表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/165

20:リザルト失敗と払暁禊

「ふぅ……じゃあレーネ。これらの解析をお願いしてもいいか?」

「……いいの?」

「いいのいいの。もう少しだけ現実逃避させて」


 投げやりな相槌に困惑しながらもアウレーネは小さなヤドリギを生み出して、チスイザクラの消えた後に残された握りやすいサイズの花びらが舞い散り続ける若枝に生やす。


名称:とこしえの綻枝

レベル:20

魔力:20

特徴:咲いては散り続ける


名称:とこしえの花びら

魔力:20

特徴:魔力と意志に応じて変化する


 仮称とこしえの綻枝は喰投猿と同じでゲームのドロップとよく似ている。

 ゲームではイベントアイテムだったが、ここではどうだろうか。特徴からして魔力と意志でどうのこうのは出来なさそうだ。

 ただ、念のため確認した綻枝から散り続ける花びらも解析した所、多用している果実類と似たような特徴を持っていることが分かった。今のところ本命はこちらだろう。

 何かアイテムのくせしてレベルを持っていたりとかそのレベルと魔力が重装ゴブの4倍していたりとかツッコミどころは多いがこちらはこれでヨシッとする。


 そして転移象形、改め転移の……なんだ、言語塔? ともかく日本語や英語を含む様々な言語で進むやら前へやらを意味する文字が一段一段積み上がって見上げた先まで続いている。

 闇鍋文字は無くなっていた。多分ようやくごちゃ混ぜにすりゃ伝わるやろとかいう雑な対応では伝わらない事を理解したのかもしれない。お利口だね。上の方の言語話者は見上げ過ぎてその内首の骨折れそうだけど。

 初見は見上げる程の文字の羅列とかいうあまりの異様な光景に面食らったが、慣れればまあ分かる。改善の寄りはあるけど。


「……ねぇ」

「あーあー、聞こえない」

「でもこまるよね?」


 ……それはそう。

 ドロップも転移象形もツッコミ所があるだけで問題ではない。


名前:尾崎幻拓

種族:?憑き

レベル:?

魔法力:?

攻撃力:?

耐久力:?

反応力:?

機動力:?

直感力:?


特性:精霊契約:アウレーネ、魔力制御、魔力変質(魔法力)、アイスウィザード

スキル:怪力


名前:アウレーネ

種族:?霊

レベル:?

魔法力:?

攻撃力:?

耐久力:?

反応力:?

機動力:?

直感力:?


特性:精霊魔法、魔力変質(魔法力)


 ステータスがまるで読めなくなっていた。

 いや、むしろ転移象形が言語を実装したのを受けてか各文字は日本語になっている。スキルのstarkerも含めて。

 その代わりに数字の方が一瞬表示されたかと思うとまた消えて、もう一度表示されたと思ったときには先ほどとは別の数字が出て安定しない。そのような異常が全てのステータス項目で現れていた。

 この現象、似ているのは通信石だろうか。あれもレベルと魔力が変動していたらしい。アウレーネに聞いてみるとそう言えば確かにと思い出していた。

 そして、種族。憑きは固定だが何が付いているのかは精霊だったりよく分からない闇鍋文字だったりとにかく不気味な文字が踊っていた。

 ……原因として考えられるのは、お悩み相談かなぁ。

 荒唐無稽だしゲームの存在がリアルになっただけでなぜとも思うが何か霊的なモノに手を出して憑かれるってお話し的にはある意味お約束みたいなものだし。

 なんか魔力的なお祓いでもした方がいいんだろうか。

 しかしステータス的には大変なことになっているものの、体感的にも精神的にもちょっと不調かなくらいの感触しか今のところは感じない。勿論魔力も含めてだ。

 アウレーネの方も同じ感じらしいので移動する分にはまだ支障はないだろう。

 ひとまず工房への移動を決めると、アウレーネも酒を期待してか諸手を挙げて賛成した。




 お祓いと言えば何だろうか。

 とりあえずチスイザクラのトリガーハッピーを鎮めるのに使った注連縄は持ってきて俺の周りに巡らせておいた。効果があるのかは知らん。

 隣ではアウレーネ人形が抱えたコップに根っこを伸ばして久々のブランデーを堪能するアウレーネが。

 そういえば、お神酒というのもあるし、酒は結界だのなんだのと魔除けに使われることもあった気がする。うろ覚えだけど。

 3日間を取り戻すかのようにブランデーを……いやそういえばここダンジョンじゃねえか。何呑んで、はいすいません。3日間工房に戻れなかったのは確かだからね。仕方ないね。

