76:オルディーナと混成魔法なるもの
小さな影が突き出た鼻をひくひくと動かしながらあちらへこちらへとうろついている。
ダンジョンモンスターは人を発見すると往々にして一目散に襲ってくるが、そうでないならば概ね探索行動あるいは彷徨行動を取っている事が多い。
人気のない通路を蛇行しながらミニボアはゆっくりと進んで行って―――。
突如周囲を吹き荒れた細氷の嵐に硬直している間にミニボアは全身の支配権を喪失してこてりとその場に横倒しになった。
捕獲完了っと。
もっと苦労するかと思ったが、魔力差故なのか黄色同調圧力は存外簡単に浸透した。
試してみたいとは思わないが、この現象が人間相手にも適用されるのであれば実力のある人間が反応力の魔力変質を覚えたら厄介なことになりそうだな。
気が向いたら対抗策も考えておいてもいいかもしれない。
ともあれ、欲しいのはミニボアの全身だ。
目的は勿論お隣ダンジョンの第2階層の探索。
第1階層のチュートリアルのような洞窟探索であれば、今動かしている岩殻を被ったメタルスライムゴーレムでいいが、第2階層でそれはかなり目立つ。
恐らく警察やお隣ダンジョンに入っているかは分からないが自衛隊であれば第2階層にも既に進出しているだろう。
時間帯もなるべくズラして接触しないように気を付けはするが、仮に鉢合わせた時のためになるべく誤魔化しの効く外装にカモフラージュしておきたい。
そのために考えているのがミニボア皮を被ったメタルスライムゴーレムだ。
第2階層の草原マップでなら親玉の大柄な猪も居た事だし見つかってもまだ珍しいモンスターとして誤魔化しが効くだろう。
相手を視認しても襲ってこないモンスターとして記録されるかもしれないが、所詮第2階層限定の外装だ。
話題になってしまったらまた別の外装を探せばいいだろう。
通路の前後にまだ人の気配はない。
さっさと回収して工房へ送ってしまおう。
橙色空間魔力で一抱えサイズのミニボア全身を覆い、黄色同調魔力を内包した氷晶で空間を同期させる。
……少し時間が掛かったがそれでも最早慣れたものだ。
遠くに足音が聞こえてくる前にはミニボアを工房のクラフトベンチの上へと転移させることが出来た。
……うん、これどうやって処理しようか。
* * *
―――主殿。意見を伺ってもよいか?
どうにかこうにかミニボアの全身を処理し終えた頃、オルディーナが……オルディーナの操作しているアフロトレントがそっとマジッククレイを一面に張った泥盆を挿し出してきた。
ケンキョなのか自己主張激しいのか分からんな。
とはいえ一段落は終えたのでそう急ぐこともない。オルディーナは一人で着々と進めて手間も掛からないので偶には向き合うのも大事だろう。
―――混成魔法について意見を聞きたい。
知らんがな。
そうは思ったものの、詳しく聞いてみると探索と魔法開発を進める内に混成魔法なる特性がいつの間にか湧いてきていたらしい。
ほーん。と思って何の気なしにステータス画面を見るといつの間にやら何故か俺にも生えていた。
名前:尾崎幻拓
種族:精霊憑き
レベル:43(↑1)
魔法力:282(↑8)
攻撃力:96(↑1)
耐久力:92(↑3)
反応力:170(↑8)
機動力:89(↑2)
直感力:144
特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ、ユキヒメ、サンドラ)、魔力制御、魔力変質(耐久力、魔法力、攻撃力、反応力、機動力)、混成魔法、アイスウィザード、土魔法
スキル:怪力、鑑定、識別
名前:アウレーネ
種族:精霊
レベル:43(↑1)
魔法力:304(↑4)
攻撃力:9
耐久力:60
反応力:196(↑12)
機動力:27
直感力:144(↑2)
特性:精霊魔法、魔力変質(耐久力、魔法力、反応力)
