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152:日に仰ぎ星に安みを

『えと……大丈夫そう。ですかね?』


 フォートゴジラが崩壊した背側構造物の残骸を脱ぎ捨てて再び稼働を始めると同時、ついでにこっちも再稼働したようだ。

 念のため爆発の瞬間勇者氏の周囲の具現結界を操って転移門の応用、周囲の爆風をそのまま反対側へと転移させる転移結界を張っていたが十分だったようだ。


 空間内部は爆風の余波で通路の方から背側構造物の破片が流れ込んできてあちこちにひしゃげた銃やら壁材やらが散乱している。


 その中にあってフォートゴジラの心臓部は、いまだ健在だった。


 まあ然もありなん。


 如何に貫通弾と言えどメートル規模の鉄板を貫通するのは容易ではないだろうし、ましてやそれがアホみたいな物性とチートみたいな修復力を兼ね備えた紺鉄鋼製であればなおさらだ。


 確かにメタルゴーレムを通して見下ろしたフォートゴジラの背中に6カ所凹みが見られたものの、一つ身を震わせるとその貫通弾の痕跡も分からなくなってしまった。

 恐らく手早く修復したのだろう。


 背側構造物の破壊で手一杯だった貫通弾が心臓部に損傷を与えられる道理もなし。

 再稼働と同時に背負っていた要塞を脱ぎ捨てて身軽になったフォートゴジラが前肢を起こそうとして――――。

 その家一軒丸ごと掴めそうな分厚い手の甲に金色の杭を撃ち込まれて重い悲鳴を上げた。


「足止めするからさっさと片付けろ」

『ッ……はい!』


 怯んでいる隙にもう一本、電柱サイズのオリハルコンの杭を淵源複製で形成し、いつぞやのグリフワームがやっていた橙色空間魔力のスリップ転移を応用した加速を付けて身軽になったフォートゴジラのもう片方の前肢を縫い留める。

 前肢は前に突き出ていたから行けたが、後肢は背中が邪魔でムリだな。

 この図体だと動くだけでも脅威だからなるべく死ぬまで大人しくしていて欲しんだが。


 まあ無理ですよね。


 オリハルコンの杭に縫い留められたフォートゴジラは怯みから立ち直ると敵意を漲らせてこちらを睨み付ける。

 逆襲とばかりに高く伸びた鼻梁の先の砲塔に渦を巻くような雷光が走り、人間大の砲弾が衝撃波を纏って高速で突っ込んでくる。


 雷光を見てからすぐ目の前に展開しておいた転移門に吸い込まれた砲弾は上空で反転してフォートゴジラの肩に着弾し、巨大な陥没を作り出した。

 流石にアレに直撃していたら俺もただでは済まなかったな。

 恐らく材質は紺鉄鋼の単純な質量弾。単純ゆえに純粋なフィジカルで上回られるとこちらとしては少し苦しい。


 仕方が無いので高度を落として近付いて見れば、狙い通りにフォートゴジラはその大口を開けて一飲みにしようと首を伸ばす。


 そのまま直進し、フォートゴジラの視界から見えなくなった直後。

 巡航推進器に加えて緊急回避用の腰部推進器を吹かして緩急を騙し、閉じる両顎の隙間から抜け出ると、顔面スレスレを抜けがてら曙光の華剣を逆袈裟に振って右目を抉りつつ走らせた斥力焔で灼く。


―――GAAAAAA!!!???


 おっと望外にいい一撃が入ったらしい。びくりと身を振るわせた後に頭部を振って身悶えしている。

 金属質だし今まで機械が生物的な構造を模倣しているのかと予想していたが、案外もう少し生物に近い性質を持っているのかもしれない。


 そのまま切り裂いた右目の側で浮いていれば流石に感付かれたのか、その巨体を活かして頭部で薙ぎ払い、ヘッドバットを仕掛けてきたので上空へと上がって避難すると反対側の巨大な眼球と目が合った。


 静止してじっと見つめるその目は、これなんだ―――ッ!?


