56:竜人武闘会
「うはははははッ! 雑魚ッ。雑魚よのぅ!」
そりゃまごう事なき雑魚だからな。
飛びかかってきた瘴気トカゲの突撃を掬い上げるようにいなして地面に叩きつけ、サンドラが吼えた。
外よりも濃い瘴気の中でサンドラが着込んだ純白の軽鎧が酷く眩しく、喧しい。
見慣れない竜人戦士を想定して、メタルゴーレム以外にも対策を立てた方がいいと思い立った結果がこれだ。
ウヅキと第5階層の森林地帯を制圧し直して、俺は改めて通信子機の必要性を感じた。
そこで漸く少し溜まってきたとこしえの花びらから少し拠出して星白金の在庫を増やし、そこから少量使って繋界核と周波数を合わせた通信子機を作ろうとしたのだが。
そこにサンドラが聞きつけてやってきた。
まあサンドラとウヅキは表裏一体の関係だし、ウヅキのやっていることはサンドラも一応把握しているので実際の所どうあがいても筒抜けではあるのだが。
ウヅキだけ貰った通信子機にズルいと盛大に駄々を捏ね繰りまわし、塩対応にもめげずにゴネまくった。
最終的に第5階層の竜人戦士攻略を手伝わせる対価ということで妥協したが。
そこからが長かった。(2回目
ウヅキだけ宝石が付いているのはズルいと駄々を捏ねてウヅキから宝石の使用許可の言質を取ってまで直訴を重ねてレモンクォーツをもぎ取り、いい感じに磨けとかいう頭の痛くなるゴネを展開して、気を利かせたアウレーネがノートパソコンから宝石カットの種類を持ってきて選び、嵌め具の拵えもああだこうだと要求を上積みした挙句に完成した。
だがこれで終わったわけじゃなくむしろ始まりに過ぎなかった。
当然だが繋界核破損のリスク回避のために通信子機を作成したという事は、破損リスクの発生する場所に送り込むという事で、そもそも第5階層の竜人戦士攻略に投入する事は決定している。
更に言えば竜人戦士は第4階層のデカブツ連中と比べれば人間サイズで帯剣した見るからに近接型なので、斬撃や刺突下手すると貫手などで通信子機が直接破壊される恐れもある。
そういった懸念が拭えなかったので、……まあ勿体ないというのがメインだが、サンドラの武装を提案した。
完成した今は良いが作っている当初は正直後悔していた。
まあ黒は好みじゃないから紺鉄鋼はイヤだの碧白銀と白輝銅の配分を考えろだの内張りの呪鎮樹の繊維をもっと柔らかくしろだの……まあ、大変だった。
在庫の星白金を勝手に全て持ち出して来て全部使えと言い出した時にアイアンクローを緑色魔力纏いで全開したのがハイライトだったね。
ともあれ、サンドラの軽鎧と細身の直剣は完成した。
メタルゴーレムの破損補修用予備在庫の過半を使う勢いで造られたそれは、基本を白輝銅の白地として手甲や胸部の一部や足など攻撃や移動の起点となる部分に、導魔性と装飾を兼ねてあしらわれた碧白銀の淡い青緑が仄かに竜の意匠を浮かび上がらせる。
裏地にはオルディーナから貰って来た呪鎮樹の枝をアウレーネの手によって柔らかく解された繊維として貼り付けており、瘴気に対しても強気に当たれるだろう。
細身の直剣は総碧白銀製になった。
本人は大剣がいいとゴネたが同じ大きさの鉄が手に余る奴が持てるわけないだろう。
それに流石に在庫が心許ない。
軽鎧の導魔用装飾を含めて作成者の俺ではなくサンドラ自身の魔力に同調させ直す手間も含めて諭して大剣ではなく細身の直剣で妥協させた。
碧白銀の魔力構造には緑色変質魔力も使われている分、そのままでは他人が使うと導魔効率が落ちるっぽいからな。
黄色変質魔力による同調でも他人の緑色変質魔力は結構な拒絶性を持つらしいので、アウレーネは例外として他人が使う場合、殊戦闘用として全力使用する場合には気長に染め直す必要がある。
