームの腹に、異世界ナイフを突き立てる。ががががっ、と音がして、強化されたナイフが奴の殻を削り、肉を裂く。
噴き出した青い血が、商品棚をぬらしていく。
そして──
「イーザン (今です)!」
「『梨亜=蛍火=ノーザンライトの名において、強靱なる雷の精霊よ』──」
杖の先に雷光が灯る。
『PCワーム』のWEBカメラが光を放つ。身体に取り込んだパソコンがうなり声を上げる。
奴は外部の情報を参考に、パソコンで計算して、回避行動を取ろうとして──
──その動きを、急停止させた。
『PCワーム』のディスプレイに表示された文字は──
『■%$○&&&&■■□前進&後■退■□回避防%御$○どれ?選択□□回避■□選択どっちどっちどれどこに&&■■□混乱##生■□命生■□$$■□存#$存在自分生きるって?==#$%?』
──だった。
よし、バグってる。
これが『異世界エルサゥアのお邪魔ナイフ』の効果だ。
グレムリンのコアは『妨害』と『混乱』属性を備えている。
それが『PCワーム』の思考を妨害して、奴を混乱させた。
いわば、ウィルスを流したようなものだ。
「必殺! 『轟雷撃』!!」
そして、蛍火の杖からほとばしる雷光が、『PCワーム』の全身を貫いた。
『ギィィアアアアアアアアアアアアアアア!!』
パソコンが火花と煙を噴き出す。WEBカメラがはじけ飛ぶ。
ディスプレイは激しく点滅して、すぐにブラックアウト。
ワームの脚が痙攣を繰り返し、最後にびくりと跳ねて──
『PCワーム』は、完全に絶命したのだった。
「やりました! トキさん。視聴者のみなさん!!」
「イーザン (マスター。すごい)!」
〈〈〈おおおおおおおおっ!〉〉〉
ノーザンライトが声をあげ、コメント欄が歓声であふれる。
〈ボス撃破おめ〉
〈撃破おめ〉
〈撃破おめ〉
〈りあちゃんすごいー!〉
〈いや……ブラッド=トキシン、絶対なんかしただろ!?〉
〈あいつが斬ったあとでワームの動きが止まったんだが!?〉
〈ディスプレイの文字を解析中……あの『回避』『後退』の他に『存在』とか、なんかおかしな文字が出てるんだが!?〉
〈なにをやらかした! ブラッド=トキシン!?〉
〈何者!?〉
〈トキさん何者?〉
〈トキさんの詳細希望〉
すごい速度でコメントが流れて行く。
梨亜=蛍火=ノーザンライトの動画の視聴者数は……いつもは5千人弱だと聞いている。それでも彼女はCランクの配信者なんだよなぁ。
最上位の配信者には、どれだけの視聴者がいるんだろう。
Cランクの配信者でこれだ。Sランクになったら、年に数回配信すれば、あとは働かなくても生きていけるようになるんだろうか。
俺としては……配信で学費を稼いで進学できればいいんだけど……まぁ、それは夢かな。
そんなことを考えながら、俺は『PCワーム』を解体していく。
コアを取り出して『鑑定』すると──
──────────────────────
コア:種族『ワーム (希少種:電子演算器融合型)』
レアリティ:C−
属性:計算。察知。
──────────────────────
「イーザン (コアをどうぞ)」
「ありがとうございます。トキさん」
俺が差し出したコアを、蛍火は両手で受け取る。
それをカメラの方に向けてから、彼女は小声で、
「……トキさん」
「……どうしましたか。蛍火さん」
「……あとで、あなたのことを、もっと教えてくれませんか?」
蛍火は俺の耳元で、ささやいた。
「……わたしは……あなたとお話がしたいんです」
「……仕事の後のミーティングですか?」
「……え? あ、はい、そうです!」
蛍火は、ぽん、と手を叩いて、
「そうです。ミーティングが必要です。わたしたちはもっと話をするべきだと思います」
「……声が大きいです。視聴者さんに聞こえますよ」
「…………むぐぐ」
あわてて口を閉じる蛍火。
ちなみに俺と彼女が話しているのを見た視聴者たちからは──
〈使い魔とお話してる?〉
〈いいんじゃね? 規格外の使い魔っぽいし〉
〈……まじで規格外なんだよなぁ〉
〈……トキさん。お前は一体何者なんだ〉
〈りあちゃんもトキさんも、がんばれー〉
──こんな反応が返ってきていた。
それから俺と蛍火は、地下へと足を踏み入れた。
地下に巣くっていた魔物は『PCワーム』だけだった。
あとは敵に遭遇することもなく、俺たちは魔界『家電量販店』の最奥へ。
そして、俺たちは突き当たりの部屋で、虹色に輝く結晶体──『魔界化コア』を発見したのだった。
次回、第14話は、明日のお昼くらいに更新する予定です。




