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49:準備の下積みは効率化するに限る

 世間ではダンジョン探索の大枠も固まり、一般開放に向けて着々と準備が進んでいるらしい。俺も頑張らないとな。

 そんなこんなで今日もやっぱりダンジョンだ。

 先週末は予想外の事態から大変な目にあったが、それはそうとして大切な仲間も誕生した。

 サンドラ……はまあ置いておいてウヅキは工房でもユキヒメたちと仲良くやってくれているようだ。

 ウヅキも知らない精霊だが、素材となった花びらや苔などの植物と相性がいいようで、それに加えて以前にも見せていた反応力、黄色の変質魔力を扱うのに加えて、裏の存在であるサンドラ同様機動力、橙色の変質魔力と魔法力の青色の変質魔力を扱えるようだ。

 ステータスの見方を教えるとこんな感じで返ってきた。


名前:サンドラ(ウヅキ)

種族:精霊

レベル:20?

魔法力:108?

攻撃力:38

耐久力:43

反応力:88?

機動力:82?

直感力:25


特性:精霊魔法、魔力変質(魔法力、反応力、機動力)


 レベルと魔法力、反応力、機動力は変動し続けているので大体の数値らしい。

 それでまともに魔力を扱えるのか気になったが、特に問題ないそうだ。むしろ宵星色の栞世界や黄昏色の本世界、現実世界への移動にはこの変動する魔力が必要らしい。どういうこっちゃ? まるで分らん。

 ともあれチスイザクラ戦後の俺たちと違って特に困っていないのであれば問題ない。理屈はまた手掛かりを掴んだときにでも考えればいいだろう。


 それはともかくとして、当初の目的だ。

 いつの間にか飛竜の血……に漬け込んだ精霊たちの存在核がいい具合に仕上がっていたから色々と成り行きで事を進めた結果ウヅキたちが誕生したが、それは本来の目的ではなかった。


 目的は当然第5階層の推定ボスである黒竜人戦士の討伐だ。

 しかし、何をやって来るかも分からない強敵に挑むのはリスクが重過ぎて避けたい。

 そこでオルディーナから提案された死なない体を作ればいいという案。

 単純過ぎて一蹴したくなるが、一つ思いつかない事もない。


 それはゴーレムだ。

 それも今までのようなサイドウェポンや伏せ札として使っていたコブラゴーレムのようなでものはなく、完全に遠隔操作で起動する、もう一つの俺の分身のようなゴーレムだ。

 既に近い事はオルディーナがやっている。アフロトレントだな。

 ゴーレムを用いて戦えば、仮に大怪我や致命傷を負ったとしても損傷はゴーレムの身体であり、リカバリは効きやすい。

 ゴーレム自体の構想はあるし、伝達手段も通信石がある。通信石は貴重だが、この核だけであればゴーレムの構造を工夫すれば、最悪の事態で通信石周囲の脱出ユニットをもう片方の通信石側へと転移させることで緊急避難させるシステムを構築することも出来るだろう。

 そうすれば貴重な通信石でもある程度の損失リスク回避は見込める。


 ただ、問題がない訳ではない。


「ほんとにやるの? げんた」

「あぁ、やるならとことんやらなきゃな。中途半端じゃダメだ」


 それは―――、物資不足だ。


 当然分身のような戦闘ゴーレムを作るのなら人サイズの資源がいる。

 それもマジッククレイのような柔軟性の代わりに脆弱性を抱えた素材ではなく、水銀と碧白銀のアマルガム(銀水銀合金)ような堅牢性も兼ね備えた戦闘用素材を用いるなら人サイズの金属資源が必要になる。


 以前第4階層で掘りまくったとはいえ、精々がリュックに収まる程度でしかなかったので手持ちの資源では園児サイズを作るのにも覚束ない。

 第4階層の最下層を掘り尽くすレベルでの大採掘が必要だ。


 そんな訳で渋るアウレーネを強引に説得して俺たちは第4階層に来ていた。

 そもそも俺に宿っているアウレーネが別行動するのも難しいしな。


「じゃ行くぞー……とうッ」

「やっぱりこわ…ぴぃッ!」


 そして最高高度の第4階層出発点から徐に助走をつけてダイブ。

 ダンジョン内でも勤勉に仕事している重力は俺に加速度を累積で加算していき、トカゲの巣穴や開けた岩棚も全て飛び越えて―――。


「ッ、到着ぅっと」

「ひゃー……」


 渓流が近付いた時点で緑色橙色の斥力シートに白色魔力を流して固定空気層を作った上で斥力によって反発させてエアクッションとし、減速を繰り返しつつ銀腕を伸ばして渓流の岸沿いの通路に着地し。


