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163:策略を束ねて踊る

やっと倒せたので更新します。2/3

「だァーッ! 畜生がよ……」


 真黒だった視界が一転して黄昏色の鬱金天井へと変わる。

 眼下では抜け殻として残してきた人型結界が黒い三本爪の捕獲ユニットに群がられてごま団子のように成り果てた代物がドグラマグラの大口の中に収まった所だった。


 正直相性が悪い。


 纏っていた極小の人型結界を拡大させて空間歪曲を直し、結界内から抜け出る。


 そこを見つけたとばかりに引っ付いてきた黒い三本爪を曙光の華剣で焼くも焼け石に水だ。

 次手と接近してきた三本爪から距離を取るように動くも包み込むように形成された包囲網のどこに逃げてもこの鬱陶しい捕獲ユニットがいる。


 それらがドグラマグラ本体の周囲全域に散らばっているからまあやりにくい。

 周囲の捕獲ユニットが三々五々集まり始めているのを見て、今の内に念動ドローンを淵源複製して逃がす。すぐにここにも斥力焔の全力出力でも埒が明かない勢いの捕獲ユニットの群れが殺到してくるだろう。

 正面から接近してくる捕獲ユニットへ敢えて曙光の華剣を突き刺しながら通り抜ける事で流動的に空いた間隙へと飛び込んだ。


 ……多分。歪曲人型結界から抜け出る必要なかったな。


 捕獲ユニットが周囲一帯に広く分布している分、局所的な密度は魚群の様な黒片だった時よりも薄まっている。

 それでも人間大のサイズが全力機動するには手狭ではあるが、逆に言えばフィギュアサイズの大きさであれば比較的対処のしようがあるのはサブ人格に制御させている念動ドローンが捕獲ユニットの合間を縫うようにして逃げ切っているのを見ても明らかだ。


 再び人型結界を纏い、内部に空間歪曲を作り出しながら同時に人型結界を縮めて行く。

 その間隙に迫って来た結界内視点からは見上げるサイズ程になった捕獲ユニットを躱してその場を離脱する。

 歪曲空間でサイズを誤魔化していても出力は等身大だ。機動力に支障はない。


 サイズを誤魔化して逃げ続けるメタルゴーレムを追い込もうと包囲網を徐々に厚くし始めた捕獲ユニット群の影で念動ドローンをこっそりと裏回りさせ―――。


『ギュォオオオオオ!!??』


 転移と同時に曙光の華剣の剣身を歪曲空間から突き出して目の前の黒を薙ぐ。

 植物体の時には切創面以外特に大きな反応はなかったはずだが、今回は困惑するような唸り声の様なものが聞こえてきた。痛覚情報も連絡し合っているのだろうか?


 そう思い、適当にトカゲであれば脳が存在しそうな部位めがけて移動しつつ撫で斬りにするものの、傷口を泡立たせながら震えるばかりで大した反応は得られなかった。

 脳という中枢がないのかそれとも表面が分厚過ぎてそこまで届いていないのかは分からないが、これ以上の手札はないので残念ながらこれまで通り地道に削るしかないようだ。


 巨体表面を飛び回りながら曙光の華剣で焼き入れて行く内に、ドグラマグラ至近の捕獲ユニット密度が高くなり過ぎてしまったので一端念動ドローンを上空に飛ばしてから転移で距離を取る。


 もう少し攻め手が欲しいな。


 捕獲ユニットの群れは既に上空に転移したメタルゴーレムに気付いているようで包囲網を維持しつつそれを膨らませる形でこちらへと手を伸ばしてきているが、ここまで来るまでには今少し時間がかかるだろう。


