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35:狂奔を眺めリザルトを捏ねる

―――あははははは。

―――ふふっ。

―――ははァッ!


 潜った先はぶっ壊れていた。

 いや飛竜を倒した後、泉のほとりにいつの間にか立ち上がっていた進むの転移象形を起動して、今度の第5階層は長閑な森かぁ。と思ったまでは良かった。

 付いた先は間違っても優しく木陰を照らすヒカリキノコや木漏れ日が泉を照らす雰囲気ぃーな場所ではない。

 何故か光が陰って鬱蒼さが際立ち、太い木々が脈打つようにうねってどこか肉々とした意志を感じさせる。

 この野営地っぽい見た目の均された小広場にこそ敵の影は見えないものの、既にあちらこちらから狂ったような嗤い声が漏れ聞こえてくる。


 この光景には見覚えがある。


「なんかすごい……イヤ」

「狂奔の森だ……」


 やたらとパクられてる印象の強い精霊をテイムして魔王だの邪神だの色々倒しに行くRPG。

 その内の数作で登場したシチュエーション。魔王だの邪神だのに制圧されてその地に宿る精霊たちごと狂ってしまったフィールド。狂奔の森だ。名称は作品ごと他にも色々あったが。

 これが正しいなら敵として出てくる顔ぶれも良くて暴走した魔獣、大体は狂乱した精霊だろう。

 もちろん飛竜にメタ張って対策ガン積みしてきた装備でまともに探索できるわけもないので今回はこれで撤退する事にした。

 しかし、完全非実体を相手にどう攻略するのか。また少し考える必要がありそうだな。




   *   *   *




「あれ? ……休みですか、彼」

「ん? あぁ、新田さんかい。アレらしいよアレ」

「アレ」

「ほら、行進する……デモ! 行ってるらしいよ」


 詳しく聞くといつも話しかけてくる何某さんはデモに参加してて休みらしい。その行動力にびっくりだよ。

 そう思ったものの、どうにも事情が違うらしく、今全国的にダンジョン一般開放運動が大加熱していて、各地でのデモ映像や署名活動がトップニュースになってたらしい。初めて知った。


「ほらアレ。……何て言ったっけか、あーダンカンみたいなーほら」

「ダンジョンですか?」

「そうそうダンジョン。放っておいたら消えちまったらしいからなぁ」


 ……なんですと?


―――……。


 久しぶりにノートパソコンを引っ張り出して情報を集めてみると出るわ出るわ。

 立ち入り禁止措置だけされていて自衛隊が攻略する事もなく放置されていたダンジョンが先週あたりから突如として消失し始めたらしい。まるでそれまでそこに存在した事など幻であったかのように何の兆候も痕跡もなく消失した。この事実が広まって爆発したのがダンジョン一般開放運動を進めていた団体だ。

 得られたはずの資源が失われた。

 政府は何もしなかった。

 優柔不断の弱腰行政のせいだ。

 まあ見事なありとあらゆる怨嗟の嵐が渦巻いて、それに加えて財界も手のひらを返したのが更に拍車をかけた。

 有象無象が自分だったらこうやれたと大手を振って大わらわだ。

 とりあえず今週中に国内に残ってる全てのダンジョンに自衛隊を派遣すると打ち出して、先週一週間の時点でそれなりの数のダンジョンがぽつぽつ消えたというのに期限を今週とか悠長なこと言ってふざけて居るのかと火に油を注いでいた。本当こういうとこソツがないな。


 しかし、ダンジョンは放っておいたら蒸発するのか。工房のおかげかほぼ毎日たむろしてたから知らなかった。試したいとは思わんけど。

 つまり俺には関係ないという事だな。

 とはいえこの狂奔がいつまで続くのか分からんが、ここまでの炎上度合いを見るにそう遠くない内にダンジョン探索が一般開放されて色々な制度や制限が出来るんだろうな。


 つまり今の内に目一杯ダンジョンしないと行けないって事だな。

 結局そこに行き着いて今日も俺はサイケデリックな虹色の光球に触れた。




   *   *   *




 さて、進んでも(第5階層)戻っても(現実)何やら騒がしい出来事が起こっているようだが、まずは荷解きだろう。

 マジックボックスからボロボロのリュックを取り出して広げる。次の探索には強化アシ不織布でリュックも作っておかないとな。

 荷解きと言っても大半が飛竜攻略の為に持ち込んだ装備だな。攻略前日にボス前までクリアリングしたから本当に戦って帰ってきただけだ。戦利品も3つ、魔石と血と卵だな。


名称:飛竜の卵

レベル:1

魔力濃度:11

魔力特徴:魔力と意志を伝達する。魔力と意志に応じて変化する。


 こちらも変わりはないようだ。マジックボックスの中にも仕舞えたし少なくともまだ素材であって生物と判定されていないのだろうか。レベルも付いているし卵だし生きていても不思議ではって……そう。

 今更飛竜と戦った後自分の成長を確認していない事に気付く。


名前:尾崎幻拓

種族:精霊憑き

レベル:23(↑3)

魔法力:152(↑26)

攻撃力:68(↑11)

耐久力:58(↑5)

反応力:59(↑9)

機動力:47(↑7)

直感力:113(↑2)


特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ)、魔力制御、魔力変質(魔法力、攻撃力)、アイスウィザード、土魔法

スキル:怪力、鑑定


名前:アウレーネ

種族:精霊

レベル:23(↑3)

魔法力:181(↑13)

攻撃力:7(↑2)

耐久力:41

反応力:71(↑8)

機動力:19(↑4)

直感力:111(↑3)


特性:精霊魔法、魔力変質(魔法力)


