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26:トランスインクラフト

名称:アシ材成形の小瓶

魔力:19

特徴:魔力を通さない


 成功した。成形にそこそこの魔石を消費したが。

 物質の魔力構造に絡みつく反応殻とその構造を吸引する引力素子、構造体の代わりに嵌り込む骨格素子の3種類の構成因子からなるよう念じて発酵させた柿渋だ。アシは繊維にまで解せばすぐに反応してくれるので助かる。アシ材ではありえない魔力特徴はやはり緑色魔力の影響のようで、今回は構造体を置換する骨格素子が緑色魔力に変質するように込めた魔力を少し緑魔力に変質させつつ柿を圧搾した。推測通りいい結果になったようだ。

 目的は勿論回復薬や魔力回復薬の格納である。

 どうやら魔力濃縮した回復薬などに含まれる魔力は向上すれば向上する程劣化も早まるようだ。先日の第3階層再攻略では2回ほど魔力回復薬を服用したが、その時にアウレーネが僅かな魔力の劣化を察知したのだ。酒が絡むと鋭敏だなこいつ。解析を掛けて貰うと確かに半日ほどの時間で魔力2低下と以前の倍程度の速度で劣化しているようで、今まで雑に入れていた再利用のペットボトルではこれからの探索では問題があることが分かった。

 今回の小瓶はその劣化問題への足がかりだ。成形機で繊維構造の圧縮率を上げたせいかアシの黄色みが残っているものの透明度が出てペットボトルというか硬度的にはガラスと言った方がいいような質感になった小瓶に魔力回復薬を少量入れて、同じく成形して作った封をする。

 作ってはみたものの、実のところ効果の程はそれ程期待していない。

 問題は2つあって、魔力が低いというのが1つ。今までの検証から容器の魔力を超える液体の魔力の劣化は防げないと分かっている。回復薬などは濃縮して作る関係上、俺の実力よりも魔力が高くなる。対して柿渋による魔力構造置換法では濃縮方法の見当が付かないので今のところはどうあっても魔力の劣化は防げないだろうという諦め、もとい予想がある。

 2つ目は小瓶も魔力回復薬も俺が作成した物だという問題で、緑色魔力は自己非自己を識別する斥力力場なので同じ作成者からなる魔力回復薬も自己に認識されて魔力の劣化がフリーパスになるのではという懸念がある。

 とはいえ、今までの利用容器はホームセンターで使えそうな代用品を見繕って買ったりスーパーで買ったペットボトルを干して使ったりと微妙に形状や容量の使い勝手が悪かった。使い勝手が多少悪いからといって自作する程のことでもなかったので代用し続けていたが、今回の魔力構造体変質置換法の成功で、検証や魔力変質の習熟にもなるという理由が付け加わるのでこれからは小分け容器の自作も考えていいだろう。


 試検作成の保存容器作りが一区切りついた所で本命の検討だ。

 銅材。これの魔力置換が出来ないかと考えている。

 金属の魔力置換が出来ないかという試みがまず一つ。

 今回のアシ材の魔力置換でより補強された、銅の魔力構造が緑色の魔力変質を受けているからこその魔力を通さないという特徴なのではという仮説の検証が二つ目。

 銅の魔力向上が出来たら性能検証を行い、十分であれば装甲材として利用したいというのが三つ目だ。

 具体的にはそろそろ筋組織が簡単な粘土外装で被覆されているだけのコブラゴーレムの強度問題を解決したい。待ち伏せしたり裏回りして闇討ちしたりと伏兵起用しているからあまり問題になっては来なかったが、逆に言えばそれは強度不足だから問題にならない使い方しか出来なかったと言い換えることも出来る。

 可能であればこの問題を解決してコブラゴーレムの多用に対するリスクの低減を図りたい。


 俺は改めて銅インゴットを手に取って、青色魔力を流し込もうとする。

 物質魔力を構築するのに目的の緑色魔力を押し込まないのは緑色魔力が魔力構造を形成するのに向かないからだ。こいつは勝手に自己組織化してしまうので繊細な作業にはまるで向かなかった。柿渋の発酵工程でさえ緑色魔力量を増やし過ぎるとダマになってしまった程だ。

 しかし、その過程で一つ面白い事を見つけた。自身の青色魔力は自身の緑色魔力をも誘引する。それ自体は納得できるものだったが、青色魔力と緑色魔力が重なっても実体化が起こらなかった。引力と斥力が噛み合って反応が阻害されるのだろうか。

 よく分からないが利用出来るなら問題はない。実体化が起こらないならば、青色魔力で先に物質の魔力構造体を置換してやって、あとから緑色魔力を少量ずつ流してやれば、青色魔力の構造体が緑色魔力を捕獲して結果として緑色魔力の構造体を構築できるのではないかと考えている。青色魔力を構造補助材として用いるということだな。

 銅インゴットに差し向けた青色魔力は反発を受けたものの、自身の引力も作用してガチリと噛み合う。

 緑色の魔力変質を会得するためにグイグイと押していた時は気付かなかったが、銅インゴットの中でも超微細に見れば反発の強い部分と弱い部分があるようだ。構造的な問題か緑色魔力の強弱でもあるのだろうか?

