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63:第6階層のオモテウラ

 どうやら第6階層は想像以上にギミックが隠されているようだ。

 俺は急遽転送ボックスを介して送った広角ライトを赤肉メロンの中に浮かべてユキヒメが用意した水塊の中に沈める。

 赤肉メロンをもう一つ作って半透明の触手が蠢く空間の中に入れると、案の定触手が巻き付いてきた。


「……とはいえ、大したことはないな」

「毒……とか…?」

「あーね」


 触手だし毒麻痺辺りはありそうね。ゲーム的な流れだと。

 絡み付く触手は緑色斥力魔力を突破する事は出来ないようで絡み付くもののそれ以上の事は出来ず、また力もあまりないようでデコイにした赤肉メロンを念動させれば引き摺られるように触手も動いた。


「所で、ユキは毒、効くか?」

本体(茨樹精)は……分からない。けど……水の…身体は」

「やろなぁ」


 まあ毒や麻痺があったとしてもそれがどうと言う事はない。

 なんせこの探索メンバー全員実体じゃないからな。

 メタルゴーレムの身体を操作している俺に分体のヤドリギを経由して顔を出すアウレーネ、それから魔力で作った水の身体のユキヒメ。

 どいつもこいつも探索体の重要度が大きくないからな。

 俺たちは顔を見合わせて、おもむろに水塊の先へと飛び込んだ。




 泥海の下は何と表現すればいいか、端的に言えば水中洞窟だった。

 粘度の高い透明な液体が泥の壁面まで空間を満たし、広間の先で別の空間へと続いている。

 その空間の支配者は……何というか、半透明な細いイソギンチャクだった。

 これは……そう、本来は水中の小生物であるヒドラのお化けと言った所か。

 巨大なヒドラのお化けが無数の触手を張り巡らせて空間を覆っている。

 その姿はもし外の泥中から観測できたならば液滴の鳥かごにも見えただろう。


 液滴ヒドラの鳥かごが、先へ、その先へと連なって形成された泥の下の粘液中洞窟。

 それが泥海諸島の下に隠されて広がっていた。


「行かない……の?」

「あーうん、……あーまあそうね」


 きょとんとした表情で振り返るユキヒメは赤肉メロン光源に照らされて、その屈折率と絡み付こうとしている液滴ヒドラの触手から一応姿が見えるものの、まあ背景に溶け込みがちになっていた。

 あとやはり触手をモノともしてないな。俺もそうだけど。


 ただし、だからといって液滴ヒドラに仕掛けるのは控えておいた方がいいだろう。

 泥海上の擲弾蓮を倒した際の影響を考えると液滴ヒドラも無策で手を出すと泥底洞窟が崩落する恐れがある。

 擲弾蓮はヨットで移動するという手段が取れたが、泥底洞窟は崩落したら正直お手上げだろう。

 第6階層は倒したらデメリットになる敵が出てくるのも地味に厄介だな。

 探索開始当初の空撮ドローンによる偵察結果から感じた安直さからは程遠いフィールドの手強さに困惑を覚えつつも俺たちは段々と増えつつあった半透明の触手を引き千切って次の液滴ヒドラの元へと向かった。


―――……。


名称:黒玉

魔力濃度:30

魔力特徴:意志を鎮める


 小島にぽっかりと空いた穴に腰かけて、ひとまず解析してくれたアウレーネに礼を言う。

 泥底洞窟は想像以上に張り巡らされていることが分かった。あと恐らく長閑な泥海諸島は目くらましでダンジョン探索の本命が泥底洞窟にあるだろうっていうのも。

 地味に洞窟を発見して潜った小島の地下に空いていた横穴に宝箱があり、先ほど解析して貰った石が入った宝石ケースを見つけた。

 その後液滴ヒドラが作り出す泥底洞窟を歩き回る内に別の横穴に辿り着き、手を使うような急な登り道の先で天井の土壁が崩落して別の小島の上に出た。

 2つしか巡っていない小島の両方にこのような仕掛があったのだ。今まで探索して何もないと決めつけてスルーしてきた小島の地下にも何かあった可能性は高いだろう。


 泥底洞窟への気合の入れようも生半可なモノではなかった。

 地上に至るまでの泥底洞窟の道すがらにも別の液滴ヒドラが作り出している空間……端的に言えば分かれ道はそこかしこ、下手すると周回路になっている可能性も含めて張り巡らされており、地上に辿り着けたのも正直運が良かったに過ぎない。

 まあ本当に脱出したければユキヒメに頼んで上側に水塊を作り出して貰えばいいだけの話だが。


 しかし探索するとなれば話は別で、液滴ヒドラという下手すれば移動する可能性すら存在するモンスターが作り出す生きた洞窟を彷徨って調べるというのは途方を通り越して無謀に近い。