 少し魔力消費が大きいものの今の内に試しておきたい。

 折よく唇に硬質な感触が当たって来たのでユキヒメに礼を言って……これは魔養ドリンクだな。魔力を補給しつつ淵源複製で上空に金の杭を描いていく。


 材質はオリハルコン。

 鋭い先端はさておき柄の中ほどに開けた無数の孔は半田ごてのようにも見える。

 まあ、焼き入れるという用途については類似している。


 柱剣サイズのオリハルコンの杭を重力に任せて落下させれば、愚直に食らい付こうとした捕獲ユニットを幾つも巻き込んでドグラマグラの大口の上部を貫くように突き刺さる。


 ふむ、あそこまで刺さっても無反応な辺りはまだ性質としては群体生命体なんだろうな。


 その巨体を貫いたオリハルコンの杭を何のリアクションもなくむしろ体内に取り込もうと蝕んでくるドグラマグラを眼下に眺めつつ、……魔力を送り込む。


 オリハルコン杭の芯に据えた念動ドローンを介して杭の中空に詰められた金鱗に魔力が充填され、溢れ出た斥力焔は出口を求めて無数の細孔へと殺到する。


『キィォオオ!!??』


 突如金赤色の火を噴き出したオリハルコン杭に流石のドグラマグラもダメージを負ったのか呻き声を上げる。

 オリハルコン杭を包み込もうとでもしたのか迫り上がっていた刺突点が斥力焔に焙られて退縮し、なおも表面を泡立たせている。


 こちらとしても結構魔力消費の大きい手段なのであまり景気良く斥力焔を使う事は出来ないが、オリハルコン杭はそれなりの強度なのかドグラマグラの体内にあっても侵蝕速度は比較的緩やかなので数分程度なら金鱗を守る網籠として機能してくれるだろう。


 黒い粘性体の表面の泡立ちが収まり、性懲りもなくオリハルコン杭を包み込もうと肉が迫り上がって来ようとしたタイミングで、唐突にドグラマグラの肉体が崩れて平原一面にべったりと広がる。


「あー……。勿体ねぇ」


 もう一度ドグラマグラを焙ろうと魔力を込めたオリハルコン杭が斥力焔を噴き上げながら突き刺さる寄る辺を失って平原に横倒しになった。


 形態移行だ。間の悪い。


 第三形態。通称挟撃形態は元ネタでは対策をしていないと中々攻撃が届き辛い防御重視の形態だった。


 平原一面に広がったドグラマグラの肉体の一部が唐突に盛り上がってそのまま千切れて空中に跳び、狙いを定めて大口を開けるとオリハルコン杭の柄に喰らい付く。

 一応こちらもタイミングを合わせて斥力焔で応戦したものの、残念ながらオリハルコン杭は体内に刺さって効力を発揮するように設計していた。

 自重を上乗せして降って来るサンショウウオのような大口が、噴き上げる斥力焔に焙られながらもオリハルコン杭の中ほどにぶち当たり、流石のオリハルコンもみしりと嫌な悲鳴を上げた。


 形態移行による変化は空でも並行して起こっていた。

 周囲に包囲網を形成しようとしていた捕獲ユニットたちが次々と集まって癒合し、3羽の黒く大きな猛禽類へと姿形を変えて周囲を旋回し始めた。


 地面からの伏撃と、空中からの強襲。

 これが通称挟撃形態と言われる所以だ。ゲームでは鳥はさて置き地面の奴はターゲット出来なくて苦戦した記憶がある。


 とはいえここはゲームではなく現実だ。

 平原一面をいつぞやの泥海のように覆っているドグラマグラも当然ゲームと違って狙う事は出来る。

 とはいえ斥力焔を上げ続けるひしゃげたオリハルコン杭から一端距離をとってこちらの攻撃を回避するという手段も取り始めたのが厄介ではあるが。


 そんなことを考えていると3羽の猛禽が旋回を止めてその場で滞空した。


 強襲って雰囲気でもない。何のつもりだ?


「これ、ヤバいかも。逃げて!」


『キィオ! キィオオ!』

『キィオ! キィオオ!』

『キィオ! キィオオ!』


 滞空した猛禽たちの嘴が開かれると口々に甲高い声を上げて鳴き始めた。


 それと同時にメタルゴーレムの制御が覚束なくなる。


 原理は分かる。

 俺が対精霊戦術で用いている同調氷晶と同じ、黄色同調魔力の同調圧で制御を奪いに来ているのだろう。


 こちらも応急的だが通信石を通じて黄色同調魔力を賦活させて抵抗し、最低限の制御だけは確保する。


 いつまでも猛禽たちの中心にいるのも得策ではない。

 わざと滞空を維持していた念動と巡航推進器をオフにすることで重力に従い落下する。

 猛禽たちは相変わらず鳴き続けているものの、距離が離れるにつれて徐々に抵抗が功を奏して制御が回復してきた。


 あとは。


 バぐンっ。


 狙いをすまして下から迫り上がって来た大口の中からどう脱出するかだ。




「すまん。気付けの方頼む」

「うん……頑張って」


 唇に筒が当てられ、傾きに合わせて流れ込んでくる辛口の液体を嚥下する。取り巻いていた倦怠感が爽快感に引き締められて身体に再び魔力が巡っていくのを感じながら、生み出される先から魔力を捻り出して通信石に注ぎ込む。


