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16:starker

―――ゴトン。


 不意に重い音が響いて僅かに木箱が揺れる。

 フタも継ぎ目もない謎の木箱、納品箱に返礼品が届いたのだろう。


 色々言いたい事はあったし、今も完璧には信用していない。

 それでも魔力回復薬と魔養ドリンクを納品した。

 だってよく出来てたから。


 魔力回復薬は一部想定外があったとは言え大筋としては予想した通りに作成でき、想定以上の効力を見せた。

 有り体に言えば自慢したかった。

 納品箱は一定以上の物品を納品すると返礼として物品が返ってくる。

 魔力10の回復薬を入れた時は魔力5の鉄の剣が届いた。

 ならば今回作り出せた魔力20の魔力回復薬を納品したら何が返礼として返ってくるのか。

 いいものになるはずだという期待が半分、重装……ウッ頭が……もとい、裏切られる恐怖が半分でせめぎ合い――、同じ工程でもう一度同じ品質の魔力回復薬が作れたことも相俟って今回は納品する事にした。例え期待外れだったとしても完成品全量からしてみれば今回納品分に係る労力はそれ程大きなものではないだろうと。


 胸中は諦観の凪の中に期待と恐怖が嵐を生み出そうと風の種を渦巻いているような、そんな名状しがたい感覚だった。

 震えはしないが、どこか現実と噛み合わない気がする腕を動かして納品箱の中の物を取り出そうと念じる。


「ん。……ん?」


 全体としては見慣れたものだが、細部は異なる。

 端的に言えばガラス球、魔石だった。しかし透明ではなく、淡い緑色の輝きが揺蕩っている。


「レーネ、これ調べて貰っていいか?」

「いーよ? これね」


名称:仮称緑光の魔石

レベル:10

魔力:10

特徴:魔力と思念を送ると力を取り込める


 解析のヤドリギを芽吹かせたアウレーネが慌てたようにヤドリギを解く。何事かと聞くと、解析を掛けようと魔力を通したら何かが入ってくる感触がしたらしい。読み取った特徴もその時のものだそうだ。

 特徴に思い当たるモノはある。

 しかしここに来てそんなベタな事をこのダンジョンがするかという思いもある。

 ただ、魔力回復薬の返礼と考えると期待が高まる。大いに期待できる。

 使うか、使わないかで問われれば俺は、使うだろう。

 そう判断して俺は緑光の魔石、……推定スキルオーブ的な何かを掲げて思念を送った。

 緑色の光が輝きを増し、何かが、いやスキルオーブの力が俺の中に入って来るのを感じる。


 輝きが収まって俺は不思議な感覚が胸中に構築されているのを感じた。

 何というか、魔力を流す弁が増設された感触だ。

 いつもの俺の魔力操作は非常に流動的で例えていうならば自然の川の水だ。日によって場合によって流量が変わるし効力も変わる。クラフト品を作成する際の品質を保つ為に流量の末端部分、河口付近で調整するのはそれなりに苦労している。

 それに対して今回の増設された感覚は、弁を開放することで俺という川から流れ出た魔力を自動的に一定量取り込み、増設構造体内部で何やら加工がされた後、何らかの形として一定量出力する。そんな機械的な感覚を受けた。

 取り合えずまずは使ってみよう。

 胸中に増設された弁を開放して魔力を流し込む。必要魔力量はそう多くはなかったようで、一瞬で規定量を満たしたのか弁が自動的に閉じ、増設構造体が蠢くのを感じると、変化はすぐに表れた。

 体表面がぼんやりと光っていた。推定スキルオーブと同じ緑色だ。

 腰を深く落としたことではっきりと分かる。

 これは魔力で作った外骨格強化アーマーだ。

 キャリーカートに結わえつけられていたマジッククレイハンドが片手で持ち上げられる。

 名付けるなら怪力とかそんなスキルだろうか。

 俺は目を瞑ってステータス画面を意識すると期待通り、特性の下に追記が見られた。


特性:精霊契約:アウレーネ、魔力制御

スキル:starker


 ……いや日本語でOK?

