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71:突撃隣のダンジョン事情

「はい行ってらっしゃい」


 交通整理みたいな捌きで適当に通された後、光が全感覚を塗り潰してやって来たのは近場のダンジョン管理施設だ。


 第6階層ボスの金色ドラゴンを撃破した後、俺は一旦攻略を休んで気晴らしに近場のダンジョンを冷やかしに来ていた。

 階層ボスを倒して足を踏み入れた第7階層が非常に相性が悪いマグマ地形だったからだ。

 どこのゲームでもありがちな火山マップやらマグママップやら、そういった赤熱する湖を湛えた不毛の洞窟。

 ゲームだったら中盤から終盤にかけての定番ではあるが、実際に相対して探索してみろとなるとどうにも攻めあぐねる。


 まずそもそも俺の操るメタルゴーレムがそこまで熱に強くないのが問題だな。

 幸い何日か魔養ドリンク漬けになる事で修復は完了したが金色ドラゴンでも熱でのダメージが大きかった。

 金色ドラゴン対策に色々と火焔対策の用意はして来たものの、それらは全て対戦闘として考案してきたものだ。

 水浸しのように環境を変化させるのはあくまでボス戦フィールドという限定された、階層全体から見れば極小さい領域だったからこそ可能な策だし、コア質で身体を覆ってしまったら移動することが出来ない。


 現状で適用可能なのは探索中ずっと緑色斥力魔力を纏う緩和策くらいだろうか。

 ただしそれだけではもし溶岩に落ちてしまった場合、恐らく水銀を構成素材に使っている銀腕やメタルゴーレムの骨格筋などは無事では済まないだろう。


 一つ、対策があるにはある。

 それは氷を作成してずっと周囲を冷やし続ける作戦だ。

 これなら出力如何によっては溶岩を固めてそもそも落ちずに対処することも可能だろう。

 現場にいるだけで魔力消費をし続ける必要があるその作戦にどれ程魔力を蕩尽する必要があるのか見当が付かない事を除けば即採用出来る案だと思う。


 まあ要するに解決策はあるんだが面倒だからもっといい案は無いかと燻ぶって尻込みしている訳だな。


 ともあれ、偶には外に目を向けてみるのも悪くはない。

 ダンジョンの限定一般開放が始まって早一か月少し。予約をすればその週末にはダンジョンに入れるくらいには管理機関側もこなれて来たようだ。

 ……そこまで探索者が増えていないというのも背景にあるのかもしれないが。


 アウレーネ調べでは最初の内こそ大いに盛り上がっていたものの、結局体力が必要なドカタ仕事だという事でニワカたちは波を引くように去って行ったらしい。

 真理やね。探索者関連の法律見ても、あくまで管理施設は個人に対して禁止されている領域に踏み入る許可を与えているだけで、ダンジョン内で負った損害や費用についてはダンジョン管理施設は一切責任を持たないからドカタの中でも最底辺な方だと思うよ。仕事にするなら。


