136:閑話1
* * *
「ん、おっけー。寝たねー」
―――…………。
アウレーネちゃんが頷くとコクリさまが器用に身体を薄くしてご主人さまを起こさないように下敷きになっていた尻尾を抜き取る。ちょっとクセのついた尻尾の毛が気になっているようでふりふりと振っているから後でウヅキさまにお願いして櫛で梳かしてもらった方が良さそう。
「じゃ~ユキヒメちゃん。お願いね~」
「……うん…」
床の上に横たわったご主人さまをしゅるりとツタが包み込んで持ち上げる。
あ~しらの水じゃこういうの難しいからどうしてもこれはね。
「今だと外のブドウのカーテンとかがイイ感じに暗くて静かだから、げんた寝かせるのに丁度いいと思うよー」
「分かった……」
アウレーネちゃんのアドバイスに深く頷いて、もうぐるぐる巻きの繭と言ってもよさそうなカンジに巻かれたご主人さまを掲げて、残ったツタで器用に移動してユキヒメちゃんは工房から外へ出て行った。
「……おっけー。じゃ本題」
「ウヅキ様は?」
「すぐ来るって」
「以心伝心」
「システィたちも出来ればいいんだけどねー魔力変質」
「あ~しらにはまだねぇ……」
「修行嫌い」
「ほんそれ~」
「ねぇねぇレーネちゃん。楽して覚えられる方法ない?」
アウレーネちゃんは最近ウヅキ様とテレパシーでどこでも話しかけられるようになったらしい。
そういうのってなんかカッコいいし便利そうだからカンタンに出来るならやってみたい。
そう言ったらアウレーネちゃんは少しの間目を瞑った後に首を傾げながら口を開いた。
「…………これが聴こえないと私がうーちゃんから教わった方法は出来ないねー」
「え~? 何か言ってたの?」
「うん」
「聴こえなかった」
「そっか~ムリか~」
「残念」
「それにげんたやディーナみたいな体質? の場合も覚えられないから先は長いねー」
わあ無常。
オルディーナちゃんみたいなカンジならまだしもご主人さまみたいなのって正直よく分からない。
そんな話で盛り上がっていると棚に据えられたアクセから魔力が溢れて桜吹雪になる。
ちらりとシスティに視線を配ればシスティは抜かりなく配置についていた。いつも通り。
「ウヅキさまやっほ~」
「こんにちは。ア~シャ、それからシスティも」
「ゴキゲン麗しゅう」
「堅苦しくしなくてもいいですよ」
ウヅキさまが苦笑するのも含めていつも通りだ。
「さて本題」
「ん。……そうですね。始めましょうか。ご主人さま対策会議を」
ウヅキさまがあ~しらを見回してこくりと頷く。あ~しらも同じに頷き返した。
「まず喫緊の課題ですが。ご主人さまの矢印はどうなりましたか?」
「相変わらず」
「ダメダメだね~」
「今日はげんたの方も大変な目に遭ったからねー。だからコクリも譲るしかなくて後はまーしょうがない」
「そうですか……」
うん。ユキヒメちゃん、シュンとしてたもんね。
あ~しが見ても分かるくらいだから、そ~いうトコ鋭いウヅキさまやアウレーネちゃんはよりハッキリ感じられると思う。
ご主人さまはコクリさまに夢中だ。
それ自体はま~イイんだけど、ユキヒメちゃんがシュンとしちゃうのが良くない。あ~しらユキヒメちゃん応援してるからね。
「じれったい」
「けどムリにくっつけてもね~」
「げんたも意識はし始めてるから少しずつ、ねー。そっちの方がいいと思う」
「そうですね。コクリさまの件を除けば今まで順調でしたから」
でもその分コクリさまに夢中な件が重いんよね~。
「で、本題。……やっぱりげんたが毛並みに夢中過ぎるのがダメだと思う」
「まぁね~。でもど~するん?」
「やっぱりユキヒメももふもふになるしかないかなって」
ユキヒメちゃんがコクリさまの毛並みになった所を想像してみる。
…………う~ん? 大丈夫かな?
「毛玉お化け」
「そもそも可能なのでしょうか?」
あ~しにはイメージ湧かなかったし、システィもウヅキさまも首を捻ってたケド、それを見るアウレーネちゃんはなんだか自信がありそう。何かあったのかな。
「んっふっふ。現実にはね、もふもふを追加するって文化もあるんだよ」
これ、触ってみてと小さな人形が持ってきたぱんぱんの布袋を触ってみるとふにふにと柔らかい。
でもこのふにふにの布袋ともふもふというのがまだイマイチつながらない。
「ちょっといいもの見つけたから皆に手伝って欲しいかなって」
でもアウレーネちゃんが楽しそうだからおっけ~。
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拙作をお読みいただきありがとうございます。
連日投稿できず申し訳ございません。
なるべくリズムを戻していけたらと考えています。




