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67:対策の傍らで

「んー……。私は苦手かもー……」

「やろなぁ」


 そりゃ君の本体ヤドリギだからね。

 ついでに俺の本体も苦手だろうね。


 自宅に戻って久々に眺めるノートパソコン。

 適当に検索を掛けて出て来た動画には前回の探索で目にした姿と似た大ナマズが暴れる様子が映し出されている。

 流石に件の死に覚えゲーは持っていなかったので、敵戦力の推察も兼ねてアウレーネと二人で動画視聴と洒落こんでいた。


 探索で目にした光景からも、今見ている動画からも分かるがまあ戦いは地獄絵図だ。

 見ている最中にも好き勝手暴れる大ナマズが地面を揺らすとランダムで火の手が上がる。

 吹き飛んだプレイヤーが起き上がった時には目の前に大ナマズが。

 大型トラックよりデカイ横幅している癖してエグい突進をしてくるので素人攻略動画はまるでピンボールゲームでも見ているかのようだった。

 物理と火力の欲張りセット。見覚えがあったはずである。

 単純に面倒な難敵なのでプレイヤーたちからのヘイトが高い分攻略動画は随分と繁盛していた。何かの弾みでオススメ動画にでも入って来てたのだろう。


 つまり、これから相手をするガラトベルムとよく似た燻ぶりナマズも単純に面倒な難敵である可能性が高い訳だ。


 まずアウレーネが乗り気でない事からも分かるように戦場一帯が火の手に覆われる可能性が高い。

 ヤドリギの本体では辛かろうし、当然俺の本体もそりゃ火に弱い。

 あとついでに銀腕も水銀を構造材に使っている分相性がいいとは言えないだろうな。対策を考えておかないと思わぬところで足をすくわれるかもしれない。

 火対策、それも一過的なモノではなく戦場全体が火の手に覆われる事を想定した高熱環境対策が必要だろう。


 あとは巨体を活かした質量攻撃に加えて……なんだこれは、何かの状態異常か?

 攻略動画の中ではプレイヤーに何か黒い靄のようなエフェクトが纏わりついて徐々にHPを削っていた。

 これも再現してくるかどうかは分からないが発動条件などをwikiか何かで確認して調べておいた方が良さそうだな。

 見ている内にこの動画では敗北したようだ。コメントにも共感や軍師様の指示が溢れている。

 ゲーム同様にやり直しが利くとは言えメタルゴーレムは安い代物ではない。

 可能な限り対策を立てて、出来れば一発でクリアしたいところだ。




   *   *   *




―――カンッ、カンッ。

「物寂し~ケド、水はイイかんじだねぇ~」

「私は落ち着くかも。好きだな、これ」

「そ~ぉ? じゃあドラちゃんにこんな雰囲気の所も作って貰お~か?」


 緑色斥力魔力と橙色空間魔力で出来た赤肉メロンに包まれた広角ライトが煌々と光を放ってもなお、周囲数メートルも行かない内にその勢いを吸われて闇へと溶けていった。

 水棲ワームのいた暗闇洞窟の大空洞、その深層域の深い水の底だ。


 対策準備が主目的だったが、何の気なしに叩いてみた謎鉱石柱のドロップが復活していた。

 ここのドロップはそれなりに珍しい鉱石などが取れるので水棲ワームが復活する前に再びドロップしてくれるのはありがたい。

 たまに顔を出して見て採掘可能になっているかどうか確認してみるのもいいな。


 後ろではア~シャとシスティが気ままに作業をしている。

 これも燻ぶりナマズ対策の一環だな。

 やはり高熱環境対策には大きな熱容量を持つ水を量集めるのが効果的だろう。

 豊富な水と言えば工房の泉でも良かったが、工房の泉は現在ユキヒメが擲弾蓮からドロップした蓮の実から生えて来た蓮を大切に育てている最中なのでそっとしておくことにした。

 発芽した蓮は今の所は危険性も見られないし、上手く育てれば擲弾蓮の素材が回収出来るかもしれないしそういった意味でも今が大事だろうな。……まあ回収出来なくても殺風景だった泉周辺のいい彩りにはなるか。


 そんな訳でわざわざ第4階層まで水集めに来たわけだが、鉱石柱の復活という思わぬ報酬でそっちのけになってしまっていたな。


 最終的に燻ぶりナマズが居を構えている大空洞を水浸しにする案は大量の水が必要になるわけだが、この大規模輸送にはサンドラの力を、より正確に言えばア~シャとシスティの力を借りる事にした。