 一時期の熱狂が引いてきたのと様子見勢がぽつぽつ参入するのとでトントンって所らしい。ホントかどうかは知らんけど。


 真実はさておき、週末の予約時間帯の中でも中途半端な時間に進入すればガラガラ状態というのは都合がいい。

 こうやって先ほどから入口で準備をするフリをしていても往来はないし当然人もいない。

 耳をすませば通路の先から掛け声や戦闘音がするから丸きり無音って訳でもないがな。

 俺はその事を頭の片隅において、漸う歩き出した。


―――……。


 お隣のダンジョン第1階層は自宅のダンジョンの第3階層と似ている。

 シンプルな洞窟&階段マップだな。

 これがオーソドックスなダンジョンだそうで、今の所公開されている情報の中では殆どのダンジョンの第1階層がこの洞窟マップだそうだ。

 ダンジョン的にはこれがチュートリアルとでも言いたいのだろうか。


 出てくる敵もそれなりの面揃えだ。

 通路を曲がると奥から駆けてくる小さな影が居た。

 チワワ……ブラウンハウンドだな。

 小動物サイズの猟犬を手にした支柱用金属棒で叩けばすぐに光の泡を放って消えていく。

 得物は適当にホームセンターで調達してきた。

 流石にいつもの装備で行くわけにもいかないし、どこかに潜んだ鑑定持ちに俺の装備を鑑定されても面倒だ。

 仮にスキル:鑑定を国がある程度把握しているならば魔力濃度と敵の強度の関係について推察できるだろう。

 今の俺の装備は黄色同調魔力の同調現象を応用すれば比較的簡単に自分のレベルまで魔力濃度を引き上げられるので魔力濃度42が基本だ。

 そんな物を付けて歩いていたら職質してくださいと喧伝して歩いているようなものだな。


 なので余所行き装備は現実の物一式だ。

 ジャージの上下に金属棒とホームセンターイチ押しのプラスチックの盾。

 アシ不織布製の登山リュックは諦めて以前のウェストポーチを引っ張り出してきた。

 収納量に難があるが、そこまで気合入れて潜るつもりもないし大丈夫だろう。

 ドロップしたのはコアだった。

 魔力濃度1。うん、ゴミだね。

 ここら辺も第3階層とよく似ている。

 自宅のダンジョンちゃんは何を思って第3階層からチュートリアルを始めようと思ったのだろうか。

 皆目分からんが考えてもしょうがない事なので気を取り直して次に進む。


 野球のバットを肩に担いだおっさんと軽く会釈を交して通り過ぎると分岐の先では若いの数人がブラウンハウンドを囲んで賑やかにやっている。

 邪魔をしちゃ悪いので折れて迂回する事にした。


 当然ながらダンジョンが一般開放されてからもう1カ月以上も過ぎているので第1階層のマップは殆ど踏破されている。

 一部では自作マップを有料無料で公開している趣味人もいるので、アウレーネが検索して拾ってきたここのマップを片手に探索している。

 有料であればモンスターとの遭遇地点などをプロットしたマップなどもあるようだが、今更ここら辺の顔ぶれに用は無いので無料のモノを選んだ。

 入口と幾つかの分岐周辺と階段の位置しかないがこれこそが必要十分なので逆にありがたい。


 迷うこともなく階段を見つけて次の2階へ降りると、降り口の小広間には何人かのおっさんがゴツイアイスボックスの周りでたむろしていた。

 アウレーネが言っていた買取人だな。

 ここの2階は自宅のそれとは違い、出てくる敵はミニボアと名付けられた小動物サイズのイノシシだ。

 ドロップはコアと肉の塊を落とすので、コアはともかく肉の塊は扱いに困る。

 単純に嵩張るし透明のフィルム……恐らくコア質で覆われているとはいえ大立ち回りしている間に破けないとも限らないし何より常温で放置はマズい。


 なのでその扱いに困るドロップを狙って運び屋のおっさんがここで商売を開いている訳だ。

 肉の塊を上の相場より安く仕入れ、持って帰って売り捌く。

 一番人気なのは肉とコアを交換だそうな。

 コアの方が肉より安いため損にはなるのだが嵩張らないし上へ持って行けば討伐実績になるのでタイムパフォーマンスがよろしいようだ。

 おっさんがここまで来るまでに討伐したコア数限定なのですぐに売り切れになるようだが。

 面白い商売を思いつく奴もいるのだな。

 降りて来たときにチラリと目が合ったものの、お互いに用が無い事が明白なので視線を下げて会釈がてらに通過する。

 T字路を曲がる時にエコバッグに肉を詰めたおっさんが入口へ急ぐのとすれ違った。

 2階もそこそこ繁盛しているようだ。


 そこそこ探索者のうろついている2階では一度ミニボアを倒しただけで降りの階段に辿り着いてしまった。

 ドロップもコアだったので微妙だな。後で戻る際に人を見かけたらコアとの交換交渉をしてもいいかもしれない。

