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160:掌の上で踊る

『うん。こんな感じでいいんだよね?』

「がッ! ……っクソ天使がよぉ」


 加速をし直して柱剣を蹴り、クソ天使に肉迫した刹那。

 突如俺とクソ天使との間に出現した黒色の巨大な鉄塊……紺鉄鋼のキューブに、減速する暇もなく衝突する。

 メタルゴーレムと言えど中身には軟性の素材も使っている。憑依させていたレベルの変質魔力で作成したサブ人格が骨格筋がひしゃげるほどの変形に伴う違和感を伝えてくる。


 先ほどまで何でか知らんがやってこないなとは思っていた。


 あの勇者氏だって出来るんだ。

 俺が作り出したこの人型結界の空間内(・・・・・・・・)を一部乗っ取る事で自由自在に物質を生成してクソ天使が利用してくる事は想定していた(・・・・・・)


 恐らく今までは本当に手加減していたのだろう。


『そら。呆としていないで』


 ひしゃげた骨格筋を淵源複製し直してメタルゴーレムを修復している間にクソ天使が燐光する羽毛の雪崩をけしかけて来たので衝突で凹んだ紺鉄鋼のキューブを蹴ってその場を離脱する。

 置き土産に残した金鱗の斥力焔爆弾と食い合って迫る羽毛の勢いが止まった。


「水頼む。…………ありがと」

「…………ん。頑張って」


 言われるまでもねぇ。

 が、ユキヒメにそう言って貰えると励みにはなる。


 染み渡る魔力回復薬が爽快に全身を焼き回り、魔力が枯渇しいつの間にか冷えていた肉体に再び熱を灯す。

 病みつきになりそうだからあまり頼りたくはないが、控えめに言ってクソ気持ちいい。


 魔力回復薬で補給を済ませると、クソ天使の方も準備が終わったようだ。


『今度はこちらから行くよ』


 クソ天使がそう言うと、いつの間にか頭上に生成されていたトラックサイズの金色のオリハルコン槌が重力に念動の加速を加えて振り下ろされる。


 腰部推進器と巡航推進器を全力稼働させてその場を緊急離脱すると、その動きを読んでいたのだろう、左下から突如生成された金色の槍衾が突き出されて紺鉄鋼の外部装甲を抉り取る。

 多少の損傷は考慮せずに突き刺さった槍を強引に払い、次手に仕掛けられていた先ほど同様トラックサイズのオリハルコン槌を曙光の華剣で増強させた膂力とこちらも同様に曙光の華剣を核として増幅巨剣化したオリハルコンの質量で強引にぶっ飛ばす。

 僅かな隙で魔力をメタルゴーレム全体に素早く循環させることで紺鉄鋼の素材そのものの修復力で抉れた外部装甲を修復させた。


 クソ天使は人型結界内の権能を自由に使えるものの、使いこなせては(・・・・・・・)いないようだ(・・・・・・)


 再び迫って来たオリハルコン槌と回避した先のオリハルコンの槍衾をいなしつつ、もう一度クソ天使に切り込むための距離と速度を稼ぎ直す。


 時間的にはいい。あとはタイミングだ(・・・・・・・・・)


 置き(・・)の生成物を適宜銀腕を引っ掛ける事で柔軟に回避して隙を窺い、クソ天使の視線が切れたタイミングで柱剣を蹴って再び肉迫する。


 白閃。曙光の華剣の増強した膂力を乗せた一薙ぎは、確かにクソ天使の身体を捉え。


『―――使いこなすって。こんな感じかい?』


 ぱさり。

 胴体泣き別れになったハズのクソ天使は苦痛の表情すら一切見せない相変わらずの微笑みで自身の下半身を生成(・・・・・・・・・)すると、両翼を広げる。


 周囲には帯電した(・・・・)オリハルコンの鎖鞭。


 嵌められた事を悟って俺は。


来た(・・)


