147:混ぜっ返しの達人
『なんで日本語なの? ねえなんで?』
「知るかボケ」
日本のダンジョンのボスだからじゃねえかな?
喋るボス自体が2体しか知らんから何とも言えんが。
いつもの厨二女の禁書庫とやら。その書架の海、標本資料室の机に置かれた偏光コア。
厨二女と約束したことだし大した労力でもなし、その他気になるリスクも排除はしたので一応自称忘遠の賢人の再現体との問答を録画してきてはみたものの。全部通しで見たツッコミどころはそこかよ。
勇者氏は今ここにはいない。
あいつら御一行は公聴会への出席準備や、安保理へ根回しするなどとしてニューヨークまでお出かけ中らしい。
大騒ぎしていた件のマッチポンプ軍事政権を始め様々な国や組織の思惑が錯綜していたようだが表裏様々な綱引きの末、順当な結果に落ち着いたようだ。
上澄みの方の事態が進展した一方で巷の方は何だかクレイジーな感じに混迷しているらしい。
ダンジョン崩壊は大陸問わずぽつぽつと発生し続けて、もはやどこそこでダンジョン崩壊が発生しましたというニュースは海外ニュースに差し込まれる日常になっている。
ダンジョン崩壊が増えれば当然その国の軍事組織だけでは対処出来なくなっていって、ダンジョン崩壊によって発生したスタンピードに民間人……まあつまりは探索者に報酬を出して人員として充てようとする動きも増えた。
ただ、探索者に対処させようとした治安維持組織にとっては、評価基準を世界的なニュースとして取りざたにされていた勇者氏の解放作戦を参考にしてしまった事が失敗だった。
これくらい耐えられるだろうと探索者が解放作戦で放り込まれた受け持ちは一般的には肉壁、捨て駒と言われるようなポジションであり、一連の作戦でマジメな奴は死傷し、不真面目な奴は憎悪を募らせた。
そうして燻ぶっている生存者を焚き付けたのは件のダンジョン排斥思想団体だ。
ただでさえ憎悪を募らせて燻ぶっている奴らを悪魔崇拝者が受けた当然の報いとして足蹴にすれば勢い良く燃え上がるのも当然である。
ダンジョン探索者による暴行事件が相次ぎ、メディアはこぞって掬い上げてニュースのトップに飾り付けた。
政治世界の眼下を彩る報道界は今や警告色が咲き乱れている。
『ま、アレよね』
厨二女が何とはなしにそう切り出す。
『連中も薄々感付いてはいたのよね。…………自分たちの取った方法、軍を送り込んでパワープレイで攻略していくって方法が間違っているんじゃないかってことにね』
「間違ってたら修正するだけの話じゃね?」
『そんな単純じゃないわ』
まあ、そりゃそうだが。
銃火器攻略の方針を転換した所で銃火器向けに設計された探索者の一部を屠殺することで生計を立てることを企図したダンジョンはそのままだろう。
ただ俺や勇者氏が対策したように腰を据えてステータスやスキルを充実させればモンスターの銃火器にも対抗できるようになるのではないか。
そう伝えれば厨二女は緩々と首を振った。
『腰を据える? そんな事する訳ないじゃない。悠長にしている内に他国は一歩リードしていくわ。その一歩の差、初期の過ちから来る一歩一歩の差がやがて致命的な格差になって権益自体が揺らぐのよ』
だからね。そう厨二女が続ける。
『……だからねアルファ。彼らにとっては必要だったのよ。もう一度全員がスタートからやり直す、グレートリセットが。出来れば前回優秀者から事前情報を抜けるだけ抜き取ったうえでね』
そうすればお得意のパワープレイで今度はほぼ確実にリードを取れるから。
帽子の上で口を滑らせた烏くんはわざとなのか何なのか。
まあそれはさておき、今国連じゃダンジョン探索者に制限を加えるかどうか、ひいてはダンジョンその物の利用についての是非を問う議題が進行しているらしい。
豆炭でエネルギー食っていく事に決めていたドイツとしては痛いお話で誤解を払しょくして翻意を促そうと頑張ってはいるようだが、まあ奴さんの政治力はそんなに大きくない。旗色は中々に悪いようだ。スーツ女の顔色みたいだな。
俺としちゃ世界の動きなんざ探索者の人権をはく奪するレベルまで行かなきゃ特に生活に支障は出ないからいいんだが、勇者氏も、それから自称ダンジョン関連会社を裏から操っている厨二女も影響は大きいらしい。
最近は勇者氏だけでなく厨二女も中々精力的に動いていた。
目を瞑って考えをまとめていた厨二女が再び目を開く。
『で、さっき問答であった話なのだけど……できる?』
「規模にもよる。全世界デスマーチは却下」
『イギリスだと今の所3カ所ね』
「……構わんけど俺単品でやるのは御免被る」
『じゃあクライグを送るから』
「あいつに拒否権は」
『あると思っているの?』
うわひっで。
まあ実際提案しても勇者氏は快諾するだろうから問題ないとは思うが。
『すぐにって訳じゃないわ。こっちも根回しが必要だし。……ただ、いいカードになりそうね、これ』
くっそエグイ顔するやんお前。
ダンジョン崩壊、探索者犯罪、ダンジョン排斥計画。
様々な思惑が薪をくべて大火にし、この先のダンジョン社会の趨勢を決めるとして注目を集めていた会議、世界各地に出現したダンジョン及びダンジョンに接触する事で異能を獲得した民間人に対する安全と人権を保障する決議は……イギリスの拒否権発動によって全ての制限案が棄却された。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




