95:【勇者様】オメガさん爆誕【ご乱心】
『あの後リンダにとっても怒られたんですよ』
知ってる。見てたからな。
一頻り詰り倒した後、スーツ女は勇者氏を連れて複合施設で同時に開催されていたダンジョン関連商品の展示会などを巡り倒してから勇者氏をタワー最上階のホテルの一室に放り込んだ。
一つの収穫は俺にはストーキングは向いてないって事だな。暇過ぎて死ぬ、死んだ。
……いやあちょっと肩が凝ったから気晴らしに、と魔養ドリンクを一服してから再び受信ゴーグル被ったら二人が消えていたとか肝が冷えたね。
幸いドイツの別の企業が出展しているブースにいたのを発見できたから良かったもののそうでなければドヤって消失エフェクト見せつけた後にそのまま本当に縁が切れる所だったわ。
勇者氏は広いベッドの端にちんまりと腰を掛けてスマホを弄っている。
勇者氏をストーキングした結果、無事今日の滞在先を把握できたのでついでに潜り込んで再び接触した。
勇者氏は多少驚きはしたものの、順応も早かった。今ではスマホに話しかけるふりをしてぶつくさと肩を落としている。
そして一応俺はベッドの下にいる事になっている。実際同調コアは下に配置したので声自体はそこから聞こえているだろう。
『彼女の志は立派だと思います。でも私だって頑張っているんですよ。少しくらい手心を加えてくれてもいいと思います』
「さよけ」
『特にイギリスでは酷かったです。私はきちんと頑張りました。きちんと階層を2つも更新しましたからね。なのに発電の魔導具がドロップしなかったから評価できないって、何それ。酷くないですか?』
「やろなあ」
こいつ酔ってるのかと思ってたらおもむろにワインセラーからボトルを取り出してラッパで逝きやがった。シラフだったのかどうかは最早分からんが少なくとも今は呑まれたい気分なんだろうな。ああもう無茶苦茶だよ。
『方向性は素晴らしいと思うんです。私たちはダンジョンに選ばれた。だからこそ他の国のために率先して調査を進めて攻略の道筋を切り拓く。それは素晴らしい志だと思います』
お前の中ではそうなんだろうな。お前の中では。
『でも私もチームメンバーも人間なんですよ。少しは誉めて欲しいです』
「そかー」
褒められるだけで働けるとか永久機関か何かかな?
冗談はさておき勇者氏近辺の背景も少しずつ浮かび上がってきた気がする。
案の定勇者氏はいいように扱われているようだ。こんなんなのに方向性は認めているのがヤバいね。俺とは住む世界が違う。
で、ドイツの戦略もぼんやりと窺えるかな。
勇者氏を基本骨格とする攻略チームで各国に救援を送って調査と恩を売り付けるという目的は大きいと見ていいだろう。
それからイギリスと発電の魔導具って話はニュースでも一度取り沙汰にされてたな。ドイツもエネルギー事情には関心があるんだろう。
『ま、ちょっとアルファさん? 聞いてるんですか?』
「聞いている」
うわうぜえ。絡み酒かよコイツ。
面倒になって適当に相槌を打っていたら察知されて窘められた。
『あー、やっぱりダンジョン行きましょうよ。言いたい事も言えないこんな世の中じゃダメですって』
「関係なかろう」
『いいじゃないですか、ちょっとくらい。ほら仲良くなったのでここは一つ』
勝手に距離を縮めるな。
『周りから勇者と呼ばれて嬉しいんですけどそれはそれで窮屈なんです。気兼ねない話し相手が欲しいんです。ほら人助けと思って。私も何でもしますから』
今まさに存分に絡んでるじゃねえかよ、おめえはよ。
「勇者なんてガワを作っているから窮屈なんだろうが。そんなもの壊しちまえ」
『お、どうします。何します? 歌でも歌いましょうか』
「知るか。オメガさんでもやってろ」
オメガさん。コイツが来日して最初の会見で発言したアルファを探しているという言葉から端を発して日本のネット界隈で妙に盛り上がっていた渾名だ。
白い鎧に火を噴く剣と氷を放つ盾。
どこぞの物語の主人公かよとツッコミを入れたくなるような特徴的な武装で戦う彼は、実際に昔人気だった作品のキャラクターの特徴とよく似ていたのも相俟ってネタで比較検証動画が作られる程度には一部の界隈を賑わせていた。
そんな状態でこれまた当の作品で関わりのあるアルファという言葉を意味深に放てばまあ盛り上がりもするわな。
『よし、行きましょう。すぐ行きましょう! 今日はとっても歌うぞー!』
「は?」
投げ捨てた言葉が全力で拾われた件。
ついでにベットの下の同調コアも拾われてボトル片手に部屋を飛び出して行った。
すれ違う客へ気さくに手を振り暴走を続ける勇者氏。
何かミスったか。
その前に歌うってコイツいったい何する気だ……?
その後近くのカラオケまでゴキゲンに暴走を続け―――。
終いには生放送まで始めて当の作品の曲を熱唱し始めた。何故かドイツ語で。
クッソバズってた。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




