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77:リザルトの再検証

 オルディーナの気付きから混成魔法なるテクニックというか現象というかを聞いて気になった素材がある。


 第6階層ボス、金色ドラゴンを倒した際に手に入れた諸々だ。

 鑑定ぽんこつ先生は宿焔なる相変わらずよく分からんご説明をなさっていたが、マジで皆目分からんかった。

 火が出るのかと期待して魔力を流し込んでみたが、一応火は灯るもののその効率は恐ろしく悪い。

 名刺サイズの鱗に氷杭を作り出す時のような魔力を流し込んで漸くロウソクの灯り程度の火が灯るだけだった。


 その火の効果にしても金色ドラゴンの火がやけに出力高かったくらいの印象しかなかったのでロウソク程度の火にボスとの格の違いを改めて認識した程度で終わっていた。


 しかし、混成魔法という現象を知ってからは少し気付いた事がある。

 それは金色ドラゴンの元ネタ燻ぶる呪界のガラトベルムの設定だ。

 ガラトベルムは数多の嫉妬や呪いを受けるものの、自身には全く影響がないという設定らしい。

 なので降り掛かる呪いをむしろ身に纏って燻ぶりナマズ形態として隠遁していた訳だ。

 それは第6階層のボスとしての金色ドラゴンにも反映されていて、燻ぶりナマズを泥を溶かそうとした時に出て来た黒い靄は第5階層の瘴気と似ていて、ついでにアウレーネの見立てでは呪力を溜め込めるシュードプラムの竜人像の中にしっかりと吸収されている。


 そのため金色ドラゴンの素材、金色の鱗も第5階層へ持って行って瘴気に晒す実験もしてみたものの、その時はこれと言って瘴気を弾く事も焼却する事も出来なかった。

 金色ドラゴンの寝床にあった白い灰、鑑定ぽんこつ先生は呪戒の遺灰なるまたポエミーな命名をなさっていたが、あれは金色ドラゴンがボス戦フィールドごと吹き飛ばしてくれて未だ復旧していないので微妙にレア度の高い素材になっている。


 まだそこまで重要度の高い使い道がないとはいえ、再入手可能かどうかが不透明な消耗品というのは何となく収まりが悪い。

 なので金色ドラゴンが作り出していたように、瘴気を焼いて呪戒の遺灰的な素材が作り出せないかと思っていたが、その時は失敗していた。


 もしかしたら、ただの魔力注入では失敗していた原因は何らかの変質魔力が足りていなかったのかもしれない。


 俺は再び鮮やかな金色の鱗を取り出して眺める。

 金色ドラゴンが混成魔法によって呪力を灼く火を作り出しているとしたら、それはどんな変質魔力だろうか。

 ……まあ緑色斥力魔力だろうな。

 何と言ったって実証済みだし。

 キングゴブリンからラーニングした緑色斥力魔力を叫び声に乗せた単純な放射は瘴気を押し飛ばす現象は既に実績がある。

 それに金色ドラゴン自身が俺を吹き飛ばしたり寝床の天井を吹き飛ばしてクレーターを作った際に緑色変質魔力を作り出しているというのも大きい。


 果たして手の中に納まった金の鱗は、緑色魔力と白色魔力との混成魔力を十全に吸い上げて―――。

 クラフトベンチの上に赤金色の鮮やかな火柱を立てて噴き上げた。

 天井が少し煤けた。


―――……。


 何事かと集まってきた面々に謝罪して、ついでにオルディーナにせがまれて一枚金色鱗を提供した後、先ほどの惨状を改めて眺める。

 紅蓮の火柱は真っ直ぐに立ち昇ったため、幸いにも工房機器一式には特に影響はない。

 天井が煤けていたのはア~シャとシスティが水で作り出した手箒を叩いて払ってくれた。何気に器用だな。

 それだけ景気良く立ち昇った火柱だが、驚くべきことに俺には何の影響もない。

 屈みこんで作業していたので前髪くらい焼け焦げているかと思ったが、前髪は縮れるどころか影響一つなかった。


 もしかしたらこれも緑色斥力魔力の影響だろうか。

 緑色斥力魔力は自他を認識する他者排斥力場だ。

 緑色斥力魔力を単純放射しても自身は勿論自分の魔力に染まった装備が弾け飛ぶという事も起こらない。

 また自身の意識に反応して勝手に自己組織化して動いてくれるので身に纏って運動しようと思えばパワーアーマーのような効能ももたらしてくれる。


 今回の件も恐らく緑色斥力魔力を混成させた火焔……長いな斥力焔でいいか。斥力焔は俺を認識して俺が俺を害そうとする意志がなかったため、立ち昇った火柱を至近で浴びても何の影響もなかったのだろう。


