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60:蓮華の甘露の使い道

「でもうね。俺選ばれちゃいました? って感じでしてぇ」

「それは凄いですね。探索も捗るのでは?」

「まーまた今週末なんスけどね」

「ハハハ、それはまあしょうがない」


 週末完全予約制限定開放ダンジョンに行ってきた何某さんはそこでスキルオーブを獲得して来たらしい。

 極稀に出るスキルオーブは大当たり枠で今の所最低でも100万円を超えるような高額で取引されているようだ。アウレーネが相場を調べていた。

 どんなスキルかは勿体ぶって教えてくれなかったが、力持ちになれるというヒントを言っていたので恐らくスキル:怪力辺りだろう。

 ご年配の同僚方が使って見せて欲しいと言っていたがそれは固辞していた。


 ステータスの多寡は今の所そこまで大きく現実の物性に影響を及ぼさないという風に発表されている。

 概ね100分の1した乗数が加算される程度だったか。

 つまり例えば攻撃力100で初めて膂力やなんかの攻撃力が二倍になるだろうという話だ。

 これを覆すのがスキルで、使用すれば自衛隊員が車両を持ち上げたりなど凡そ現実とは思えないファンタジックな光景がニュースを賑わしていた。


 つまりは当然現実においてスキルの使用は厳しく制限される訳だ。

 幸い多くのスキルは怪力にせよ魔法にせよ呈色光や現象変化で使っている所が分かり易い。

 探索者は当然身元を確認されているので、隠れて使っても何処からか漏れれば容易に違反者を追跡できる。

 取り分け現在の草分け的な環境では特別監視の目も厳しいだろう。特に何某さんは暴動に参加してたしな。


 ギリギリのところで踏み止まって違法行為を回避できる何某さんは運が良ければ案外いい線までは行くかもしれない。




   *   *   *




 まあそんなことはさておき今日もダンジョン……なんだが。


「ねーげんた。お酒はー?」


 今日は今日でやる事が出来た。

 ひょっとしたら忘れてくれないかなと思っていたがムダな期待だったようだ。

 アウレーネの催促は当然昨日手に入れた素材、蓮華の甘露を使った酒造り。

 昨日擲弾蓮ご一同と初戦を戦った後付近のドロスマンサーを駆逐するレベルで狩り倒して蓮華の甘露にはそれなりの在庫がある。

 ついでに2株目の擲弾蓮を倒したら早速コアではないドロップ品を落としていた。


名称:蓮華の果実

魔力濃度:28

魔力特徴:魔力と意志に応じて変化する。


 うーん、殖やせってことかな?


 とりあえず工房には丁度いい具合に深い泉があるので、ユキヒメに頼んで植えて貰う事にした。

 ユキヒメなら水の身体を作れば深い泉の底でも問題なく活動出来るし適任だろう。

 おまじないに二人で一緒に無事成長するように魔力を込めたら何故か張り切っていた。

 まあ何事もなく成長して散榴弾投げてくる敵に育ったとしてもうちの工房連中にはどうってことないだろう。手に余るようなら処分も容易い。

 そういった意味でも試験的にといったところだな。

 多少手間ではあるがまた探索しに行けば果実も取れるだろうからな。


 さて、そろそろアウレーネの視線がキツくなってきたので現実逃避は止めて酒造りだ。


「んぅ? なんでブドウを取り出すの?」

「念のため果皮を漬けておこうかと思ってな」


 旧来のワインの醸造にはブドウの果皮についた酵母が大事という話を聞いたことがある。

 最近作っている魔力回復薬の方は果皮を剥がして醸造しているため、あまり気にする必要はないかもしれないが、念のためキチンと発酵するように取れる手は打っておきたい。

 定期的に作る魔力回復薬をいつも通り作って心を落ち着ける。

 大丈夫。問題ない。作る流れは出来ている。

 超機能恒温機の中でしゃくしゃくと細氷が砕かれ、凍って、整っていく様は地味に心を基底点に持っていくのに役に立つ。

 ふと作務という言葉を思い出しながら魔力回復薬を抽出し終わり、分注してから魔養ドリンクを一服する。


 次は、蓮華の甘露の酒造りだな。


 とは言ってもそこまで大きくは変わらないだろう。

 精々が予め発酵を助けるようにと魔力を込めたブドウの果皮を液に潜らせるくらいか。

 しかし込める念は原点に返るべきだろう。

 ワイン造り当初はアウレーネの酒代を抑えるためだった。

 つまり回復薬とかは偶然の産物で、魔力と共に込めた念も薬効も何もなく精々美味しい酒が出来るようにだ。むしろ酒が出来ると当然のような念を込めていた。


 それに倣って、今回は薬効などは気にせずこの透明な液体の中で発酵が行われ酒精が生み出される様を幻視する。

 ブドウとは違い既に透明な液体だ。混ぜるのは魔力を込めた念だけでいいだろうが初めてなのだしいつもの碧白銀の混ぜ棒で掻き混ぜながら念を送る。

 どちらかといえば蜂蜜酒のようなものだろうか。あれも基本的に水で薄めて放置する事でアルコール発酵が起こるがこれは蜂蜜レベルの糖度はないし、自然に発酵するだろう。

 俺が仕掛ける作用はその自然な流れを整えてやるだけだ。


 ぐるりぐるりと掻き混ぜる内に仄かにアルコールの香りが漂ってきたので良しとする。

 スケールクランプで縮めて3年間。いつも通りフラッシュボックスで時間を経過させて取り出すと、ほぼ無色透明、強いて言えば微かに暖色系を帯びているか? というような液体が出来上がった。


「早く!」

「解析。だからな?」

「任せて任せてー。ちょー任せていいから」

「はいはい」


 肩に登っててしてしと足を揺するアウレーネに苦笑しながら大きさを元に戻し、手近のボトルに分注する。鑑定ぽんこつ先生は蓮華の露酒とだけ命名してくれた。


名称:蓮華の露酒

魔力濃度:31

魔力特徴:命と心を癒す。


「心が癒えるのはお前の主観じゃなくてか?」

「ほんとだもん。そんな感じがするの」


 どうやら蓮華で作った酒は魔力の代わりに心を癒すらしい。うむ、訳が分からん。


 だが、心に傷を負ってそうな被験者一名もたどたどしい口調ながらも凄い……安心し…たと語ってくれたので、メカニズムはさておきそういう物なんだろう。


 ちなみに散々催促しておいてアウレーネは魔力回復薬の方が好きだと宣った。

 まあいいんだけどね?


 とはいえ出来上がった結果は出来上がった結果だ。

 どうせならばこの心を癒すという薬効を高める方向で開発していった方がいいだろう。

 差し当たってまずは蒸留だな。


 本当に醸造する必要があったのか、まずは確かめたい。

 蒸留装置を引っ張り出してきたことに過敏に反応したアウレーネを抑えてサクッと蒸留させる。

 解析結果は残液の方に命と心を癒す薬効両方が含まれていた。

 少なくともアルコールと似た沸点の物質が心を癒す薬効を持っているわけではないようだ。


 醸造させる意味がなかったという検証結果が得られてほっとした。

 蓮華の蒸留酒はサクッとアウレーネに献上した。要らんからね。一応今日分の魔力回復薬の代わりという事で了承させたので少し役には立ったか。

 残液の方はユキヒメに渡した。

 彼女の成り立ちもあって心が不安定だし、試しに飲んで貰ったら気に入っていたようだったからな。


 一通りが終わった所で次は仮称精神回復薬の検討だ。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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