42:茨の森の心のありか
―――育っておるな。
「何が?」
―――飛竜の血。
「ん?」
何の事やらと思ったら飛竜の血が入ったビンの中の存在が育っているという話らしい。毎日見ていた所為かまるで気が付かなかったが、言われてみれば赤色の濃厚な液体の表層で跳ねる造形が前よりも精緻になっている気がする……ようなそうでもないような?
いずれにしてもキャパシティーがある程度満たされるまで狂奔精霊を捕獲し続けるだけの話だろう。
あれから数日の調整を経てかなりいい調子に仕上がってきたと思う。
ついでにレベルも上がっていたな。敵の精霊たちも厳密には倒していないと思うんだが違うのだろうか。それとも倒す事はレベルの上昇に不可欠という訳ではないのだろうか。よく分からんが上がっているものは受け取っておこう。
名前:尾崎幻拓
種族:精霊憑き
レベル:24(↑1)
魔法力:166(↑14)
攻撃力:70(↑2)
耐久力:61(↑3)
反応力:65(↑6)
機動力:62(↑5)
直感力:114(↑1)
特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ)、魔力制御、魔力変質(魔法力、攻撃力、反応力、機動力)、アイスウィザード、土魔法
スキル:怪力、鑑定
名前:アウレーネ
種族:精霊
レベル:24(↑1)
魔法力:189(↑8)
攻撃力:7
耐久力:45(↑4)
反応力:81(↑10)
機動力:21(↑2)
直感力:118(↑7)
特性:精霊魔法、魔力変質(魔法力、反応力)
魔法力はもう二人とも魔力回復薬作りとかゴーレム操作とかダンジョン探索だけでなく生活の一部になっているからガンガンと上がるな。反応力も機動力も最近は探索で多用し始めたからそれなりの伸び幅になっているようだ。
現状確認が終わった所で転移象形に触れる。
いつものように行き先を選べば潜り込む感触と共に気付くと見慣れた森の中に立っていた。
さて、まずやる事は入口拠点の設営だ。
土俵結界を敷いて一喝払いし、中央にオブジェを置く。オブジェはその見た目を表現するならば一見ただの魔石に見える若干油膜が張ったような色合いを呈した石を嵌めた黄色く瞬く金属を抱く白い苗木と小さく生えるヤドリギの盆栽だ。
つまりは通信石を嵌めた何かヤバい白金を抱えた呪鎮樹の苗木に小さなヤドリギが生えた盆栽という事だな。
事の始まりはヤドリギロケーターの通信距離の改良に黄色変質魔力が有効だと分かった事だ。
同じ周波数で同調したアウレーネも含むヤドリギ間の通信距離が大きく改善した。
とはいえ黄色変質魔力を離れた所でもずっと維持する事は出来ないので同調素材として見出したのが白金だった。
一度同調させた白金は分離しても同じ同調を保っていてヤドリギロケーターも機能したが、距離が開くにしたがって徐々に同調がズレるようになってそれに応じてヤドリギロケーターも機能しなくなっていった。
白金の同調力を高めようという方針になってささっと花びら灰置換法で全ての魔力構造体を黄色変質魔力に置換した所、何か黄色に瞬く金属に変貌した。鑑定ぽんこつ先生はアルステラと命名なされたが、まあ確かに星みたいに瞬いているので星白金と呼ぶことにした。
ヤバくなった甲斐はあったようでヤドリギロケーターも今のところ中継機なしで茨迷路区画までは余裕でロケーション出来ている。
そのおかげで小径のない場所でも安全に探索できるようになり、第5階層の外観の一角が見えて来た。
第5階層は探索した範囲では全域が森に覆われていて、第1階層と同じように森は続いているものの、マップの端でそれ以上先に進めない謎現象が発生する。ついでに森の上空もすぐにマップ端扱いになったな。
オブジェが問題なく機能していることを確認して俺は―――。
小径の先に立つ木の枝に銀腕手甲を伸ばして引っ掛けると体ごと巻き上げた。
木の枝を掴むと橙色変質魔力を展開させる。首にかけた通信石星白金アクセサリのおかげもあって即同調した橙色変質魔力は俺の意志で俺の体を枝の上へと引っ張り上げるように転移させた。