 ア~シャとシスティが支配した実体の水をサンドラの力を介して黄昏世界へと一旦転送し、燻ぶりナマズ戦で改めてこちらへと戻して水を調達する予定だ。


 この計画を伝えたら報酬は良いから水を余分に欲しいという要望が来た。

 何でも黄昏世界の水は実体じゃないから不満があるらしい。

 黄昏世界は望めば何でも作り出せるけれども、所詮は魔力で作り出された存在なので存在感が希薄だとか。そうなんだ知らなんだ。

 ぶっちゃけ今でもあそこでの三日浦島事件は割とトラウマになっているのでもう一度黄昏世界に行きたいとは思わないが、それでも不思議空間には興味はある。

 滞っているが反応力の魔力変質の応用も少しずつ進めて行った方がいいだろうか。時間があったら検討しよう。


 考え込んでいる間にもア~シャとシスティは二人並んで一方の手は前に掲げ、もう一方の手は互いの手に重ね合わせる。

 魔力が波動が彼女たちを中心として波紋を広げると、感覚的に周囲の水が誰かの、いや彼女たちの支配下に収まったのだということが分かる。


「出来たよ~ドラちゃん様お願い~」


 気の抜ける合図に合わせて、ぷかりと浮いていたサンドラの通信子機から眩い閃光が渦を巻き、火花の散る円環を模る。

 サンドラは以前の水棲ワーム戦後に水中に放り出された事で懲りたのか水中には人の姿を顕現させなかった。

 無口で働いてくれるのは助かるな。これからサンドラと一緒に作業をする必要がある時は水の中でやるか。

 阿呆な邪念を抱きつつも目の前では回収作業が進んでいて、支配された水流が渦を巻いて閃光を放つ円環に吸い込まれて行く。少しブラックホールと外観が似ている気がするな。中央のコアと取り巻く円環、それから渦を巻く水流というのが。


 まだ俺の転送技術では一回一回分けた逐次式の転送しかできないが、サンドラたちは流出入するゲート型の転送も出来るようだな。そこら辺は俺の数歩先を行っているので純粋に凄いと思う。すぐに調子に乗るだろうから口にはしないが。


 眺めている間にも水流は勢いよく通信子機の中へ流れ込んで行く。

 どれ程仕入れるつもりなのか分からんが当分終わりそうにないなこりゃ。




   *   *   *




 今日の探索は背の高い液滴ヒドラが泥海の底に作り出した粘つく水没樹林地帯を歩いていた。

 第6階層の中央区域を抜けて、奥側区域に入り込んだ初っ端でボス戦フィールドを引いてしまったからな。ボスに挑む前にある程度は奥側も探索しておきたい。


 とは言っても大きな代わり映えはしない。

 精々盲目鮫の密度が上がったくらいか。

 一度2頭に襲撃されたことがあった程度には盲目鮫とチラホラエンカウントするようになった。

 その時には片方をユキヒメに押し留めて貰っている間にもう片方に損害覚悟で銀腕を食わせて腹の中から紺鉄鋼爪で引き裂く形で速やかに処理し、もう一方を安全に処理する形になった。

 紺鉄鋼の装甲部分を齧られる程度なら魔力を消費すれば修復できるからこその無茶だな。

 あまりやりたくはないが切れる手札としては強力だ。必要な時には思い切って使って行こう。


「……ねぇ」


 探索していると不意にユキヒメが視界に入り込んで覗いてくる。

 心なしか俺の胸の前で通信石に額を当てる本体の方が強ばった気がした。


「ここを……攻略…したら、次へ……行く?」

「んー、それは状況次第だが……どうした?」


 受信ゴーグルに映る水の身体のユキヒメは何かを逡巡して、ややあって曖昧に口を開いた。


「まだ、……ここは。全部……探索…してない」

「……まあ、そうだな? それに地下を探せばそこそこ宝石類も手に入るからな。燻ぶりナマズを倒した後でも、先々の探索に詰まったら気分転換に宝石探しをしてもいいかもな」

「……っ! うん……うん!」


 そう提案すれば背景の水没樹林と同系統の色合いで溶け込んでなお、喜びに溢れた表情でユキヒメは何度も頷いて快諾した。

 何か分からんがユキヒメの悩みが解決したなら良かった。やっぱり宝石が好きなんかね。

 琥珀の芳香にも一際興味を示していたし、ユキヒメ用に何か琥珀細工を考えてもいいかもしれないな。


 少し進めば奥の方に岩壁……小島の根元の一つだろう岩肌に空いた裂け目が見えて来た。

 マップと照らし合わせると奥側辺境にあたる小島の一つだろう。


 長かったようで早かったようで……いや、長かったな。

 初見の空撮ドローンの時に思った印象からは考えられない程の行程を経た第6階層も終わりが見えて来た。

 燻ぶりナマズ対策も徐々に整いつつある。

 幾つか期待通りであれば、と但し書きが付くダメもとの対策もあるが手札は制御できるなら多いに越したことはないだろう。

 やっぱりその手札作りで時間を食っている気がしないでもないが、素材収集も兼ねてこうしてのんびりと第6階層の未探索区域を進めているのでモウマンタイだ。

 さて、最奥区域の小島には何が眠っているかね。出来れば目新しいお宝なら楽しいのだが。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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