145:渦中の停滞
厨二女にボスの記録を撮ってくると約束したものの、あのガンメタクソ天使は切り札を見せると対策してくるので実際に再訪するのはせめて新しいメタに対抗するためのメタを準備してからにしたい。
が、早々上手いアイディアがすぐに湧いてくる訳もなく。
「お、またネコミミ少し改良したか? 毛並みが整ってきているな」
「……うん」
浮かばないアイディアを振り払ってふと目についたネコミミ。
ユキヒメがずっと付けているそれが再び手直しされているのを見つけてそっと撫でるとユキヒメが嬉しそうに頷いた。
マイペースではあるがユキヒメもネコミミの改良に余念がないようだ。
最初の方は見ていても分かる程度の不揃いな毛並みだったが、最近ではパッと見は整っていて、もふった際に少し違和感を感じるかな程度まで精度が上がってきている。
やはりもふもふは柔らかなのに艶やかな毛質がいいんだよな。
恐らく決め手は完璧に整った艶のある外側の毛に守られてふわりと肌を包み込む柔らかな内側の毛か。赤色魔力で見たところ今はアシを不織布成形する際に一手間加えた起毛不織布をベースに植毛しているようだ。なかなか手が込んだ品ではあるが、そろそろアシという素材の限界かもしれないな。今度綿花でも買ってきてプレゼントしてみようか。ユキヒメは茨樹精だが異なる種の草木でもある程度操作する事が出来るようなので綿花を解析すればコットンを作り出す事が出来るかもしれない。素材から見直しをしてもう少し手直しすれば大分完成形に近付くと思う。
「コクリさま。お加減はよろしいでしょうか」
「……くあぅやぅ、みゃん」
「それは良かったです」
そうやって絶賛ウヅキにブラッシングして貰っている最中のコクリからは目を逸らして指先の感覚に集中し、ユキヒメへのアドバイスについて思考を巡らす。
俺には碌にもふらせない癖にウヅキにはブラッシングを頼むコクリの野郎はこいつめ。ブラッシングされるなら異性の方がいいとか、反論できねえわクソが。
そんな感じで俺はここ数日工房でだらだらと思案したり、気分転換にふらっと探索へ出かけたりを繰り返していた。
勇者氏はあの事件からダンジョン崩壊が発生した国へ救援の売り込みをかけるも相手国に尻込みされて有耶無耶になるというパターンが多くて嫌になると愚痴っていた。愚痴るだけじゃ何の解決にもならんがな。そろそろあいつのテレパスをミュートにしたくなってきたぞ?
しかしその影響かあちこちで発生したダンジョン崩壊騒ぎも終息に手こずっていて世間は相変わらず賑やかだ。死を恐れないし煙幕張っても何故か正確に位置を捕捉してくる立てこもり武装集団相手に損害を出さないように立ち回るならダラダラと低リスクな圧力をかけ続けて少しずつ削っていく消耗戦しかないからな。今の時点でダンジョン崩壊が終息したと宣言した国は未だに勇者氏が関わった国も含めて周辺被害を無視して制圧することを優先した地域しかない。民主化が進められて個人の人権や財産が手厚く保障されている国ほど鎮圧に手こずっている様はなかなか興味深い。
あれで最強の肉盾氏も銃口を引き付けて支援火力への照準を逸らし、敵の損害を大いに拡大させるのに一役買っていたんだな。敵モンスターは魔力の多寡で敵を判断しているのか前面に展開していた敵はどいつもこいつも勇者氏しか狙っていなかった。
……デコイかあ。
正直作った所であのクソ天使に通用するビジョンが見えない。
そもそもメタルゴーレム自体が一種のデコイとも言えるしな。
そのデコイを貫通して痛みを与えてくるとかいうチートムーブをかましてくる奴への対策とかやはり中々頭の痛い問題だ。
速度には限界がある。
相手に対応される前に逃げればいいという方針を突き詰めた緊急脱出結界も腹腔から取り出す所まで含めれば転移までに数秒は掛かる。
前回は上手い感じに事が運んでくれたが、次回もそうだとは限らない。
速度方面での対策の追及はここらが潮時だ。
なので別方面からのアプローチが必要だと思うのだがどれもこれもイマイチピンと来ない。
「げんた唸ってるだけならお酒作って」
「魔力回復薬なら昨日作っただろ」
「毎日でもいいと思うなー」
「流石に辛いから勘弁」
アウレーネが暴飲した分の反動が俺の健康面に跳ね返って来ている疑惑が健康診断の結果から浮上している以上こいつの飲酒量にも気を配った方がいいのは確かだ。
「むー。げんたは深く考え過ぎだと思う」
「つってもどれだけ考えても対策し辛い手合いが相手だから流石になあ」
「そもそもなんでメタルゴーレム使うの? ドローンで良くないー?」
あっ。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




