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36:時空の社会不適合者

 機動力の変質魔力を作成しようとしたら反応力の変質魔力が出来上がっていた。

 解せぬ。

 いや、そういえば前科があった。青色変質魔力を作成した時も当初は緑色変質魔力を作成しようとしていたのだった。

 あれは構造を破壊解析しようとして偶然だったが、今回もまた何か根本的な所を誤解して突っ走った可能性が高い。

 最初から考えてみよう。


 機動力とは何ぞや。

 仮定としての機動力には空間転移能力がある。空間転移には魔力間同調が必要だと考えた結果、反応力の変質魔力が出来上がった。

 そう。

 機動力には空間転移があった。だからといって空間転移能力それすなわち機動力なのだろうか。

 空間転移という大事に囚われて、他の因子を見落としていないか。

 俺は第4階層を再び思い返して……思い出した。


名称:柔軟な皮膜

魔力濃度:10

魔力特徴:魔力を込めると多く掴める(空握)


 以前マジックバッグになるかと期待して裏切られた素材だ。飛びトカゲを狩りまくった都合かなりダブついて倉庫に貯まっている。

 飛びトカゲも機動力を主として戦闘する敵だった。飛びトカゲの素材も機動力に関係があるかもしれない。

 それは先の空間転移とも相容れないわけではない。鑑定ぽ……鑑定先生いわく空握、要は魔力を込めると沢山空気を掴めるという事は魔力を込めると空間の空気を固定する事が出来るという事だ。

 どちらも空間という共通点がある。

 空間支配の能力の一部として転移能力と固定能力がある。そういった可能性も考えられるのではないか。

 仮に空間の変質魔力を作成するためにはどうすればいいか。

 同調ではない。それは反応力の変質魔力だった。

 空間ね。うん、一番安直なので何とも嘘くさいが空間を作成するには魔力を広げればいいのではという囁き声がする。(幻聴

 正直ただ魔力濃度が薄まる気しかしないのだが……。劣化防止……か。


 俺は再び白色魔力を出してさっと表面をゼリー状に構造化し、その上に緑色魔力を重ねて強化する。

 その上でゼリー内中央で保持した魔力以外を端へよけ、ゼリー体を膨らませる形で構造体を追加していき、中央以外を魔力的な空洞にしていく。

 不思議な感触だった。

 そこには魔力はない。普通だったらすぐに拡散散逸して濃度が急速に劣化していくはずなのだが、構造を持たないただの流動的な魔力が不自然に球状を保っていられる。

 十分に空洞を作り出した所で、中央の魔力を制御して一気に内壁付近まで引き広げた。


 緑色魔力で覆われた魔力球の中に異なる明るい色味が差し込んだ。

 目を瞑って呼び出したステータス画面の特性欄には魔力変質(機動力)の追記。


 少し手間取ったものの、俺は二つの魔力変質を手に入れることが出来た。

 なお繰り返し作ってみた所、橙色変質魔力を作り出すのに別に緑色魔力は結局必要なかった事も分かった。




   *   *   *




 反応力と機動力、二種類の魔力変質を手に入れたがどのように使って行くかがまた課題になる。

 機動力の変質魔力。強力な手札として脅威を見せつけていたそれは面白い特性を持っていた。


 まず発生した橙色魔力に白色魔力が重なって実体化現象が起きた。実体化していないが。

 どういうことかというと、白色魔力が白色半透明なまま弱く固化した。軽く押して見ると固化した半実体化魔力は宙に浮いたままふにゅりと押されて滑るように流れていき、壁に当たって霧散した。

 おそらく飛びトカゲや巨体の飛竜が飛翔できていたのもこうやって固化した魔力……というより固化空気とでもいうようなモノを押しのける事で推力にしていたのだろう。

 空間を多く掴める、あるいは空握能力という奴だな。

 飛竜が羽ばたいた時に白い半透明の風が薙ぎ散らされているように見えたのは見間違いじゃなかったらしい。


 次に分かったのは機動力の橙色魔力は完全ではないものの重なり合うということだ。

 通常同じ種類の変質魔力は重ならない。緑色の斥力魔力は当然のこと青色の引力魔力も同種の青色魔力と重ね合わそうとしても反発する。

 しかし一塊作り出した橙色変質魔力は圧縮することも可能だし、もう一塊作り出して殆どを重ね合わせる事も出来る。橙色変質魔力自体が靄や霞のように存在として希薄だからだろうか。

 しかもその圧縮して重ね合わせが発生した魔力同士では魔力の質が整っていくような同質化していくようなそういった同調性が見られた。

 もしやと思い、橙色魔力の中に近くにあったトカゲの皮膜を置いてみる。

 同調した橙色魔力の中で更に意識的に2地点の質を近付けていくと、意識の間隙を縫ってトカゲの皮膜はさも当然というような如く、もう片方の地点へと転移していた。

 俺は小規模転移能力を獲得した。


 色々試して見ると、やはりごく近い位置にある橙色魔力の方が遥かに同調させやすいのが分かった。実験室レベルならば可視範囲内へのハッキリとした転移も可能だろうが、戦闘上ではやはり第4階層の面々が使っていたように極小規模転移を繰り返して一見高速ないし変則移動をしているかのような補助機能に徹するという使い方が主だろう。


―――……。


 反応力の変質魔力はまたトリッキーだった。

 魔力性質的な拍動を続けるそれは周囲への同調圧力が高い。

 しかしそれ以上の事が分からないままあーだこーだやって見た結果ようやっと分かったのは偶然だった。

 拍動の周波数は俺の意志である程度は変えられる。黄色の変質魔力を低周波数にしてふと気を抜いてしまった拍子に外側を支えていたゼリー状魔力の構造が崩れてしまった。

 やっちまったかと思ったものの、その時崩れた箇所からは白色魔力の霧散は見られなかった。

 よくよく見てみればコーヒーの湯気が立つようにゆっくりとは霧散しているようだが、平時のそれとは全く違う。

 霧散速度が非常にゆっくりとなっているようだった。

 そこを起点に調べてみると、黄色の変質魔力に同調した魔力はその周波数の高低で反応速度に変化が生じるようだ。

 強い意志で念じて黄色変質魔力を高周波数に持ってきた上で、アウレーネに頼んで種弾を置いて貰うと爆発的な速度で毬状のヤドリギが育った。魔力を使い果たして即霧散したが。

 反対に強い意志で念じて低周波数に持っていくと、種弾は非常にゆっくりとした、一応現実の実物速度とは違って呑気なタイムラプス映像でも見ているような変化が見られる程度の速度ではあるものの成長している様子が見られた。これはこれである意味楽しい。

 

 一通り検証を終えてみると、機動力と反応力の変質魔力は関連性が高い気がするな。

 機動力が魔力的な空間制御であり、反応力が魔力的な時間制御だ。

 殊こういう能力に手をかけると魔法使いとして一端になったというか夢が広がるようなそんな思いがするな。使えるようになっただけでまだその能力を何も実用出来てはいないんだが。

 つまり実験が一段落ついた所で次は実用段階だな。

 この変質魔力を使って何ができるか、どう応用できるか。

 素材とも大きく関連しているような感触がするし、幾つか予想できる現象もある。

 次はその方面を開拓していくとしよう。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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