 相変わらず日頃魔力ばかり使って作業しているからか魔法の伸びがえげつない。

 その一方で前々回一日中肉弾戦に主眼を置いて戦い通した時のレベルあたりの伸び幅を比べるとあまり奮っていないことが分かる。やはりレベルとその他ステータスとは独立しているんだろうな。この謎ステータス画面への反映こそレベルが上がった時だが、ステータス自体はそれとは別に日頃の鍛錬で少しずつ上昇しているんだろう。

 これからも勤しんで探求に邁進していかないとな。

 さて、今回のレベル上昇で一つの垣根を超えた。

 それはステータス数値的に見れば魔法変質の魔法力、通称青色魔力変質を編みだした時の俺の魔法力の数値をそれぞれのステータスが超えた事であり、ステータス数値次第で魔力変質を起こせるならば、どのステータスでも魔力変質を起こせていいはずだ。

 ただ、魔力変質がどのようにして起こせるのかのヒントはまるでない。

 そもそも青色魔力変質にしたって、緑色魔力を作り出そうとしていて偶然作れてしまったものだしな。

 直接的なヒントは無くても何か推測できそうな例がないか考えてみよう。


 まず俎上に上がるのは機動力だ。

 第4階層の敵の傾向や一頭身ロックゴーレムの橙色魔力纏いと跳躍強化。そしてアウレーネが敵のステータスに読み取った魔力変質機動力。

 飛竜も使ってきたが橙色の変質した魔力が機動力の魔力変質で間違いないだろう。

 機動力の魔力変質とはどのような性質だろうか。

 俺は一頭身ロックゴーレムと戦っている時までは抵抗を減らしたりだとか加速力を強化したりだとかそんな所だと推測していた。

 しかし飛竜戦を、あの変則無軌道突進を目にした今はそんな些細な能力ではないと分かる。


 おそらく、小規模な空間転移ではないか。

 今はそう考えている。

 そう考えると、以前拘束した一頭身ゴーレムの大跳躍が失敗した原因にも、拘束されていたために小規模空間転移可能な条件を満たせなかったという納得のつけやすい説明が付く気がする。


 機動力の魔力変質が空間転移に依る物だと仮定して、空間転移の性質を持つ魔力変質を作るにはどうしたらいいのかを考えてみよう。

 空間転移といえども全くの制限がない訳ではなかった。

 それは先の跳躍失敗ゴーレムの件もそうだし、飛竜にしたってあの変則無軌道突進を行う前には橙色魔力を大きく身に纏って、それですら無軌道に移動するだけだった。完全自由な転移能力であれば一瞬にして俺の背後に転移して鉤爪を振り下ろせばいい。

 おそらく、空間転移は橙色魔力の中だけでしか出来ないのだろう。

 あの橙色魔力の内部では何が起きていたのだろうか。

 変質魔力だからといって何でもできるわけではない。

 青色魔力は構造構築さえ出来れば何でも実体化出来るが、それにしたって青色魔力で構築した構造骨格に白色魔力を吸着させると実体化現象を引き起こすという絡繰りがある。

 だから単に橙色魔力だから出来る、ではなく橙色魔力の中でも何か条件を満たした結果、転移現象が引き起こされたのではないかと考える。


 転移現象を引き起こす橙色魔力の条件。

 転移現象とは2つの不連続な地点を繋いであたかも連続しているかのように移動する事だ。

 不連続な地点を連続させる為に必要な事。

 同じものである、あるいはあたかも連続しているかのような近似したものであると似せる……同調させることだろうか。

 2地点の橙色魔力を何かしら同調させてその連続性でもって転移現象が引き起こされている。といいね?

 まあ仮説は仮説だ。後で検証すればいいとして、大事なのはどう魔力変質を起こすかだ。


 仮定の上に仮定を重ねて転移現象は魔力の同調で起こっていると仮定すると、魔力同調を起こさせるように魔力を加工すれば、魔力変質を起こせるのではないか。

 つまり魔力のペースメーカーあるいは発振器みたいなものか。


 そうかんがえて俺はゼリー状魔力で覆った空間の中に構造体になっていない流動的な魔力を流し込む。

 イメージはペースメーカー……というかむしろ心臓だな。水を捏ねるようなものだが、それでも魔力に圧力をかけると一瞬ではあるが密度が高まる感触がある。その一瞬を見極めつつ、捏ねた流動魔力を圧力で逃がさないように保持し続けしながら拍動を続ける。

 次第に慣れて一定周期で拍動を続けられるようになってくると、周囲の魔力も拍動の減圧加圧の煽りを受けて一定のリズムを刻むようになってくる。これが魔力同調の鍵だといいね。

 小慣れたリズムの揺り返しがむしろ拍動を支えるようになってきた頃、少しずつ白色魔力が色付き始めているのが見えて来た。


 行ける。


 最早リズムは見なくても刻める。俺は目を瞑ってステータス画面を意識し、拍動を続けながらステータスに変動が無いか注視する。

 やがて―――。


名前:尾崎幻拓

種族:精霊憑き

レベル:23(↑3)

魔法力:152(↑26)

攻撃力:68(↑11)

耐久力:58(↑5)

反応力:59(↑9)

機動力:47(↑7)

直感力:113(↑2)


特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ)、魔力制御、魔力変質(魔法力、攻撃力、反応力)、アイスウィザード、土魔法

スキル:怪力、鑑定


 特性の魔力変質の項目に追記が増えた。意識の間隙にひょっこりと増えたのが空恐ろしいが、そんなのは些細な事だ。

 目を開けるとそこには鮮やかな黄色に変色した魔力が白色魔力の中央で拍動を続けていた。


 わぁー目玉焼きみたいだぁ。


 は? なんで?

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィールドそのものを浄化するとボーナスが貰えたそうな場所だな 飛竜卵の魔力濃度がさり気なくあかった?
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