サンドラ自身黄色変質魔力を扱えるからと言って気長にやりたい訳ではないのだろう。そんな根性あるように見えんし。
不承不承ではあるものの最終的には折れて、直剣が出来上がる頃にはゴネまくっていたことをコロッと忘れて喜んでいた。いい加減殴りたい。
ともかく 大騒ぎの末に数日と週末を蕩尽して俺たちは第5階層の深部、瘴気洞窟に来ていた。
動作テストも兼ねてサンドラには第5階層入口からではなく、洞窟手前で腹腔内に転送したレモンクォーツの通信子機から軽鎧と細身の直剣を纏ったフル武装で顕現して貰ったが、正直失敗だったかもしれん。
動作テスト自体は正常に機能した。
サンドラの黄昏世界に仕舞われた軽鎧と細身の直剣は、サンドラの意志でレモンクォーツの通信子機に直接、既に着用した状態でサンドラと一緒に顕現した。
問題はそれによってサンドラのテンションが振り切れたことだ。
何回も言いたくなるほど喧しい。
トカゲが出れば高笑いを響かせてトカゲを切り、蛇がバックアタックすれば悲鳴を上げた後に高笑いを響かせて蛇を切る。
流石にこのテンションで黒竜人戦士に突撃されても不安しかない。
それと同時に、占めたものと思っている自分がいるのも分かる。
サンドラが率先して突撃してくれるのならば、俺はサポートに徹して黒竜人戦士が戦う様子を観察することが出来るからだ。
つまりは体のいいデコイというか当て馬だな。
せめて力の限り暴れ回って相手の引き出しを軒並み開け放って欲しいものだ。
装甲している内に高笑いに混じって以前聞いた採掘音が微かにだが聞こえて来た。
* * *
―――解禁せよ!開放せよ!開拓せよ!
―――我らは許されるべきなのだ!
―――閉門を崩せ!天蓋を穿て!
―――彼らは柵苛む悪徳だ!
―――彼らを倒せ!彼らを引きずり下ろせ!
―――我らの道はその先――。
「んンー? なんじゃ辛気臭いのう。黒っぽいし黴っぽい。ドーテイかぁ?」
開戦はサンドラのアホみたいな煽りから始まった。
折角採掘に夢中になっていたのにバックアタックを仕掛けるという知能はなかったらしい。
煽りを受けた黒竜人戦士は逆手に持った剣を止めて振り返る。
「これなら我が出る必要も……ッぬおぅ!?」
一足飛びに駆けて竜人戦士に一太刀浴びせようとしたサンドラだったが、あっけなく黒竜人戦士が左手に持っていた円盾で弾かれ、そのまま逆に剣を突き込まれる。
サンドラが翼膜と橙色魔力を使ったスリップ転移を器用に使いこなしていなかったら今の一撃でアウトだったろうな。
つまり生身の俺がそのままあのように突撃していたら一発で終わってた。
黒竜人戦士は技量もかなり高いらしい。
「ふくく……少しはやるようではないか。そうでなければつまらんよのう!」
それを回避できた事から分かるように、サンドラの技量もそれなりには高い。戦い方が回避とカウンターに寄ってはいるが。
離れた拍子にサンドラが掲げた手甲から細い雷閃を放って再び突撃する。
再び盾で防いだ黒竜人戦士を回り込むようにして滑り込んだサンドラが突き込みを入れるも、ぶわりと伸びた翼腕で細直剣の根元から逸らされ、そのまま腰を捻って黒く太い尻尾がうなりを上げて追撃してくる。
サンドラが両足と尻尾を使った冗談みたいな跳躍で上空に逃げて居なければ吹き飛ばされていただろうな。
ふわりと翼を広げて滞空したサンドラへ向けて、黒竜人戦士が力を溜めて跳びあがる。
近付いて分かったが2メートルは越えてそうないいガタイとガキといえるサイズのサンドラでは一見して鷹に狩られる小鳥にしか見えない。
だが―――。
「はッ。そんな攻撃では我を捕まえる事などできぬぞッ!」
「グギュッ!?」
あいつは空中も足場にした回避とカウンター戦に寄ってるからな。そもそもなぜ自分から仕掛けに行っていたのか分からん。テンションか?
