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88:お隣ダンジョンの第4階層

 光の差さない雪と氷で出来た宮殿。

 極夜宮殿とでも言えそうなそこは、体のいいスパーリング場だった。


 突き込まれた切っ先を上手く払い……払い切れずに少し首先に掠ったものの修行だからセーフ。実際紺鉄鋼の外部装甲は先ほどからの打ち込みに対してまるで無傷だしな。

 極夜宮殿の回廊のそこここで屹立している宮殿守衛ゴーレム的なモンスターは丁度いいスパーリング相手だった。

 技量的には格上、地のスペック的には大幅な格下。

 宮殿守衛ゴーレムは鉄を基本とする合金のようだった。

 これだけでも紺鉄鋼に敵うはずもなかったが、それに加えて可動部には銀が使われているようでそこだけ色味も明るい。

 鉄以上に柔らかい銀とくれば最早紙を切っているのと大差ない。

 強度的には劣る曙光の華剣でも十分実用に耐えるというのが何よりの証拠だな。


 武器としての紺鉄鋼は強過ぎるので既に縛って曙光の華剣一本にしている。

 こいつ(華剣)の光源も心なしか溌溂としているようだった。

 まー元ネタ同様にこいつも結局バフやら懐中電灯扱いになりそうだった所でまさかの実戦投入だからね。こいつも浮かばれるだろう。死んでねえけど。


 アホな事を考えながら腋の隙間に刺し込まれかけた切っ先を位置をずらして外部装甲で弾きつつ、その剣先を腋で挟んで抱え込む。

 身体を捻りつつお返しにこちらも華剣を逆手に突き込めば、バランスを崩した宮殿守衛ゴーレムの盾の上をすり抜けてその腕部可動部の柔らかい装甲を斬り飛ばした。


 よしよしこいつはこんなもんだろう。

 盾を腕ごと剥がし、剣は腋の下で固定したから半ばカタは付いた。

 油断せずに詰めていけばそう間を置く事のなく、宮殿守衛は光の泡になって還っていく。


 特に剣術を習った訳でもないほぼほぼ我流にしてはそれなりに上手く行ったと思う。

 最終的に魔法や銀腕も絡めた近中遠全域に対抗できるような戦術になるだろうしそれに適した流派があるとは思えんからどこかで習うってのも無理だし我流なのは当然だが。

 とはいえ後で適当な戦闘術動画くらい見ておくか。

 手探りでやっても仕方がない。いい所は参考にして取り入れるくらいは最低限必要だろう。


 ドロップは銀のインゴットだった。少し嬉しい。

 在庫は唸るほどあるとはいえ加工すれば碧白銀になるからな。

 コアも工房機材の燃料になるから需要があると言えば需要はあるが、如何せん動かすなら魔力を直接流せばいいし何ならコア自体も既に自作できる。

 有難味は中に充填されている魔力分くらいしかない。


 今まさに蕩尽している魔力を使って銀のインゴットを工房へ転移させ、マジックボックスの中に放り込めば探索再開だ。


 雪と氷であしらわれた極夜宮殿の透明回廊は小部屋を確認する程度なら好都合なのだが迷路を進むとなると少々都合が悪い。

 壁の先の壁まで殆ど透明なので直近の道順は手に取るように分かるが、遠退くにしたがってそれが道なのか壁なのか判別がつきにくくなる。

 雪のような白い床と同じ壁の根本も錯覚を後押しして一度壁と回廊を取り違えて見えてる袋小路に突き進んだこともあった。

 視認性が良過ぎるというのもまた気を付けなければいけないな。


 そんな中で確実に信頼できるのは聴覚情報だ。

 がしゃりと重い金属音が響いた先を進んでみれば先ほどと同じ直剣を持った宮殿守衛ゴーレム。

 いい装備だな、少し胸を借りるぞ。

 再び守衛先生スパーリングを始めようとして―――。


―――アアアああぁアああィあぁ……。


 どこからともなく響き渡った音に一端距離を取って周囲の様子を窺う。

 見える範囲で異常はない。

 そもそも光源が曙光の華剣頼りだからそこまで索敵範囲も広くはないのだが。

 俺は距離を取りたくても守衛先生はそこら辺勘酌してくれない。

 ガシャガシャと重い音を立てて走ってきた宮殿守衛ゴーレムを半歩タイミングをずらして盾の影に潜り込み、身体全体を使って盾に体当たりする事で弾き飛ばす。

 肉抜き軽量化した球体関節ゴーレムとみっちり重金属が充填したメタルゴーレムの重量差で数歩先まで吹き飛んだ宮殿守衛ゴーレムを尻目に辺りを見回して―――。


 ふと、光源が翳りを帯びた。

 慌てて見遣る曙光の華剣に目立った変化は見られない。

 しかし光源の翳りはむしろ徐々に深くなっている。これは―――。


―――喝ッ!


