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21:リザルトと方針それから変人

名称:深緋色の液体

レベル:100

魔力:100

特徴:応報の魔力と意志を宿らせる


 この危険物はノータイムでマジックボックスに封印した。

 どう考えても今の俺の手に余る。

 納品処分……してドロップアイテムからこんにちはしても困るからな。

 それに強い力はあるようだが悪い感じはしない。強いて言えば良いも悪いもないフラットな印象。

 扱いこなせるなら強い手札になりそうなので、死蔵しておくのが最適解だろう。


 ひとまず最悪の目覚めからの奔走に一区切りをつけて。

 さて、何のためにこんなことになったんだったか。

 そう、ステータスだな。


名前:尾崎幻拓

種族:精霊憑き

レベル:15(↑7)

魔法力:98(↑52)

攻撃力:38(↑13)

耐久力:42(↑12)

反応力:34(↑8)

機動力:28(↑6)

直感力:102(↑55)


特性:精霊契約:アウレーネ、魔力制御、魔力変質(魔法力)、アイスウィザード

スキル:怪力


名前:アウレーネ

種族:精霊

レベル:15(↑7)

魔法力:118(↑58)

攻撃力:2(↑1)

耐久力:32(↑16)

反応力:44(↑19)

機動力:8

直感力:81(↑42)


特性:精霊魔法、魔力変質(魔法力)


 ひとまず表記が戻っていることに安堵の息が漏れる。

 それとステータスが100を超えた。直感力とかいう曖昧過ぎて何の実感もないステータスだが。

 一番実感が湧くのは魔法力だな。以前とは比べ物にならないほど魔力の構築がスムーズで細微になって来ている。青色魔力……魔法力魔力変質ももう意識するだけで練られるようになったな。それでも物質の魔力構造を青色魔力に置換するのは原子レベルの細密さなので大変だが。

 攻撃も仕事中あまり重い物が気にならなくなったので多分効果はあるのだろう。

 とはいえ単純に3倍になったから3倍の重さを担げるという訳ではなさそうだが。


 知りたい事も確認できたし、4日前から突如降って湧いてきた大きな問題も片付いた。

 次の方針の確認時期だな。

 俺はブドウを潰しながら思案を巡らせる。期待していたワインが危険物に変わってアウレーネがおこだから仕方ないね。多分アウレーネ自身に憑いてたホラー的なアレの所為でもあるんだよとは思ったが。


 気になる事と言えば氷以外の魔力構造解析だろうか。果物や植物は複雑過ぎて既に投げたが、純度の高い金属や粘土辺りなら時間をかければ行けそうな感触はしている。有用性で言えば火辺りの構造解析はやりたいところだ。火の杖の中にあった発火球は既に魔力が心許なくて使い物にならないからな。使うなら自作できてからだ。

 あとは氷でも他の物質でも魔力構造をわざと歪ませた場合の変化についても調べてみたい。醸造したワインなどの例があるが、モノ的には似通ったものでも魔力特徴の異なる物品というのが見られる。この魔力特徴の違いは魔力構造の歪みによって生じるのではないかと考えている。氷で魔力構造を模倣出来ているのだって最も整っていて作りやすかった構造だけだしな。

 そうだな、量産出来て余りがちなモノ。回復薬で納品ガチャをやっていろいろな魔力特徴を持つ単純そうな構造を解析、模倣してみるのも面白いかもしれない。

 魔力構造と言えばstarker改め怪力スキルの緑魔力纏いか。あれに取り掛かるのは青魔力を作り出せた魔法力46を参考にして攻撃力が46辺りになったらと考えていたが、場合によっては攻撃力を上げるための修行をするのもアリかもしれない。……気は進まないが。

 あとは、昨日ホラーと格闘しているうちに気付いた魔力深度というか濃度か。あれを意識してみると現在の俺の周りで使われている物品や素材の多くが俺と合っていないのがよく分かった。木の杖の物足りなさ何かが筆頭だな。どうにもアウレーネの解析する魔力はその魔力深度を反映しているようで、魔力の数値が低いほど物足りなく感じるようだ。

 特にマジッククレイが痛いな。自由変形可能なマジッククレイはあちらこちらで頻用するもののその魔力深度は非常に浅くて、俺が流した魔力に対して全然受け止め切れていないのを感じる。