翼の羽ばたきと十八番のスリップ転移を合わせて空中で冗談みたいな軌道を描き、跳ねあがって来た黒竜人戦士を捲って背後から斬り付ける。どこぞの第4階層を彷彿とさせる動きだな。
カウンター戦法が真骨頂を発揮して一太刀入れたが……浅い。
空中で踏ん張りが効かないというのもあるんだろうが、碧白銀の細直剣は切れ味もいいはずだ。あの黒竜人戦士の鱗肌はかなりの堅牢さも持っているようだ。
機動力は持ち合わせていないのか空中で身を捻って盾を構えるのが精一杯だった黒竜人戦士が着地の反動を抑えきれなかったのか低く姿勢を撓ませる。
四つ足になってじっと様子を窺う様は小さなドラゴンだな。下肢が大きくて邪魔そうだが。
再びサンドラの攻勢から始まった剣戟はやはりサンドラの攻め手不足が目立って的確に防がれ続けて膠着した。
「んかーぅ! このへタレチキンめが。タマナシなんぞには勿体ないがくれてやろう! 我の権能の一端をなッ!」
先に音を上げたのはサンドラだった。あいつ散々煽るくせに我慢が効かないからな。
赤肉メロン光源がぼんやりと照らす薄暗い洞窟の中で眩い閃光が生まれる。
胸の淡い青緑の竜紋が輝いてサンドラがその場で碧白銀の細直剣を突き込むと同時にその切っ先から雷閃が迸った。せめて、仕掛ける工夫を、しろ。
だが、当て馬としては最適だったようだ。
『引き出し発見と』
当人らには眩し過ぎて見えないだろうが、回り込んでいる俺からならハッキリ見える。
細直剣から放たれた雷閃は、鋭い歯列の並ぶ顎から放たれた蒼白色の雷閃と食い合って……爆ぜた。
規模としては相殺だが、立場の違いがその後の対応に差異をもたらす。
「くはははは! どうじゃ、我が権能の一端は。焼け焦げて声も……ぬぉう!?」
「ぐぎゃぁああ!」
サンドラの雷撃を相殺した黒竜人戦士は爆発の最中にもう一度首を撓ませて力を溜め、蒼雷閃を放つ。
反り返ったサンドラの胸甲に命中して食らいついたそれは大部分を白輝銅に恐らく魔力的な斥力で弾かれつつも一部は表層を伝ってサンドラの全身を苛んだ。雷撃を受けるとああなるのか。参考になるな。
サンドラが怯んでいる内にも事態は進む。
重量感のある踏み込みで接近した黒竜人戦士が袈裟に斬り込む。
腕を交差していたサンドラも相手の動きに気付いて剣線から外れるように跳ねる―――が、読みが甘いな。
「キサマ何奴じゃ! この我と同じ力―――んほぅ!?」
「ギャルルル」
跳ねた一瞬に、黒竜人戦士の首が伸びて、顎がぐぱりと開く。上下の歯列の間には蒼白色の雷条が行き来して、愚かな犠牲者を待ち構えていた。
まあ、そこから更に後方へ転移跳躍して回避できてしまうのがサンドラなんだが。
空を切って歯噛みした黒竜人戦士と驚愕に丸く目を見開いたサンドラとの視線が交錯する。
その後は一転して黒竜人戦士の攻勢となった。
どちらも雷魔法を扱う竜人という条件は同じだが、敵の黒竜人戦士は口から雷魔法を吐き出す分、手数が多い。
今も敵の雷噛みに合わせて細直剣を入れようとしたサンドラに円盾の縁が叩き込まれて逸らされ、横滑りして追撃の剣線を躱す事を余儀なくされている。
回避挙動が多彩な分相手も連撃という形は取りにくいようだが、攻撃手段の柔軟性で攻勢を維持しているようだ。
「ぬッ、ほ! ……むっ」
裏回りして放った雷閃は尻目に察知した黒竜人戦士が雷顎を噛み潰す事で一瞬だけ全身に雷を纏って相殺された。攻撃にも防御にも使えるとか中々器用な奴だな。
「グギャォオオオオッ!」
ただ……、煮え立っていたのはサンドラだけではなかったようだ。
生憎と竜人の顔は敵意以外の表情が皆目分からんが尻尾がビタンビタンとストンピングして咆哮を始めたので何となく苛立ってそうではある。
何かと言えば2枚目の伏せ札を見せ始めた。
赤肉メロンの光源が翳りを帯びた。