 一声と共にメタルゴーレムに格納された通信石を起点として斥力咆哮を発生させる。

 光源に変化が無いのに光量に変化が生じているなら原因は俺、もといメタルゴーレム側にある。


 果たして再び戻ってきた光量の中で振り返った背後にいたのは、憎悪の瞳で睨み付ける凍えたように震える細長い指の幽霊といった感じの半透明だった。

 凍え幽霊がぶつぶつと何かを呟くように口を動かせば周囲をきらきらと細かい光の粒、細氷が漂いそれは瞬く間に成長して雹の嵐となる。


 咄嗟にコア質の壁を張って雹の嵐を防いだが、うーんこれ別に要らんな?

 激しく打ち付けてはいるもののコア質の防御壁に傷つく様子はない。

 少々魔力が消費されている気がするような気がしないようなだがその程度だ。

 コア質でさえこれなら紺鉄鋼の外部装甲はなおさらだ。まあこちらも体のいい魔法防御訓練とでも思っておこうか。


 仮称凍え幽霊が雹の嵐に紛れて再び迫って来ようとしていたのでそちらは赤肉メロンの形をした念動斥力球で弾き飛ばしてきっちりお帰りいただく。

 まだよく分からんからああいうのはまだパスで。

 状況と相手のナリを考えると憑りつくとかそう言った所だろうか。

 精霊然りボス戦然りしばしばダンジョン側の存在ならそういう事を出来ても不思議ではない。

 実体を持っていないからこその攻撃方法だな。

 ……ふむ。


 俺は黄色同調魔力と藍色構造魔力を混成させた同調コアを幾つか作り出して、赤肉メロンを執拗に攻撃し始めた凍え幽霊に寄せ付ける。

 まずは雹の嵐がすぐに俺の支配下に収まって鎮圧できた。

 実体を持っていない霊体の攻略には対精霊戦略が援用できるな。

 次に凍え幽霊本体の魔力支配を進めようとして―――。


 同調コアを見て取った凍え幽霊が赤肉メロンを捨て置いて一目散に同調コアに飛びかかってその点滅する小さな丸いコアを抱え込んだ。

 一瞬制御を奪われるかと焦ったが特にそんなことはなく、むしろ同調コアの同調圧に自ら順応してこちらが呆気に取られるほど迅速に魔力支配が完了した。

 ……よく分からんが制圧できたからヨシッ。


 ガシャガシャと漸く起き上がってこちらに駆けて来ようとした宮殿守衛先生には赤肉メロンで崩して何となくそのまま残していたコア質の防御壁で押し出して再び吹き飛んで頂き、再度凍え幽霊に取り掛かる。


 魔力支配が完了した凍え幽霊を詳しく調べてみれば、幽霊というよりむしろ精霊に近いことが分かった。幽霊の構造知らんけど。

 存在核を中心として魔力で身体を構築し、念動で挙動する。存在核は普通の精霊と、魔力体は宿樹精の霊体と似たようなもんだな。

 存在核はコアの中の蒼白に濁りを垂らした魔力のうねりで、全ての魔力の支配が終わってもこの濁りの近辺だけは僅かに同調がズレている感触がする。


 その存在核は相変わらず同調コアにご執心なようで細い指先で同調コアを抱え込んだまま魔力支配されているにも関わらず、僅かでも同調コアに近付くように存在核の中の魔力がうねっている。

 試しに魔力でしっかりと包み込んでから核から蒼白色の濁りを押し出し、同調コアに近付けて見れば蒼白色の濁りはするりと同調コアに入り込んで安定した。


「ウヅキいるか?」

「なんじゃ?」

「お前じゃねえけどお前でもいいや。お前舎弟欲しい?」

「我は黄昏世界の王ぞ? 最近モチヌシは我を舐めて居らぬか?」

「ア~シャかシスティ呼んで」

「んクぅうーッ! 全く話の通じん奴じゃ! ア~シャ、システィ我の呼びかけに応えよ!」

「ど~したんドラちゃん?」「呼ばれて飛び出て」


 ここ暫くずっとウヅキが表に出てきていたのに残念ながら今日はサンドラだったようだ。

 それでもいつも通りア~シャとシスティが間に立って話を進めてくれ、新しい住人の増加には満場一致で賛同が得られたので同調コアに入り込んで安定した凍え幽霊だったモノを腹腔を通して転送ボックスから取り出し、ア~シャたちに託す。

 後は向こうで適当にやってくれるだろう。


 黄昏世界に新しく氷の精霊? 幽霊? のような住人が増えた。

 差し当たってまずは……、待ちぼうけにさせてしまった宮殿守衛先生のスパーリングの再開かな。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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