うん。別に森の中をバカ正直に歩く必要ないよね。
藪やキノコで行く手を阻まれるし、そうでなくても視界が遮られる。
森の木という格好の物見台がそこら中にあるのだから活用しない手はないし、小規模転移に慣れた今、小径を歩いていくよりも銀腕手甲の変形能力で加速しながら木々を渡った方が早い。けれどもまだ某ハリウッド蜘蛛男のような空中で銀腕を開放して次の木へと引っ掛けて移動するような軽業レベルまでは行ってない。つまり更に速度を突き詰められるという事だな。練習あるのみだ。
そうこうしている内に茨迷路区画まで来た。当然のことながら木の枝の上にいるため茨迷路が迷路をしていない。元ネタのゲームでは精霊に頼んで石の橋を出して貰って渡るなんてイベントがあったが……うん、当初想定していたより圧倒的にマップ破壊能力の強い方法が浮上してきたのでそんなアイディアはない事になったな。
一応マップを取り出して小径を描きながら進む。
茨区画付近までは毎日来ていたからほぼクリアリングが済んでいて一切敵の精霊が居なかったがここからは注意しながら慎重に進んだ方がいいだろう。
特に風鳴精が厄介だったな。素早いし飛べるから木の枝に乗っている時に攻撃されると焦る。
とはいえ星白金の威光で近距離に来ると大体青色魔力の何かしらで魔力を剝がされてそのまま鎮圧されるんだが。
樹上からは舞火精の狂奔が良く見える。所々茨迷路が焼け落ちているからな。
泡沫精も水球をふよふよと浮かばせて彷徨っているので分かり易い。
気を付けて探さなければいけないのが風鳴精と夜喋精だな。
夜喋精は樹上に居れば攻撃こそしてこないものの、そもそも土魔法を使わずに人形サイズが剣を振り回しながら歩いているだけなので藪や茨迷路の中に潜り込まれると本当に分かり辛い。脅威ではないのだが見落とすとクリアリングしたと思って地面に降りたら藪から奇襲して来たりと油断できないからな。そういった厄介な嫌らしさはある。
俺は樹上を渡りながら時折狂奔精霊を見つけては鎮圧し、迷路地図を描き込みながら進んでいくと、ランドマークに出来そうなひと際太い大樹の根元に目的の敵が彷徨っているのを見つけた。
その形は茨が巻き付いた大きな植物塊。その上に女性の半身が突き出している姿の精霊は茨迷路の仕掛け人、茨樹精ラズラウネだ。
ゲームでもヒロインを攫って茨迷路の奥の花園に閉じ込めてしまい、変形迷路を攻略するために知恵を絞るという良くあるパターンのシナリオだったが、このダンジョンの茨樹精も迷路を作るようだ。
茨樹精はこちらに気付く事もなく彷徨を続けている。彼女が這った後にはヤドリギ系の魔法にも匹敵するような速度で爆発的に茨が成長して藪を作り出していた。
…………。ゲームでは3分クッキングよろしく出来合いの茨迷路がぽんと鎮座していたが、ダンジョンがパクろうとするとこうなるのか。
魔法の速度で爆速生成されるとはいえ、歩き回って造園するという世知辛い現実を見せつけられて居たたまれなくなりつつも、俺は対精霊基本戦術の黄色変質魔力の同調双氷晶を作成して―――。
突如足首に巻き付いた茨に足を取られて木の枝から滑り落ちた。
―――ああぁあぁああ……。
「げんた!」
「スマン、油断したっ」
即座に銀腕を操って足元に銀線を差し込み、茨の触手を切断すると橙色魔力を練って上方へ小規模転移を繰り返して転落速度を緩和すると同時に銀腕をもう一度伸ばして木の枝に掴まる。
元の枝に戻ろうとして―――、俺は勢いを維持したまま銀腕を一度外して別の木に巻きつけ、すぐに復元させて進行先を急変させる。
振り向いた先には根元の茨に纏わりつかれ、締め上げられてみしみしと破滅的な音を響かせる元居た木の姿があった。
「想像以上にやべぇ」
「だいじょうぶ、げんた?」
「いざとなれば逃げる」
割と戦闘離脱も視野に入ってくるな。