 ……まあいい。いずれにしても遅かれ早かれブランデーは作る事になっていたんだ。今作ったって不都合はあるまい。

 俺は諦めてマジックボックスから貯蔵していたブドウを取り出した……。




 正直早計だったかもしれん。

 いや体感的にはちょっと不調かなーくらいだったんだよ。

 だがこの不調の本当の異常は酒造りを始めた段階で初めて露わになった。

 魔力がすっごい込めにくい。

 動かしにくいのではない。それだけなら愚直に押し込む脳筋解決も出来た。

 てんでバラバラなのだ。ある時は何か血栓でも詰まったかのような流れにくさになったかと思えば途端に鉄砲水のように溢れたりする。その制御が効かない暴れ川のような魔力も何というか……存在深度というか、同じ魔力だが濃度のような物がある。……むしろある事を今の異常で初めて知ったわけだが。その存在深度だか濃度だかも流量とは別で無秩序に変動をする。

 何だか今まで憑いていたホラー的なファンタジーが一斉に牙を剥いてきたような感じがした。


 すっげえムカつく。


 恨み辛みはあるだろう。どんな背景があるのか知らんし、そもそも4日前に突然生えてきたダンジョン産物にフレーバー以上の背景があるとも思えんけど。それでも恨み辛みは恨み辛みだ。

 だがそれをなぜ俺が背負わなければならんのか。

 俺は理不尽が嫌いだ。不公平が嫌いだ。敵意には敵意で返す。

 そう。応報だ。

 この作業を妨害する暴れ川に潜む敵意に対して敵意で圧し、ねじ伏せる。流れを堰き止める塞栓を害意で陥穽し、途端に暴れる魔力の流れを敵意で威圧し押し留める。

 全ては応報。俺の意に沿わない俺の胸中に潜む敵意に対して俺はひたすらにやり返す事で酒造り……壷の中のブドウを掻き混ぜ続けた。




 一区切りが付き、まだ魔力の流れの波は大きいものの、俺の意志に応じて従順になった頃。

 時計のアラームが鳴った。

 まもなく出勤の時間だ。寝てないけど。

 不眠不休で魔力と格闘し続けたので全身が皮脂塗れで気持ち悪い。あと仕事に一区切りついた後の反動と相俟って作業に支障が出る程眠い。

 ……ここはここ数年切っていなかった諸刃の剣の切り札、体調不良につきの有給休暇を切るべきか。

 自己を律する事が出来ない奴が安易にこの札を切ると瞬く間に朽ち腐っていく。

 切るにしてもセーフティが必要だ。

 なぜこんな事態になった?

 チスイザクラの所為だ。チスイザクラの第三段階、血の池の所為だ。血の池で受けた推定メンタルデバフ、おそらくホラー的な何かの所為だ。


 ……つまり、俺が相手を舐めて掛かって余裕ぶり、大量のメンタルデバフに対して何の対策も取らずにいたせいだ。

 対策を怠った結果がこの惨状だ。

 ……っし。攻略前には最大限の対策で相手を圧倒すること。

 心に刻み込んで、俺は自室に帰り。


 ――なるべく死に体のような声音を出して有休の一報を入れた。


―――。

――――――……。


 ……多分一区切りついた所で気が抜けていたのだろう。

 何を思ったんだったか……。あとは寝かせるだけだなと思った事だけは覚えている。

 だが、どこをどうトチ狂ったのか。

 フラッシュボックスの設定を無限にして通信石で魔力を送り込めば寝てる間も寝かせ続けられるヤッロ。

 などと考えて実行してしまったのはもう気でも狂っていたとしか言いようがなかった。

 出勤前朝一で仮眠して目覚めたのは10時半。3時間程寝ていたといった所か。

 目覚めは二日酔いのような最悪の気分だった。魔力枯渇だ。

 冷蔵庫に常備していた魔養ドリンクが無ければこの工房まで来ることすら覚束なかったに違いない。

 そして押取り刀で駆けつけてフラッシュボックスを止めてはみたものの……。

 正直開けるのが怖い。

 一体無限時間設定で3時間魔力を送り続けて何年間経過しているのだろうか。

 そもそも酒は醸造するにも最適な時間というものがあったはずだ。

 数分で程よい発酵具合になる時間の進みで3時間も垂れ流すのはどう考えても失敗だろう。


 恐る恐る開けたフラッシュボックスの中は……、案外穏やかだった。

 腐敗の刺激臭や発酵の爛熟した匂いは漂ってこない。

 スケールクランプで手乗りサイズになった壷の中には深い色合いの赤い液体が溜まっていた。


名称:深緋色の液体

レベル:100

魔力:100

特徴:応報の魔力と意志を宿らせる


 何がどうしてそうなった……。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