操る魔力に変化はない。
変化したのは周囲。重く暗い空気が黒く濁って光さえも遮り始めたのだ。
「ぐッ……。くぅ何じゃ!? 身体が思うように……」
言うまでもなく瘴気だろう。
実際の所は戦闘最初から周辺の瘴気が道中より濃くなって小さく出した細氷の霧の制御が乱されていたのだが、サンドラは魔法阻害に気が付かなかったようだな。
見れば黒竜人戦士から薄っすらとだが黒い靄のような物が立ち昇って全体に広がっている。
放っておくと、魔法を縛られた状態で奴と相手にする事になりそうだな。
そろそろさっきから観戦しながら敷設していたこちらの伏せ札も明かすとしよう。
―――……『喝ッ!』
音はない。
思念の力だけで純粋に放射された緑色の変質魔力は黒い靄を吹き飛ばして周囲に張り巡らされた注連縄の外に弾き出された。
『畳みかける。レーネ』
「任せてー」
銀腕を伸ばして腹腔から取り出した碧白銀で幣のような装飾を付けた短い注連縄を突然の横殴りに怯んだ黒竜人戦士に括りつけて新たな瘴気の展開を阻害し、アウレーネを呼ぶ。
開かれた背甲から顔を覗かせた生い茂ったヤドリギに光が灯って半透明の幼い少女、アウレーネが受信スコープ越しに現れた。
咄嗟に足掻こうと雷を纏った鋭い歯列の顎が閉じようとして―――。
「させないよー?」
藍色の変質魔力が口元に投げ込まれ、ガラスのようなヤドリギ球を模って噛み砕きを阻害する。
耐久力の魔力変質を覚えたアウレーネは更に応用してコアのような球体ではなく自身のヤドリギを模したヤドリギガラスの作成にも成功していた。俺ですら氷ガラスの生成はまだ難しいのに。
パキパキと音を立てて一部が砕かれたヤドリギガラスだが、アウレーネが魔力を送り込めばにょきりと折れた枝が修復されて黒竜人戦士の口角を押し上げる。
ガラス質のヤドリギは歯列間の雷条を阻害して最早小さな火花を散らすことすら困難な様子だ。
顎が封じられたことを理解した黒竜人戦士が翼膜を広げようとして―――。
『そっちもダメなんだなこれが』
氷漬けにされていたことにようやく気付いたようだ。
有利領域を設定したら次は移動を阻害するのが常道だからね。
斥力放射して注連縄で拘束した後頑張って細氷の霧を作り出しては成長させていたが、アウレーネが時間を稼いでいるあいだに間に合って良かった。
「ァアアアアアアッ!」
最後の悪足掻きか黒竜人戦士が顎を拘束されたまま咆哮し、口からではなく鎧に覆われた胸部から身を焼いて雷閃が迸るが―――。
『悪いな。そっちは対策済みなんだ』
注連縄に付けられた碧白銀の幣が、即座に雷閃を集めて枝垂れた先の地面に流す。
口封じに失敗した時の抑えとして先ほど作って注連縄と一緒に転送したんだよね。
まさか自爆覚悟なら口以外からも雷撃出来るとは思わなかったが。
黒竜人戦士が足掻いている間に俺のメタルゴーレムも十分寄れた。
そろそろ詰めだ。
右腕を引き絞って紺鉄鋼の爪刃の行き先に狙いを定める。
「我もやるのじゃーッ!」
何か斥力魔力放射と一緒に吹き飛ばされていた奴が一名、喧しい宣言と共に走り込んできたが。
しかしそれが美味い具合に視線逸らしになったようだ。
僅かに顔を巡らせた黒竜人の意識が後方に移る。
それは致命的な隙となった。
長く太い首筋に深く刻まれた三条の裂創と遅れて刺し込まれた両翼の隙間、可動部ゆえに胸甲の守備範囲外を抉る細直剣に―――。
目を見開いた黒竜人戦士は幾らか痙攣した後、光の泡を全身から浮かび上がらせ始めた。
「全く酷い目にあったのじゃ」
『酷いのはお前の頭だよサンドラ』
憤慨するサンドラをあしらって辺りを見回す。
黒竜人戦士が消滅した後、差し渡し10メートルといった程度か、案外小さかった小広間には黒竜人戦士がドロップした魔石と何か意味ありげな褪せた紫色をした竜人像の置物、それから黒竜人戦士が執拗に叩いていた扉のようにも見える壁……がいつの間にか変化していた扉があった。
