29:魔力の抽出と注入
仮称発火球。赤みを帯びたガラス球に見えなくもない硬質な球体。
仮称発火原石。赤みを帯びた鉱石。
これら二つを改めてクラフトベンチに並べて俺はそれぞれを確かめる。
正直、物質として存在はしているが、既存の鉱物とは全く関連が付かない。
発火球は魔石と似ていたから逆にそういう物かと思ってスルーしていたが、思い切り素材と類推できる鉱石が出てきてしまった以上発火球はクラフト出来得る物であり、鉱石は素材になり得る物なのだろう。
昨日は下方をシュロシュロと小気味いい勢いで流れる渓流を眺めながら、渓谷下層を回ってトカゲの巣穴を巡り、謎鉱石柱を叩いて金属や原石収集をした。フィールドに慣れていなかったのとそれぞれの収量は拳で包める程度の大きさだったので重量はさておきリュックには収まり切ったが、再び掘りに行くのであれば対策を考えなければならないだろう。
ともあれ、それなりの量が確保できた。
ならば多少は研究に使うことが出来る。
俺は発火原石をマジッククレイで包むと上から金づちを振り下ろす。ヘッドの先から包まれた鉱石が砕ける感触がした。マジッククレイを解いて見ると割れた原石が見える。破壊をしても炎が出るだとか爆発するだとか、警戒していたようなことはなかった。
改めて鉱石をペトリ皿状にした粘土に載せて成形機に入れ、粉砕して取り出す。
名称:発火粉末
魔力:12
特徴:魔力を込めた意志を火に変える
魔力特徴も変わらないが、アウレーネの見立てでは少しずつ魔力が散逸して行っているらしい。調味料ビンに入れていた魔力回復薬と同じ感じがするそうだ。酒が絡むとほんとお前ヤバいなマジで。(誉め言葉
それはそうとして粉末状にしたものを水に入れて溶いてみる。成形機を使っても混和しなかったので諦めて脱水。実体化マジッククレイには混ざるが特徴が埋もれて魔力を込めても発火する感じがしない。
結局またどうやって溶かすのかの領域に戻って来たな。仮に水銀に溶けたとしてもその先でどう使って行くのかの問題になる。
液体、液体な。思えばこれも魔力構造的に見ればどんな状態になっているのかイマイチ分からないんだよな。解析した一瞬の構造の次の一瞬にはまるで別の構造になっていて読めない。まあむしろそういう流動的で魔力そのものといったものが液体なのだろう……が、ふむ。
俺は白い魔力を簡単に組み上げ、光弾を作る要領でかつもっと大きく、もう少し流動的で外側をマジッククレイのような柔らかさの魔力構造体をくみ上げて柔軟性の確保と魔力散逸の保護を両立する。
即席で作った白魔力スライムとでも言えそうな代物で発火粉末を覆うと、僅かな反発の後、するりと発火粉末が白魔力スライムの中を漂い始めた。
白魔力スライムの中で発火粉末は次第に色を失って……いや、粉末から赤みがかった色が抜け出て上層を舞い、色味を失って黒い鉱物になった粉末は下層で軽く渦を巻いて漂う。魔力を操作して渦を巻いた黒粉末をそのまま下層から外層の粘土状構造に確保させて、外のクラフトベンチに吐き出す。
手元には白魔力スライムの中に漂う赤い色合いの魔力が残った。
これをどうするか……だが。
この赤い魔力の入れ物……魔力の入れ物と考えると一つ思いつくことがある。
俺は昨日ついでに狩ってきた飛びトカゲの魔石、魔力が10だった、を取り出して白魔力スライムの中に取り込み、内部の魔力を追い出し、抜き出し、循環させるようにしながら内部の魔力の代わりに発火粉末から抜き出した赤い色合いの魔力を内部に込めていく。流れ込む赤い色合いの魔力は最終的に少し外部に残した状態で満タンになってしまったようで、飛びトカゲの魔石だったものを白魔力スライムから吐き出すと。
名称:赤い色合いの魔石
魔力:10
特徴:魔力を込めた意志を火に変える
俺は発火球を作る事に成功した。
ただし、その魔力は魔石が元々持っていた魔力に依存するようだが。
気になる点はある。発火粉末から抽出した魔力は赤い色合いの魔力だった。色味を帯びた魔力というと今まで青色魔力や緑色魔力などの変質させた魔力だったが、ここに来て赤い色合いの魔力は性質が全く異なる。引力や斥力などの性質を持っているのではなく、魔力特徴を持った流動的な魔力構造体を持っていた。色合いは変質した魔力以外も持つのだろうか。
いや、そうか。物理現象でも色を呈するのには複数、というか多種多様にある。単純にその色の波長を持った光から、合成波長から一部の波長が抜け落ちた結果としてその色に見える波長などのように様々だ。これからはそういった可能性も考慮して魔力を観察していかないといけないな。
―――……。
簡単にできる実験は粗方終わったかな。
発火原石を粉末にすると内部の魔力特徴……特殊な魔力構造と言ってもいいだろう。それが遊離発散してくる。
遊離する魔力構造は白い魔力でスライム的な構造を作って覆ってやると散逸を免れて、上手く魔力を制御してやれば発火粉末から抽出することが出来る。
抽出した発火魔力構造は魔力を格納できる素材、魔石や金、通信石などに格納することが可能で、それらの素材へ魔力を流し込むと、意志に応じて成形変化する火を発する事が出来る。
一度発火魔力構造を格納した素材からも上手に魔力制御をすれば発火魔力構造は取り外す事は可能。
魔石を破壊すると中の発火魔力構造が急速に拡散していくが、事前に白魔力スライムで覆っておけば中から出て来た発火魔力構造は捕集可能。
「で、出来たのがこれだ」
「使うの?」
「……正直使わん」
「おもいよね」
「弱いのにな」
クラフトベンチには一振りの剣が置かれていた。
黒灰色の鉄を成形して作った剣身には銀と金であしらわれたヘビのようなツタのような紋様が刻まれている。成形機で三次元絵を描くだけとはいえ、正直絵心なんてないので構想を練ったはいいが行き詰っていたが、アウレーネが色々口出ししてくれて何とかなった。ブドウの刻印だけは却下したけど助かる。せめてヤドリギをチョイスしろ。
紋様の銀は目釘を通って柄まで続き、解析した結果がこれだ。
名称:仮称炎の剣
魔力:5
特徴:魔力を込めた意志を火に変える
うん、弱いよ正直。
だってたくさんドロップしたはいいがイマイチ魔力が低くて使い道のない下層ゴブリンの金銀鉄貨幣やら道中で適当に強殺して得たまま忘れてた鉄の剣やらの鋳潰し在庫処分品だからな。一応きちんと火が出る事は確認した。
こんな武器も出来るかなと思って作ったはいいがやはり金属類の魔力向上方法が見つからない限り実用品にはならないな。結局銅の問題から続くのかこれ。少しずつでも考えないとな……。
なお、作ったはいいがやっぱり使いあぐねた在庫処分品は納品箱行きになった。
返礼品には例の魔力を流せる謎杖の木の苗木が貰えたので良しとしよう。ただし魔力は5だがな。
オルディーナには更に負担が増えるが一緒に育てて貰おう。栄養剤を投げてから割と放置気味だったからそろそろ一回見てやらないとな。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




