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58:宝飾品と逢女ヶ刻

 ふむ。

 俺は淡く白い光を拍動する青色の涙滴型水晶を前に考え込んでいた。

 金属類は他の素材と違って変質魔力で置換反応を行うと、変質魔力の色を呈する事は知っていた。

 どうやら水晶もその類らしい。

 元々は無色透明の普通の水晶だったが、藍色変質魔力で構造置換した上に重ねて黄色変質魔力も重ねると白く点滅する青水晶が出来上がった。


名称:水晶

魔力濃度:31

魔力特徴:魔力を使って修復する。魔力を貯める。魔力と意志を同調させる。


 補修能力どころか、コアとしての能力も持っているようだ。同じ藍色変質魔力で構成された紺鉄鋼とは何が違うんだろうな。よく分からん。

 ともあれ、同調能力に加えてコアとしての能力も得られたのでこれをそのままコアとして流用すればいいだろう。とりあえず点滅する水晶核だから光晶核と名付けておこう。

 涙滴型光晶核をユキヒメの希望通り茨をイメージしてあしらった碧白銀製の淡い青緑色の蔓で緩く覆い、先端部に捻じりを加えて紐を通せるようにし、ペンダント状に加工する。

 出来上がった光晶核のペンダントを大切そうにかき抱いてユキヒメは微笑んだ。


「少し…寂しかった……の」


 何でも俺が自分の足で歩いていた一時期は通信石を預けられて帰還ポータルの役割を担っていたので、預けられた通信石の嵌められた装飾品が俺との繋がりのような気がして嬉しかったが、俺がメタルゴーレムを用いるようになって一日中同じ工房に居られるようにはなったものの俺自身は受信ゴーグルをずっと嵌めたままだし、通信石はメタルゴーレムと俺の首元へ移動したしで俺との繋がりが消えてしまったようで寂しかったそうだ。


 あー、ね。うん。

 俺ってクズだわ。

 自覚はあったけど何の気なしにそういう事が出来てしまうのがダメダメなんだろうなって。

 攻略の事ばかりで他を疎かにしていると現実の方の擬態もそうだがいずれ致命的な事になるからな。特に無断欠勤とか。

 面倒を見ると決めたのだし、ユキヒメもみだりに俺の邪魔をしないどころかむしろ工房メンバーの中では控えめな方だ。

 スムーズに探索が出来ているからこそ、彼女には心を配っておく必要があるだろう。


 差し当たってはこれ、口が裂けても光晶核を探索に使おうぜとか言えねえな?




 軽い気持ちでお願い聞いとくかー。とプレゼントを作ったら感謝と一緒に滅茶苦茶重い心情が吐露されたが結局ユキヒメは喜んでいたのでセーフ。

 こうして心情をまだソフトランディングな方法で吐露してくれるユキヒメは俺にとって得難いメンバーなんだろう。言われなけりゃ気付かなかったしな俺。


「良かったですね」

「……知ってたのか?」

「薄々は」


 明言こそ受けていなかったものの、何となく視線の移りから何かある事は察していたらしい。

 俺を遮ってユキヒメを立てたのも視線が気になったからだそうだ。


「悪いがまた何か気付いたことがあったら頼む」

「私で良ければ」


 ふわりと綻ぶ笑顔が頼もしい。

 ウヅキのようなサポートをしてくれるメンバーもいるからこそこの工房はまだ破綻せずに回っているんだと改めて思い知る。

 差し当たって俺に出来る心付けは魔宝飾品作りだな。今までも、多分これからも。


 そういう事でウヅキの要望通りに薄紅色のコランダムを成形機で加工する。

 アウレーネがネットから拾ってきたカット集の中でウヅキが選択したのはハート形だった。

 否やはない。改めて女の子なんだなーと思いつつ粛々と入力し、出力する。

 苦労したのは星白金の調整だった。

 サンドラのために誂えた底面発光をウヅキも望んだのだが、実際に嵌め金を作ってみると黄色変質魔力の瞬きが薄紅色と合わさってどちらかと言えば橙色に偏ってしまい思うような色合いが出せなかった。


 そこで考えた結果、ユキヒメのために誂えた光晶核を新たに作成してそれを白輝銅の嵌め金に埋める事で反射光も取り入れた同調の瞬きを作り出し、そこにハート形の薄紅色のコランダムを嵌め込むという二重底仕様にした。

 結果として満足のいくローズピンクの淡い瞬きが暗闇でも輝く一品になったのでいい仕上がりになったと思う。


 ウヅキはこの仕上がりを髪留めに使いたいそうだ。

 最早通信子機として使う気がゼロだが、今はそういうんじゃないよな。うん。

 粛々と彼女の要望通りに碧白銀で嵌め金の縁を彩るように三日月形、ないし流水型の台座を持った髪留めを成形してぱちりと嵌める。


「挿して頂けますか?」

「……お、おう」


 彼女の指示するがままに黒い艶やかな髪を一房掬って、そっと碧流桜花の髪留めを挿し込んだ。


 淡く微笑んで感謝を述べるウヅキに、どこか複雑な輝きを放つ宝石以上の多面性を感じた気がした。




 とても現実とは思えぬ複雑な時間を過ごして、私は帰って、来た。


 …………は。

 うん、改めて工房運営の難しさと人間関係の大事さを再認識して一夜明けた所で俺は改めて第6階層攻略について考える。


 入口から見える第6階層は大泥炭地帯だ。

 所々に小島が浮いていたり、泥の中に浮かぶように草、恐らく巨大な蓮っぽい何かが生えていたりとした飛び石状マップだが、問題はメタルゴーレムの重量だな。

 蓮っぽい何かは恐らく飛び乗って移動しろというダンジョンのメッセージ何だろうが、メタルゴーレムが乗ると下手すると葉が破けて泥沼の中に沈む。


 少なくとも短時間でも泥の上を移動できる方法が欲しいな。

 水上移動手段と考えると、水上スキーあるいは水蜘蛛の術か。

 蓮の葉に乗る際には水蜘蛛を展開できるようにしておいた方がいいだろう。

 また緊急離脱手段として水上ならぬ泥上スキーも並行して準備しておいた方がいいだろうな。


 そのためには推進力か。

 現状、俺のメタルゴーレムの移動手段は銀腕手甲の伸縮か、碧白銀アマルガム(水銀合金)製筋肉の伸縮移動に頼っている。

 今までならそれだけで十分だったが、今回の第6階層を攻略するには力不足だろう。

 噴進式の移動手段のような橙色変質魔力でもない純粋な加速手段が欲しいな。


 発火宝玉やそもそも魔法を使っていれば気付くが、念動で飛ばす際には反動はない。

 魔力で生み出された現象そのものが念動によって加速を得て飛んで行く。

 なので自分を飛ばす推進力にするとなると一工夫が必要になるな。


 発風宝玉で自分を押すような風の流れを作り出してもいいだろうし、魔導銃を作ったように細筒内で発火宝玉で生み出した火種を爆発させて推進力を生みだしてもいい。魔導銃には反動があったしな。


 手段は使いこなせるなら幾らあっても問題ないだろう。都合が悪ければ外せるように換装可能な追加装甲として設計しておけばいいか。


 うん、うん。イメージが湧いてきた。

 早速製作に取り掛かり、出来次第第6階層に挑戦してみよう。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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[一言] ユキヒメとウヅキがプレゼントを貰った一方、必死に個性を作るオルディーナは今日も出番なし!
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