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69:燎原に咲く天爛の華

 泥貫きの刃を受けた燻ぶりナマズがびくりと震える。

 震えは地響きに変わってやがて大空洞全域へと伝播した。




 黒泥の体躯に亀裂が入る。


―――自由とは、力の齎す権能だ。


 亀裂が赤熱し、間を置かずに眩く輝く閃光へと変わる。


―――故にこそ、力とは真摯に向き合わねばならない。


 爆ぜた衝撃が、展開したコア質のシールドを打擲し、辺り一面が紅蓮に塗り潰された。


―――自由が自由であるために、此の身が此の身であるために。


 四散した黒泥の瓦礫の中で、細い体躯が威風高らかに伸びをする。


 金の目、金の鱗を纏った美しいドラゴンが、鎌のような4枚羽を広げて飛び立った。




 攻略wikiに依れば、ガラトベルムはその美しさから数多の嫉妬や呪いを受け続けたという。

 ただし、ガラトベルム自身には呪詛など全く効果が無く、逆に身に纏う紅蓮の火焔で降り掛かる呪詛の悉くを灼き尽くした。

 ただし、全く効果がない事とそれを煩わしく思うかどうかはまた別で、次第にガラトベルムは自身には全く効果のない呪詛を積極的に身に纏い、黒い汚泥の怪物へと姿を変えたという。


 妄想乙だの飛躍脳すげぇだの言われていたから本当の事は知らんけど。

 飛躍と言う事だから法螺は吹いているだろうが、根元の部分では近い物もあるのだろう。

 とにもかくにもその元ネタ同様に先ほどから相手をしていた燻ぶりナマズの形態はあいつの仮初めの、耳目を避ける姿で、本来のあいつは金色のドラゴンだ。

 変装する著名人かな?


