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98:救出

『いないです!』


 橙色空間魔力を纏って一路来た道を引き返したが、最後に見かけた根が形作る峠の麓まで戻っても後続の影は見えなかった。

 ここまでの間で分かれ道は見当たらなかった。

 後続が勝手に引き返したというのでなければ何かあったのだろう。


 勇者氏が腰のトランシーバーを取り出して何かをまくし立てている。

 恐らく後続の通信役と連絡を取っているのだろうそれは、残念ながら応答を返す事はなかった。


「異常事態だな」

『はい……、探します』

「アテは」

『足には自身があります』

「待て」


 探すと言って再び橙色空間魔力を纏いだした勇者氏を止める。

 まぁ、非常事態だ。面倒な手合いも混乱している可能性が高い。

 今ならリスクも少ないだろう。


「レーネ、着いたら頼む」

「任せてー」


 音声を送らないように通信を抑えて受信ゴーグルの外に呼びかければアウレーネが休憩スペースから戻ってくる気配が。


「今回限りだからな」


 送り込んだ橙色空間魔力を安定させ、工房のそれと同調させる。


『アルファさん……ですか?』

「さてな」


 土砂降りの森の中へと転送されたメタルゴーレムの後背部が開いて太い大樹に曳光弾が発射され、コア質のヤドリギが暗闇の中で淡く輝いた。

 芽吹いたヤドリギから四方八方に再び曳光弾が発射されて大雨の垂れ幕の向こう側へと消えていく。


『何を』

―――見えた、あっち。


 スマンが勇者氏は後回しだ。胸中を読んで状況を把握してくれたのだろうアウレーネが声には出さず初めのヤドリギから再び曳光弾を放つことで方向を教えてくれる。

 案外近かったな。


「来い」

『これは、探索魔法? ですか』


 手の内が読まれ切ってない事が分かって安心したよ。そーそー魔法、不思議な魔法よ。

 メタルゴーレムを操って駆けだせば、すぐ後ろに追いついてくる気配。


 いったん戻ってきた道を再び進んだ先で、曳光弾は右へ逸れて小径の外へと降りて行った。




『ボド!』


 橙色空間魔力を纏った白く輝く全身鎧が残像を引くような速さで脇をすり抜けて突っ込んでいく。

 巨影が振り下ろす拳を弾いて、勇者氏が倒れていた後続チームメンバーを抱えて素早く飛び退いた。


 一言で言えば円らな瞳を持ったグロテスクな巨人。

 爛々と輝く瞳が醜悪な見た目と悪魔合体してちょっとしたホラーである。

 よく見れば二、三人遠目に倒れている影が見える。実際ホラーだったわ。


 近付いて見てみれば下半身がぐしゃりと潰されていた。

 うーん多少は精神ブラクラ踏んで慣れているとはいえ本物は中々にお辛い。

 意識がないようなので奮発して腹腔から転送した上級回復薬、もとい修復薬の備蓄を取り出して振りかける。

 降り注いだ赤い液体は映像の巻き戻しでも見ているかのような現実離れした動きでミンチ肉を盛り上げ、砂利を吐き出して、ひん曲がった脚をぐねぐねと元の位置に伸ばし直して下半身を修復してのけた。

 ついでに裂け目や解れも修復して装備も新品同様に修復されたのは上級回復薬の面目躍如だね。


 丁度いいモニターが転がっていたもんだ。自分の下半身潰すのも流石に躊躇われるからな。実地試検協力感謝する。お礼はモニター君の命って事で。

 他に倒れている面々も見回ってみたが一番の重傷は最初に見た彼のようだった。


 それぞれ上級回復薬を振りかけて効果を確認した後、邪魔なので端に避けておく。

 だが意識が無い中でこの土砂降りは流石に堪えるか。適当に豆炭でも焚いて温めておくか。ユキヒメとちょくちょく第6階層を探索する都合、泥炭は頻繁に回収でき、それを成形して作った豆炭は紺鉄鋼作りに使う事もあって唸る程在庫がある。

 ごろごろと転がして腹腔の金鱗から小さく種火を送れば微かに赤熱し始めた。


 今思ったけどこの土砂降りの中で熱が持続するって案外この豆炭ヤベえな。意識しないところで意外な検証結果が得られてびっくりだよ。


 作業が一段落付いて顔を上げれば火球や氷杭を腕で振り払ったグロ巨人の隙をついて勇者氏がグロ巨人の足を両断した所だった。

 倒れたグロ巨人が突き上げた鋭い爪の先に火を灯して応戦する。


 ……あれは恐らく言うなれば同調炎だな。

 灯りに照らされてメタルゴーレムの制御が僅かに乱れる。

 不快なので同調細氷の霧を薄く纏って防護する。

 俺の方はそれで問題ないが合同探索チームの皆様方はそうでもないようだ。

 生き残った支援火力がグロ巨人に着弾する前に制御を乱されて解けている。

 同調魔力相手だと対策なしに遠距離火力の単純投射では分が悪かろう。


 まあ、対策を持っていればどうと言う事はないんだが。

 複雑な紋様を食んだドラゴンが象嵌された大剣が金赤色の炎を噴き上げる。

 爪の先に灯った同調炎の圧力をモノともせずに迫った切先が、斥力焔を纏って身を起そうとしたグロ巨人を捉えて灼き尽くした。


 戦闘が終わったようなのでひとまず気付かれる前に銀腕を伸ばして大樹の幹に避難しておく。

 具合のいい歪に膨らんだコブを見つけたのでそこに腰かければ自重でガリガリ裂けていく樹皮に心配をかける必要もない。


『報告を!』

『……こちらは三人がやられました。そちらは?』

『こちらも二人見当たりません。一人は先ほど向こうへ飛ばされ……あそこ、人が倒れてます!』


 うむ。気付いたらしい。

 端に避けて雑に積んでいたから少し不安だったが問題ないようだ。


『あれ、お前確か踏み潰されて……どうなってるんだ?』

『…………誰も怪我をしていないようですね。良かったです』

『ですが、こちらとそちらあと一人ずつ……見当たりませんね』

『オスカーと……そちらは』

『佐伯通信手が』


 どうやらまだ二人行方不明らしい。

 付近には転がっていなかったのだが何処へ行ったのか。


「レーネ、頼めるか?」

「お酒はずんでねー?」


 経費で落ちませんかね。まあ収支にまだ余裕あるし別にいいんだけど。

 頭上で小さく煌めく曳光弾が千々に散っていく。


「ん? 私と同じ」

「なに?」

「網を張ってる」


 アウレーネによると少し行った先からアウレーネと同様に感覚の網を広げている他の存在がいるらしい。


「糸の網」

「蜘蛛か?」


 このグロ巨人が居た場所と件の感覚網の領域とは程近いらしい。

 グロ巨人に吹き飛ばされた行方不明者が領域の主に捕まった可能性がある。


「広場一面にくもの巣とまゆ二つ」

「ビンゴだな」


 ついでに広場というからにはもしかしたら階層ボスかもしれない。

 下の合同探索チームも未だ立ち往生しているようだし今の内にちょっくら推定ボスの顔でも拝みに行くか。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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