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27:実験と実用の境界

 面倒くさくなって何か色々ごちゃごちゃ混ぜて捏ねて雑多適当に念じて作ったらアイテムにレベルが生えた。

 理由はまるで分らない。流石に条件が多過ぎるし、検証するにしても複数の要因の重ね合わせとでもなったら判明するまでにどれだけ時間と手間が掛かるやら。

 作成していてレベルが生えたアイテムというと、チスイザクラの一戦を終えて何か名状しがたい不調になった体調をオカルト的な方法で治す為にやったアホなクラフトの産物であるやけに深い血の色をした液体だが、どこに共通点があるのか全く見当が付かない。

 今これ以上考え込んでも埒が明かないのだけは確かだ。思考はまたレベルが生えたアイテムが作れた時まで取っておこう。余計混迷しそうな気もするが。

 取り合えず出来たものは出来たのでオルディーナ人形に渡して適当に使うよう言い渡す。

 あとは適当に何とかしてくれるだろう。

 それより明日は今日放置していた銅インゴットの続きだ。




   *   *   *




 ダマにならないよう細く小さく尖らせた緑色魔力を慎重に流していく。

 手間は正直青色魔力で置き換えた時とどっこいどっこいだ。青色魔力の扱いに慣れているというのもあるが、それ以上に緑色魔力は繊細な制御が難しい。使うだけなら逆に青魔力以上に容易なのだが。

 昨日は栄養剤作りで日が更けて、今日も一仕事終えてダンジョンだ。宣言通り今日は銅インゴットの続きだな。


 そういえば仕事中に広域無線放送で見慣れない不審物を近くで見かけたら近くの警察署や役所に連絡するようにとの案内が入った。電車でもあるまいに何なのだろうか。テロの脅威でも発生したのかな。気が向いて暇があればその内調べるかどうか検討してもいいかもしれない。


 まあそんなことより銅インゴットだ。昨日は雑念交じりのクラフトで大変なことになったからな。

 緑色魔力を細く小さく尖らせようとしているが、気を抜くとすぐに尖鋭部分が丸みを帯びて集まろうとする。

 緑色魔力による攻撃は打撃や衝撃とは相性がいいが、斬撃や刺突とは相性が良くなさそうだな。

 青色魔力と比較すると遠間の敵への攻撃手段に選択性を見出せない。やはり主な用途は纏って脳筋か。

 だが纏うのは体だけという訳じゃない。今回の銅インゴットがそれだな。

 可能かどうかは作ってから調べる必要があるが、自分のレベルに見合った、可能であればそれ以上の緑色魔力を素材の魔力と置換させたうえで、細く尖らせる、鋭く研ぐなど成形が出来れば纏う緑色魔力で補強された斬撃や刺突も出来るかもしれない。……結局どうあがいても脳筋だが。

 手間とはいえ素材の構造を確かめるように感覚を鋭敏にする必要があった青色魔力の構造置換と違って、緑色魔力は自身が操る緑色魔力に心血を注ぐだけだ。感覚が暇になる分見えてくる事もある。


 魔養ドリンクで一度口を湿らせて、再開してから小一時間。ようやっと今回青色魔力で置換した部分全域に緑色魔力を注ぎ終わった。


 一目見れば分かるほど鮮やかに、作成した緑青魔力置換銅は白く輝いていた。

 銅の赤、魔力の緑と青が合成したのだろうか。作業台として使っていたクラフトベンチから持ち上げようとして、銅インゴットから白く輝く緑青置換銅がぽろりと零れ落ちる。どうやら引力を持つ青色魔力を流しただけの段階では辛うじてくっついていたが、斥力を持つ緑色魔力で完全に構造を構築した段階で未置換部分との結合が殆どなくなっていたようだ。

 合金や複数の素材で緑魔力的な性質を持つ素材を使用する時は両方の素材を自身の緑魔力置換で統一しないと結合力に問題が生じそうだな。


 ともあれ、試検レベルでの緑青魔力置換銅……いい加減長いな、白く輝いているし白輝銅でいいだろう。白輝銅の作成には成功した。問題は二日がかりで米粒サイズという生産効率の悪さなので、量産化の検討だな。

 有力候補はやはり柿渋だろう。推定緑魔力、そうでなくても堅牢な反発力のある構造に青色魔力を反応殻や骨格材ごと作用させなくてはいけないのだから青色魔力の規模は少し大きくした方がいいだろう。その引力に耐えられるよう反応殻も大型化高強度化させる必要があるな。そして骨格材も青色魔力にしなければ。

 今日はもういい時間だから下準備だけして明日試そう。当たり前だが検証作業は時間が掛かるな。




   *   *   *




 結論から言えば銅から白輝銅への置換操作の量産化は失敗した。

 柿渋では粉末銅ですらも反応しなかった。粉末が液を弾いてそもそも反応前段階にすら到達しなかったのだ。

 柿渋の方を調整してみたり、銅を熱して見たりと失敗を重ねた今週だったが、一応進展も見られない事はない。


「液体には、なったんだけどなぁ……」

「たいへんそうだねー」

「お前もなー」


 ぱたりと霊体を寝転がせてそろりと根を魔養ドリンクのコップに伸ばしたアウレーネを尻目にそう返す。

 液体にはなった。銅色がまるで見えない銀色だが。

 銅は大概の液体を弾いてしまったが水銀は別で、粉末化した銅はかなり抵抗したものの水銀の中に取り込まれた。アマルガムという合金だな。

 溶けたからと言って柿渋に反応する訳ではない。そもそも水銀は水ではないからな。

 ここからアマルガム合金内での魔力構造体置換作業を考えるか、一歩戻って柿渋に頑張って溶かす作業を継続するか。悩ましいな。

 ぐてりとした態度のまま魔養ドリンクを吸い取るアウレーネも疲れ気味のようだ。彼女にも難しい課題を与えているからな。

 アウレーネには俺がやったような緑色魔力変質を試みて貰ったが上手く行かなかった。

 どれだけやっても魔力が斥力を持つ事はなかった。やはり魔力変質には一定以上の該当するステータスがないと厳しいのかもしれない。普段は呈色光を見て青色、あるいは緑色として認識しているがどちらもステータスの特性欄にはそれぞれ魔力変質(魔法力、攻撃力)と記載されているからな。流石に攻撃力5では厳しいものがあるのだろう。

 その結果が得られた次には、ブドウの次になる樹木の魔力構造の把握をお願いしている。戦闘に使えそうな有用木材だと呪醸樹やイガグリ、あとは木の杖に使われる謎木材か。少し前から謎木材の構造は見て貰っていたが、まだ構造把握には時間が掛かるらしい。どうも極微量ながら魔力変質が構造に関わっているようで、それの再現に難航しているようだ。俺と状況が似ているな。そちらは少しずつ進めて貰う事にして呪醸樹やイガグリとのにらめっこを今はメインにお願いしているのが現状だ。酒と離れると途端に熱意が薄れるなこいつ。まぁ分かるけど。


 いい加減少し煮詰まって来た。明日は休日だし気分転換に少し第4階層を見てもいいだろう。本当はもう少し準備をしたかったが、現時点でもやって出来ない事はない。

 俺は捏ねあぐねた緩い泥のような合金を別の壷に取り分けて撤収作業を始めた。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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