『準備はいいか?』

「ばっちりだよ~」「ちゃんドラ様ハリーハリー」

「ええいお主らせっつくな!」


 観察する最中にも準備の手は緩めない。

 第二形態に対抗するために呼んだのがア~シャとシスティとおまけだ。

 姿形を崩したサンドラの通信子機を介して水がダムの放水のように溢れ出る。

 先日第4階層の水棲ワームの巣で回収した水だな。


 燻ぶりナマズの形態でもその兆候はあったが、元ネタ通りならば金色ドラゴンになったあいつは更に景気良く火攻めをしてくる。

 フィジカル以外の全てが強化されたドラゴンらしいドラゴンだ。

 だからこそ、最低限戦場環境くらいはこちらに有利な条件で戦いたかった。


 いつの間にか膝下まで浸り始めた水を泡立てて金色ドラゴンが紅蓮の火焔を噴き出してきた。


「私が……守る…」

「じゃ~あ~しらも~」「ついで」



 俺たちの前に立ったのはユキヒメだ。

 と思ったらア~シャとシスティも一緒になって前に出た。

 3人は周囲の水を盛り上げて水壁を築き上げ、金色ドラゴンの火焔を押し留める。

 紅蓮の火焔も量には圧倒出来なかったようで、辺り一面を湯気に変えてその勢いを失っていった。


「回り込むようにこっちに来てる」


 白一色の空間の中でアウレーネがそう囁く。

 幾つか撒かれたヤドリギはまだ十分に機能しているらしい。

 こういう時に目の役割も果たしてくれるのは助かるな。


「ッ! 左。何かしてくる」


 アウレーネの警告に押取り刀でカバーに入ってコア質のシールドを張る。

 衝撃と共に突風が巻き起こって辺りの湯気が吹き散らされた。

 どうやら攻撃というよりは湯気を吹き散らしたかっただけらしい。

 下肢を地面について4枚の翼に橙色魔力を纏わせて羽ばたくだけでもこの威力だ。


 俺たちを視認した金色ドラゴンは再び飛び上がって4枚の翼を交互に連動させてその場に滞空する。

 牙の間から舌火を散らして首を上げたのでユキヒメたちに合図を送る。


 放物線を描いて飛んできたのは紅蓮の火焔球の雨だ。

 広範囲に散るその攻撃は逃げる分には面倒だが守る分には好都合だ。

 ユキヒメたちに頼んで再び水を操って壁を建てて貰い、今度は難なく防ぎきる。


 火焔の雨を防がれたことを認識した金色ドラゴンは様子見に徹する事を止めたらしい。

 翼を大きく撓ませると、飛沫を撒き散らして加速し、頭上を取って空襲を仕掛けて来た。

 頭上で身を捻った金色ドラゴンと目が合い―――。


『転移』


 火焔を纏った長い尾が鞭のように翻って先ほどまでいた場所に打ち据えられる。

 その余波で周囲に飛び散っていた黒泥塊の欠片が幾つか爆発する様子がよく見えた。

 俺は橙色魔力を纏っていた粘土塊を再び水中の中に隠して金色ドラゴンに接近する。


 空中を自在に飛んで先ほどのように強襲を仕掛けてくるガラトベルムを参考にした対策がこれだ。

 目立たないように偽装された粘土塊の中には碧白銀と星白金が仕込まれており、橙色魔力なら素早く伝達させることが出来る。

 橙色魔力を送って作り出した同期空間を使って転移を行い、素早い攻撃を回避する


 4つの通信子機がふわりと浮かんで水や閃光を放ち、それぞれの姿を模った。

 精霊たちの身体はあくまで魔力で作り出されている。

 ここでの本体は通信子機なのでコアさえ転移範囲内に入っているならば自身の形を崩しさえすれば簡単に転移に潜り込める。


 正面に潜り込んだ俺を視認して金色ドラゴンが舌火を散らし―――。