 そして辿り着いた3階は……2階以上の繁盛具合、最早混みあっていた。


 降り口の小広間には休憩中と思しき探索者がめいめい腰をかけている。その上通路の奥からは多くの声が反響し合ってどこか映画館ホールにでもいるような心地だった。

 3階の敵はゴブリンだ。

 そのドロップはコアと小銭サイズの鉄片。

 その鉄片が純鉄と言える代物だと判明してから価値が暴騰した。

 小銭サイズとは言えキロ単価で言えばかなりの価値だ。

 つまり嵩張らず持ち運びがしやすい。

 もっと言えばこの先下の階のゴブリンとは違い、3階のゴブリンは碌な武器を持たず精々棒を振り回すくらいなので安全だ。

 安全かつそれなりの稼ぎになるという事でたちまち3階は駆け出し冒険者たちで溢れかえる事になった。そうアウレーネが言ってた。


 兎にも角にも混みあって碌に敵に出会わないのは好都合だ。新たな商売敵が来たかと睨み付けてくる野郎どもをスルーして足早にその場を去る。

 結局3階は何処へ行っても人がいるので一度も敵と遭遇することなく階段へとたどり着くことが出来た。


 4階の降り口の小広間にも多少の探索者が腰を掛けていたが、こちらは少し趣きが異なる。

 探索者たちは三々五々小グループを作るようにして休んでいた。おそらくチームメンバーなんだろう。

 4階からは自宅の第3階層同様にゴブリンたちも武装して群れを作り始める。

 敵が剣を持って襲ってくるのも含めてここからはパーティーで組んだ方が効率がいいという事なんだろう。

 流石に単独で降りて来た俺は周りから浮いているようで少々視線が痛い。

 撤退するかどうか迷ったが、ここは押す事にした。

 駆け出し俄かの無謀な背伸び程度に思ってくれれば助かるのだが、その場合おせっかいさんが居たら面倒か。


 幸い話しかけてくるような有難迷惑なおせっかいさんはこの場にいなかったようで、ジロジロと見られはしたものの、話しかけられる事はなく小広間を脱出することが出来た。

 マップに従って迷路をひたすら歩いていく。

 ここ以降はまだマップも完成していないそうで公開されていないんだよな。

 この先を進むかここらで引き上げておくか、微妙に迷う。


 本来の目的は5階の先、このダンジョンでボスのいると言われる広場、出来ればそこにある転移象形を確認しておきたかったのだが、そのためにはマップの無い5階を探索する必要がある。

 探索1回目の駆け出しが5階をウロウロするのは目を付けられる。

 そもそも4階5階の敵は駆け出しの上のEランクじゃなければ買い叩かれたはずだ。

 ……うん、5階の降り口の様子だけ見たら撤退しよう。


 方針を決めて角を曲がると、その先には彷徨する3匹の影が見えた。

 ミニボアと剣持ちゴブリンの小隊だ。

 あちらはまだ気付いて居ない様子なので相手にする事もないだろう。

 前方には他に何の影も見えない。


―――後方はどうだ? レーネ。

―――いないよ。

―――助かる。


 胸中で呼びかければ胸の前に半透明の幼い少女の姿、アウレーネの霊体が湧き出て俺の影に隠れるようにして背後の角の先を覗き込む。

 他の探索者の姿がいないのならば遠慮する必要もないだろう。


 俺は橙色空間魔力を作り出して通路の奥へと飛ばし、自分の周囲にも同様に展開して通路の奥と自分の周囲との間を同調させ。

 通路を丸々一つ飛ばしてゴブリン小隊との戦闘を回避した。


 4階はまだEランクの探索者が少ない事もあってかなり空いているようだ。

 人の代わりに敵と出会うことが多く、何度か転移を使って戦闘を回避しながらマップに従って迷路を進んでいく。


 真面目に探索すればそれなりの時間になりそうだが既知のゴールに辿り着くだけならそう時間もかからない。

 突き当たった三叉路を右に曲がればすぐに降りの階段が見えて来た。


―――いるよ、誰か。


 こういう時、勘のいい相棒がいるって素晴らしいな。

 階段の中ほどで停止して息を潜める。

 アウレーネが言うには5階の降り口に2人の人物が並んで立っているらしい。

 探索者が休憩しているならば座り込むか、せめて端に寄るはずだ。

 そうでないならば……恐らく警戒中の警官だろう。

 以前何某さんが引っかかった奴だろうな。

 ボス前と言っていた気がするが、言葉の綾かあるいは見張り位置を手前に移したのかもしれない。


 いずれにしてもこれ以上の無理押しは危険だな。

 嗤われるならまだしも疑われ、目を付けられるのはマズい。

 俺はこれ以上の探索を打ち切って、撤退する事にした。 

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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