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73:突撃隣のダンジョン裏・下

 人通りのあるお隣のダンジョンでスニークミッションに興じていた。

 一騒動あったものの、一番の鬼門であった常に人が屯していた3階降り口の広場も無事に通過することが出来た。

 あったのではなく起こしたのではないか。そういう疑問を抱かれる方も居られるかもしれないが俺が落とした鉄貨をみんなで仲良く分ければ騒動が起こらなかった可能性も微粒子レベルで存在したので俺が起こしたのではない。ないったらない。


 冗談はさておき、お隣ダンジョンの第1階層ももう終盤だな。

 4階の降り口広場は剣呑な目つきのガチ勢がたむろしていたものの、暫く様子を見ていたら連れだって出て行った。きっとパーティーだったのだろう。

 誰もいなくなれば気兼ねなく転移出来る。

 そのままマップと生身で探索した時の感触を頼りに通路の天井を進み、問題の5階降り口広場まで来た。


 相変わらず二人の人影、5階へ降りるギリギリまで寄せて見れば案の定警官が二人立って……スマホを弄っていた。

 まーね。偶に何某さんみたいな無鉄砲が飛び込んでくるとは言え、抑えられていると分かれば効率を考えるならこんな所に用はない。

 もう少し外殻を持ち上げて乗り出して見れば付近には簡易のテーブルと椅子が3席。

 寝袋も幾つか積まれているので出張派出所ないし検問所と言った所か。

 席に対して当直の人数が少ないが、付近に人影は見えない。

 ダンジョンの方へ巡回しているのかそれとも阿呆を取り調べる用の椅子か。


 色々と可能性はあるが、今見えないのならば好都合だ。

 俺はスマホを覗き込む二人に気を配りつつ、周囲にも視線を巡らせながら銀糸を操って外殻を移動させる。


 3階の時と比べれば遥かに楽に5階の難所と思っていた場所を通過した。

 まあこれが非人型の醍醐味という物だろう。

 流石にあの警官たちも人型がガシャガシャと歩いて来れば止めただろうしね。


―――……。


 5階ともなると本当に人がいないので逆にあっけない。

 尺取り虫のように外殻と内殻を操って移動するのも流石に効率が悪いので、伸ばした銀糸の先で橙色空間魔力を直接展開させ、そこに外殻を転移させて銀糸で短時間受け止めてその隙に真空吸着させる方法を取った。

 外殻を支えながら動かす必要がない分、銀糸の射程が伸びるので直線通路の端から端までなら余裕を持って転移できる。

 橙色空間魔力が露出するので尺取り虫的な移動より目立つが人がいないならば関係ない。曲がり角でばったりだけは気を付けないとな。


 5階の敵はオークと名付けられたようだ。

 ブタ頭の太った人型、これもゴブリン同様オーク族オーク科オーク的な典型的オークなのでコメントもし辛い。

 ドロップは公開されていた買取価格表を見るとミニボア同様肉だそうだ。

 ミニボアよりは少し査定が高い肉のようだが……まあゴブリンの鉄貨には及ばない。

 安いうえに嵩張るので人も来ない。

 人が来ないからわざわざ危険な奥の方で検問所を設けるより入口で張った方が楽。

 5階の現状はそんな所だろう。

 精々ボスを倒して第2階層へ進出する時くらいしか用がなさそうだな。

 第2階層進出が許されるのはEの次、Ⅾランクからだ。

 現状の4階を見るに駆け出しを卒業したEランクの探索者でさえ漸くポツポツと現れ始めたといった段階なので、当分向こう暫くは先ほどの検問所で追い返す日々が続くだろうな。ご苦労な事だ。


