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34:第4階層を舞う

 灰緑色の翼が大きく広がり、細長い首が天を仰ぐ。


―――空は自由だ。果てないそこには虚空しかない。


 白い半透明の風薙ぎ跡を残して巨体が空へと舞い上がる。


―――空は雄大だ。あらん限りの力を示しても障りなどない。


 翻った翼の中央で細長い首が大きく撓み。


―――空は単純だ。勝者と……、敗者しかいない。


 いや―――。


 鋸のような歯列の隙間から漏れ出た舌火がテロリと舐め上げる様を見て、対抗した氷杭と吐き出された火球とがかち合って氷白めく花火を撒き散らした。

 初手の火球は直線的で防ぎやすかったが、残念ながら飛竜は既に身を翻して高空へと上がっていったようだ。

 ここの標高的には最下層域から多少上がった程度だろうから第4階層開始地点の標高と比較すれば思った以上に敵の行動空域が広いことが分かる。


 断崖程度の高さまで飛翔した飛竜は再び体勢を整えようとして―――。

 その腹に小さな血の花冠を咲かせた。


 対策その一。魔導ライフルは俺の腕が下手なのもあって命中率が悪いな。滞空した所にフルバーストをかけてようやっと一列当てた程度か。

 銃身はそのままコピって鉄で形成し、魔力を伝達する銀の引き金と撃鉄の代わりに白輝銅被覆の発火球を据え、揚弾機構には青魔力で構造置換して複製できるようにした白輝銅の銃弾が保持されている。

 銀の引き金に魔力を流す事で銃弾が実体化装填され、発火球が爆発を形成。実体化弾を射出するという機構だ。発火球の調整とまともに飛ぶ銃弾の形成で大きく時間を食われたが何とか形になった。魔力を食われるが残弾数を気にしなくていい無限弾が継戦能力という評価を鼻息吹かして書き換える。威力自体も鱗に弾かれる事なく被害を与えられているようだ。


 形にはなった。が、予想通り傷が浅い。

 腹に数発入ったとはいえ、体躯自体が非常に大きい。比較で見るならば人体に画鋲を刺した程度でしかないだろう。

 攻撃されていることに気付いた飛竜は滞空姿勢を止めて再び飛翔に移る。

 画鋲で刺された程度でしかないだろうが、それでも画鋲で刺した程度にはなる。

 ギロリと爬虫類の色合いを帯びた檸檬のような瞳がこちらを睨み付けている。

 空から撃ち放題という訳ではないという事は飛竜の頭にも伝わったようだな。


 こちらが銃口を向けるのを見て取ると身を翻した飛竜は乱れ撃ちでまばらな火球を落としてくる。

 流星群のように降る火球は―――、氷の壁に遮られて爆ぜた。


 対策その二。氷結トーチカ(防御陣地)が上手く攻撃を防いでくれたようだ。

 作ったものの最初の運用が何故かワイヤーフックか何かのような扱いになってしまった銀アマルガム(銀水銀合金)ジャックワイヤー(導魔鋼縄)だが、元々はこのトーチカを起動させるために作った。

 俺は再びジャックワイヤーを伸ばして足元に横たわる平たく形成した金塊に接続すると魔力を送り込む。金塊に込められた魔力構造体、発水の鉱石から抽出した魔法が水を大量に吐き出して崩れた氷壁の一角を覆い、俺の細氷の嵐が即座に水を凍らせてトーチカを修復する。


 トーチカに引っ込んで銃撃が止んだのをチャンスだとでも思ったのか滞空した飛竜へ向けて魔導ライフルを雑撃ちする。

 いい当たりを引いたのか空中でバランスを崩したようだが、上手く持ち直されてしまったようだ。

 焦れた飛竜が飛翔しながら大きく咆哮を上げた。


 姿勢を屈めて急降下、つまり突撃の姿勢を向けてこちらに迫ってくる。

 いいぞ。作戦通りだ。案外早くケリが―――ッ!?


 目前に居たはずの飛竜が橙色の魔力をぶわりと噴き出したかと思うと、唐突に横滑りで俺の背後に周り込んできた。

 振り返る見上げた先に鋭く光る鉤爪が。ヤバい間に合わな―――ッ。


「げんた!」

「助かるッ!」


 背負ったリュックのフタポケット。そこに入れられた白紙だったノート、グリモワールから雷が走る。その書を掴んだアウレーネの根が示す先、飛竜の腹へ向けて稲穂のように群れ噴いてその表皮を撫で苛む。