正直アウレーネが先日言っていた茨の藪に他の精霊の気配がするっていう言葉をもっと重く受け止めておけば良かったと後悔している。
紺色回癒魔石で足首に出来た棘傷を癒してくれたアウレーネに礼を言い、その間に見繕った茨の藪から遠い木の枝に再び移動する。
移動したことが分かったのか、茨の触手は侵食の手を止めてこちらの方へ向き直った。
ゲームでは茨迷路全体が敵になるという事などなかった。だから油断していたのだが、ダンジョンは世知辛さとその苦労に見合った戦闘力を与えてくれたようだ。最近は特にゲームの設定と乖離している状況も見られるようになってきたな。何故かは分からないがこれ以上高を括って足元を掬われないようより一層慎重を期した方がいいだろう。
まずは観察だ。
十八番になっていた同調双氷晶はいつの間にか破壊されていた。
どうやってと考えて、ようやっと茨樹精の本質に思い至る。
俺が仕掛けた戦術は対精霊基本戦術と銘打ったはいいが、より正確に言うならば対霊体基本戦術だ。
実体を持たない精霊ならば魔力の支配を奪うことで攻撃手段や移動手段そのものを奪うことができ、速やかに鎮圧が可能になる。実体を持たなければ、だ。
茨樹精は茨が巻き付いた植物塊に女性の上半身が生えた実体だ。そもそもからして使っていい有効戦術ではない。
こんな簡単な事も見落としていたなんて俺もいつの間にか相当にダンジョンを舐めていたんだな。戒めないとマジで致命的な失敗するぞ。
ともあれ、間違いに気付いたならそれを含めて改めて対策の練り直しだ。
―――……。
「レーネ。分かるか?」
「見ないと分からない」
「十分だ」
それだけ聞いて俺はにじりにじりと近付いてきた茨触手へ向けて細氷の霧を放ち、今までいた樹上を後にして次の枝へと移る。
細氷の霧を受けた茨触手はビクリと身を震わせ、こちらへと進路を変更して迫ってきた。
……もう暫く続ける必要があるな。
そんな事を頭の片隅に置いて木を2本越え茨樹精の頭上を通過するように素早く移動する。
茨樹精はこちらの姿を目で追っているものの、遠距離攻撃手段があるわけではないようで付近に生える茨の藪を動員して俺がいる木を締め上げて倒そうとしているだけだ。早めに移動して的を絞らせないようにする。
幸いそこまで思考力が良くないようで、付近の木を全て薙ぎ倒す整地戦術にまでは思い至らなかったらしい。俺が退いたらその木は放置して俺が移った木へと再び茨触手を蠢かせた。
細氷の霧を作り出して再び周囲を凍てつかせ、茨触手が木に取り付いた頃合いを見計らって別の木に移る。
それを繰り返してハラスメント行為に終始しながら茨樹精の動向を観察し続けた。
茨樹精の攻撃手段は今のところ主に2種類なようだ。
まず1つは茨操作。周囲の茨を自由に操り、またランナーを伸ばして自身の分体となる茨を生み出すことも出来る。こちらはゲームでもあったな。数ターンごとに取り巻きが増える……あ、これかぁ。迷路作成能力と取り巻き作成能力がダンジョンのパクリ合成の一環で一体化したのだろう。奴のターンが数週間レベルで上を行っているという最悪のパターンで。
ゲームと現実との違いに合点がいった所で2つ目の攻撃手段が飛んできた。ただし飛んでくるというより漂ってくる感じなので細氷の霧を高速で動かして細氷嵐にすることで余裕で対処できる。
茨樹精の本体から漂ってくる花粉っぽいような謎の粒子だな。ゲームだと魅了の状態異常を付与してきたはずなのでこちらも同じであれば当たれば危険だろうが、細氷の嵐で攻撃と同時に防御が出来るので脅威度は低い。更に言えばアウレーネの見立てではあれは実体化した魔力なのでこちらに接近してきた所で首に下げた星白金の影響力で無害化ないし青色変質魔力の何かしらで容易に対処できるだろうとのことだ。ようやっと茨樹精戦で対精霊戦術札が活きて来たな。
こちらが樹上の遠距離にいる以上、あちらの届き得る攻撃は茨触手攻撃に限られる。
このまま移動しつつ遠間から細氷嵐を続ければ安全に茨樹精を弱らせられるだろう。
―――ふふふ。……ふあぁ!