 そうこうしている内に曲がった角で横幅の広い人影が、これはオークだな。

 オークの小隊が棍棒を片手に所在無げにうろついていた。

 周囲を確認して他に人影がない事を確かめると外殻の先に氷杭を生成して3匹に突き刺す。

 反応する事もなく脳天に氷杭を生やしたオークが光の泡を吐いて消えていった。

 第1階層だ。流石にこんな物だろう。


 ドロップはコアが2つとオーク肉が1つだった。

 解析用としては十分だな。特に見所もなさそうだったので後はスルーでいいだろう。

 感知力も弱そうだった。

 天井を這って行けば気付かれずに進めそうだし、気付かれてもあの棍棒では天井に届くことはないだろう。

 銀糸を操って橙色空間魔力を展開し、マジックボックスの上空にも展開したそれと同調させてオーク肉とコアはそのままマジックボックスへ放り込む。

 こんな所か。さ、次だ次。


―――……。


 地図情報もないし、アウレーネのヤドリギ索敵弾も使い辛い階の探索はかなり苦労した。

 ある程度割り切って過度に周囲を警戒するのを止め、適当に転移を繰り返すようにならなければ日付を超えても5階ボス前広場には着かなかっただろう。

 夜も遅くになったが、何とか辿り着くことが出来た。


 ボスは復活していた。

 死んだままだったら多分そのまま転移象形を使って次に進めたのだろうが、復活しているボスの周囲には転移象形は見当たらない。

 倒す必要があるだろう。


 ボスは戦斧を担いだオークと取り巻きの剣持ちゴブリンだ。

 さして思う事もないが、初心者が相対するなら目方の大きい武器持ちってのは威圧感がありそうだな。


 まあ、どうと言う事もない。

 サクッと氷杭を5本生成して放てばそれで終わりだ。

 斧オークが被弾ギリギリで気付いたようだが斧を掲げて弾こうとする動作を先回りして回避するように念動させて改めて突き刺すだけのお仕事だ。刺身にタンポポ乗せるより楽そうだな。


 ボス戦どころか雑魚戦未満の作業を終えて出たドロップ、鉄貨やらインゴットやらを回収すると、ボス戦広間の裏手入口から見ればせり出した壁の影になっている部分に転移象形が聳え立っているのを見つけた。


 ……もしかしてもう少しよく探索していればボス戦をスルーして転移出来たか?

 まあその検証はまた後でいいだろう。

 ちょっとした思考は心の隅に押しやって銀糸を操り転移象形に触れて魔力を流し込む。


 受信ゴーグルの視界が白く染まって―――。




 目の前に広がっていたのは長閑な草原だった。

 入口が少し小高くなっている分スライムゴーレムの視界でも見えてはいるが、背の高い草原と合わせて見通しは悪いな。

 入口広場は柔らかい地面が露出している。

 今までカモフラージュしてきた岩の外殻では逆に目立つだろう。

 少し手直しが必要か。


 ただ、このまま切り上げるというのも微妙だ。

 ここでの他人の活動傾向が把握できていないのが少し怖いな。

 下手をすると再び来たときに入口でばったりと警察と遭遇し警戒されるという危険もある。

 そう考えると少なくとも平日の早いうちは避けておいた方が無難か。


 後は警察とばったりと遭遇しても誤魔化しが効く外殻の検討か。

 そのためには軽い探索が必要だな。

 そう結論に至って俺は銀糸を操って外殻を持ち上げた。


―――……。


 お隣ダンジョンの第2階層は長閑な草原、というより牧場といった感じだった。

 俺は伸ばしていた碧白銀のレンズの向こうから見える簡易な柵を目星にして伸ばした銀糸の先に橙色空間魔力を展開し、転移した。

 ひざ下丈の草がいいカモフラージュになって転移自体の発覚リスクはそこまで大きくなくなった。

 その為石材から作り出した外殻内殻は早々にお役御免になったので、草原に踏み入って少しした辺りで手元に転送して今ではただのメタルスライムゴーレムとして探索している。

 その方が視界も良好だし、殻を気遣わなくていい分操作も楽だ。


 転移した先に据えられた木組みの柵は支柱と横に渡される木とが微妙に癒合している感じが人工物ではないな。ダンジョン産か。

 雑な超絶技巧を品評しつつも柵の支柱に沿って碧白銀レンズを伸ばして周囲を確認する。

 先ほどよりも高い位置故に開けた視界の向こうには早速敵の影が見えて来た。


 あれは……牛だな?

 白と黒のツートンカラーはホルスタインに似ているが角の付き方がカーブを描いて前方に突き出す攻撃的な配置だ。

 十中八九突進してくるだろう。

 肉付きも家畜系の肥満質ではなくフィジカルを感じさせる隆々とした外観だ。

 乳房も陰茎も確認できないのでモンスターだってのはよく分かる。

 まあ作ったって戦闘行動の邪魔だろうからね。経費削減なんだろう。知らんけど。


 そこから離れた後方にはミニボア……足の隠れ具合から察するに体高が人の胸くらいのサイズはあるな。ミニボアの親玉のボアといった所か。

 それに加えてなだらかに降って影になる位置には良く見えないが白い群れのような影が三々五々散っている様子が見える。

 だが赤いトサカを見る限り十中八九鶏だろう。

 牛、ブタ、鶏。家畜階層かな?


 凡そ確認ができ、外殻のイメージも湧いたのでこの場はこれで切り上げる事にした。

 流石にもう日付も変わっていい時間だしな。

 明日は月曜なのであまり無茶はしたくない。

 橙色空間魔力を展開して同調させれば手元にはメタルスライムゴーレムが転送されてくる。

 コイツの第2階層用の外殻を作り終えたら探索再開だ。ただそのためには少し素材採集が必要だな。

 これからの活動順序を心の中で段取りを付け、今日はこれで撤収する事にした。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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