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55:森の変化とウヅキの力

 夜喋精の胸部を開いてみてアレ? となった。

 いつもであれば茶色の存在核には濁りが見えるのだが、それらしいものがなかったからだ。

 白色魔力を展開して茶色の魔力構造体を存在核から抜き取り、通信石を通して胸中に格納してみても暴れる感じもあの時に感じていた焦燥感もない。


「ウヅキ。この子って生きてる?」

「……いえ、これは精霊ではないかと」


 白色魔力で覆いながら胸中から取り出して、受信ゴーグル越しに控えているだろうウヅキの方へ向いたら想定外の答えが返ってきた。

 これは精霊ではないらしい。

 受信ゴーグルに映る映像には胸をぐぱりと開かれた軽装戦士の人形が硬直しているのだがはて?

 一旦ゴーグルを外して藍色変質魔力でコアを作成し、無造作に茶色の魔力構造をその中へ突っ込む。

 コアの中で安定した魔力構造体は残存魔力から指サイズの小さな人形を作り出して。緑色斥力魔力に弾かれて転げた。


「開放したら襲ってくるみたいだけど」

「うーん。それは私にも分からないです。すみません」

「あ、いや。責めている訳じゃない。すまんな」

「いえ。……そうですね。意識を感じられないといいますか。これは勝手に動いて攻撃してくる魔法、という印象を覚えました」

「あー確かにな。意識が感じられないって言うのは俺もそう思うわ」


 俺は第5階層にメタルゴーレムを送り込んでいた。

 動作テストと一週間以上放置して再湧きしているだろう精霊たちの回収を兼ねてだ。

 数体ほどはいつも通りに鎮静化させてウヅキに頼んで繋界核を経由した黄昏色の本世界の中に送り込んだのだが、ここに来て例外が現れた。


「どうするか?」

「倒さないのですか?」

「まあ生きていないのならね」

「放置していても暴れるだけかと」

「せやね」


 そういうことになった。

 俺が倒しても良かったが折角だしウヅキに任せる事にする。

 桜の花びらが何処からともなくふわりとミニ夜喋精に舞い降りると、ミニ夜喋精は一瞬硬直した後光の泡を吐いて消失する。


「え、何したん?」

「存在骨子を抜き取りました」

「アッハイ」


 ヤベえ花びらに戦慄するもまあ仲間だしという事で納得する。存在骨子ってどうやったら抜き取れるんだろうな。

 ドロップしたコアを雑にマジックボックスに入れて探索を再開する。

 これ以降このような非生物精霊? 精霊モドキ的な何かが現れたら普通に倒す事にした。


 夜喋精は分かり辛かったものの、他の精霊の意識のあるなしは分かり易かった。

 感情の有無が表情から見て取れるからだ。

 取り分け同調圧を強めて鎮圧したあとの死に物狂いの様相を浮かべるかどうかではっきりと分かる。

 一応存在核が濁っているかどうか確認はするものの、今の所死に物狂いの奴は確実に濁りを帯びているし、平常行動の範疇といった奴は濁っていない。


 風鳴精の精霊モドキを光の泡に返して俺は―――。


 茨触手に巻き付かれた。

 ……だからどうと言う訳ではないが。


 黒い装甲(・・・・)に茨触手がギチギチと絡もうとするも、流石に植物とフル金属の上に外部装甲を重ねたメタルボディーでは分が悪い。


 水棲ワーム戦からメタルゴーレムは大幅に改良を加えた。

 取り分け紺鉄鋼で装甲を作成して全身を覆ったのが大きいだろう。


 とこしえの花びら問題は意外な角度から一部解消された。

 そういえば鉄というか鉄鋼は炭素の含有具合で物性が変化するという話を思い出したのだ。

 そこから花びら灰から魔力を遊離させて浸潤させるのではなく、炭を作り出して直接練り込む方法を試してみた。

 炭にする素材はイガグリだ。

 一度はやった事なのでそこそこ時間は食われるものの難しい事ではないし、材料は水没果樹林に行けば幾らでも手に入る。

 炭の含有量の限界と魔力構造置換のし易さの関係で何度か失敗を繰り返したものの納得いく素材を作成できた。


名称:紺鉄鋼アダマンタイト

魔力濃度:29

魔力特徴:構造を補強する。


 鑑定ぽんこつ先生はこれをアダマンタイトとかまた大仰な命名をなされたが、それはそうとして便利な素材である。

 アウレーネが解析した魔力特徴の構造を補強するとは2種類の性能が含まれている。

 一つは物理的な堅牢性の補強で、試しに薄板に飛竜戦で使った魔導銃をぶっ放しても凹み一つつかなかった。

 もう一つは損傷の補修性能で、紺鉄鋼で成形したピッケルで紺鉄鋼板を全力掘削するという破壊実験をした後に抉れた紺鉄鋼版に魔力を流した所、ゆっくりとだが歪みが直り、元の平らな紺鉄鋼板へと戻って行った。

 構造置換した藍色変質魔力の性質が性能に思う存分発揮された逸品である。


 ただでさえ鈍色の鉄が藍色という濃い青の色合いを呈色してもはや黒、譲っても紺色という色合いになってしまったが、僅かに青みを帯びた黒というのはそれはそれで高級感があってよきよき。

