37:魔力操作応用
空握。魔力を込めると空間を大きく掴める。
遠投。魔力を流すと遠くまで飛ぶ。
どれも第4階層の敵からドロップした素材の魔力特徴だ。
それらの敵は機動力に特化していて、一部は実際に機動力の魔力変質能力も持っていた。
どちらの特徴も橙色変質魔力を使えば疑似的に再現できるし、多分素材を極微細に解析してみれば橙色変質魔力が使われているだろう。
ではそれら第4階層のボスたる飛竜の素材はどうだろうか。
名称:飛竜の血
魔力濃度:28
魔力特徴:魔力と意志を伝える。魔力と意志に応じて変化する。
鑑定ぽんこつ先生が読み取ったのは伝達、多分アウレーネが言う魔力と意志を伝える能力だけのようだがこの二種類で、飛竜が待機していた岩棚、巣にあった卵も同様の特徴を持っていた。
俺はこの二つの内のどちらか、ないし両方が橙色変質魔力によって成されているのではないかと考えている。
何がやりたいかというと銀の改良だ。
今までも一応アウレーネの見立てでは魔力置換によって魔力濃度が上げられた。
ただどうも何と言うか魔力の通りがそれ程変わらないというか。流せる魔力濃度自体は向上したので使う分には問題ないのだがどうにも流れる速さというのが遅くなったような気がしたのだ。
橙色変質魔力による空間転移は魔力そのものや飛竜の魔石などの今の俺のスペックを超える物も転移させる事は出来た。ただ転移の際により周辺の橙色変質魔力の密度を増やす必要があり、その結果転移現象で消費される魔力が増えて、その上転移現象自体も意識的な完全同調からワンテンポ遅れて発生するようになったが。
この魔力検証の性質が銀の中でも起こっているのではないかと推測している。
銀の中には微量の橙色変質魔力が含まれていて、それらが流れて来た魔力と意志とやらを転移現象によって他方へと転移させる事で伝達している。魔力置換操作の中で他の魔力は置換したものの、橙色変質魔力は残留した。その結果魔力容量自体は向上したものの、残留橙色変質魔力はそのままで濃度が変わらず、結果として低濃度の転移現象には荷が勝ち過ぎて流速の低下という感触をもたらしたのではないかというのが筋書きだ。
検証は簡単だった。
橙色変質魔力を作り出して、銀に流し込んでやればいいだけだ。
一応内部に入ることは入った。それに橙色変質魔力の特徴である重なった魔力同士の緩い同調も見られる。
見られるが、同時に違和感があるのも分かった。なんというか同調が一歩足りないというか相がズレるというか、端的に言えば非自己の橙色変質魔力だという感触がする。
感覚的な観測に不安は残るが検証は出来た。あとはどうやってこの低濃度橙色変質魔力を俺のあるいは更に高濃度の橙色変質魔力へと置き換えるかだ。
一応飛竜の血を使えば出来るんだろうなとは思っている。非常に勿体ないが。
なので出来るならば他の置換方法を考えたい。
悩んでいたところ思わぬ所から解決策が提示された。
アウレーネ曰く黄色変質魔力を使えばいいらしい。
彼女が言うには低濃度の魔力に限りではあるが、黄色変質魔力の支配下で同調を受けた魔力は単に同じ拍動をして魔力反応速度制御を受けるだけでなく、魔力濃度も同調同化を受けて周囲の魔力を取り込んで向上するらしい。
コロリと魔力濃度も変化促進作用も向上した白金塊を渡されて正直驚いた。
そう、アウレーネにも反応力と機動力それぞれの能力の魔力変質方法を教えた所、何気に俺より育っている反応力の変質魔力は即習得した。やはりステータスの影響か、機動力の変質魔力は終ぞ作成出来なかったが。
そこで彼女には黄色変質魔力で何ができるのか調べるようお願いしていたところこのような提案があったのだ。
提示する代わりに魔力回復薬を1ビン強請られたが安い買い物だったということにしておこう。どうせ納品箱に行っちゃうんでしょと言われたらぐうの音も出ない。在庫整理の折りに何の気なしに魔力回復薬を処分したことを根に持っていたらしい。こいつ酒が絡むと強いな。
少々言葉の棘が被弾したものの面白い解決策なのは間違いない。
俺は早速黄色の変質魔力を作成して銀アマルガムジャックワイヤーを塊に変形させたものに流し込む。
同時に橙色変質魔力も作成して合金塊内に満遍なく流し、その上で黄色変質魔力の拍動を強く速くしていく。
それなりに意志を込めて拍動を強くしたところで周囲に展開していた橙色変質魔力が銀の構造体内に取り込まれるのが分かった。それと同時に銀の中の魔力構造が俺の意識に馴染んで何となく手に取るように分かったような感触がある。
魔力を流して見ると小規模転移を繰り返して瞬時に魔力が送られた。自分の体のように馴染む。
アウレーネの考案した方法は有用そうだな。
―――……。
いやアウレーネの考案した方法は想像以上に有用だった。
今まで金属の魔力を向上させるにはとこしえの花びらの灰を使った魔力置換法しかなかった。
当然ボトルネックは成長しても1日ザル二つ分が精々のとこしえの若桜から取れる花びらで、これの収獲が必要なのもあって金属装備の準備が遅れていた側面もあった。
アウレーネの黄色変質魔力同調置換は自身の魔力濃度までという制限と流石に緑色斥力魔力の内部まで同調を浸透させるのは骨が折れるという欠点こそあるものの、自身の魔力を消費するだけで簡単に品質改善が行える。
これらは別段金属に限らないので、今まで柿渋で染め直していた魔粘土や作り直していた青魔力氷核など、レベル上昇ごとの製作設備や装備の魔力置換更新作業の負担が徐々に大きくなってきた今、非常に有難い発見だった。
たった一日で飛竜戦後の各種更新作業を終えて俺は改めてこの負担軽減ぶりにため息を吐く。
まぁ、ブランデーや魔力回復薬は結局濃縮している分作り直さなくちゃいけないし、そもそも作った端から消費されていくので作るしかないのだが。
蒸留器の品質更新作業が終わった時に感じた視線を受けて、俺は粛々とブドウを潰し始めた。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




