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126:第8階層

 いつもの白い光が視界を覆い尽くした後に待っていた大画面の写真集のような光景。

 階層選択で先日新しく加わったページを広げてダイブする。




 再び視界が回復した中で待っていたのは全天の青空だった。

 眩しくは、ない。

 この階層には太陽もどきはないようだが、どこぞから降り注ぐ柔らかい光が木陰に褪せた影を作り出している。


 そして眺める青空の中に、幾つもの島が浮いていた。


 浮遊島という奴だろうか。


 重力がどうなっているのか甚だ疑問だが、目の前に広がっている以上そういうものだと認識するしかない。


 自宅ダンジョンの第8階層は飛べない奴はお呼びでない浮遊島マップだった。


 恐らく周囲と同様に浮遊島になっているだろうこの入口となった場所は、何かの遺跡だろうか。

 立ち並ぶ風化した石材のような遺構をそっと草木たちが包み込んでいる。


 その草木たちの向こう、掛けた石畳が一段二段と踏んだ先で。


「これは……石碑?」

「石碑って?」


 一見するとただの巨岩が祀られているかのようだが、所々加工したような痕跡が見られる。風化する前は研磨されているような面に何か書かれていたのかもしれない。

 アウレーネにそう説明してぐるりと周囲を回る。


 かさりと柔らかい風がまだ青い落ち葉を撫でてそよいでいく。

 その風を目で追って、石碑の向こうにふと、一つの島が浮かんでいるのが目に入った。


 あれにするか。


 今の所そこら中に浮かぶ選択肢(浮遊島)に対して手掛かりはゼロなのでフィーリングで決めてしまっていいだろう。


 動作テストも兼ねて腹腔に据えた深緋色の粘土塊から紺鉄鋼の刃を持ったダガーコアを作成して飛ばす。


 腹腔は碧白銀で構成されているので工房の転送ボックスからやり取りする事も可能ではあるが、新型メタルゴーレムではある程度自前で作り出す事も可能になった。

 予め転送しようと用意していたものは流石に転送した方が早いが、マジックボックスから取り出すよりは短時間で用意できるな。

 拾得物は転送し、調達物は基本生成する感じでいいだろうか。


 思案している内にもダガーコアを適当に目星をつけた浮遊島へ向かわせ、受信ゴーグルの片隅にダガーコアの星コア部分が映し出す映像を転送させる。


 ダガーコアの推進力でも一分ほど、キロメートル単位で離れていた浮遊島だったが、それも程なく島の様子がハッキリと分かってきた。

 入口の浮遊島と比べて少し仰ぐ形にある高度の高い浮遊島を上空から眺めれば、入口の浮遊島と同様に風化した遺跡を草木がそっと包み込むような光景が広がっている。


 その他のランドマークがないか探索しようとダガーコアを進めて。


「来てる」

「うぉッ!?」


 鋭く呼び掛けて来たアウレーネの意識に合わせてダガーコアを翻せば、その至近を突如現れた火球の群れが殺到した。


 距離を取ろうと高度を上げるも火球の群れは一度散開した上でダガーコアを包み込もうと速度を上げて回り込んでくる。


 ダメ元で展開したコア質のシールドをじわじわと焙り溶かしていく様子を見て。

 諦めてダガーコアを手元へと転送することにした。


 どうやら次の島には火球の群れを操るモンスターがいるらしい。

 欲を言えば敵の姿を視認できればと思っていたのだが、火球の対処に手一杯でそれどころではなかった。


 仕方が無い。本体で向かうか。


 腰部と脚部に設置した発風宝玉から発生した突風はJ字型のパイプの中でベクトルが歪められる事で推進力へと変わる。

 加えて橙色空間魔力を周囲に展開してスリップ転移で速度を水増しながら。

 最後に脚力と合わせて全身の構成物質を念動で重力に抗えば―――。


 メタルゴーレムは橙色の呈色光を纏いながら全球を覆う青天の中へとその身を躍らせた。


 深緋色の粘土塊に魔力を送り込んで生成された物質……長いな、淵源複製物でいいか。淵源複製物は藍色構造魔力で造られたコア質の性質とよく似ていたが、ことコア質の念動性質についても同じことが言えた。