 どうにかしてここら辺の魔力深度を受け止める許容量を増やせないか考えてみたい。

 あとは素材の検証関係だろうか。昨日手に入ったチスイザクラの枝とかそこから塵積もな花びらとか。


 圧搾とろ過が終わったので縮小化してフラッシュボックスで3年間。この作業ももう慣れたものだ。毎日のようにやってるからな……。

 虚空を見遣っている間につまみはゼロに。取り出して……うん、ちょっと昨日のトラウマが蘇ったから念のためアウレーネに解析を依頼する。


名称:魔力ワイン

魔力:15

特徴:命が癒される


 ふむ……。いや、安心した。安心したが魔力が15、か。以前、魔力ワインの魔力が7から8へ僅かに上がった時、気になってはいた。ここに来て8から15に上がったという事はつまり、魔力ワインが持つ魔力は俺のレベルを反映している可能性がある。

 そして当然ながら、ワインの材料になるブドウは今の俺の魔力深度に合っていない。合っていないがそれでも一定値まで作った後ワインとして反応させると生成物の魔力深度が推定俺の魔力深度と同じになっている。

 ブドウなどの持つ特徴を上手く利用してやれば、既存の物足りない素材の改善をしてやれるかもしれない。

 うん、今の最優先はこれだな。

 じっと見つめるアウレーネを抑えて蒸留器に注ぎ込む。

 お前はブランデーだろ。ワインの魔力も高まった事だし更に高魔力な回復薬が作れる可能性がある。今は蒸留して薬効を残渣側へ濃縮させたい。


 結果魔力25の回復薬が作れた。不満はない。十分な結果ではある。しかしいつもなら最終的に倍くらいには濃縮出来てたんだけどなという思いもある。やっぱりフィルターなんかの質の限界なんだろうか。もしそうなら影響が出始めているのだし早急に取り掛からなければいけないな。

 いそいそとフラッシュボックスからブランデーの入った小瓶を取り出そうとするアウレーネを尻目にそう決心した。




   *   *   *




 それは何とか素材の魔力を上げようとして失敗し続けていた日々が続いた後の事だった。

 日が空いたのでまた第1階層に木が生えてるなと思いつつもファッキン満開の桜ではなかった事にほっと胸を撫で下ろした時、不意にアウレーネが首を傾げた。


「……いる?」

「え、何が?」

「わたしと同じ、の」

「宿樹精はまた……最大数更新して6体くらい茂っているが」

「そうじゃなくて。んーぅ……、意志がある。かんじ?」


 ……え、マジ? 詳しく聞いてみると6体茂ったヤドリギの右の外れの梢の先で茂っている個体に意志が感じられるらしい。

 ボスエリアの広場の前、木道の曲がり角を曲がった直後なのでまだ宿樹精の霊体が現れていないので分からないが、ボス戦が始まったら注意深く見てみよう。


 いつもながら威勢のいい咆哮を上げて気炎を上げる宿樹精とそれを狼煙にしてふわりと枝振りに腰を下ろす宿樹精たち。そういえばアウレーネとモブ宿樹精はあまり顔かたち自体は変わらないがアウレーネは表情が良く変わる分受ける印象がまるで違うな。あとそう言えば気持ち霊体の色が濃くなって髪の毛が伸びてる気がする。レベルが上がったからか?

 それはそうとして枝の鞭の射程圏外だからか景気よく放ってくる白い光弾も最早賑やかしにもならない。胸の前に構築した青色魔力氷に吸われて僅かにひんやりした空気を醸し出して儚く消えていくだけの存在だ。片手間に倒されて復活までに数日かかるボスを用意するのもダンジョン的に手間なのだろうか。ファッキン桜を置きたくなる気持ちも分からないでもない。工房前の通路に置くのは許されざるが。

 そんなアホな事を考えながら、そういえばアウレーネの同類がいるって話だったと右の外れの梢の先に目を遣る。


 ぶら下がった白い霊体の幼い少女と目が合った。


「……アレ。お前の同類?」

「ちがう。……けどちがわない」

「現実逃避したくなる気持ちも分からんでもない」


 右の外れの梢の先の緑黄色に茂ったヤドリギの隣……の下に逆さ吊りでぶら下がった幼い姿の幼女が首を傾げながらこちらを見ている。首を傾げたいのはこっちだよ。

 霊体だからなのかそこまで意識していないからなのか古代の貫頭衣みたいな服は重力方向が枝の方を向いて、つまり重力に反逆して流れているが、肩ほどの長さの髪の毛はぶらりと垂れ下がっているので、丸く茂ったヤドリギと相まってどこぞの祭囃子のふさふさのように見えなくもない。

 率直に言って変人だった。

 正直あまり関わり合いになりたいとは思わないが、レーネ以来初の仲間になりそうな精霊だし聞いてみるだけは聞いてみよう。反抗的なら即光の泡に返すが。

 そうと決まればさっさと逆さ吊り幼女以外のヤドリギに氷の礫を投げつけて光の泡に返す。……そこ、逆さ吊りのまま腕組みして一つ頷いているが状況分かっているのか?