 みしり。


 そう悲鳴を上げて歪み始めていた人型結界に斥力焔を満たし、内圧を上げて補強する。


 視界に映るのは揺らぐ焔以外黒一色だ。

 端的に言えばドグラマグラの腹の中と言った所だろうか。


 腹とは言っても群体生命体なので腔洞がある訳でもなく、結界の周囲は一部の隙もなくドグラマグラの身体が覆い尽くしている。

 厄介なのは赤色魔力が透過出来ずに周囲を探れない事か。

 それどころか逃走用に逃がしておいた念動ドローンとも同調が取れない。


「相手も結界使ってる。げんたと同じやつ」


 アウレーネが浮かんだ疑問に答えを返す。

 俺の人型結界内は定義次第でおよそ何でもアリな万能性を持つ。

 そこから考えれば俺の魔力の一切を封じ込める結界で俺の人型結界周囲を覆い尽くしたとかそんな所だろうか。


 警戒はしていたが想像以上の危険度だった。


 波のような響きと共に圧が強まって人型結界を歪め、侵蝕が強まる。

 対抗して更に斥力焔を捻り出すものの、ドグラマグラの圧力は時間を掛ければかける程強まっていくようだ。

 もしかしたら周囲に広がった粘性体が続々と集まって来ているのかもしれない。


 端的に言って詰んでる。




 つまり切り札の切り時(・・・・・・・)という事だ。


「コクリ。開放頼む」

―――いいのか?

「こっちはこっちで何とかする。……都合のいい事に壁も手厚い(・・・・・)ことだしな」

―――……分かった。


 軽口に返って来た肯定を受けてこちらも準備を整える。

 人型結界の空間歪曲を更に強めて余剰空間を作り出し、紺鉄鋼の外殻、斥力焔の緩衝空域に加えてメタルゴーレムを覆う球形の橙色空間魔力を張り巡らせる。


―――開放……今!


 コクリの合図と共に張り巡らせた橙色空間魔力球の表面を同調させれば衝撃や飛来物を反対側へと受け流す転移球面の完成だ。俺の魔力に同調した物に限られる欠陥品ではあるが、そこをサポートするのが斥力焔の緩衝空域だ。


 衝撃。


 四の五の考えている内に、人型結界表面にそれまでとは異なる衝撃が走り、大量の礫が高速で内部に突き刺さって来る。

 殆どは紺鉄鋼の外殻で防げるだろう。


 だが。


 斥力焔の緩衝空域を何かが高速で通過していった。

 転移球面には掠らない軌道ではあったが音速を越えた衝撃波が転移球面の反対側へと抜けて行った。


 材質を考えれば(・・・・・・・)然もありなん。


 紺鉄鋼の外殻に魔力を補充して穿孔を塞ぎつつ、次の衝撃に備える。




 最も強かった衝撃波は最初の数粒で、直に紺鉄鋼の外殻に弾かれる程度に収まった。


 既に人型結界周囲を覆っていたドグラマグラが張り巡らせた結界は崩壊していたので、早々に離脱して上空を目指す。


 幾つか落ちてきた飛来物が紺鉄鋼の外殻に弾かれるのを感じながら上部だけを残して外殻を取り払う。


 見下ろす景色は……、まあガラリと様変わりしていた。


 見渡す限りの草原だった地平は、視界の先まで燻ぶり立って所々では火の手も上がっている。

 未だに火の手を上げる瓦礫は目線を下げるにつれて徐々に数と大きさを増していき。


「やっぱヤベえな」


 足元直下にはガラス質にまで焼け焦げた巨大なクレーターが広がっていた。


 所謂メテオという奴だ。


 仕掛けは単純。転移門の間に大質量のオリハルコンの塊を淵源複製しておくだけだ。

 多少オリハルコン塊が衝突時に榴弾になるように細かく構造を調整したり、安全に保持するための筐体として用いた垂直に立てた腕型結界の歪曲空間内を真空条件にしたりと小細工は弄したが。

 あとは第9階層残光平原であってもしっかりと仕事している重力がドグラマグラとの戦闘開始から衝突の瞬間まで加速度を蓄え続けてくれた。


 標的があまり動かないという条件がないと採用し辛いが我慢して第三形態まで溜め続けた甲斐あって効力は予想以上だ。

 衝突の衝撃波そのものはドグラマグラの身体が盾になっていたがそれでも榴弾になったオリハルコンの小片が紺鉄鋼の外殻を突き破って来るくらいだからな。

 衝撃の瞬間フィギュアサイズの人型結界内の空間歪曲の強度を強めていたので結界の外側からは豆粒サイズにしか見えていなかっただろうメタルゴーレムを覆う転移球面にも至近弾の衝撃波が通過していったのでおおよそ満遍なく加害出来ていると見ていいだろう。

 火の手を上げ、燻ぶる瓦礫の中には黒いタールのようなこびり付き……ドグラマグラの肉片も混じっているようだ。


 これで片付いてくれれば良かった……のだが。




 そうは問屋が卸さないようだ。


 散らばるこびり付きが光の泡に還っていないからな。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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