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39:魂と銀腕

名称:発火宝玉

魔力濃度:20

魔力特徴:込めた魔力と意志が火に変わる


 存在核の濁りが潰されて舞火精が消滅した後、残ったドロップアイテムはただの素材だった。


 どうすれば良かったのだろうか。柄にもなく考える。


 魔力支配されても消滅しなかった舞火精が死んだのは存在核の濁りが潰されてからだ。濁りこそが彼女の存在骨子だったのだろうか。

 しかしアウレーネに聞いてもあの濁り自体が嫌な感じの根元だと言っていた。

 あれをどうにかする事は出来なかったのだろうか。

 結局ダンジョンの敵は倒すしかないのだろうか。

 いや、例外は既に二人もいる。彼女らは特殊だとはいえ、明確な意志があったという点では今しがた消滅した舞火精モドキも同じだ。

 どうにかできなかったのだろうか……。


(……うん、治ったね)


 ふと気付くといつの間にか肩にアウレーネ人形が腰を掛けて俺の頬を撫でている。

 何かと思えば今しがた油断して顔に受けた火傷を銀アマルガム(銀水銀合金)ジャックワイヤー(導魔鋼縄)内に窪みを付けて格納した紺色の回癒魔石を使って治してくれていたらしい。


「ありがとな、レーネ」

(お酒はずんでねー?)


 胸中に沁み込んでくるいつもの軽い調子のアウレーネの思念が何故だか無性に有難かった。




   *   *   *




 たった一戦、入ってすぐの入り口で戦闘しただけだったがあの日はそれだけで帰還した。

 得るものは……いや、得られなかったものがあったからだ。対策をしなくては満足いく探索は出来ないだろう。

 幸いにも今日は休日だ。朝からじっくりと工房で考える時間はある。


 舞火精モドキは憎悪を滾らせてパクり元っぽい狂奔の森同様に暴走していた。

 第5階層の雰囲気からして出会う敵はおおよそあの舞火精のように暴走していると考えていいだろう。

 その憎悪を生み出す源は発火魔石のような存在核に混じっていた濁りだ。アウレーネに聞いてもその濁りこそが良くないモノの根元だった。

 ただし、その濁りを消滅させると舞火精の存在ごと消滅してしまった。

 あの濁りこそが舞火精を生存させるうえで必要不可欠な存在骨子の一部だったのだろう。

 必要だったのはあの濁りを消滅させる事ではなく、いなし抑える……いや、変容させることだろうか。


 濁りの変化。


 それは……、身に覚えがある。

 例によって憎悪とはまた違うが負の感情的な嫌な何かを少なくとも嫌な感じのしない何かに変容させた経験は。

 今もマジックボックスの奥底に封印された深緋色の謎の液体だ。徹夜明けのトチ狂った思考のまま生み出されたそれは正直再現できるとは思えない。

 が、試してみる価値はある。


 必要なのは魔力と意志に応じて変化する溶媒。

 ……素材はある。それも極上のが。

 飛竜の血、あるいは卵だ。

 だがそれを使ってもいいのかという迷いも同時にある。

 多分あの時同様にブドウを使ってもそれなりの物が出来るのではという思いがある一方、あのトチ狂った思考と自殺未遂レベルの狂行で成し得た物を、それをせずにお座なりに劣化再現してマトモに出来るのかという不安もある。

 試してもいい。

 ただし素材は敵だとは言え精霊の命だ。


 迷った末に俺は飛竜の血を使うことにした。

 一応、飛竜の血は再び取れる可能性がある。先日水没果樹林へブドウの補充に行ったら喰投猿が2回目のリポップをしていた。時間が掛かるだろうとはいえ、飛竜も再度戦えるだろう。

 それに対して一応沢山湧くだろうとはいえ精霊の命は精霊の命だ。アウレーネとオルディーナが違うようにそれぞれで違う自我を持っているだろう。

 初めての実験で万全の対策をせずに失敗を見越して挑戦して残念だったねと消滅させるのは何か違う気がする。

 気分の問題で貴重品を消費していいのかという心の迷いは宥めすかして、俺はマジックボックスから透明瓶に入った赤い濃厚な液体。飛竜の血を取り出した。


 準備はそれ以外にも必要だ。

 嫌な感じというモノがフィールド全体を覆っていてアウレーネが外に出辛いのは問題だし、アマルガム合金の耐熱性の問題もある。少なくとも直接アマルガム合金部分で火に触る必要がないような対策はしたい。

