131:もふもふである。
目の前には告理と名付けた凛々しい白狐が目の前に鎮座している。
それはそうとして。
もふり。
しっかりとしたハリのある表毛の下でふわりとした滑らかな柔毛が指先を優しく包み込む。
するりと撫でれば人差し指と中指の間をぴぴんと弾力のある狐耳が抜けて行った。
首元で更に毛量を増した毛は確かな量感と極上の質感という双璧でもって撫でる手のひらを極楽へと誘う。
もふもふである。
「うむ」
「あなた……?」
首の前に手を泳がせようとすれば感応を通じて苛とする意識が返ってきたので諦めて背の方へともふもふの海を渡る。
背中の方はハリのある表毛がしっかりとした弾力を伝え、指が後ろへ後ろへと自ら滑っていくようだ。
更に驚嘆するのはその終点。四尾のふさふさとした毛量のある尻尾がふるりと振るわれている。
アレに手を埋めてしまったらどうなってしまうのか。
思考の片隅で躊躇うものの、手は自ずと背を伝って腰へ尻へと流れて行く。
―――やめれ。
かぷり。
胸中に響いた声と共にぬらりとした牙に挟まれて、手のひらに心地よい痺れが刺し込まれる。
甘く噛んだ手をこちらへと放り出して再びコクリは鎮座した。
「で、あるか。 」
「げんたがこわれた」
「モトからじゃない~?」
「事実陳列罪」
言ってくれおるわ。
いつもはもふもふ成分モフモニウムの濃度が最適環境基準値を下回った状態で生活しているのだから偶にくらいいいだろう。
「その子……。男の子なのですが?」
「ん? それがどうかしたのか?」
「…………いえ」
確かに毛並みの性差というのはある。
ホルモンだったりグルーミングの頻度だったり理由は諸説あるが、概ねオスの毛並みの方がゴワつきやすい。
けれどもそれ以上に個体差の大きい所でもあり、コクリの毛並みというのは芯の強さを感じさせながらもしなやかで肌触りのいい。
端的に言えばモフり甲斐のある毛並みだった。
そこに改めて性差を挟む余地はない。
再び頭に手を伸ばそうとしたらふにふにと弾力のある肉球で叩かれた。
流れてくる意識を読み取ると今日はもうお終いらしい。
残念だが無理強いをしたい訳ではないので諦めるとしよう。
しかしやはりもふもふというのはいい。心が洗われるな。本格的に検討してみてもいいかもしれん。
検討の方は後日温めるとして今は一先ずこの結果の確認だ。
名前:尾崎幻拓
種族:神霊憑き
レベル:51(↑6)
魔法力:331(↑33)
攻撃力:112(↑15)
耐久力:107(↑10)
反応力:202(↑13)
機動力:98(↑8)
直感力:173(↑21)
特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ、ユキヒメ、サンドラ)、魔力制御、魔力変質(レベル、耐久力、魔法力、攻撃力、反応力、機動力、直感力)、混成魔法、氷魔法、土魔法
スキル:怪力、鑑定、識別、招待
名前:アウレーネ
種族:精霊
レベル:51(↑6)
魔法力:332(↑17)
攻撃力:10(↑1)
耐久力:64(↑1)
反応力:219(↑8)
機動力:28
直感力:188(↑35)
特性:精霊魔法、魔力変質(レベル、耐久力、魔法力、反応力、直感力)、混成魔法
名前:告理
種族:神霊
レベル:51?
魔法力:---?
攻撃力:---?
耐久力:---?
反応力:---?
機動力:---?
直感力:---?
特性:魔力制御、魔力変質(レベル、耐久力、魔法力、攻撃力、反応力、機動力、直感力)、混成魔法、氷魔法、土魔法
赤色魔力で鑑定してみても意味不明だったが、告理のステータスが瞼の裏に現れる自身のステータスに追記されているのを見つけた事で解決した。
告理は神霊という種族でステータス画面でのレベルやステータスが変動しまくっているから鑑定不能なのだろうということが分かった。一応最高値はレベルを含む俺のステータスなのだろう。辛うじてレベルだけは51になった瞬間を確認する事が出来た。
更に言えば告理を生み出したことで俺自身も種族:精霊憑きから種族:神霊憑きへと変化していた。
特に何かが変わったという自己認識はないし、何なら告理とは特に精霊契約……いや、神霊だから神霊契約なのか? ……ともかく契約的な事はしていないのに種族項目からコクリのステータスの追記まで影響を及ぼしているのは甚だ謎ではある。謎ではあるがそれを言ったら最初にアウレーネと契約した際にも同じことが言えるので今更な事か。
ともあれ狐ではなく神霊らしい告理はおおよそ俺と同じ魔法が使えるようだ。
これ以上は実戦テストでもって力量を把握していくのが一番だろう。
場所は勿論第8階層だ。
もふもふ増量妖狐がファーストコンタクトのみの存在だとは思えない。
告理の慣らし探索と同時にいい感じに仲間に出来そうな子がいたら頑張ってみるとしよう。
もふもふのために。
―――後日。
「なるほど?
あるじ様は、毛並みを堪能するためだけに。
敵を捕らえて手懐ける。
そう、おっしゃるのですか。
なるほど?」
「いや、あの……。だな?」
ウヅキの笑っていない笑顔に気圧されてもふもふ捕獲作戦を断念するのはまた別のお話。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




