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4:第2階層

 何かと更新のあるダンジョンだがまさかのドイツ語ルビ対応という事態に困惑しつつも俺は進むの象形に手をかざす。

 象形の輝きが全感覚を覆い尽くして……、気が付くと俺はアシ原の木道の上に立っていた。


「いや変わらんがな」

「んぅ?」


 ゲームであれば何層かで似たような景色が連続して続くというのはおかしなことではない。納得は行くものの肩透かしは食らいながら俺は空撮ドローンを、見てくれだけはどこまでも飛ばせそうな空へ飛ばした。

 案の定10メートル程度で頭打ちになった高度からゆっくりとカメラを回す。


「へぇ、案外成長してるな……」


 思わず呟いてしまった通りに、見渡す景色には木立が密集した小樹林やアシ原の中にぽっかりと口を開けた深い泉、接続した木道のない離れ苔島に立つ一本の樹木とその下の宝箱。

 空撮によって大体ネタバレしてしまったが、気が向いたら散策してもいい程度には第2階層は変化に富んでいた。

 もっとも敵モンスターも1層と同じオタマに加えて、何やら意味ありげな、思い当たりがない事はない泥の塊が木道の途切れた小島の上に幾つか積み上がっている。迂闊に踏み込むのは避けた方がいいだろう。




 分岐路を3つ程越えて、時折オタマを叩いて行った先にその小島があった。

 木道は一段の段差を経て一端途切れ、小島の先2か所でまた続いている。

 やはり色合いだけ土なものの踏んだ感触は硬質な小島の上にはいかにも怪しい2つの泥の山が落ちている。

 1つの大きさは一抱え、土嚢一つ分程で中央がなだらかに盛り上がっているのは某金字塔RPGに出てくる半溶けの粘性体のようにも見える。


「んじゃ、レーネ。砲撃で」

「ぴッ!?」


 え、じゃないよ。え、じゃ。こんなに動かない的、砲撃練習してくれと言ってるようなもんじゃないか。それに作った端布には気兼ねなく光弾を当てられたのだし、こういうモノ感のあるものから慣れていった方が行き成り動く敵にぶっ放すよりマシだろ。

 聞いてないとグズるアウレーネを説得して光弾を放たせる。かざした掌の先、それでも彼女自身も敵というよりはモノに当てるような意識になっているのか目を瞑る事もなく、光弾は1つの泥山の中央に当たって弾けた。


―――グボォッ!

「ぴぃッ!?」

「あぁボグハンドの方か」


 被弾を引き金にして泥山が蠢いて腕の形を取り、こちら側へと掴みかかろうとして、……べちょりと這いつくばった。うん、距離あるからしかたないね。

 ボグハンドは恐らくこの地形のネタになった素材収集とアイテム作成のゲームでまさにこの地形、俺がダンジョンに放り込まれるまでやってたフィールドで出てきた敵だ。ドロップアイテムのマジッククレイは使い道のある便利な中間素材を作るのに便利で重宝した。

 精霊をテイムする育成RPGの3作目で良く似た形の田造神ドロタボウというのもいたが、あちらはかなり強力で芸達者なので第2階層の雑魚として考えればこちらの方が適任だろう。

 ともあれ、ターン制のRPGだったこいつの出身ゲームでは否応なしに掴みかかられて嫌らしいデバフを貰っていたが、このダンジョンでは間合いは取り放題だ。遠距離から突けば煮るなり焼くなりどうとでもなる。


「ただし、間合いを取っているなら。なんだよなぁ」


 外れた不意打ちから立ち直ったものの擬態は辞めたのか手の形は保ったまま待機姿勢を取るボグハンド。よく見ると極僅かに前進しているようだが小島を踏破してこちらの木道まで近付くのにナメクジのような歩みでは無謀だろう。ただし俺自身もボグハンドの間合いの外から攻撃できる手段は少ない。1本しか用意していないサバイバルナイフを投げた所で確殺できるかどうかは分の悪い賭けだろう。

 遠距離攻撃と言えばアウレーネだが、先ほどの光弾は敵対する程度の効果はあるようだが見た所ダメージを負った様子はない。アウレーネに見て貰ってもそこそこくらいしか効いていないらしい。違いが分からん。

 ともかくボグハンドを安全に処理するならもう少しひねりを加える必要がありそうだ。


「アウレーネの魔法で……。あぁ、ちょっといいかレーネ?」

「んぅ?」

ヤドリギの解析(・・・・・・・)。あれでいけないか?」

「………ん」

「っし、とりあえずやってみてくれ」


 解析のヤドリギは植え付けた物品に実体のない魔力根を伸ばして魔力的な性質を推測する魔法だ。その魔力根の魔力を放出、吸引する能力を極端に高めてやれば。

 光の粒が種を模し、急激に芽吹いてヤドリギを茂らせる。どろりとした手の甲に芽吹くと同時にボグハンドがびくりと震え、甲の表面がザラ付きと崩壊を繰り返す。ちらりと見えた根が泥から光を吸い取って細かい砂に変えていた。