 ともあれ弱い部分があるならそこを突くのが常道だ。反発の弱い部分を起点に青色魔力を更に微細に尖らせたニードルバキュームで銅の魔力構造体に接近し、構造を突く。完成パズルのピースを外すように構造を千切りつつ吸い込んで、そこにニードル先端の青色魔力を押し込んで置換する。

 時計を確認していたオルディーナが帰宅の時間を知らせてきた頃、銅インゴットの角の先端米粒サイズが淡い紫色に変色が発生していた。……ふむ。

 明日は魔力置換の第二段階だな。

 今日の作業はここまでにしてこの結果を考察する。銅の赤色と青色魔力の青色が合成されれば紫色になるのは不思議ではない。ただしアシ成形材の小瓶やドロップ回復薬の小瓶、もっと言えば緑色魔力変質で構築されていると推測していた銅インゴット自体は特に緑色を帯びた色合いに変色してはいなかったが。もっと言えば青色魔力で魔力構造体を置換した青色魔力氷核や魔粘土核なんかも青色……氷核は元々若干青みがかって見えたから曖昧だが魔粘土核は青みが差しているといった印象はなかった。素材の魔力変質による呈色反応は金属限定なのか。研究が進めば進むほど謎が増えていく一方だな。


 首を傾げるアフロのオルディーナ人形の視線を受けていつの間にか立ち止まって考え込んでいた事に気付き、慌てて撤収作業を再開しした。




   *   *   *



―――直訴。

「お前キャラ変わってない?」


 どこから情報を引っ張ってきたのやらマジッククレイで作った小さな竿に水盆を載せて、頭に生やしたヤドリギがアフロに見えるオルディーナ人形が屈んでふりふりと竿を振っている。微妙にイラっと来る。 

 聞けば樹木用の栄養剤が欲しいらしい。行動範囲を増やすには体、ヤドリギを大きく安定化させる必要があり、ヤドリギを大きくするには当然ながらそれを物理的にも魔力的にも栄養的にも支える大きな樹木が必要だとか。

 正直栄養剤を作った所で樹木の成長など一朝一夕には片付かない気がするが、定期的にブランデーを作っていればゴキゲンなアウレーネと違って割りと放置気味なので、これくらいの要求は受ける事にする。微妙に仕草がウザいが。


 正直植物栽培はまるで見当が付かないが、肥料は発酵させるというし、素材は果実類でいいだろう。そうアウレーネに聞くとよく分からないけどお酒なら欲しいと返って来た。草のくせしてまるで参考にならんなこいつ。

 しょうがないので考える。木材を成長させるには木材の成分が必要だろう。ならば発酵する際には木材を粉末化させて一緒に配合させた方がいいだろう。どうせならとこしえの花びらも混ぜるか。期待した割に微妙に使いあぐねているそれは僅かだが溜まりつつある。浪費するのは危険だが、少量混ぜて作る分には問題ないだろう。

 なんか面倒くさくなってきたな。この際だから植物に関係する素材全部混ぜるか。

 アシは魔力構造置換素材を灰にして配合。焼き畑というし灰成分も植物成長にいいのだろう。多分。花咲じじいが灰を巻いて桜の花を咲かせたというし逆にとこしえの花びらも灰にして混ぜよう。ついでにイガグリの棘や殻も発酵させる時刺さって痛そうだから灰行きで、いや炭でいいか。これもなんか農業で使われてた気がする。

 イガグリを適当に取り出して粘土壷に入れ、超機能恒温機で火の温度……400℃から2000℃程度だったか、徐々に上げていけばいつか炭になるだろうということで400℃から適当に開始させることにする。当然灰になっても意味がないので高熱をかける領域空間内の酸素と水分を排除するように設定して安全のために人体の侵入もカット。設定した瞬間コツコツと硬質な音を立てる虹膜に湧いた疑問をねじ伏せて、温度上昇を開始する。

 徐々に温度を上げていって煙が出始めた所で保温。少し時間が掛かりそうだな。煙は設定で漸減消却させつつ今度は灰の方に取り掛かる。魔溶炉でアシ束と花びら一掴み、それぞれ粘土皿に持って温度を上げていくだけだ。こちらはすぐに整った。

 更に待つ間に呪醸樹の太枝を成形機の機能で粉末状にする。

 更に暇なので魔力回復薬を作り始め、終わった頃合で超高温恒温機の中の反応が収まって来たようだ。出来立ての魔養ドリンクは美味い。アウレーネと一息ホッとする。

 炭っぽく真っ黒になったイガグリを成形機で太枝同様に粉末状にして、ブドウ、柿、灰、炭、木粉末を全部まとめて大きめの粘土壷に混ぜて魔力を込めて掻き混ぜる。……うん、何を念じようか。アイディアが特に思い浮かばない。犬の死んだ灰を撒いたら花が咲くように撒いたらなんかこう、木が活き活きとするようになればいいんじゃないか?多分。そう、根から吸収された木の栄養成分が木に宿って活き活きと生い茂るように。なんかそんな雰囲気で。

 まあ心が籠っていればいいんだよ。結果が出なくても。大体栄養剤作りだって今日突然入ってきた事だしな。そもそも今日は……あっ。銅インゴットの魔力置換を完全に忘れていたわ。今日は青色魔力で構造置換した部分に緑色魔力を微量ずつ流し込んで緑色魔力構造体が形成できるか見る予定だったのにな。まぁ明日でも特に不都合はないんだが。


 おおよそまともに成功するとも思えない雑多な念が行き交いながらも混合物の撹拌が終わったので、スケールクランプで縮小させ、フラッシュボックスで1年、いや3年くらい流すか。倒木が森の土に還るまで1年では短いだろう。適当だけど。

 そんなこんなで色々混じって汚物的な色合いになっていた壷の中は発酵が落ち着いたのか濃い土色の粘性物に変わっていた。うん、これまた別の汚物だな?


名称:濃土色の多分栄養剤だといいなと思っているモノ

レベル:1

魔力:19

特徴:木に命を与え活力を潤す


 ………はい?

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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