突如。
茨の藪の影からふらりと現れた泡沫精が茨樹精の謎粒子を浴びたかと思うとぐりんとこちらを振り向いて睨んできた。
……訂正。ここにきて砲台追加は流石に聞いてないッ!
間一髪次の枝へ飛び移ると元居た枝が重い音を立てて引き千切られる。今までの泡沫精戦は殆ど奇襲を仕掛けて近距離から一方的に支配力を奪っていた分脅威ではなかったのだが、泡沫精が遠間にいると高速の質量攻撃が厄介だな。
なんの悪戯かただでさえ厄介な茨樹精に泡沫精がタッグを組んで襲い掛かってくる状況に歯噛みをしながら、この場の突破口を考える。
状況は悪い。
だが最悪ではない。
作戦は大幅に修正する必要はあるだろうが、根本的に修復不能ではない。
まずは移動砲台の排除だ。
恐らく魅了のようなメンタルデバフを受けたのだろう泡沫精はこちらを完全にロックオンしてゆらゆらと漂いながらもこちらへ向けて随時巨大な水球を射出してくる。
通常であれば強烈な追尾性能を持っているのだろうが、こちら側に近付くと形が歪になって狙いもブレている。恐らく星白金が制御に干渉しているのだろう。マジで魔法戦のマストアイテムだなこれ。
とはいえ形が崩れようとも狙いがブレようとも実体化し続けている限り質量は質量だ。
俺は枝から枝へと飛び移りながら同調圧双氷晶を作成する。
やはり相手にとっても黄色変質魔力で支配に干渉されるのは嫌なようで、近付けると狙いが氷晶の方に変わった。
俺は氷晶を操って何とか逃がしつつ、少しずつ状況を整えていく。
幸い精霊たちは単純なようで生餌にした氷晶にすぐに食いついてくれて助かった。
離れた泡沫精と茨樹精がそれぞれの氷晶を叩こうと躍起になっている内に、隙を見て泡沫精に接近し、生餌の氷晶と星白金とで挟んで同調圧力を共振させる。挟まれた泡沫精は俺に気付いて狙いを変えるものの、頭上から降り注ぐ細氷嵐が彼女の邪魔を妨害する。
ここまで引っ張ってきたのは樹上にコブラゴーレムを仕掛けていたからだ。コブラゴーレムの増設砲塔の後方には緑黄色ヤドリギがこんもりとしている。
今コブラゴーレムを操っているのは俺ではない。アウレーネだ。ゴーレムに付けていた通信石は入口広場のオブジェになっているしな。コブラゴーレムの骨格は背の絡繰り部分も含めて呪醸樹の太枝で出来ている。そこにヤドリギの種を植えて発芽させ、ゴーレム支配をアウレーネに委譲した。
本当は先ほど茨樹精を飛び越えた時の樹上にコブラゴーレムを仕込んで、俺が囮になっている間に少しずつ細氷を出して茨樹精を弱らせていくって作戦だったのだが、泡沫精のおかげでご破算になったよ全く。
強引に細氷嵐が稼いだ時間で泡沫精の体を支配下に置けた。
あとは本体を引っ張り出して胸中に格納し、沈静化させるだけだ。
もうこの操作もだいぶ慣れたものだ。流石に手早くという訳にはいかないが。
ただ、流石に泡沫精の暴れる焦燥意識が求める情景……泡沫精は俺が飛竜にやられかけるシーンを殊の外喜んでいたが何の恨みがあるっていうんだ……、ともかく想起を引き出して胸中の棚にしまい込むのは片手間という訳には行かなかったようで、涼やかな音色と共に茨樹精に追わせていた氷晶が砕けるのを感じる。
茨樹精がややあって、ぬるりとこちらを向き直った。
だが、時間は十分に稼げた。
家主不在になった泡沫精の体。実体のない精霊の体は巨大な魔力で出来た水の塊だ。それを支配下に置くことが出来たなら……。俺の意志で動きだし、茨樹精に纏わりつく。
纏わりついた水の塊は、細氷嵐の冷気を受けて透明な氷へと変わった。
氷漬けになった茨樹精は触手を動かそうとするも、その反応は弱弱しく鈍い。茨樹精が伸ばしていたランナーは鋭く成形した銀腕の先端で切断し、動員できる触手を減らす。