 次第に形を保てなくなっていったボグハンドの大きさが土嚢一つ分から丼ぶり一杯分にまで減った時、最早手の形すら保てずに2本指が生えた何かは大きく痙攣すると光の泡になって消えていった。

 効果が見えてからすぐに餌食にした奥の方のボグハンドも時を置くことなく同じように消えていく。


「よしよし、お手柄だぞーレーネ」

「……おしゃけ」


 ………流石にそれは勘弁してくだしあ。


 色々と不都合の多いおねだりを何とか1日1合までに値下げ交渉したりしたものの、気を取り直して地面に転がるドロップアイテムを取りに小島に踏み入れる。


「……みゅ!」


 不意にアウレーネが警戒をしたのでそちらを見るとアシ原の影がら子犬サイズのヤゴがゆっくりと顔を覗かせているのが見えた。

 有効な遠距離攻撃手段がなければボグハンドに手こずったりデバフを受けている間にこのヤゴ、たしか魔物や魔草を育てて出荷する農業経営SLGで魚養殖池に湧くお邪魔魔物だったハズ……そいつが横からガブリと刺す。そんなトラップだったのだろう。

 意外に良く練られていたトラップに感心しながらもその罠は既に根底からして崩れている。

 子犬サイズから身長の倍程の長さの顎が飛び出て来たのこそ驚いたものの、残念ながらその間合いの外から呪物が胴体を叩き潰して小島のクリアリングが完了した。


 ドロップは期待通り推定マジッククレイの粘土が丼ぶり一つ分の大きさと少し大きそうな魔石が3つ。ヤゴ2匹と手前のボグハンドの物だろう。いい収獲があった。


名称:仮称マジッククレイ

魔力:3

特徴:染まった魔力の思う形になる


 何のこっちゃという特徴だが要は一度魔力で染めたらそいつの思う通りに動かせるらしい。ただし魔力を流している間は。

 そうは言っても思う通りに成形できるというのは便利で、素材収集とクラフトのゲームではこの素材から作られる変幻自在の魔法の小瓶は上位互換が出てくるまで回復薬から爆弾まで引っ張りだこだった。小瓶を卒業してもレンガや建材作ろうとすると顔出したりするからなコイツ。

 それはそうとして現時点でもこの性能であれば使うアテがあるので早速持って帰りたい。ただ流石に第1階層でさくっと倒してきた呪醸樹の太枝が嵩張るのであれこれ勘案した結果、アウレーネに頼んで呪醸樹の太枝の中に大きめの樹洞を作って粘土を入れ、持ち手とそり部分を成形してキャスターがそりになったキャリーバッグのようなものを作って貰った。

 すぐに手放して戦闘準備に入れるのも存外便利だし帰ったらキャリーバッグないしキャリーカートの導入を検討してもいいかもしれない。引きずっていく音が気になるといえば気になるが、現状攻略に隠密行動が必要になる敵はいないし、そもそもキャリーバッグの前に俺が隠密行動を身に着ける事から必要だ。今しばらく役に立つことが見込めるのなら安い買い物だろう。

 俺はそう思案しつつ先に延びる木道の内、一方を選んで歩を進めた。




フィィーーーーーー。

 毎度のように軽快な音を立てて空撮ドローンが飛ぶ。

 場所はボグハンドの小島から幾つか角と分岐を越えた先の行き止まり。

 第2階層開始地点で見かけた宝箱のある苔島に近い位置のはずだ。

 カメラの映像がアシの穂先の波頭を越えて、記憶の通りに見覚えのある一本の木が見えてきた。

 ドローンとの位置を確認しつつ慎重にドローンを寄せていく。

 見た限りでは怪しい樹洞も見えないし、ヤドリギも見えないので呪醸樹ではなさそうだ。

 そこまで確認してからドローンを戻して苔島の方向へ一歩踏み出そうとし……、思い直してアウレーネに呼びかける。


「レーネ敵の反応、分かるか?」

「んみゃー……」


 近くには居そうだけど良く分からない、か。先ほどの小島でアシの根本、湿原から出てきたヤゴもそうだが可能不可能で言えばボグハンドも湿原の中に潜むことが出来そうだ。

 小島であっさりと処理できたことで忘れがちだがこの2種類の敵は待ち伏せする事で真価を発揮する敵だ。

 実際にいるかどうかは別としてもしこのアシ湿原に踏み入っている最中で襲われたら洒落にならない被害を覚悟しなければならないだろう。

 宝箱を手に入れるのならばどうにかして待ち伏せ対策を考える必要がありそうだ。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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