 急に背後から重い衝撃を感じて振り返れば、ぎちぎちと金属音を鳴らして撓る新幹線サイズの太さを持つ鞭……フォートゴジラの冗談みたいに長い尻尾が振り切られた所だった。

 どうやら器用な事に尻尾で撥ねられたらしい。裏回りし過ぎて完全に視覚外だったわ。


 サイズが違い過ぎるとこういう所が面倒だな。


 まあそれは相手にとっても同じことか。

 俺がバランスを崩した所を好機と見て取ったか再び大口を開けるフォートゴジラ。


 漁船くらいなら一飲みに出来そうな大顎が閉じようとして―――。


 その咬筋力によって、黄金色の支柱が深々と上下の顎に突き刺さった。

 両前足、右目に続いて顎の自由まで奪われた巨躯が煮え立つように悶絶する。


 大きく頭を振ったりはしているものの、今刺さっている以上に口を閉じたりあるいは開こうとしていないところを見るに、オリハルコンの杭に設けた返しが丁度うまい具合に拘束しているのかもしれない。


 ただ先ほどまではあまり出しゃばらず行動妨害に徹して勇者氏に殆ど任せようという腹積もりだったが、殊ここに至っては最早四の五の言わずにさっさと討伐した方がいいだろう。

 勇者氏がやられるとは思わないが、鈍亀のような背側構造物の残骸を脱ぎ捨てたフォートゴジラは思った以上に活発な上にフィジカルに頼った動きをする。

 つまりは特撮サイズの大暴れで周辺被害がヤバい。


 これで初手で両前足を縫い留めていなかったらと思うとゾッとするね。


 レベルの変質魔力。俺を模したそれは応用する事で巨大な人体パーツを模った結界を作り出す事が出来る。

 制御可能な最大サイズの結界が握り拳を模って、内部に金赤色の焔が血潮のように巡る。

 念動を込めて抉り込むようにアッパーカットを飛ばせば、口蓋をすり抜けるように突き刺さった掌握結界は口蓋の上、脳天にて焼却の焔を撒き散らした。


―――!!!!!!??????


 地響きかと思うような激しい痙攣の後、大口が俯いてそのまま沈黙する。

 これで勝ったと思いたいのだが。


『すみません、まだ終わっていません!』


 まあだろうな。

 勇者氏が言うには勇者氏が相対しているところが相補性バックアップ中枢らしいからな。

 今し方俺が焼却した脳天はパソコンに例えるなら精々演算装置を焼き切った程度だろう。

 紺鉄鋼の修復能力も考えれば、この沈黙も一時的なモノで焼却した呪力やそれを支える魔力がバックアップ中枢から供給されればすぐにでも再稼働するに違いない。


 勇者氏も手間取ってこそいるものの圧してはいるのか、先ほどから脈動する心臓部に貼り付いて斥力焔で焼却し続けてはいるようだ。それでもなお焼却し尽くせない程の呪力や魔力は一体どれほどの犠牲を積み上げれば生まれる事なのやら考えたくもない。


 そろそろ追加の脳天焼却が必要になるかと考えた頃合いで、脈動する心臓部からするりと白銀の一枚布がしゅるりと噴き出てきて勇者氏の背中に収まる。


『マントさん……それは本当ですか?』


 何言ってるか分からん。


―――全てを各個たる星にした。

―――故にクライグの囁きで呼び掛ける方が手っ取り早い。

『マントさんが言うには私が皆に呼び掛ければ応えてくれるそうです』


 ……説明されても何言ってるか分からんが?


 分からんが結局の所最低限、俺がしなきゃいけない事は何かが分かりさえすれば後はどうでもいいか。

 開き直ってそう振れば返って来たのは可能な限り沢山の人型結界を用意しろとの事。無茶ぶりかな?


 まあやってできない事はない……と思うのでサブ人格も総動員して制御を並列し、レベルの変質魔力を可能な限り細かく分割した上で結界へと変容させれば心臓部の広い空間にすら収まりきらず、フォートゴジラの周りに佇む無数の人型結界。


―――<皆さん>


 そう、勇者氏の囁きが聴こえた瞬間。

 一気に全ての人型結界の制御が奪われて。


―――<起きてください>


 いつの間にか沈黙したフォートゴジラの周囲には無数の半透明の人影が佇んでいた。

 呆然とした顔、怪訝な顔、叫びを上げたまま我に返った顔。

 様々な顔の半透明の軍人が困惑したように周囲を見回している。


―――<皆さんは残念ながら亡くなりました>


 勇者氏が混乱する無数の軍人へと囁き続ける。


―――<けれども、思い出してください>

―――<皆さんは、国を守るために軍人になったのです>


 勇者氏の囁きに困惑する軍人の多くがはっとして我に返った。


―――<その思いを歪められて、守るはずの国を壊してはいけません>

―――<私は愛国者の皆様に敬意を表します>

―――<国を……アメリカを愛するからこそ>


 半透明の軍人たちはいつの間にかじっと囁きに身を委ね、続く言葉を待っている。


―――<今は身を引いて、休みましょう>


 そう響く言葉が紡がれて胸中に染み渡ると。


 ぽつり、またぽつりと半透明の軍人たちの内の何人かがその形を崩して光の泡になって天へと消えていき。


 やがてフォートゴジラの周囲は立ち昇る光の泡の乱舞で埋め尽くされた。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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