70:リザルトと炎天丼
「だぁあああッ。マジキッッッツ! もうやりたかねぇ!」
「……あなた…」
全身を弛緩させてソファに身体を預けたまま天井を仰ぐ。
受信ゴーグルに映る景色も薄く煙る空を仰ぎ、ガシャンと重い音が響いてきた。
倒せたから良かったものの、決定打として準備してきた対策では足らずに土壇場でコアだの緑色魔力だのを大盤振る舞いする事になった。
ドラゴンの生命力をまだまだ過小評価していたな。
紺鉄鋼杭が十分突き刺さったからそれより硬度自体は勝る白輝銅ならば致命打まで行けるんじゃないかという期待は土壇場で裏切られた。
相手の隙が無さ過ぎて紺鉄鋼杭を数撃ち込めなかったのも効いているかもしれない。
初撃を刺し込んだ以降は接近する間もなく一撃離脱を取られ続け、やっと出来た隙の後にはもう終盤だ。
もし白輝銅の斧を出す事もなく紺鉄鋼杭で削りに徹していたら、もう一度やってきたあの緑色斥力魔力を利用した火焔爆弾で今度はどこまで吹き飛ばされていたのか想像もつかない。
第一攻防一帯のアレを連発されるだけでこちらには手の打ちようがなくなるからな。
結果的言えば紺鉄鋼杭で削って白輝銅斧で落とすという方針では決定力が足りなかったわけだ。
コブラゴーレムの杭撃ち砲を増設するか? だが、これ以上の増設は流石に重量的に限界がある。揚弾も何も一発一発杭を直接砲身に挿し込まないといけないから弾倉というのも難しいんだよな。
アウレーネという優れた狙撃手も加わって今回もいぶし銀に光る活躍をしてくれたコブラゴーレムだが、まだまだ改良の余地がありそうだ。
白輝銅斧の方も要検討だな。今回は燻ぶりナマズが砕けたら出てくるだろう金色ドラゴンのサイズを想定して成形機で作ってきたが、次のボスに立ち向かう時には次のボスに合わせた決定力が必要だ。
とはいえ、現状の物理的な決定打が今回では力不足という事も明らかになったので今後物理的な決定打が要求される場面までには更なる増強方針について構想を練っておいた方がいいだろう。
それに勝つには勝ったが被害も大きい。
いつも便利に使っていた銀腕は構成していた水銀が蒸発した為か泡立って動きが非常に悪い。
メタルゴーレムの四肢の動きも不調な事から察するに骨格筋のアマルガムも幾らかやられているようだ。
藍色構造魔力で修復できるのか分からないが、不可能であれば在庫の水銀をかなり吐き出す事になるだろう。
紺鉄鋼の外装の方もそれなりに被害を被っている。
こちらは魔力を流せばその内元通りになるだろうが、強熱で焙られ続けたためか表面や角が溶融して形が崩れている。
金色ドラゴンが光の泡に返った後に残ったグズグズの紺鉄鋼杭を見ればさもありなんとも言える。
また暫くは魔養ドリンクのがぶ飲み修復シフトが続きそうだ。
しかしその分報酬も期待出来た。
そもそも偶然とはいえ決定打に黄色同調魔力を使ったためか、金色ドラゴン全身が光の泡に還らずに、外皮の鱗や翼膜といった部位が所々落ちている。
ボスのそれもドラゴンの身体素材だ。その価値は計り知れないだろう。
恐らくドロップだろうと思われる素材も面白い。
形状的には肋骨だろうか。三日月形を描く竜骨に鑑定ぽんこつ先生は焔を宿す竜骨という詩的な名前を命名された。
魔力特徴も焔を宿すとかいう意味分からん…失礼詩的な特徴なのでこれからの解析に期待だな。
まだ熱いからヤダと解析員にボイコットを食らってしまったが。
そして魔力濃度は堂々の50だ。
推定レベル10以上の差をポンとお出ししてくるダンジョンちゃんには殺意が湧くね。
それもボスフィールドへの侵入の仕方によっては更に面倒臭さ倍乗せしてきたのだろうから長嘆息も一入だ。
一応ここ2週間、第6階層攻略開始から起算すれば4週間程度みっちりと第6階層で雑魚敵を倒してレベルも36まで上がっていたのだがその努力を鼻で笑うようなバランス調整である。
ただまあその甲斐あってレベルは爆上がりした。
名前:尾崎幻拓
種族:精霊憑き
レベル:42(↑6)
魔法力:274(↑18)
攻撃力:95(↑9)
耐久力:89(↑6)
反応力:162(↑24)
機動力:87(↑5)
直感力:144(↑6)
特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ、ユキヒメ、サンドラ)、魔力制御、魔力変質(耐久力、魔法力、攻撃力、反応力、機動力)、アイスウィザード、土魔法
スキル:怪力、鑑定、識別
名前:アウレーネ
種族:精霊
レベル:42(↑6)
魔法力:300(↑19)
攻撃力:9
耐久力:60(↑2)
反応力:184(↑32)
機動力:27
直感力:142(↑5)
特性:精霊魔法、魔力変質(耐久力、魔法力、反応力)
殆どの探索や攻略をメタルゴーレムを使った遠隔操作で行っているためか俺もアウレーネも魔法力と反応力の伸びが著しいのは以前からの通りだな。
取り分けアウレーネが魔法力300の大台に到達した。
巷の暫定ステータス換算では魔法力が3倍……基準が存在しないからイマイチぱっとしないが通常時より3倍加算されていることになる。
俺も攻撃力が100近辺まで上昇しているので握力何かが2倍になっているのだろうか?