 サブ人格に主導権を渡し、黄色同調魔力を瞬動させた。




―――その技は前に一度見たね。


 知ってる。


 浮上した意識の中で以前と同じようにクソ天使は加速世界の中で一切速度を落とすことなく帯電した鎖鞭を振り回し、サブ人格が這う這うの体で離脱するまでメタルゴーレムを乱打し続けた。


 意識が覚醒するにつれて全身がスタンガンを当てられたかのようにずきと疼く。


 クソ天使に加速世界が通用しないのは、あいつが星幽の魔力変質を扱うからだ。

 アウレーネや勇者氏と同じ性質を持ったレベルの魔力変質の特徴は周囲に存在する恐らくアストラルとかいう霊力断片に作用する能力。

 アウレーネは声を聴き、囁きかけると表現していたが、実質的には相手の魔法に込められた意思や狙いを知り、同調し、時に主導権をハッキングして操作する能力だ。

 加速世界のメカニズム、黄色同調魔力の瞬動による自己内在時間の加速は、星幽の魔力変質を扱う奴らにとって加速世界を使われる直前に内部で蠢動する黄色同調魔力の同調圧力に便乗しておけばお手軽に同じ立場に立つことが出来る程度のものなのだろう。

 ……ただ、アウレーネの様に二日酔いのような反動を食らっていないのが謎だが。


 まあ。これでいい(・・・・・)


「もう終わりかい?」

「……あぁ」

「それは残念だ」


 痺れが残る手を何とか動かして腹腔から緊急脱出結界を取り出し作動させる。


 クソ天使は舐めプなのかそれともある程度満足したからなのか、妨害する事もなくどことなく寂しそうに消え去るメタルゴーレムを見送っていた。




 消えたメタルゴーレムを見送った後、目を瞑り、怪訝な顔をして目を見開いて周囲を見回して、また目を瞑った後で漸く、クソ天使は事態に気付いたようだ。


「ここは。どこだ?」

カードの中(・・・・・)だな」


 漸く引いてきた幻痛を振り払って、コクリが咥えてきた一枚の半透明なカードを受け取り、その中に浮く何本もの針と豆粒(・・・・・・・・)を見下ろす。

 これは何度目かの第8階層探索の際に回収しておいた攻撃のカードなる、まあ緑色斥力魔力を充填していた魔力カードのうちの一枚だ。

 緑色をしていたカードは今ではごく薄い紫色をした蹲る人型の模様が描かれている。


 人型結界の中では俺の意思次第で非常に融通が利く。


 定義次第で物理法則もある程度捻じ曲げられるそれは。

 例えば極小のハズの(・・・・・・)人型結界内の中に(・・・・・・・・)バトルフィールド(・・・・・・・・)その物を収める(・・・・・・・)歪曲空間だとか(・・・・・・・)

 奇手奇策との相性がすこぶる良好だった。

 知れば知る程相性が悪いクソ天使との戦いを盤外戦で嵌め倒す鍵になるほどに。


 もう一つの鍵、魔力カードはクソ天使を絶対的に隔離する牢獄だ。

 最終的に第8階層の浮遊島全島23島からそれぞれ回収した魔力カードは各種適切な魔力変質以外の流出入をシャットアウトする性質を持ったカード型の結界であり、その堅牢さは俺とアウレーネとオルディーナの協力で。すなわち俺たちがオリジンコアに接触するために手がけた手法でやっと強引にぶち抜けるレベルだ。

 通常の方法ではカードの性質に従う以外で魔力移動する事は出来なかった。


 法則に従う中で脱出される恐れのあった魔力変質は星幽の変質魔力と橙色空間魔力。

 前者であればカードの外界に存在する橙色空間魔力の制御を奪われて転移される可能性があるし、後者であればそのまま橙色空間魔力を外部に送られて転移される可能性があった。


 割と露骨ではあったが何とか戦闘の流れでクソ天使を人型結界内に内包した後、隙を見て結界を歪曲化させて極小にし、コクリに手伝って貰ってまず月影の魔力カードの中へと転送した。

