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50:暗闇洞窟の先へ

 暗闇洞窟を進んだ先、水盆棚が段々と広がる垂水広場で、第4階層にしては新手の敵に今更出会った。


 幸いなことにちらりと見えた影から素性と能力の察しは付く。推測できるだけで本当にそうか確かめるまで油断は出来ないが。

 ファンタジー農業体験ゲームに出てくる待ち伏せタイプの敵だろう。

 ここと似た地底湖に出てくる奴、洞窟ヒラメは一定地点に潜んで近付くと攻撃を仕掛けてくるトラップ型のモンスターだ。

 攻撃手段がないと碌に攻撃できない癖にタフでその癖強襲の際の攻撃力も高いので、潜伏位置も相俟って実質的に物語が進んで対抗手段が充実するまで探索進度を縛るようなポジションの敵だった。

 一部の攻略ガチ勢は慣れと手間とその先で得られる有用資源とを秤に掛けて何回かアタックを仕掛ける事を推奨していたが……。


 脅威は潜伏性と攻撃力と耐久性だ。

 遠距離攻撃が基本になるが生半可な攻撃では水中という潜伏場所も相俟って碌に攻撃が通らない。


 まあ、対抗手段があればその限りではないんだが。


「レーネ。俺の次に頼めるか」

「久しぶりねー」


 アウレーネの相槌を確認して俺は青色変質魔力で構築した細密構造に白色魔力を流し込む。

 実体化したそれは明け色に輝く金属、銅だ。

 一つ一つは銃弾サイズのそれを大量に作成して蜂の群れのように水中に送り込んでかき回す。


 細氷嵐の銅バージョンとでも言えるようなそれは、確かに洞窟ヒラメに傷をつけて。


「送るねー」


 後詰のアウレーネがその小さな傷痕に吸収のヤドリギを芽吹かせればあとは―――。


「んぅ。この大きいの。きずの治りが早いね」

「そうなのか?」

「ん。私もがんばらないと押し出されそう」


 意外な事に今まで確殺コンボだった傷口に吸収のヤドリギを植え付ける戦術に対抗手段があったらしい。

 強靭な回復力でヤドリギごと傷を押しやればいいとか力技過ぎる。


 とはいえこちらもただ指を咥えて見ているわけではない。

 暴れる洞窟ヒラメにヤドリギの邪魔をしない位置で細銅礫嵐を渦巻かせて新たな傷口を作り、回復力を圧迫しつつ、ヤドリギを押し出されたアウレーネの新たな植え付け口にも仕立て上げる。


 格闘から少しして、向こうの水盆の先でようやっと光の泡が立ち昇ったのが見えた。


名称:仮称洞窟ヒラメ

レベル:18

魔法力:16

攻撃力:43

耐久力:72

反応力:47

機動力:26

直感力:10


特性:魔力変質(耐久力)



名称:仮称ヒラメの尾扇

魔力濃度:18

魔力特徴:魔力を流すと損傷を治す。


 そして戦利品がこれだ。魚肉じゃないんだな。鑑定ぽんこつ先生が尾扇と命名なされたのでそれに準じるが、アウレーネ曰く魔力を流すと損傷を治すというのは、ぽんこつ先生曰く補修。つまり自身の損傷を魔力を消費して修復できるという事だろうな。


 それからアウレーネが吸収するついでに読み取ってきた敵の情報からも興味深い特性が読み取れた。

 魔力変質の耐久力。魔力変質も残す所あとは耐久力と直感力だろうか。その内の耐久力について手掛かりが得られた。

 洞窟ヒラメの性質とドロップ品の性能から推察するに、耐久力とは損傷修復をする力のようだ。

 どうやって魔力変質をすればそのような特性を持った力に変えられるのかイマイチビジョンが浮かばないが心に留めておいていいだろう。


 それだけを確認して俺は岩棚から足を踏み出して、その先の水盆へと落ちる。

 水面に接する瞬間に広げていた緑色と橙色の複合変質魔力の斥力シートに白魔力を流し込めば付近の水をその場に固めて固定水層を形成する。

 作り出す固定水層を順に踏んで行けば、水上歩行の出来上がりだ。結構タイミングが要求される操作なので戦闘は難しいか。いや工夫次第か?


 ともかく緑色橙色斥力シートで水上歩行を繰り返して洞窟ヒラメがいた先に行くと、水盆棚の一角に小振りの穴が開いていて、中には思わせぶりな鉱石柱が。


 叩けばころりと白い金属塊が転がり落ちる。

 鑑定ぽんこつ先生も太鼓判を押す白金である。


 思わせぶりな奴が守っている場所にはそれなりの報酬があるようだ。


 俺たちは小休憩を取って約束していた魔力回復薬を一服したあと、アウレーネに頼んで他にも洞窟ヒラメが潜んでいないか索敵して貰う事にした。

 そこそこ時間を食われたが、幾つかの金や白金などの重要金属に加え、回癒魔石と同じような橙色をした俊足の白金腕輪というアイテムを手に入れることが出来た。もちろんメインは分解した白金の方だが。


―――……。


 水盆棚地帯は緩やかに広がってからまた一か所に狭く深く水を湛えていき。


「あーこれいつもの奴ですわー」

「ん、あれねー。ぼすー?」

「そー」


 広く深く、そして暗い地底湖へと続いていた。

 大空洞には光を一切返さない深層域とご丁寧に踝くらいまでの水が遠浅に続く遊水場、それから縁の方に僅かにへばり付く陸地というダンジョン造園士のセンスが光る逸品が広がっていた。

 心遣いが窺える設計に涙が出てくるね。


 つまりはここの推定ボスは水棲で、遊水場と深層域を行き来しながら暴れ回るぞというメッセージだろう。

 第5階層への門番ボスは既に飛竜がいるので喰投猿と同じような隠しボスといった所だろうか。


 いずれにしても姿を確認して対策してから挑みたい。

 俺は赤肉メロンの念動光源を飛ばして隅々まで照らし始めた。


「今度のボスはこっちか」

「どうしたのー?」


 俺がボスが潜んでいると思われる広間へ不用意に念動光源を送ったのには訳がある。

 それはここが暗闇洞窟という地形だからだ。


 当然視力は殆ど使い物にならないしそれは敵にしたって同じことだろう。

 だからこそ逆に光源へ愚直に襲い掛かる第5階層の瘴気トカゲやここの矢魚、洞窟ヒラメなんて可哀想な奴らもいるわけだが。

 あいつらと同じような光源を分けるなどして対策をすればただの入れ食いダボハゼにしかならないようなお粗末なボスを用意するのは流石にないという事だろう。


 おそらく地底湖のボスは視覚に頼っていない。

 魔力感知にしても赤肉メロンが食われていないのだから少なくとも待機位置からは感知できない。


 安直なのは。

 俺は洞窟ヒラメの時に作り出した銅弾を形成して地底湖の奥、深層域を覆う天蓋を弾いて音を響かせた。


―――シュロォィィイイイイイッ!


 水飛沫と排気音、それらに混じって甲高い擦過音を響かせて、長大な影が天蓋の地盤へと食らいついた。


 今回のボスはブリンドオルム、端的に言えば水棲ワームのようだ。

 俺は辛うじて逃がせた赤肉メロン光源の代わりに作成した銅弾で水面を叩いて囮にし、餌食になっている間に赤肉メロンの広角ライトを回収して水盆棚地帯へと撤退し、そのまま工房へと直帰した。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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