 取り出しておいて難だがこの土日は準備に充てる必要がありそうだな。




   *   *   *




 世間では自衛隊に続いて各地の警察が順繰りにダンジョンへと潜らされているらしい。大変そうだな。

 彼らは一般人ではないというとアウレーネは首を傾げていたが人間社会なんて気が向いて暇があったら追々知って行けばいい話だ。些末事だな。

 それはそうとてダンジョンだ。

 あの後休日一杯は準備に費やした。


 銀白籠手などのアマルガム合金は一度水銀を剥離して青緑変質魔力で構造置換を行い、碧銀色に輝くそれを作り、ついでに大サービスで銀には青緑橙の三色変質魔力で構造置換を行い、結局置換できなかったであろう元から橙魔力が骨格形成していた部分にはダマにならないように反応殻だけを形成した青と緑の各花びら灰を別途作成して流し込み、橙色変質魔力の転移現象を利用してそれぞれの橙色変質魔力骨格に直接送り込んで重複構造を構築するダメ押しで完全な飽和三色変質魔力構造銀を作り出してやった。少し緑色が強めに出た眩い白色の金属になったが後悔は……してない、かな。

 その時点でいい時間になってたので深夜テンションになっていたのもあるだろう。色々面倒くさくなっていたので気付いたら銀白籠手とジャックワイヤーに使われていた金属は全部一つにまとめて合金化していた。

 前腕を覆う程度から右腕全体を覆う碧色みのある白銀色の継ぎ目のないぬらりとした籠手というどこを目指しているのか分からない侵食系装備には合金化させない白輝銅を成形して作った手甲と肩甲をへばり付けることで解決した。解決したんじゃないかな。解決したと思う。解決……してくれるといいね。


 見た目はともかく、性能的には改善したといえるだろう。超機能恒温機でテストしてみた合金籠手部分の熱耐性も想像以上に改善していて赤い火程度の温度では魔力制御をする事もなく形成を保っていられたし、いざ舞火精を打擲するとなった時でも実際に接触するのは総白輝銅で成形した手甲か肩甲だ。周辺温度に耐える程度ならこれくらいで十分だろう。

 おまけに銅に加えて碧白銀とでも言うような謎金属……鑑定ポンコツ先生は変質ミスリルと命名なされたが安直だなコイツ。……まあ謎銀を合金として練り込んだので魔力伝達も勿論可能だ。

 肩部に仕込んだ紺色回癒魔石の回復魔法も瞬時に飛んで損傷部位に届けられるだろう。


 この籠手……ではもうないな。白輝銅碧白銀碧水銀アマルガム合金腕、長過ぎる。銀腕でいいか。銀腕に週末ずっと掛かり切りになっていたが、その間アウレーネには別の仕事を頼んでいた。

 それがもう一つの対策。注連縄……地面に引くのだから何て言うんだ……土俵?

 随分とちゃんこ鍋な印象になってしまったが一応効果は保証できるはずだ。なんせ一度これで呪力的なモノを何とかした事がある。アウレーネと出会った最初の呪醸樹戦だな。

 これで結界を作って何とかすればあの嫌な感じがするという推定呪力的な何かが漂ってそうな感じの空間にアウレーネが一息付ける空間を作り出す事は出来ると思う。何とかするのも一応心当たりはある。苦言を呈されたが出来る事も確認済みだ。軽率だったな。割とすまなかったと思ってるよオルディーナ。

 頼まれごととはいえ、大量に散らばる桜の花びらを無言で集めるオルディーナを尻目に俺は工房へと戻る。

 魔力が足りないからフィギュアサイズのゴーレムで苦労しているというのなら、魔石から増設魔力を補給できるようにして大型改良した方がいいだろうか。

 いや、勝手なことするよりオルディーナに何して欲しいか聞いた方が早いな。

 ……ほとぼりが覚めた頃合いで聞いて見るとしよう、うん。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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