118:異質なガンドの使い道
何だかよく分からんけど出来た。
幾らか検証してみた結果、俺はそう結論付けた。
だって仕方ねえもん。一応レベルの魔力変質が特性欄に追記されはしたものの、正直魔力変質を制御出来てはいない。
魔力塊中枢、仮称アストラルを俺というか自己認識に近付けるという何ともアバウトな方法でしか今の所レベルの魔力変質の再現は得られていない。
―――自己複製か?
「お前はいいよな。もうそこまで応用出来てて」
隣でレベルの魔力変質の検証を続けるオルディーナの周囲では既に光球や雷球、謎の蠢く触手などの様々な現象、物体が生成されては踊っている。
―――望む姿へと像を合わせる様に魔力を充てる。
「やってはみたんだがな……」
試しに鳥の姿をイメージして仮称アストラルの蠢きの中に魔力を充てる。
何度か充て直した末に魔力が紫色の呈色光を纏って変化を始めたものの―――。
……うん、気持ち悪い。
その場には俺の顔をした半人半鳥半透明のモンスターが鎮座していた。
その上、気持ち悪いのは見た目だけの話ではない。
目の前の半人半鳥のモンスターが持つ自己認識というか体性感覚が俺の意識の中に紛れ込んでくるのだ。
つまり、俺にはついていない翼から返ってくる体性感覚が俺本来の腕の感覚と混線競合して物凄く居心地が悪い。
結局のところ自分と同じ物を複製するという形でしかレベルの魔力変質を発現させる事が出来なかった。
―――興味深い。感覚感応は再現できていない。
「その所為でまともな使い方出来ねえけどな」
オルディーナも自身とそっくりなレベルの魔力変質構造体、厨二女が命名するガンドを作ってみたものの、俺の悩みの種である感覚感応の再現は出来ないようだった。
こちとらデフォルトで引っ付いてきてフィギュアの腕を捻られるだけでも痛みこそなけれど自分の腕がそのまま捻られているような幻肢の錯覚を覚えるから単純に邪魔なだけなんだよな。
―――ならば感覚感応を前提とした用法の考案が必要だな。
まあそれはそう。
パッと思いつく中でも先ほどのマジッククレイの代わりにメタルゴーレムの中に重ねて入れたらメタルゴーレムを自分の身体に近い感覚で動かせるようになるのかどうかなどなど。感応するなら感応するで適した使い道を考えるだけだ。
期待した成果は得られなかったものの、これはこれで興味深い力ではある。
検証を進めて新たな手札に加えるとしよう。
* * *
―――着いた。
「……あぁ、着いたか」
浮上した意識を受信ゴーグルの先に傾ければ、赤熱した溶岩がぼんやりと辺りを映し出す。
……溶岩閉鎖区画の先ではあるものの、今までの坑道とは違ってごつごつとした均されていない岩が行く手を遮る自然洞窟に近い形状の通路になっているようだった。
第7階層の坑道の先、溶岩閉鎖区画は今までその内部を手探りでほぼ直進するだけだったが、赤色魔力レーダーを使う事で閉鎖区画内部をスキャンしながら探索する事が出来るようになった。
溶岩閉鎖区画は上の坑道の主道程ではないが緩やかに曲がりくねった道の所々に枝道が上へ伸びていて、今の上陸地点に行くまでにもそれなりに探索時間を要したようだ。
……実の所俺はさっきまで半分寝たような、うつらうつらとした状態だった。
―――次は……索敵。
胸中から浮上してくる硬質な意識はレベルの魔力変質によって生成した厨二女が命名するガンドの意識だ。……ガンドというよりはどちらかと言えばどこぞの有名な漫画やゲームのサブ人格に近いな?
何故か俺と感応する特徴を持ってしまった俺のレベルの魔力変質は、推測通りメタルゴーレムの中に移す事で今までのゲームコントローラーを複雑にしたような操作感から近未来SFモノで良くあるVRゲームのような、自らがアクションをしているかのような操作感に変わった。
その他にもついさっきまで探索させていたように、生成したガンドを俺自身の胸中に収める事で俺の大雑把な指示の元、俺のサブ人格が俺をセミオートで動かす事が出来るようになった。
これで一番変化したのは日常労働だな。
思考を完全に飛ばしたまま業務が出来るようになったので考え事をしている時間が増えた。
業務中何やら職場の同僚に更にノリが悪くなったッスねと言われた記憶があったような気がしないでもないがまあどうでもいい。誤差の範囲だろう。
勿論ダンジョン探索においても有効性を発揮している。
発見した上陸地点にメタルゴーレムを転送すると赤色魔力レーダーが展開され、周囲をスキャンする。
この魔力の展開はサブ人格に任せている。
魔力を一定量サブ人格に供給してやれば、サブ人格は魔力を変質させて俺の認識通りに展開してくれる。丁度スキルの増設弁を開放した時と同じ感じだな。もしかすると仕組みも同じものかもしれない。
メタルゴーレムを操作する俺自身が展開されたレーダーから魔力を読み取って判断しなければならないのは変わらないが、それでも負荷は大分軽減された。
少し前、ポエム烏戦前後から課題になっていたキャパシティオーバー問題の一端を解決する事が出来たのは好都合だ。
それはヨシとして上陸地点からは自然洞窟が岩と岩の間に食い込んだ裂け目のように伸びて急こう配な傾斜を作り出している。
手摺や階段といった洒落たものは当然存在しないので銀腕も使って地道に登っていくしかないか。
幸い枝葉の様に伸びた裂け目はそこまで深く伸びている訳ではなく赤色魔力レーダーの索敵範囲内で行き止まりになっているため、迷う事も枝道を探索する必要もなく一本道を昇っていける。崖登りが必要な悪路ではあるが。
手前に掲げておいた橙色空間魔力を雑に緑色斥力魔力で包んだ赤肉メロンに飛び込んで来た削岩ケラを電灯代わりに使っている曙光の華剣で切り裂いて光の泡に還すと、一瞬だけ生じた暗がりの中で遥か頭上に華剣とも魔力の呈色光とも違う、別の灯りが漏れて来ている事に気付いた。
どうやらそろそろこの隠し洞窟も終点に近いらしい。
ほぼほぼ一本道の割に2本生えていた金色の謎鉱石柱の内の1本から例のラピスソフィアなんかを回収出来たりしたのでそれなりに美味しいルートではあった。この悪路を加味しても一周の手間と実入りはこちらの方が良好な感じだな。
終点が見えたとはいえ残念ながらまだ赤色魔力レーダーの索敵範囲外なので一足飛びにとは行かないが、手前の5メートル程の崖の上部に銀腕を引っかけて一息に登躒しようとして―――。
―――フォゥオオオオオオウゥー……。
太く響く蒸気機関の警笛のような音色が洞窟内部を揺らして吹き抜けて行った。
……何となく終点のネタバレを食らってしまったような感じだが、まあそれはそれで好都合ではある。
数回の崖と数匹の削岩ケラを処理して見えて来た横穴からそっと顔を出して。
「あぁ、うんまあ。……うん? えぇ……」
まあいいんだけど、何かもやッとする。
推定階層ボスの元ネタは分かったが、同時にその魔改変ぶりに俺は困惑せざるを得なかった。
拙作をお読みいただきありがとうございます。




