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130:理を告げる

 ユキヒメ以外にも工房の面々はフォローに入ってくれていたようだ。

 冷えた水差しを持ってきたア~シャに礼を言ってウヅキを呼びに行ったシスティに一先ず俺が昏倒から回復したことを追って伝えて貰う。


 一通り済ませて漸う椅子に身体を預ければ、ずっしりと沈み込んでそのまま金輪際まで潜って行きそうな気がする。


「あなた……大丈夫…?」

「……あぁ、少し疲れたから休む」

「……無理…しないで」


 あぁ、実際あんまり無理できる状況じゃないからな。


―――それで、どーするの? これ。


 まあ当然のことながらアウレーネは気付いているか。


 意識を向けると察知してむくりと反応が返ってきたので慌てて意識を外して何処ともなく見る観の体で総体を眺める。


 改めて見るとクソデカ感情である。(誤用


 いや精神回復薬を浸潤させる前の感情も刹那的ながらデカいトゲを持った感情だったが、それとは別に単純な集合体として巨大だ。

 仮にこれが人の感情であったならば一体何百人の感情が混ざり込んだものなのやら。


 そしてもっとヤバいのがこの何百人分もの感情の断片が緩い繋がりで癒合してしまっている事だろう。


 今し方一部に焦点を当てて意識した際も、その一部が反応して微睡から目覚めようとしたのに連動して集合体全体が覚醒するような予兆があった。

 今は薬の効果もあって微睡むように落ち着いているが仮に一斉に目覚めて何かしようと一様に行動を起こされたらちょっと対処できるか自信がない。


 更に面倒に拍車をかけているのが俺のサブ人格だ。


 激情を抑えている際は身を挺して庇ってくれた(庇わせた)俺のサブ人格たちだが、身代わりの代償は大きかった。

 その激情を受け止めている内に共感、ないし混ざり合いでもしてしまったのか、俺の制御を半ば離れて今は集合体と一緒に微睡んでいる。

 それでも俺の変質魔力なので一応起こすことも出来るが、その時は連動して集合体の覚醒も一緒だ。感応を介して直感的に確信できる分タチ悪い。


 クソデカ感情集合体とそれに半ば飲み込まれた感応するサブ人格。


 単純に邪魔である。


 感応し続ける微睡が眠気を誘って辛いし、かと言って眠気を吹き飛ばすことも出来ない。何より少しの意識の刺激で覚醒するリスクのある感情集合体は何が起こるか分からない巨大な爆弾だ。


 こいつを何とかしないと碌に生活も出来ないだろう。


 シュードプラムに入れるのは……ナシだな。さっきの二の舞になったら目も当てられない。

 容量を増やしたとしてもこの感情集合体がスタンピードでも起こせば安全に保存できるかは分からない。


 まずはこの感情集合体をどうにかして制御する事が必要か。


「主殿。無事か」

「……何とかな」

「忘れ物。置いておくぞ」


 ある意味聞きなれた、聞きなれない澄んだ声が聞こえて工房のドアが開く。

 オルディーナが帰ってきたのだろう。

 感情集合体が流れ込んでくると同時にメタルゴーレムの制御も失っていたからな。

 音の行き来から察するに通信が途絶した後、オルディーナはアフロトレントに抜け殻になったメタルゴーレムを抱えさせて撤退して来たようだ。迷惑をかけたな。


「あるじ様。昏倒したと聞き及びましたが。

 ……その後は如何ですか」

「迷惑かけたな。見ての通りだ」

「それは問題ありませんが……そうですか。厄介ですね」


 ウヅキは分かるか。


「一息に全てを砕くか、細心の注意を払って切り分けるか、あるいは一つの意志の元に束ねるか、ですが……」


 この量を切り分け続けるのは流石にお辛い。


「束ねる方向だと、何かいいアイディアあるか?」

「それは存在各々の願いを聞いてみないと分かりません。すみません」

「いや、助かった」


 願い……祈りか……。


 俺は微睡むサブ人格たちを操って丸く小さく、祈りの姿勢を取らせる。


 願いは、理不尽の否定。


 今まで見てきた感情断片は全て大観的に見れば理不尽に対して憤り、悲しみ、悶えていた。

 ならば呼応しやすい祈りはこれだろう。


 微睡ながらも願い祈るサブ人格たちに呼応して感情集合体も祈り揺蕩い始める。

 覚醒はしていない、曖昧で不安定な自我の祈りだ。


 微睡んだまま負った傷から逃げるように目を塞ぐように祈り続ける感情断片たちは、やがてムラが解け、境界が曖昧になり、彼我が溶けて行った。


 巨大な精神の塊の中にサブ人格たちもゆっくりと溶けて曖昧になった所でマジックボックスから取り出すのは深緋色の粘土塊。


 意志と魔力があればある程度自由に物質を複製できるこの素材ならどんな願いにも応じられるだろう。


 クラフトベンチの上で巨大な精神の塊を少しずつ深緋色の粘土塊の中へ流し込めば、徐々に体積が膨らんで、更に更にと精神が流れ込んで行く。


 先ほどまで心の棚の大部分を占拠していた精神の塊の一滴までも流し込み終わって目を見開けば。




 ……そこには白銀の毛並みを持った一匹の狐が鎮座していた。


「……お前の名は告理(コクリ)。理不尽を拒絶する祈りの総体だ」


 そう告げればベンチに座る凛々しい狐はこやーんと一鳴き応じてみせた。




 …………うむ。正直ベンチに置いたままだった毛皮の存在をうっかり忘れてたが結果的に良かったのでヨシ。やらかし、ではない、ハズ?

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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