 闇鍋文字ですらない綺麗なアルファベットでstarkerと書かれてるがこれ何だ?

 スキルですら闇鍋してるのに何故ここだけアルファベットなんだ一体……。




   *   *   *




 雑に調べてみたらドイツ語らしい。例の転移象形にドイツ語訳が付いたのと何か関係があるのだろうか。

 それはそうとしてこのstarkerスキル。使って見ると魔力的動作が割と機械的なので上手くすれば模倣する事も出来るかもしれない。

 何がやりたいかというとゴーレムの改良だ。

 これまで3種類の製法におけるゴーレムの特色は以下の通りだ。

・均一素体ゴーレム:量産性優、操作性可、出力優、燃費極悪

・骨格筋ゴーレム:量産性極悪、操作性優、出力可、燃費良好

 この2種類が何だかんだ利便性や信頼性が高くてよく使っている。均一素体ゴーレムは要するにマジッククレイハンドの事なので印象は薄いかもしれないが。そして

・球体関節ゴーレム:量産性可、操作性優、出力低、燃費良好

 これが後塵を拝しており、出力が低い事も相まってアウレーネ人形くらいしか作っていなかったが、今回得たスキルstarkerを模倣することが出来れば出力に関しての問題解決が測れるかもしれない。

 この現象で一番核になるのは緑色の魔力だろうな。

 今まで魔力の発露は魔力制御によって得た細氷も合わせて白い光が通常だった。

 それが増設構造体を通すと緑色の光になって外骨格強化アーマーとしての性質を持つようになった。

 白い魔力を緑色に変化させるにはどうすればいいか。

 アウレーネが解析のヤドリギでドロップ品を調べるように、starkerを使って生じた外骨格強化アーマーにヤドリギ的な魔力を作って流して解析出来ないか試してみよう。


 俺はもう一度starkerを起動した上で、白い魔力を細氷化させた時のように魔力を集めて取り合えずヤドリギの根っこのような触手、栄養を吸引し、同質化するようなイメージをして魔力を組織化させ緑色の魔力へと流し込んでいく。

 体の動きに反応し、物理的な力を補助する緑色の魔力は案外あっさりと根っこの魔力を受け入れていく。

 ……構造は以外なほど単純。どのような作用で力を補助しているのかは魔力的な構造からはまるで読めない。むしろこれで可動部が破綻せずに動けているのが不思議だし、どうやって出力を生み出しているのかも皆目つかめない。

 アーマーの構造を壊して調べてみるのはどうだろうか。白の魔力根っこではするりと入っていけるがそれだけだ。読み取れるが、どの構造が核になっているのかは構造を変化させてその影響を観測しないと掴めない。

 魔力根っこの吸引能力をより強化するようにイメージ構築し、緑色アーマーの構造を破壊しようと試みる。

 ……動いた、気がする? いやまだもっとだ。魔力根っこの構築をより緻密にして引っ張り、少し変え、吸引力が弱まれば戻し、強まれば反映させて再び魔力を捻りだして吸引力を強くしていく……。

 出力を上げた瞬間に僅かに変化して感じられたアーマーの魔力はやがてゆらゆらとその構造を歪ませ始め、ぐらりと傾いて幾つかの構造体部位が流動化した時に全ての魔力が一気に瓦解して解けた。

 ……ふむ。先ほどの崩壊起点となった構造体部位の中に一つないし複数の重要部位が含まれているかもしれない。

 まず先ほどの全ての崩壊起点部位を再び流動化させて再現性が取れるかどうかか。

 まずは今の魔力根っこのイメージを強固にして……。


 俺は感覚を集中するために自然と瞑っていた目を開いて魔力を見る。

 俺の作り上げた魔力根っこは青い色に輝いていた。

 ……なんぞこれ?

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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