 月影の魔力カードから機動の魔力カード、まあ橙色空間魔力のカードへ転送し、そこから反応力、黄色同調魔力の魔力カードまではコクリが難なく転送する事が出来た。


 しかし反応の魔力カードは橙色空間魔力の流出入が可能なのでこれでは脱出される恐れがある。

 なので反応の魔力カードからもう一歩先への転送させたかったのだが、流石にここからはコクリを持ってしても転送する事が出来なかった。


 最後のピースになったのは加速世界だ。

 加速世界で一時的に人型結界を包み込む事でその瞬間だけ反応の魔力カードから攻撃の魔力カードへと転送できた。


 つまりはまあ先ほど使った加速世界は回避するためではなく、意図を悟られないように無理なく使う事その物が目的だったわけだ。


 今回の戦いでは圧倒出来ればそれに越したことはなかったが、そうでなければ人型結界内包後に時間を稼ぎつつ、折を見て怪しまれない形で加速世界を発動し、そのタイミングでコクリが攻撃の魔力カードへと人型結界を転送する。その後に何とか隙を見てメタルゴーレムだけ離脱させ、クソ天使をカード内に隔離するというのが作戦の全貌だった。


「大丈夫か? レーネ」

「何とかねー……。お買い物は期待していいー?」

「……まーね」


 作戦を立てた所でクソ天使に読まれてしまえば元も子もない。

 アウレーネには警戒されない程度に自然な形で作戦に繋がる(・・・・・・)ような思考(・・・・・)だけを読まれないように防諜して貰っていた。

 戦闘中何度かやらかした自覚はあるので、今回の影の立役者はやはりアウレーネだろう。加速世界の使用でやはり迷惑もかけたし。


「カードの中とは。一体?」


 流石のクソ天使も星幽の変質魔力が届かない結界のこちら側の思考を読む事は出来ないようだ。

 言葉は通じるが余裕ぶっこいた会話にならんの新鮮でいいな。


 まだ確認はしていないがダンジョンというシステム上第8階層の攻略は完了した。

 コクリに確認をお願いする一方でクソ天使に軽く状況を説明し、現状を認識させる。




 一通り話し終わって、一つ息を吐く。


「……なあ。良ければの話だが、……精霊契約しないか?」


 本題はこれだ。


 ボスという存在をテイム出来るのかどうかは分からない。

 だが、これまで何だかんだでくっちゃべってきた存在を殺すというのは―――、何だか気が引ける。

 なので可能であれば仲間になって欲しい、とは思う。


「魅力的な相談だね。


 …………だけど。ごめんね。

 僕はダンジョンと繋がっていた方が好きなんだ。

 僕はダンジョンと繋がっている限り、ダンジョンのあらゆる情報を自由に知る事が出来る。

 だから宿主を変更する事は出来ない」


 可能かどうかと言えば可能らしい。

 だが、それは結果としてクソ天使のレゾンデートルを歪めてしまうそうで、残念ながら提案は辞退された。


 残念ではあるが、まあ仕方がない。

 ダンジョンの事なら大体答えてくれる所を買っていたというのもあるし、その権限が行使出来なくなるというのであれば拒否する理由も頷ける。


「あ。この結界内に閉じ込められている間もダンジョンにアクセスする事が出来ないようだね。

 僕を殺さないのであれば、その内開放してくれると嬉しい」


 うんまあ……。

 殺す予定はないし、またダンジョンで気になる点があれば質問する気ではあったのだが、面と向かってこいつに開放しろと言われるとなんかもにょるな。




 そうこうする内に工房の隅のふかふかベッドの上で橙色空間魔力が膨れ上がって、ぽふりと白銀の毛並みを持つもふもふ、コクリが探索から帰ってきた。


―――開いてたぞ。第9階層。


 ボスとダンジョンとの繋がりが断たれた時点で条件が満たされた。

 クソ天使の住んでいた神殿の最奥に転移象形が発生していたらしい。


―――いよいよだな。いよいよだ。


 それにしてもこいつ気負い過ぎである。

 分からんでもないが。


 第9階層。

 様々な柵が重なった結果、半ばクエスト的に攻略する事になってしまったが、その先の光景はどうなっているのだろうか。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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