名称:シュードプラムの竜人像
魔力濃度:38
魔力特徴:―――
相変わらず鑑定ぽんこつ先生はネーミングセンス以外で信用にならないのでアウレーネに解析をお願いすると呪力を沢山貯められるそうだ。さては厄物だなこれ。
この瘴気洞窟はつくづく魔石以外にマトモなアイテムが落ちないようだ。
さっさと第6階層への転移象形見つけてオサラバするか。
進む先は当然壁から扉に変わったあそこなんだろうな。
円環状の取っ手を押し……開かないので引くとゴォという重い音を立てつつも存外軽く開いた。
……剣で殴り続けていた黒竜人戦士ぽんこつ説が急浮上しつつも気を取り直して先に進む。
曲がりくねった洞窟は緩やかに登りながら奥から沢音を響かせて―――。
崖の途中の裂け目から落ちる小さな滝とその滝壺の手前に浮かび上がった転移象形、それから滝に落ちる手前の洞窟水路の奥にこじんまりと置かれた宝箱が涼やかな滝音の流れに身を委ねていた。
「ここ前見たがけのたきだねー」
『あ、やっぱりそうなんか』
やはりここは第5階層探索中に見つけた滝だったようだ。
森の感触は狂奔の森部分と同じなので森に接した崖の何処か、あるいは連続した設定のどこかとは思っていた。
以前見つけた滝は高度上限から降って来ていたから違うと思っていたのだが地形自体が変化でもしたのだろうか。
ともあれ、宝箱の回収だ。
未だにぶつくさ不平を垂れ流していたサンドラが割り込んできたので開ける権利だけは譲る。
特に罠はなかったようだ。安心した。
今の所このダンジョンで罠の類は見つかっていないが、アウレーネの話によると海外のダンジョンでは毒針や仕掛矢なんかのトラップが見つかっているという話がネットに挙がっていたらしい。うーん二次情報。
だが被害を受けるリスクと気を付ける手間とを秤に掛けたら一手間かける方が圧倒的にマシだろう。メタルゴーレムという手間自体が既にリスクを無効化している気もするがこれからも気を付けて開けるとしよう。
中身は宝石箱だった。
中にはルビーやらエメラルドやらのこれまた有名無名の宝石たち。ダンジョンちゃんの流行りかな?
しかしアウレーネの解析によると魔力効率はあまりよくないものの、頑丈なコアとして運用することも出来るらしい。
精霊フィーバーかな? 検証と調整が必要だが、通信子機のコア部分として用いる事も出来そうだ。
再び駄々を捏ね始めたサンドラに通信子機として細工する可能性だけ添えて黙らせる。
ひとまず腹腔内からお持ち帰りと。
降り注ぐ滝だが、この高低差も俺のメタルゴーレムに取っては大したこともない。
銀腕の爪で岩盤をホールドし、腕を伸ばしていけば数メートルくらいは苦もなく降下できる。
サンドラは気にするだけムダだ。翼膜を広げて当然のようにふわりと降り立った。
滝壺の畔の転移象形は相も変わらずそこにそそり立っていた。
遠くからでも見やすいからいいんだけど、これずっとこのままなんかね?
つらつらと重ねられた進めの言語タワーはなんか、そう、必死に見える。
もちろん半分溶けたような闇鍋象形の時代を知っている俺からすれば、よくお勉強出来てエライねダンジョンちゃんといった感想なのだが、他の新米探索者の中には深穿ちしてダンジョンは何を求めているのかと考えを捏ね繰り回しているブログもあるそうだ。アウレーネが見つけて来ていた。
まあ、俺たちが気にする事でもないか。
ダンジョンの気が向けばまたいつの間にか当然のように変化しているだろう。
立ち止まった俺に訝し気な表情を浮かべたサンドラに何でもないと首を振って、俺は進むの転移象形に手をかけた。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