 万が一操作を誤っても自分にとっては害にならない安全な火。

 これは案外便利な性質だな。

 上手く使えば単独探索の強力な手札になるだろう。

 逆に言えば同行者がいる場合は結局操作には気を使わなければならないが。


 とりあえず、とどのつまり金色ドラゴンの素材は緑色斥力魔力と白色魔力との混成魔力によって真価を発揮する混成魔法用素材だということが分かった。

 用途が分かれば十分だ。

 すぐにこれという使い道は思い浮かばないが必要になればその時に思い浮かぶだろう。


 残るは……というより残していたのは後こいつだな。


名称:曙光の華剣

レベル:50

魔力濃度:50

魔力特徴:昇陽


 鑑定ぽんこつ先生はもうしょうがないとしてアウレーネの解析でも複雑過ぎて特徴の全貌を解析しきれなかったようだ。

 ただし、アウレーネはこの鍔が花弁のような羽のような形状に装飾された金色の飾り剣にレベルが存在する事を見て取った。


 こいつもレベルのあるアイテムだ。

 今までのとこしえの綻枝改め若桜しかり、イマイチ使いあぐねて存在を忘れつつあった飛竜の卵しかりレベルのある素材は生きているものも多い。通信石やマジックボックスの奥底に封印した徹夜明け産物などの例外ももちろんあるが。

 そのどれもが有用で強力な素材なので一応この飾り剣も相応の力を持つのだろう。


 俺は不思議と手に吸い付くようにして馴染む曙光の華剣を手にして工房の外、泉の畔に向かった。


「……あなた…どうしたの?」

「あぁ、少しテストをな」


 コテリと首を傾げたユキヒメにそう返して泉を眺める。

 深く澄み切っていた泉には現在その一角に鮮やかな緑を挿し入れている。

 ユキヒメが大切に育てている擲弾蓮からドロップした蓮華の果実、それが芽吹いた植物だな。

 第6階層一帯に生えている擲弾蓮とは違ってそのサイズは手のひらサイズと常識的なものの、まだ1カ月と少しなのに凄まじい生命力だ。


 俺は既に繁茂の兆しを見せている蓮に向けて曙光の華剣を掲げ、魔力を込めた。


 金色の飾り剣が眩く光り輝いて辺りを照らす。

 アウレーネもよく分からないなりに性能を調べ、この光る能力を突き止めた。

 聞いたその時はでっていう感の強かったこの性能もやはりそう……。


「……咲いた?」


 ユキヒメが目を見開いて驚いたように繁茂している蓮の蕾が光を受けて一斉に綻んだ。

 やはりこの微妙に温い光は午前中の光として認識されるようだ。

 蓮は午前中に咲くものらしい。ネット情報だから真偽は適当だがまあ検証の補強にはなるだろう。

 曙光やら昇陽やらポエミーな説明ではあるが一応字義通りではあるらしい。こちらは分かり易いな。


 で、分かりにくい方の特徴だが。

 俺はおもむろに地面を蹴って一歩踏み出す。

 泉が眼下一杯に広がって……俺の足は向こう側の岸の先、しっかりとした地面を踏んだ。


 うん、人間技じゃねえわ。

 軽く跳んだだけで差し渡し数メートルはある泉を越せるかよ。

 この金色の飾り剣は元ネタ通り、身体能力を強化する効能もしっかりとついているらしい。

 アウレーネは解析こそ行き詰まったもののネットを駆使してこの金色の飾り剣の元ネタを拾ってきた。

 とはいえ名称まんまな上に件の燻ぶる呪界のガラトベルムが出てくる死に覚えゲームであいつが鎮座するフィールドの最奥で手に入るらしいというこれまたまんまな剣だったようだが。

 その武器説明によればこの曙光の華剣とやらは昇陽を具現化した宝剣であり、何某が鍛えた神威にして罪の一つ……らしい。さては鑑定ぽんこつ先生が最近ポエミーなのはこのゲームに毒されたな?


 能書きはいいとしてゲーム内での性能は自己バフがメインだった。

 この剣を使うと筋力やら回復力やらが格段に向上し、火力の底上げが出来る。

 ……ここだけ聞けば強力な剣なのだがまあこの剣自体はそこまで強い性能でもなかったのが悲劇だった。

 何が起こったかというと左手にこの飾り剣を携え、右手にごっつい大戦斧を担いでダルマみたいなデブい鎧を着込んだ変態が飾り剣をぴかぴか光らせながら大戦斧をぶんぶん振り回して雑魚もボスも冗談みたいなダメージを与えて薙ぎ払っていくギャグみたいな攻略動画だった。

 まーね。

 バフが本体のアイテムなら別でフィジカル強い武器使うのは当然やね。

 俺でも多分そうする。鎧のセンスは除いて。


 この剣の使い道も多分、そんな感じになるだろう。

 現実に出てきてもお飾りになる事が決定した曙光の華剣が心なしか不満げに強く瞬いた気がした。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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