「ふははははッ。真の竜王の威を見るがいいッ!」


 突如顔面に飛んできた閃光に怯んだ。

 相変わらず喧しいが、タイミングとしてはバッチリだ。

 俺は顔を背けた金色ドラゴンの胸部に向けて紺鉄鋼で作られた杭を突き入れる。

 腰部に増設した生成した水魔法を火魔法の爆発で押し出す噴式スラスターも作動させて加速力を上乗せする。


「ギャウッ!?」


 暴風を散らして飛び退った金色ドラゴンの胸部には紺色の杭。

 傷口からは赤々と血が流れ出ている。

 紺鉄鋼なら強度的にも相手を傷つけるのに十分なようだ。


 距離を取った金色ドラゴンが大きく羽を広げて再び飛び立つ。

 紅蓮の雨を降らせて牽制して来た辺り、先ほどの刺突を警戒しているようだ。

 もう一つ紺鉄鋼杭を腹腔から取り出すと、視線が注がれた。

 さて、ここからどう詰めていくか。



―――……。



「ぬぉッ!? ぐぬぅ……我の技の出を遮るとは卑怯ではないか!」


 紺鉄鋼の杭は金色ドラゴンにそれなりのダメージを与えた。

 ただ、それは同時に相手に警戒をもたらす事にも繋がってしまったようだ。


 身に纏った稲光を急に消失させてサンドラが横跳びに退くと、直後紅蓮を纏った金色ドラゴンが抉り込むように尾を振るって飛び去って行く。

 間合いを取った金色ドラゴンは複雑に羽ばたいて空中を泳ぐように一回転した後、再びこちらを見据えた。

 何合か繰り返した結果、金色ドラゴンは一撃離脱の方針を取ったようだ。


 確かに紺鉄鋼杭をマトモに当てるならば金色ドラゴンが着地している時でなければやり辛い。

 地面に叩きつける尻尾の振り下ろしならば十分接近可能な隙が得られるのだが、最初の一回以降はサンドラの不意打ちも効果が薄くなって上手く躱されてしまった。

 その内に相手も学習してそもそも尻尾の振り下ろし自体を控えるようになってしまった。

 ゲームとは違ってこういう所が更に難しいんだよな。

 時間をかける程相手も対策してきて難易度が上がる点が。


「……ん。おーけー……げんた、合わせられるよ」

『いいタイミングだ、レーネ。じゃあ次仕掛けて来たタイミングでな』

「まかせてー」


 膠着しかかっていたが幸いこちらの準備が完了したようだ。

 折よく金色ドラゴンも襲撃体勢に入ったようだ。4枚羽を撓ませて今にも加速を付けようとしている。

 その仕草は直進軌道の際の癖。ならば転移位置は奥の二つの粘土塊のうちのどちらか。……ふむ、右だな。


 紅蓮を纏った金色ドラゴンが水面を薙ぐようにして突進を仕掛けてくる。

 噴式スラスターでも避けられないこの攻撃は転移あるのみ。

 周囲に散っていた三人を呼び寄せてタイミングを合わせ、転移先で展開した橙色魔力と周囲の橙色魔力とを同期させて転移現象を引き起こす。


 瞬時に移り変わった視線の先には突進を終えて反転する金色ドラゴン。

 その複雑な挙動を支える4枚の翼が空気を掴んで羽ばたこうとして―――。


―――ズガン。


 大きく広がった一対の両翼に紺鉄鋼の杭が突き刺さった。

 離れた場所には増設砲塔から紫煙を上げるコブラゴーレムが水面下に潜って遁走する姿がチラリと見えた。

 最初に会ったときから思っていたが、アウレーネは照準を合わせるのが上手い。

 射撃系の魔法を覚えさせるのも一つの手だったが、銃の解析が出来た事でむしろ撃ち出した後には碌な制御が出来ないが魔法にはマネできない弾速と貫通力がある魔導具の銃ないし砲を使わせた方がいいと判断してコブラゴーレムを委譲した後、少しずつ訓練させていた。