 少し欲を出してこだわった成形をして気取った甲冑装甲になったものの、個人的にはカッコいいと思っている。周囲の賛同者はゼロだったが。


 ともあれ、紺鉄鋼で物理的に補強されたメタルゴーレムでは茨触手の巻き付き程度では傷一つ負う心配すら湧かない。

 内蔵した紺鉄鋼装甲の鋭刃部分に引っ掛けて触手を引き裂くと、銀腕手甲を伸ばして増設された紺鉄鋼の爪でランナー(匍匐茎)を断ち切る。


 切り裂かれた茂みの奥で茨樹精がこちらを睨み付けていた。


―――……。


 まっすぐ行って凍らせる。以上。


 相手の攻撃手段に一切煩わされることが無くなるとこうも楽になるとはね。

 とはいえ、茨樹精の鎮静化は前回は偶然が絡んでいた事もあり、今回は今回で悩む。

 普通の精霊だったら存在核を抜き取ればいいのだが、茨樹精は存在が実体全体に広がっているという。

 存在か……。ふむ。


「ウヅキ。茨樹精の存在骨子って分かるか」

「直接目にすれば凡そは」

「何というか、今回の奴もおそらくだが、強迫観念に苛まれていると思うんだ。

 進まなきゃ、進まないといけないという思考に凝り固まって動いている。

 そこら辺はユキヒメが反動でいつも工房でまったりしている所から想像して貰えばいいと思うが。

 まあその存在骨子の中のその強迫観念を宥めて、働かなくていいんだよ、休んでいいんだよ、休むってこういう事なんだよっていう認識を存在骨子に伝える感じで何とか宥めて鎮静化させる事、お願いしてもいいか?

 俺の時はアウレーネがひたすら酒を呑んでだらけている時の情景を想い出してそのイメージを伝えてたな」

「私のじょうけいって、もー」

「……やってみなくては分かりませんが、幻惑の類いでしたら覚えがあるので可能性はあるかと」

「あっちに行くならいやな感じをどうにかしないといけないよー?」


 そういやそうだったな。

 ウヅキもどちらかと言えば魔力で身体を構築している霊体に分類される……のか?

 顕現するとき以外実体と見分けが付かないからよく分からんが、そうならば瘴気っぽい何か対策はしておいた方がいいだろう。

 俺はアウレーネから呪鎮樹で作った肩掛け飾りを借りて一旦戻って貰った繋界核と一緒に腹腔内へ転送する。

 ……繋界核の通信子機も早めに用意したいな。

 ケチらずに星白金も使うか。白金はそこそこ手に入ったものの結局とこしえの花びらの収量的な問題で星白金の作成は必要分以上は後回しになってたんだよな。

 メタルゴーレムが完成した以上、碧白銀と白輝銅よりはそっちを優先した方がいいだろう。


「なるほど。これはあまり長居したくはありませんね」

『すまんな』

「いえ、私もお世話になっています。このくらいは」

『そういって貰えると助かる』


 ウヅキからも同意見が返ってきた。

 少なくとも俺以外をここへやるなら瘴気対策は大事と。

 それはそうとて再び被った受信ゴーグルの向こうでは呪鎮樹の肩掛け飾りを肩にかけてウヅキがふわりと凍り付いた茨の森に降り立った。

 目の前で氷漬けになっている茨樹精にそっと手を翳すと桜の花びらがひらりひらりと舞って茨樹精を覆う。

 必至な形相で藻掻いていた茨樹精の目がとろんと緩み、桜花結界とでも言えそうな球状の桜吹雪の中で茨樹精が棒立ちになる。

 桜の花びらがはらりと茨樹精の肌に触れて雪のように沁み込んで溶けた。

 形成していた氷を解くとそれに代わるように花びらが茨樹精の肌に沁み込んでは溶けていき。

 一瞬、桜花結界が薄紅色の燐光を放って消え失せるとぱたりと茨樹精が仰向けに倒れる。


「終わりました。どうされますか?」

『おつかれ、ありがとうな。一つ試してみたいんだが、ウヅキたちの世界にそのまま送れないか?』

「はい、可能です。……この子はこちらでお預かりしましょうか?」

『あぁ、悪いが頼めるか?』

「頼まれました」


 ふわりとウヅキの形が崩れて繋界核を覆う厚い桜吹雪の姿を取る。

 中央の星白金に同調するように黄色変質魔力が淡く緩やかに瞬いて倒れる茨樹精を照らし。

 茨樹精の全身が淡く輝いたかと思うと次の瞬間にはそこから消失していた。

 他の精霊たちと同じように彼女らの世界に行ったのだろう。


 からんと落ちた呪鎮樹の肩掛け飾りと差し出した手に薄紅色の燐光を散らしてふわりと降り立った繋界核を受け取って腹腔内から転送ボックスへ戻す。

 フタを開ければ桜吹雪が舞い踊って傍にウヅキが控えた。


「おかえり」

「ただいま帰りました」

「ありがとうな」

「いえ」


 茨樹精は流石にメタルゴーレムの腹腔内には収められない。

 物理的な制約から腹腔以上の大きさの物を転送するのは手間が掛かったが、今の能力を見るに繋界核を利用して重質量転移をサポートするのもアリかもしれないな。

 俺はそんな考えを心に留めつつ探索を再開した。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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