第7階層探索でひたすら黄昏世界の住人たちがひとまず満足するまで相手している内に1レベル上がったなとは思っていたが、特性の方までは全く気にしていなかった。
だが、改めて見てみればつい昨日確認した時と今とでは特性項目の外観は特に変わっていないように見える……気がする。
昨日は特に何をするでもなく、精霊たちの散歩の番をしていただけなので昨日の時点では既に生えていたのだろう。
魔力制御にしろ、魔力変質にしろ、特性がステータスに書き加わるというのはそれなりの理由がある。
直近で思いつくとなると……これか。
俺は藍色構造魔力と黄色同調魔力を緻密に一体化させて点滅するコアを作り出す。
何となく星型にこだわってしまったから時間が掛かったものの、ガラス質のまま作り出すコア状に成形するだけなら大した手間も掛からない。
星コアの通常コア版を生成して見せれば、オルディーナは興味深そうにそれを取って眺めた。
「基本は白輝銅や碧白銀なんかと変わらないな。複数作り出した変質魔力を重ね合わせて作り出しただけだ」
ただし、物質の魔力置換反応は花びら灰やら柿渋やらで反応酵素を作った後は反応するに任せたままなので、自力で一から全て構築するというのは初めてだが。
―――成程、これか。
そう表示してオルディーナの操作するアフロトレントから水球が噴き出したかと思うと空中でヤドリギを模る。そこはお前も宿樹精なのね一応。
水のヤドリギは直後に現れた火で焙られて蒸発するものの、後から後から噴き出て来てその構造を保とうとする。
焙っていた火が消えればたちまちに元通りの形に戻った。
詳しく聞いてみると発水宝玉を使って水球をヤドリギの形に成形する際に、同時にアフロトレントを操作して作り出した耐久力、藍色構造魔力を重ね合わせて送り込んでいたらしい。
いつの間にやら第3階層のキングゴブリン的なアレを大質量の水で圧殺し終えていたオルディーナだが、その際に思いついた水球の耐久性を伸ばすためのテクニックらしい。
オルディーナも攻略するや否やステータスも確認せずにさっさと次の階層攻略を始めてしまったため、いつの間にか生えていた混成魔法なる特性が何なのか分からなくなってしまっていたようだ。
ご丁寧に通知してくれるわけでもなし、稀によくあるよねこういうこと。
しかしこの混成魔法なるテクニックは異なる変質魔力が重ね合わせられるからこその現象かと思っていたが、オルディーナが今やって見せたような宝玉系魔法にも応用できるんだな。
……それもそうか。結局まだ宝玉系魔法の動作メカニズムについては皆目掴めていないものの、恐らく青色変質魔力の実体化現象を利用しているんじゃないかと推測している。
なので結局のところ宝玉系魔法の混成も実体としては青色変質魔力との混成という所なのだろう。
ともあれ、オルディーナの質問で有意義な疑問点が得られた。
オルディーナと幾らか話をしてそれぞれの混成魔法の特徴や性質などの意見交換をする。
とはいえ、俺も彼女も耐久力、藍色構造魔力との混成魔法だ。
構造補強する事によって確たる形を成形し蔓のような蛇のような形になってうねった炎を見た時は面白かったがまだまだこのテクニックについては山裾の一端で管を巻いている程度の感触がある。
今日得られた知見を糧に二人とも持ち帰って調べを進めてみる事にして今回はそれで解散した。
……ふむ。魔法と変質魔力の混成ね。
そういう概念を知った上で改めて考えてみると少し気になる素材もある。
とっかかりが掴めなくて投げていた案件があったが、もう一度調べてみるのもいいかもしれない。
差し当たってまずは、ナマモノの処理だな……。
俺は腹周りから開腹したミニボアの毛皮に藍色構造魔力を慎重に注ぎ込んで素材の固定と補強を始めた。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