 破壊力が足りなかったりフィールド的な難があったりと中々日の目を見る事が無かったが、今までにない悲鳴を上げて地に足を付けた金色ドラゴンを見れば結果は上々のようだ。


 攻めあぐねた理由は相手が素早く宙を飛んで攻撃が躱されるからだ。

 その機動力を生み出す翼を奪ってしまえば殴り合いに持ち込める。

 怯んだ内に噴式スラスターを作動させて即座に近づき、もう一対の翼も紺鉄鋼杭を突き刺して自由を奪う。


 そのまま仕掛てトドメを―――。


 突如襲った緑色の衝撃(・・・・・)に抗うことも出来ず、俺は吹き飛ばされた。


 ゴブリンごときが出来るんだからな。ドラゴンが出来ない道理もないだろう。

 元ネタのゲームじゃそんな技は終ぞ見かけなかったがな。


 緑色斥力魔力を纏って立ち上がった金色ドラゴンが激しい舌火を散らして一際巨大な咆哮を放った。


 そのままグルグルと唸りながら力み始めた金色ドラゴンに嫌な感触を覚えて妨害しようと近付くも分厚い緑色斥力魔力に覆われていて手が出せない。



 始まりは顎から溢れ出る舌火だった。

 それらは緑色斥力魔力の中で滞留し、ドラゴンの纏う金鱗に朱色を差した。

 次に立ち昇った全身から溢れ出る紅蓮の火が緑色斥力魔力を僅かに押し上げてドラゴンの体表を渦巻く。


「ねぇ~……アレ、ヤバくない~?」

『あぁ、正直マジヤバいだろうな』

「必殺ってカンジ」


 今にもじりじりと規模が膨れつつある金色ドラゴンの緑色球は見るだけでもこれから全力攻撃しますと言っているのが分かる。


 転移……は全員返送したら再度ここに向かうまでに時間が掛かるし離脱したらどうなるか検証できていないのがマズい。最悪もう一度やり直しになったら目も当てられない。

 最低限を残して耐える方針の方がいいだろう。

 方針を決定したら散らばったコブラゴーレムやら粘土塊やらを回収して腹腔内を通して退避させる。


『お前らも最悪の時の準備だけはしとけよ』

「……うん」

「あ~しらはそもそもね~」

「ふん、我があの程度に臆するとでも?」

「ドラちゃん様カワイイ」


 こんな時でも危機感が無いこいつらはある意味感心するな。まあ結局は通信端末が壊れるかどうかって気持ちなのだろうが、それを作る人間の事も考えて欲しくはある。


 言っている内にも金色ドラゴンの唸り声は咆哮へと変わって口からも金赤色の灼け付くような火を放って緑色球の膨張速度が加速する。

 タイムリミットはもうすぐそこだろう。


 耐えると決めたこちらの防御も重要だ。

 俺は藍色構造魔力を練るだけ練って周囲に撒き、小部屋大の巨大コアを作ってその中に収まる。

 緑色斥力魔力を展開すれば巨大コアの更に外周に自己組織化して覆われていくのが窺えた。


「じゃ~あ~しらもこの中水で満たしとくか~」

「ちゃんドラ様もそれでイイ?」

「うむ、よきに計らえ」

「イイって~」「おけおけ」

「……いいの…かな」

「ぬ……?」


 魔法で作り出された水が巨大コアの中に充ち始める。

 サンドラが若干騒いだものの、そもそも藍色構造魔力で満たされたこのコア内であれば水の物理的な影響は存在しないようだ。

 同時に物理的な身体を持っている俺のメタルゴーレムはこの状態では指一本動かせないが。

 魔力の水の中で不遜に笑うサンドラを意識の隅から追いやって、目の前の膨れ上がった緑色球を見遣る。


 もはや火焔が濃過ぎてドラゴンの姿すら朧気になった緑色球の中で、咆哮が不意に止み―――。


 喝破の大音声と共に視界が紅蓮に塗り潰された。




 まず初めに飛び込んできたのは明るい天井……いや、青天井ならぬ曇天井だった。

 視線を転じれば巨大なすり鉢状のクレーターの底に金色ドラゴンの姿が。

 ここは、どうやらボス戦フィールドだと思っていた環礁の上のようだ。

 ボス戦フィールドというのも間違いではなかったらしい。

 それと同時に地下空洞がダンジョンに残された良心だというのも窺えた。


 巨大なクレーターとなった環礁の外側は……一面火の海になっていた。

 まあ泥炭だからね。水分が多かったから燃えにくいだけで可燃物ではある。

 恐らく、この環礁に地上から進入しても金色ドラゴン……いや、燻ぶりナマズは察して出張ってきたのだろう。

 そして泥海からの奇襲やら不意打ちの火の手やらで散々苦戦させた後、金色ドラゴンへの変貌で恐らく泥海一面が火の海&やけに高度上限が高くて不思議だった上空を4枚の羽器用に使って滞空宙返り何でもござれと泳ぐように飛翔する金色ドラゴンと対峙する。

 ハッキリ言って勝つビジョンが見えない。

 地下空洞という閉所の水浸し空間という有利地形に持ち込んでまであれだけ暴れた金色ドラゴンだ。

 燎原の火の中で自由に空を翔け回る金色ドラゴンを追いかけるとかムリゲーにも程がある。

 

 ただ、後ろで揺れ立ち昇る燎原の火はこと今に至っては大した影響はない。

 流石の紺鉄鋼も高濃度の火焔を浴び続けてグズグズになってはいるが、まだ飛び立つところを見せない様子から、恐らく今もしっかりと翼に食い込んで飛翔を阻害しているのだろう。

 肝心の環礁内の泥海は金色ドラゴン自身が吹き飛ばした。

 後にはすり鉢状の灰を纏った岩肌しかない。


「ひゃ~ヤバいね~」

「た…他愛もないがの」

「ドラちゃんカワイイ」

「うっ、うるさいのじゃ!」


 覆っていたコア質はかなりすり減っていたものの、十分に役割を果たした。

 変形の容易さも兼ねて球体にしていたが、それが衝撃に耐えるとともに、自ら吹き飛ぶ事によって衝撃と被害を逃がす事も出来ていたらしい。

 地下空洞から地上まで吹き飛ばされたものの、他の4人も特に変わりはないようだ。


『じゃ、ちょっくら行ってくる』

「いてら~」「お土産よろしく」


 お前らも行くんだよ?

 マイペースさに気勢をそがれながらも噴式スラスターと合わせて斜面を滑り降り、金色ドラゴンへと接近する。

 金色ドラゴンもまだ戦意は失っていないようで、舌火を散らして唸り声を上げた。


 火焔を噴き出す動作を見て取ってスラスターと腰の捻りを合わせて横へ跳躍。

 掠った火焔に銀腕の制御が乱れたので内部に仕込んだ青魔氷核に魔力を流し込んで細氷を銀腕内部に生成し、温度を調節する。

 直接受けた熱攻撃への備えはやはり氷を使う事になった。

 しかし掠っただけでももう制御が乱れるな。直撃を受けるようなら内蔵分だけでは足りなくなるかもしれない。

 色温度的にはそこまで高いようにも見えないが、なにより紺鉄鋼を溶融させるほどの火力を持っている。もしかしたら単純な物性変化だけでなく魔力的にも性質が補強されているのかもしれない。