 一瞬怯んだ隙に緑色魔力の斥力傾斜装甲を張って鉤爪の下から逃げ出すように弾かれる。

 ついでにお返しとばかりに一瞬下がった飛竜の頭に泥弾をぶつけて視界が奪う。

 慌てた飛竜が多少暴れたが、数度跳ねた後離陸され、空中で咆哮と共に泥弾は弾かれてしまった。

 とはいえ、離陸するまでの間にトーチカ内に戻ることが出来たのは助かった。不意打ちの致命打を痛み分けに持ち込むことが出来たようだ。


 橙色魔力。機動力の魔力変質。一頭身ロックゴーレムも纏っていたそれはその名に示すように跳躍距離や飛翔速度を伸ばすものだと思っていた。

 しかし、今しがた飛竜が用いて来た致死の小技はそんな生易しいものではなかった。

 橙色魔力で覆われた範囲に速度も重量もまるで無視して滑らかに移動する。

 ふむ……それはまるで。

 いや、そんなことは後だ。飛竜が苦し紛れに再び飛ばしてきた乱れ火球を同じように氷結トーチカでやり過ごして即修復する。

 あの超機動を踏まえて氷結トーチカの形状も修正が必要だな。

 追加で水を生成して防御壁を増設。取り分け後部にはスパイク状に成形して近寄り辛くもしておこう。


 こちらの準備が整うと同時に飛竜の意志も決まったようだ。

 こちらの防御壁の形状変化を察してか、90度方向を変えた横合いから進路を取ってくる。

 どちらだろうか。想定攻撃方向は2つ。それに応じて伏せ札を変える必要がある。今から変えないと―――いやッ。

 ある意味で逆に分かり易くはあった。飛竜も先の結果を踏まえて行動しているのだ。歯列の隙間から漏れ出た舌火を見て取って、俺は伏せ札をそのままで張る事に決めた。


 突進してきた飛竜が鉤爪を振り上げる直前、橙色の魔力が膨れ上がってその魔力雲の中を滑るように飛竜が移動し―――。


 背後(・・)で雷撃と火球が爆発を起こし―――。


 正面(・・)に滑ってきて振り上げられた飛竜の鉤爪を俺は。


 満面の笑みで受け止めた。

 ただし、受け止めるのは太く鋭い鉄杭だが。


「ギャァアアアアウゥ―――――ッ!!??」


 対策その三。画鋲弾で足りない火力を補うにはどうするか。画鋲の太さを太くすればいい。威力は敵が作ってくれる(・・・・・・)。今対策の最大重量装備。

 突進のインパクトに合わせて仕込んだ銀白籠手仕掛け腕で跳ね上げた鉄の逆茂木。鋭く尖った鉄杭の横列に刺し貫かれて、飛竜は初めてとも言える悲痛な叫び声を上げた。

 翼腕に力を溜めて暴れ出しそうな気配を見せているが、最早空に帰すつもりはない。こいつはそれなりに思考力がある。突進を、振り上げる鉤爪を当てるためにどうすればいいかと手順を考える能力を持っている。ダラダラと戦闘を続けたらそれこそ橙色魔力変質の変則軌道で手が付けられない攻撃になっていく事だろう。


 だから対策その四。導かれた動線は効率よく利用しよう。例えば導電性の高い金属、とか。

 俺は深々と突き刺さった鉄杭に錫杖(・・)を触れさせて、最大限の魔力を流し込んだ。

 発生した拡散するはずの雷撃は鉄杭の中を余さず伝って飛竜の腹に叩き込まれて―――。


 全身を燻ぶらせた飛竜が痙攣しながら地に崩れ落ちた。




 念のため対策その五の吸収のヤドリギもアウレーネに生やして貰ったものの、深く読み取る前に飛竜は息絶えたようだ。全身から光の泡を放ち始めた。


 今回は危なかったな。驚愕を受けてヒヤッとしたのは多分ボス戦では初めてじゃないか? 橙色の魔力変質を過小評価していたようだ。ボスとその辺の雑魚とで出来る範囲が同じと考えるのは早計なのにな。

 とはいえ、飛竜の耐久力がそれ程高くないようで助かった。

 一応鉄杭穿孔雷撃を叩き込んだ後も動けた時のためにいつものコブラゴーレムを巻きつかせて増設砲塔に換装した6連青魔粘土核で際限なくマジッククレイを生み出しては飛竜に纏わりつかせて飛翔能力を奪う手札も用意していたが、雷撃で戦闘不能になってくれたおかげで日の目を見なかった。

 コブラゴーレムが完全にベンチウォーマーしていたのは何気に作ってから初めてじゃないか。意識の外から火力や影響力を投射できるのって無茶苦茶便利だからな。

 まあ真打が寝ているままの戦いがあってもいいだろう。準備が万全だったという事だ。……攻撃性能に関してはだが。


 一頻り反省を済ませてドロップアイテムを回収する。

 魔石の魔力濃度は28。チスイザクラの時から思ってたけどボスだからって強敵ぶつけ過ぎなんだよなこのダンジョン。雑魚とボスとの差が10以上あるってヤベえぞ。

 そして透明な保存ビンに入った赤色の液体。鑑定ポンコツ先生的には飛竜の血らしい。


名称:飛竜の血

魔力濃度:28

魔力特徴:魔力と意志を伝える。魔力と意志に応じて変化する


 ポンコツ先生曰く伝達とは要するに銀と同じような導魔材として活用できるということらしい。それに加えてアウレーネの見立てではブドウみたいな変化能も持っているとな。2種類の特徴を持った素材か。面白い。


 ……そして最後。何か怪しいなと思ってた場所。飛竜がスタンバイしてた岩棚の上。

 登ってみたら案の定、飛竜サイズの大きいくぼ地の中央には白い球塊、卵が置いてあった。


名称:飛竜の卵

レベル:1

魔力濃度:10

魔力特徴:魔力と意志を伝える。魔力と意志に応じて変化する


 ……変化するってもしかしてコイツ孵化でもするんですかね。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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