 思い切り気勢が削がれるが、気を取り直して呪物しっぽフレイルを……そういえば今まで呪液を吸い取ってからしか倒してなかったが、これも一種の強殺スタイルだったな。何気にドロップの質が悪くなっている可能性がある。呪液はもう予備も含めて大分溜まり、呪樹皮に包まってマジックボックスの肥しになっているし今回は脳筋攻略で倒して見るか。

 非常にクレバーな脳筋解答。人の頭をスイカ割りに出来そうな雹サイズの特大氷の礫を作り出して呪醸樹の樹洞に射出。クロスした枝の鞭ごと樹洞の中に突き刺さった氷の礫は辺り一帯に雪化粧を施して。

 あっさりと呪醸樹は光の泡を吐き出して消えていった。


「さて、お前はどうする?」


 呪醸樹が消えた直後、無駄に洗練された仕草で空中捻りを加え、ぽふりと落ちたヤドリギの隣で直立着地した変人宿樹精は俺の問いかけに対して組んだ腕から顎に手を遣って首を傾げる。


「憑いてくるなら精霊契約するが?」


 暫く目を瞑って頭を揺らしていた変人だったが、ややあって目を開き、こちらを見つめてゆっくりと首肯した。


「そうか…まあいいさっさとやるか。魂魄あい結びて奇福の縁を、―オルディーナ。その名その命。この身この魂尾崎幻拓に、…………従え」


 名前は勿論どこぞの木に逆さ吊りになってた変神の名を捩った。パクり魔ダンジョンなら案外アレをイメージしていてもおかしくはないし丁度いいだろう。

 アウレーネの時はヤドリギだし宿れ、でいいかと考えたが、こいつを宿らせると何か……何かいらんハプニングが目白押しになりそうで躊躇った。元ネタのゲーム的にも精霊種ごとで締めの表現が変わってたし変人とアウレーネは別種という事でいいだろう。


 繋いだ手のひらの間で緑青色の光が溢れた。魔力的な繋がりが出来たのを感じて、光は収まった。

 目を開けるとそこには依然として転がるふさりとしたヤドリギと見上げる腕組みの幼女。

 ふむ……。躊躇ったのは確かだが俺の体内には宿らなかったな?

 聞いてみようかと思ったが、アウレーネと違い胸中での意思伝達は出来なかったのでどうしたものかと考えた結果、コブラゴーレムから通信石を借りてきて握らせたら解決した。

 そして聞いた結果、木に宿るヤドリギがヒトに宿れる訳なかろう?というド正論が返って来た。せやな。


「だってよレーネ」

「わたしも知らないし」


 まあアウレーネはその時不思議なことが起こったという事で終わっておこう。なんか面倒くさそうだ。

 けれども結論としてオルディーナには別の宿主が必要なので少し考えた結果、工房の庭に植わっている若木のどれかに根付いて管理して貰う事にした。果樹林や苔島から拝借してきた若枝はしっかり根付いて少しずつ育っているらしい。気にしていないから気付かなかった。それでも気が向いた時に管理してくれるようお願いしていたアウレーネはしっかりと把握していたようだ。ひとまずアウレーネにはオルディーナに引継ぎを任せる。


 さてゴタゴタは済んだとドロップを回収しようとして、呪醸樹の跡地には通常転がっているはずの太枝はなく。

 代わりに似た木肌をした若葉を広げた苗木が直立していた。


名称:推定呪醸樹だった木の苗木

レベル:1

魔力:5

特徴:呪いの力を受けない


 呪醸樹の太枝の特徴も受け継いでいるようだ。成長したら開いた樹洞にどこぞから髑髏が飛んできて呪液を醸し出すようになるとか止めてくれよ。面倒くさそうだ。


 扱いあぐねた俺は、この苗木が根付いたらオルディーナにこちらに移って面倒な事にならないよう管理して貰う事にして、ひとまずこの推定呪醸樹の苗木を工房の庭の隅、木道の邪魔にもならず工房からも少し距離を置いた奥の方の一角に植えることにした。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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