 俺は第4階層入口から最下層までものの1分足らずで到着した。


 これをリュックが満タンになるたびに帰還の首飾りで工房で待つユキヒメの元へと転移してマジックボックスに収め再びダイブを繰り返して金属資源の荒稼ぎをする腹積もりだ。

 ついでにレアな白金も出ないかななんて欲を出していたりもしている。


 星白金、意外と便利でよく使うから腕輪分を少しずつ削りながら使っててももう残りが少ないんだよね。


 早速飛び込んできた矢魚を橙色魔力で作った固定空気層で弾速を殺してあしらいつつ、俺は渓流沿いの道を岸壁に注意して進んだ。




   *   *   *




 俺はその日、第4階層ですら満足に攻略していなかったんだなって事を思い知らされた。


 勤務後ダイブ採掘を繰り返す事数日。渓流を上流沿いに進んだ渓流洞窟や枯れ川沿いの支流の奥にある殴っても壊れないけど金属は吐き出す謎鉱石柱を叩いて回って金属を回収しきり、それでも足りなかったので下流域を探索し始めていた。


 下流域はそれでも渓流なので川幅こそ変わらなかったが傾斜度が平に近付いて流速が落ち着いてきた。

 鉱石柱もこちらの方が多いようだ。ただし、ドロップ傾向がどうも鉄寄りになって魔法原石はともかく銀や水銀、銅といった今欲しい金属が落ちる確率が低くなってしまったのが残念だが。

 けれども新たにドロップし始めた金属もあった。


名称:(スズ)

魔力濃度:13

魔力特徴:意志を込められる。


 意志を込められる、ね。ちなみに鑑定ぽんこつ先生は金属の名称と濃度だけは教えてくれた。魔力特徴の方はガンスルー安定である。そういうとこやぞ。

 今のところ使い道を思いつかないがこれも収集しておくことにする。銅も緑色変質魔力置換が出来るようになって初めて重要金属になったからな。念のためは大事よ。


 そんなこんなで順調に進んでいた採掘活動だったが、落ち着いた流れを見せていた渓流が三方断崖に囲まれた広い凹地で淀みを作り出した所で趣きが変わった。


 群れ過ぎて最早前線の矢衾のように突き立ってくる矢魚の魚群をあしらって凹地に溜まった池の畔に沿って奥へ向かう。

 緩く屈曲した先で奥の断崖にはぽっかりと大きく暗い口が開いていた。


 こっちも暗闇洞窟かよ。

 上流側の風光明媚で手心が加わった渓流洞窟とは違い、こちらは光の差さない視界デバフを純粋に押し付けてくるロックスタイルを提供しているようだ。

 同じなのは入口、ないし出口で数段の段差が小さな滝を生み出して清涼感を演出しているくらいか。

 暗い分清涼感というより冷暗感といった雰囲気に寄っているのが泣けてくるな。


―――……。


 暗闇洞窟も準備をしていけば雰囲気ぃーな地形ではあった。

 洞窟を見つけてから工房のユキヒメ帰還ポータルへと引き返してお帰りなさいポイントを貰い、二言三言交わしながら準備をし、再び第4階層へと潜る。

 今日はウヅキではなくサンドラが顕現していたが、ユキヒメが口下手なのもあって一方的に喋るサンドラとはそこそこに相性がいいようだ。ユキヒメが歯牙にもかけていないとも言えるな。笑える。


 準備と言っても広角ライトを予備含めて複数持ってきただけだ。

 最近便利度合いが急騰している緑色変質魔力と橙色変質魔力とを雑に繋げた斥力空間シートをボール状に包んだ半透明赤肉メロンの中に広角ライトを浮かべればフリーハンド念動光源の完成だ。維持に魔力そこそこ使うけど。

 

 どっかの風景写真かゲームで見たような円形水盆のような棚水田のような地形が段々状に連なり、広い水場を形成している。

 赤肉メロンの光源を飛ばせば相変わらず矢魚が跳ねて、斥力に逸らされて明後日の方向へ飛んで行ったが敵も元気なようだ。


「レーネ。頼めるか?」

「上手く行かないかもよー?」

「それならそれでしょうがないさ。試しにお願いするよ」

「お酒はずんでねー」


 そういえば一度戻ったけど早かったのもあって休憩していなかったな。

 光源さえ十分ならここの雰囲気自体はいいし、矢魚さえあしらえれば安全も確保できる。いい立地を見つけたらここらでのんびり魔力回復薬を一服してもいいかもしれない。


 そう思いながらアウレーネの放つヤドリギの連鎖索敵弾が少しずつ散らばっていく様を眺める。

 幾つか矢魚がヒットして弾けたが、全体には大きな支障はない。


「んぅ。おさかなの他に大きなのいるよ?」

「え、マジ?」

「ん。……こう、かな?」


 そう言うとアウレーネの操る先で一つの光弾が宙を無軌道にふよふよと旋回したかと思うと―――。


 大きな水柱と共に黒い平らな影が立ち昇って光弾に食らいついた。


 ここに来て新手の敵かよ。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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