 最終的には一周回って魔力と魔力のぶつかり合いになりそうだな。

 ふとそう思った。


 それならそうとしてこちらもあらん限りの魔力を持ち出して対抗するしかない。

 こちらがスラスター以外の魔力を氷に注ぎ込んで細氷の霧を纏うとそれを見た金色ドラゴンも紅蓮の火を纏って待ち構えた。

 俺とドラゴンとの距離が急速に縮まって―――。


「熱いからこれでさいごねー」


 最早目前、ドラゴンが金赤色の火焔を蓄えた顎を開きかけた瞬間に差し込まれた銃声が金色ドラゴンの片目を奪う。

 サンドラが何だかんだ仕事をしていたのでお蔵入りになるかと思っていた肩部増設の魔導ライフルは最後の最後で最高の仕事をしてくれた。


 仰け反った金色ドラゴンの首筋に腹腔から取り出した白く輝く斧、白輝銅の斧をスラスターの推力、腰部の捻り、緑色斥力魔力のパワーアシスト、全て重ね合わせて叩きつける。

 流麗な首筋に叩きつけた斧の刃先は重い音を立てて鱗を砕き、肉に食い込み、その煌めく命を―――、いや。 


「ガァアアアアアッ!!!」


 首筋を半分斧で斬られたまま、金色ドラゴンが咆哮を上げて紅蓮と緑色斥力魔力を纏う。

 握りしめた斧のおかげか吹き飛ばされることはなかったが、変わりに紅蓮の火焔の中に取り残された。


 制御が、身体の制御が、乱される。

 金色ドラゴンの魔力が火焔を通してメタルゴーレムの骨格筋組成を灼き苛み、泡立たせ、染み渡る意志を魔力を焼き潰そうとするのが伝わってくる。

 細氷の霧は数舜もしない内に剥がされた。

 残る頼みの綱は緑色斥力魔力しかない。


 ……いや。

 俺はもう一度藍色構造魔力を大量に噴出させてコア質で身体を覆い、その上で細氷の霧を噴出させてコア内部を満たした。

 紅蓮の火焔の外圧とコアに細氷の霧を満たし、その上に緑色斥力魔力を張った内圧がじりじりと互いを削り合いながら膠着する。


 この状況は……正直良くない。

 何故なら魔力の消耗が予想以上に激しいからだ。

 レベルが上がり、毎日大量に魔法を使っている関係上、俺も以前とは比べ物にならない程の密度と総量の魔力を持っているとは思っている。

 ただ、流石にドラゴンと張り合える規模ではなかったようだ。

 次第に脳の奥がズキズキと痛みを訴えて来たことに焦りを覚えて―――。


「あなた……飲んで」


 受信ゴーグルの向こうで唇に硬質な何かが押し当てられる。

 開いた口に流れ込んできた液体を嚥下すれば強い清涼感と共に身体の芯に熱が灯り、全身に魔力が満たされるのが分かった。


「ありがとう。ユキ」

「……うん」


 助けて貰ったついでに、一つ対策も思いついた。

 白輝銅は緑色魔力と青色魔力で構成された合成金属だ。

 つまり俺の魔力で出来ていて、内部構造内は碧白銀に遠く及ばないとはいえ俺の魔力を通すことが出来る。


 火焔の外圧に対抗する傍ら、俺は白輝銅の斧を伝って魔力を送り、刃の先端で魔力を動かし、見つけた。

 焙り続けられる刃の先端。半ばまで刺さった刃は金色ドラゴンの気道にまで届いていた。

 刃の表面まで送り込んだ魔力をその場で藍色構造魔力へと変質させ、コア質へとすぐに変える。続いて残る魔力を緑色斥力魔力へと変質させれば気道を塞ぐ塞栓の出来上がりだ。


 細氷の霧の外を荒れ狂っていた火焔の外圧が弱まり、身体を覆ったコア質で分かり辛いながらも斧を伝う振動を介して金色ドラゴンが身悶えるのが分かる。

 対抗するための魔力を弱めてもいいならば取れる手段も増えていく。

 藍色構造魔力と緑色斥力魔力を次から次へと生成して気道の閉塞を更に盤石なものにすると同時に、斧表面を伝って金色ドラゴンの体表を覆って拘束していく。

 体表を覆いきったコア質の中を流れるのは細氷の霧だ。

 ゼロ距離で荒れ狂う細氷が金色ドラゴンの体表を冷やして更に動きを鈍らせる。


 コア質の中に黄色同調魔力を作成して、更に細氷の影響力を増やした時、不意に金色ドラゴンの身体の奥底で、未だに猛り荒れ狂う魔力の波動を感じた。

 首を半ば断ち切られて、全身をガラス質のコアで覆われて細氷で全身を氷漬けにされてなお、その戦意は衰えていないらしい。


 いつの間にか外を覆っていた金色ドラゴンの緑色斥力魔力も紅蓮の火焔も収まっていた。

 メタルゴーレムを覆っていたコア質を解除し、肩部の増設魔導ライフルを稼働させる。

 準備をしていなかったので手動……もとい転移念動で籠めるのは星白金。

 静止標的への接射なので外す事もなく吸い込まれた金色ドラゴンの胸の奥で瞬きを放つ星白金とコア質に点在する俺の黄色同調魔力とが共鳴して―――、猛り狂う魔力の波動を、圧し折った。




 一瞬ぶるりと空気が震えた後―――、コア質で覆われた金色の体躯から、淡い光の泡が立ち昇り始めた。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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