 最低でも何か目安的なモノが欲しいな。

 単純に考えればこの階層に存在する全ての島の地下か。


 それならそれぞれの島に上から行って岸辺の周囲の泥底を探索すればいいかとも考えたが、地上への隠し道を見つけた島の横穴は正確に言えば海底に空いた一段下った横穴の先に暫く歩いてから登り調子になって続いていた。

 下手すると岸壁に近接するようには液滴ヒドラが生えておらず、抜け道のように島への横穴が続いている可能性もある。

 島上から横穴や洞窟を探るのは取っ掛かりとしては有効かもしれないがやはり泥底洞窟自体をある程度歩く必要はあるだろう。


 今の所、泥底洞窟での脅威は見られない。

 液滴ヒドラは何というかもう微妙に絡み付いてくる背の高い下草と似たようなモノだ。

 盲目鮫を警戒していたが、探索途中で時折軽い金属音はするものの、すぐに遠くなっていったので気付かれてはいない様子だった。

 油断は出来ないがこちらも泥底で踏ん張ることが出来る以上、伏撃を受け放題な泥上航海と違って戦いにはなる。液滴ヒドラを殺さないように盲目鮫と戦うという条件に付いて検討して対策しておけばいいくらいだろう。


 探索方針としてはひとまずそれぞれの島の周囲の泥底を調査して泥底洞窟がないかを確認、見つけたら島の位置関係と泥底洞窟を見つけられなかった島との間に連絡通路が無いかを調査するのが妥当だろうか。


 あとここまでくると、推定ボス戦フィールドと考えている泥海環礁も泥上からノコノコ近付くのではなくて泥底洞窟からアプローチを掛けた方が良さそうだな。

 第6階層で色々散りばめられた伏せ札的にアプローチの仕方でボス戦の手強さが激変するようなギミックを仕込んでいるような匂いがする。

 まあゲーマーの妄想だがね。


 ここから暫くは地道な泥底探索作業が続きそうだな。一休憩入れるか。


 そう判断して俺は撤退を提案し―――。


ねとぉ……。


 帰還させたメタルゴーレムに纏わりつく粘液を見てこめかみに手を当てた。




   *   *   *




―――なので聞きたい。

「あーね。俺の時は作戦的には3人で挑んでいたようなもんだからな。それと比べりゃそりゃ苦労する」


 久しぶりにオルディーナが顔を出してきた。

 いつもはそそくさと花びらを納品してはいそいそと転移象形に踏み込んで消えていくアフロトレントもといオルディーナだったが、話しかけてきたのはどうやら攻略に行き詰まっているらしい。

 第3階層を探索中のオルディーナはさらりと重装ゴブリンを討伐して後半領域に踏み入ったそうな。哀れやな重装ゴブリン君。


 俺と違って魔法を前面に押し出して攻略するオルディーナは8階9階のゴブリン小隊すらモノともせずに面制圧して踏破していったものの、流石にキングゴブリンとは相性が悪かった。


 流石に取り巻きの数が数だからね。

 よく数えてないが30体近くいなかったっけ?

 それに魔法や弓の数も配置も大違いで嫌らしい。

 魔法のパワー差によるゴリ押しで踏破していったオルディーナは純粋なパワー差で力負けして撤退してきた訳だ。


「俺の時は始終動いて取り巻きに集られないように、常に対少数で収まるように処理していったな」


 俺からできるアドバイスはそんなものだろうか。

 いや、そういえばもう一つあるか。


「余りにも行き詰まっているようなら、サンドラ(黄昏世界)の所から暇な奴らに援軍に来て貰うってことも出来るだろうが……それは趣味じゃなさそうだな」

―――気持ちだけ、受け取っておこう。

「やね」


 まあ気持ちは分かる。

 黄昏世界の住人達は基本的に第5階層の住人たちだ。第3階層の攻略を手伝わせたら恐らく興醒めな蹂躙劇が始まるだろう。

 オルディーナは元はと言えば魔法の探求と鍛錬を兼ねて攻略に乗り出していたはずだ。

 戦力を借りるというのはその趣旨からはズレてしまっているな。

 他に出来る提案と言えば―――。


「魔力変質はどのくらい出来るようになった?」


 俺が教えられるのなんて魔力変質か魔導具作成くらいだ。

 発火宝玉含めた魔法発動構造体の解析は未だに難航している。

 正直魔力構造が流動的なのもあってまるで分らん。

 精霊たちも何となく感性で……いや本性で理解しているだけで説明できる訳じゃなかったし正直手詰まりだ。

 何より精霊な上に俺以上に魔法にのめり込んでいるオルディーナにそっち方面で語るのは釈迦に何とやらだな。


 そういったわけで魔力変質の習得状況を聞いてみると、まだ魔法力しか習得していないらしい。勿体ない。

 俺が多用している赤肉メロンや水棲ワームが編み出したコア殻などの話をしたら興味深そうに食いついていた。

 これを機に魔力変質の方にも興味を持って何かの足しにでもなればいいな。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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