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137:夜なべの成果とその行く末

「……ん…」

「お……おう…?」


 扉を開けたら目の前に頭があった。

 ユキヒメは時々謎の行動を取るが今日はいつにも増して分からんな。


 濃緑色のリュウノヒゲのような艶やかな髪はさらりとして以前に送った琥珀の小鈴がりりと小さく揺れる。

 その後ろに横たわるカチューシャの両側から生えているのは……ネコミミ? だろうか。

 俺が作った覚えはないのでもしかしたらユキヒメの手作りなのかもしれない。

 ユキヒメもモノづくりに興味を持ったのだろうか。


 同好の士が増えるのは好ましい。


 コクリか天霊の抜け殻の抜け毛でも再利用したのか白銀色の毛が三角耳を覆っている。

 精緻に見れば毛並みが僅かに不揃いだったり表裏の境に縫い目が見えているなど見かけは手作り感が溢れているが、そっと触ってみれば一体どうやったのか程よい肉感が中々に心地いい。そっと赤色魔力で探ってみればどうやら肉付けに虚ろの種籾を利用しているようだ。面白い使い方だな。


「手作りか。よく出来ているな。可愛らしいぞ」


 そう言って撫でればユキヒメはほにゃりと嬉しそうに目を細める。


 こういうのは最初が肝心だからな。


 自分でスモールステップを設定できてそれに本心から納得できる奴は少ない。

 新たに芽生えた芽を放って萎れさせる事もあるまいに、大事に育てて行こう。


 しゅるしゅるとユキヒメのツタが巻き付いてきたのでそのままユキヒメを抱え上げて取り合えず戸口の前から移動する。

 こうしてみると存外と俺の素の膂力も上がっている事が分かるな。


「んー……」


 こすこすと擦りつけられる頭につられて琥珀の小鈴がりりと音を立てる。少し魔力が通ったのか琥珀からふわりと芳香が舞った。

 ひんやりとした硬質な髪が擦れる一方で今日は両側のネコミミがぽふぽふとその存在を主張してきている。


 それにしても不思議な素材である。


 ネコミミの中で程よい肉感を演出している虚ろの種籾だが、それ単体ではまるで空気を掴んでいるかのように柔らかく、反発力が弱かったはずだ。

 気になって赤色魔力に映る知覚をよく確認してみればネコミミの中に封入された虚ろの種籾はその存在が複数重なり合って存在しているようだ。

 空気か何かかな?


 いや空気にしたって熱運動の結果で圧力が生じている訳で虚ろの種籾のように存在と存在とが重なり合っている訳ではない。

 やはりその物性からしてファンタジックな性質なのだろう。

 まあ要点はそのファンタジックな性質をどう活かしていくかなんだが。


「なあユキヒメ。これって殖やせるか?」

「……出来ない。けど…作れる……」


 ユキヒメに問うてみれば暫く首を傾げた後にそう答えると、ツタの先に芽吹いた芽から半透明の粉雪のような種、虚ろの種籾をぽとりと作り出した。


 生成速度は俺のメタルゴーレムの淵源複製と同程度。だがユキヒメでも複製可能というのは少し汎用性が高いか。


 ある程度量を調達する事が出来るならやれる事も多い。

 差し当たっては……。




「こんなもんか」

「何ですか、これは?」

「幼児用遊具」

「はあ……?」


 アシ不織布を拳大の球状に成型したボールの内部に虚ろの種籾を程よく封入する。

 成型機の設計図複製機能を使ってこのボールをひたすら量産した後に、工房の一角にキングサイズの木枠を設置して大量のボールを流し込む。


 まあ所謂ボールプールだ。幼児用遊具で良くあるやつ。


 別段色合いにはこだわっていないのでアシ不織布の乳白色をしたボールで満たされた木枠に身体を投げ出せば、ボールの反発力はしっかりと俺の身体を受け止めた後にじわりじわりとプールの中へと飲み込んで行く。


 水ではないのでプールの中ではあるが呼吸に支障はない。

 全身を包み込んだ弾力性が自然と身体を脱力させていく。

 幼児用と侮るなかれ、小休憩を取るくらいならばこのドライプールは案外と具合がいい。……寝入ってしまうと寝返るたびに潜って行って最終的に底の硬い床の上で眠っていることになるが。


 クラフトに熱が入ると知らない内に肩肘凝り過ぎている事があるからな。そういう時にはこのドライプールに飛び込んで一呼吸寛ぐといいだろう。


 困惑しているウヅキをさし置いてユキヒメがぽふりとボールプールに下半身を埋める。いや植わる。


「……なんか…いい」

「だろ?」

「……うん」


 製作中は特に考慮に入れていなかったが、このボールプールはユキヒメにも好評なようだ。下半身をしっかりと包み込んでかつ蔓を伸ばしやすいのが気持ちいいらしい。茨樹精なりの感想は独特で面白い。

 ともあれ気に入ってくれたのなら良かった。大きめに作ったからスペースは十分ある。俺の邪魔にならない形であれば自由に使ってくれて構わない。




 ……後日、大はしゃぎしてボールを撒き散らかしたサンドラと一悶着あった結果、ア~シャとシスティがボールプールの管理を行うという取り決めが追加されたものの、ボールプールはメンバーの休憩スペース兼遊具として認識された。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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