取り立てて測った事はないし日常生活で何かを握り潰すとかそういったハプニングも起こっていないので実感が湧かないが気が向いたら測定器でも買って検証してみるのもいいかもしれない。
測ったとして探索にはメタルゴーレムを使うのでほぼほぼ意味がないデータだが。
それに何だかんだで第6階層突入時から10レベル以上上がった事になるな。
それでも金色ドラゴンの推定レベルとは大差を付けられているのが戦慄するが。
まあ、今までもこれからもボス戦は十全に対策して入念に準備してありとあらゆる手段を行使して初めて挑戦権があるって所なんだろう。
俺はどちらかといえば準備すれば圧倒できる程度のゆるふわ攻略の方が好きなんだが。
ともあれ勝ちは勝ちだ。クレーターの縁、元は環礁の陸地だった場所にもいつの間にか転移象形が浮かび上がっている。
周囲に散らばった金色ドラゴンの端材も回収して転送してと……あちッ。確かにアウレーネが難色を示した通りに転移ボックスの中が大変なことになっているな。
こういう時は雑に緑色斥力魔力と橙色空間魔力を結び付けて作った緑橙斥力シートに包んでマジックボックスへダンクシュートだ。また気が向いた時にでも取り出して解析しよう。
それからグズグズに溶けた紺鉄鋼杭や白輝銅斧も回収だな。これらもマジックボックスへ直行……いや、超機能恒温機を稼働させれば冷却は一瞬で出来るな。大した手間でもないしやっておくか。
もう他に落し物は無いかと見回して……、クレーターの一番底、環礁の中心部に見慣れない金色の棒が刺さっているのを見つけた。
こんな物用意したっけかと引き抜いてみると―――。
それは一振りの剣だった。
太過ぎず細すぎず、長過ぎず短過ぎず。これぞ直剣といった容貌の剣は平均的でありながら落ち着いた金色を差して照り返し、その様はどこか金色ドラゴンを思わせる。
名称:曙光の華剣
魔力濃度:50
魔力特徴:昇陽
うん、訳が分からん。
最近先生がポエミー過ぎて辛い。
とりあえずこれもアウレーネ行きで。
「お~ぃ。ご主人様置いてくよ~」
ふと掛けられた呼びかけに振り向くといつの間にやらア~シャたちが転移象形の下へと移動していた。
手早く辺りを見回して残したものが無いかを再度確認してから彼女たちの下へと移動する。
「全く、いつまで我を待たせる気じゃ!」
「あつい」「ね~」
「…………うん」
現地にいるのはメタルゴーレムゆえに肌身には感じないがどうやらボス戦の余波で周辺は熱いらしい。
確かに辺りを見回せば、環礁の周辺は火焔の名残か所々泥海が火の手を上げている。
火焔爆弾が起爆した当初の一面火の海と比べれば殆ど終息しかけているものの、一時期の火勢がもたらした熱量はまだ現場に停滞しているのだろう。
口では濁しているもののユキヒメもあまり調子は良くなさそうだ。
さっさと第7階層を拝んで撤退した方がいいだろう。
噴式スラスターも使いつつすり鉢状の斜面を駆け上って彼女たちの下へ急ぐ。
「次はどんな所なんだろ~ね?」
「空とか」
「我にふさわしい場所に違いないのう」
どこまで行っても賑やかな奴らだ。
急かせた割りに雑談に興じる彼女たちを尻目に転移象形を起動させる。
受信ゴーグル越しの感覚が白く塗り潰されて行き―――。
「あ~、あ~しパスで~」
「私も」
ア~シャとシスティがログアウトしました。
まあ気持ちは分かる。
再び視界が戻ってくると、そこには赤い光を湛える巨大な湖、マグマが広がっていた。
……天丼は流石に辛いモノがあるぞダンジョンちゃんや。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