足掻きも断たれた茨樹精はただただ睨み付ける事しかできなくなった。
洞察力の欠如と想定外と事態とが重なって予想外の苦戦を強いられたものの、茨樹精の制圧は出来た。とはいえ、彼女は他の精霊と違って実体を持った精霊なので今も維持し続けている大量の氷に送っている魔力を切って霧散してしまったらすぐに再起動するだろうが。
つまりあまり時間は掛けられないのだが―――。
「レーネ。分かるか?」
「んー……。ぼんやりとしてる」
何かと言えば茨樹精の存在核だ。他の敵と違い意識があるなら回収して鎮めたかったのだが。
アウレーネの見立てでは明確な核があるわけではなく、全身にぼんやりと、強いて言えば女性の体の方に濃度が濃い程度で体全体に遍在しているらしい。
今までの精霊たちとは違うな? どうやったら彼女の意識にアクセスできるのか―――。
そう思ったとたん、胸中の棚が勝手に開いたかと思うと何かが飛び出して、通信石を伝ってどこかへ転移した。
いや、胸中に格納していたはずの泡沫精の存在核だ。
暴走したのかと焦ったが、不思議と泡沫精との繋がりはまだあるようで何処にいるのかはわかる。
何故なのかどうやってなのかは分からないが目の前の茨樹精だ。
茨樹精の内部に入り込んだ泡沫精との繋がりを伝って、茨樹精の感情が流れ込んでくる
―――次へ。先へ。向こうへ。
―――進まなきゃ。進まないと。進めないと。
―――やらなきゃいけないのに。
―――やすみたいのに。
―――……やるしかない。
……強迫観念精霊? よく分からんが他の精霊たちとは拠り所になっている感情が違うようだ。
世知辛い迷路仕掛け人は本当に世知辛い社畜メンタルで行動していたらしい。泣けてくるな。
泡沫精がその感情に寄り添って何とかしようとしているがあまり芳しくはないようだ。
何がどうなっているのか皆目分からんが、事態がこちらにとって好転しているならこの機会をみすみす逃す道理はない。
泡沫精との繋がりを通して、彼女を補強するように思念を送り、他の精霊にしたのと同じように想起を送る。
……想い出す内容も変えた方がいいだろう。休みたいのなら好き勝手楽しく暮らしている奴の光景か。選択肢に挙がるのはもちろん酒を幸せそうな顔で撫でているアウレーネ。あいつ本当どうしてこうなったんだろうな? 回復薬がダブつき過ぎているのもあって最近はブランデーから魔力回復薬にシフトしたが使ってない魔力は回復の使用が無いと思います。確かに付属効果の爽快感が心地いいからっていう理由は分かるが。
何か邪念も一緒に送ってしまったが大丈夫だろうか。送った直後にふるりと泡沫精の感情が震えたのが少し心配になる。
しかしどうやら杞憂だったようで荒ぶっていた強迫観念が覿面に落ち着いた。
茨樹精の感情が、泡沫精の感情が、酒精のある魔力回復薬を一際美味そうに呑んで微笑みかけるアウレーネの光景の想起に魅せられたかのように纏わりつく。
やっぱり酒か? 酒なのか?
精霊=酒好きという図式が成立しかけたが、まだ期待の変人オルディーナが残っていたことを思い出す。まだそうと決まったわけじゃない。この茨樹精は社畜メンタルに酒が染み入っただけだろう。
また思考を飛ばしていた内に、目の前では変化が起こっていた。
まず、ぷつりと泡沫精との感情的なつながりが途絶えた。魔力的には繋がっていることが分かるので消滅したわけではないのだが、突然の状況に困惑する。
瞑っていた茨樹精の目が綻んで、柔らかく双眸を描く。
「あ…なた……」
ほにゃりと綻んだ茨樹精がそう言葉を紡いで微笑みを浮かべた。
……これ俺はどう反応すればいいんですかね。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