 今回実現できたメタルゴーレムの飛翔能力もこの念動による浮揚が抗重力要素の大半を占めている。


 とはいえ完全に同じという訳にはいかない。


 メタルゴーレムを満たす魔力全てが念動によって動かせるとは言え、その出力には限界があるようだ。

 つまりは重い金属はそれだけ単純に動かしにくい。


 念動ドローンやコア質も含まれているダガーコアと違って出力を最大まで上げてやっとメタルゴーレム全身を重力に抗って浮かせる事が出来る程度だった。

 なので今回のような遠距離を航行する必要があった時の推進補助として設置したのが腰部と脚部に据えた発風宝玉による巡航推進器だ。


 出力自体は前から設置していた水を発火宝玉の爆風で押し流す爆水噴式タイプの腰部推進器の方が高いのだが、あれは内圧の低下と水の再充填に若干のタイムラグがあり連続性に難がある。

 こちらは今まで通り緊急回避や突撃用の補助推進器としての運用になるな。


 メタルゴーレムの新調に伴って若干の形状修正や増設も行ったが、今の所はどれも不満の無い出来だ。


 小走り程度の推進力を橙色空間魔力のスリップ転移で乗用車程度の速度まで加速させれば、どこまでも広がってブルーアウトしていく眼下を眺めている内に次の島の上空へと到達した。


 今の所はまだ迎撃範囲外のようだ。


 空中で滞空しながら赤色魔力レーダーの捕捉タイプを展開して眼下の浮遊島へと飛ばす。


 捕捉レーダーの感覚が島の木々に振れるかどうかといったその時、茂みが揺れて陰から先ほどの尾を曳く火球の群れがぶわりと立ち上がってこちらへと向かってきた。

 いつものように細氷の霧を高速で周回させて火球をいなしつつ、動きが鈍った所で氷杭を突き刺していけば纏わりついていた火球は順番に砕滅して行った。


「で、あいつか」

「きつね?」


 未だに視認こそ出来ないが赤色魔力捕捉レーダーにはきっちりとその濃い動的魔力が知覚できている。

 その形状はアウレーネが言うようにキツネだろうか。

 尻尾が4本あるように見えるのは流石はダンジョンと言った所か。もふもふ増量中である。


 茂みの中で姿勢を低く構えていた尻尾増量キツネ、仮に妖狐としておくか。妖狐は4本の尻尾を器用に振ると再び尾を曳く火球の群れ……これはもう狐火と言っていいだろう。狐火を再び生み出してこちらへと嗾けてくる。


 再び雑にいなそうと細氷の霧の圧を高めると、細氷に踏み込む一歩手前で突然ひたりと停止すると、狐火の群れが寄り集まって燃え盛る大きな狐となって飛びかかってきた。

 流石の細氷の霧の高速回転も体高が人の背丈ほどある狐を模った火炎を防ぎきる事は出来ず、外部装甲に辿り着いた狐火は舐めるように這いまわって装甲の境目から白輝銅アマルガムを攻め苛んでくる。


 メタルゴーレムに憑依させたサブ人格からアマルガムの表皮が煮え解けていく感覚を感応しながら俺は伏せていたダガーコアを寄せようとして―――。


「―――ヒット。……大丈夫? げんた」

「……まぁ、これくらいは」


 いつの間にか起動していた肩口の銃口から爆風の紫煙がそよぐ風の中をたなびいている。

 捕捉レーダーに映る妖狐の頭部の魔力が滅茶苦茶に掻き乱されたかと思うと、その身体を横たえると同時に魔力が方々へと拡散していった。


 アウレーネがスマートに仕事をしてくれたみたいだ。

 本音を言えば捕獲してみたかったのだがな。


 とはいえ星白金弾が致死レベルで有効だという事が分かったのも十分な成果ではある。

 先は長いのだし、まだ第8階層を一歩踏み出したばかりだ。こだわり過ぎずに気楽にやって行こう。


 気を取り直して焙られてガサついたアマルガムの表層を淵源複製で修復してから島に降り立ち、茂みの中を探せば天霊の抜け殻なる白銀色をしたもふもふの毛皮が一枚落ちていた。……大切に使わせて貰うからな。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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