116:ぷらいまるとりにてぃ
コミュ力の怪物と厨二女と飲兵衛一笊。
謎の重苦しい空気に包まれかけた場を切り裂いて乾杯へと強引に持って行った勇者氏が開いた飲み席は、……案外和やかに進んでいた。
『私が知っているチームでも小さな半透明のドラゴンさんが活躍していますよ』
『おー。礫嵐を使える子?』
『はい、良く分かりましたね。お知合いですか?』
『それなりにねー』
勿論勇者氏が会話を回しているというのもある。けれども。
『それにしてもこれ本当に美味しいわね。それに良く寝かしてある』
『でしょー。深い味になるのがアルファのお酒のいい所よねー』
『……羨ましいわね』
アウレーネと厨二女との会話も案外弾んでいる。
先ほど膨れ上がっていた圧がまるで嘘だったかのように。
……うん、まあ。
キョロ充でもなし、周囲の反応を気にするだけ無駄だな。
「そういえば勇者氏。最初何か言おうとしていたが何だったんだ?」
『あっ! そうです。アルファさん。私は貴方に謝らないと行けなかったんです』
話を振ってみたら何故か急に勇者氏が謝り出した。
詳しく聞いてみれば土砂降り階層で重傷を負って気絶した三人を温めるために俺が転がしておいた豆炭をドイツ探索チームがチョロまかして勇者氏の自宅ダンジョンにある納品相当設備に納品した結果、ドイツでは生贄のダンジョン素材を納品すれば豆炭を量産できる状態になったらしい。豆炭のエネルギー効率が桁外れに良好なためドイツは豆炭発電に本腰を入れる腹積もりだとか。
俺が救助のために善意で渡した物をドイツが勝手に使って自分の手柄のように扱ってしまったと勇者氏が酷く申し訳なさそうに詫びていた。
『その上メンバーの一人が少し前に日本のインフルエンサーの方と接触を持って何かしていたみたいです。日本と言えばアルファさんです。追い撃ちを掛けるみたいでとってもすみませんが気を付けてください……』
……どうでもいい。
思う所が無い訳ではないが、まあそこまで目くじら立てる話でもない。
俺にとっては紺鉄鋼を作るための素材でしかなかったが、ドイツが他に使い道を見つけたというだけの話だ。その上結果を聞いたところで別に俺が発電事業に参画したい訳でもない。
量産に関しても俺の懐はびた一文痛まないし公に販売するつもりも毛頭にないので競合することは金輪際をぶち抜いたとしてもない。やりたきゃ勝手にやれという話だ。
「まあつまるところ。使いたきゃ使えだな。燃料にもなるってのが面白いデータだ。運用した実績データをウェブ上に公開するならチャラにしてもいいぞ」
そう返したら何故か勇者氏が感動して頻りに頷いて確約していた。こいつの琴線の在り処が良く分からん。トラップハウス並みに張り巡らされている気もする。まるで鳴り子だな。
まあもしデータが上がったら気が向いた時にダウンロードして眺めておくか。そこから何かいいアイディアが閃くかもしれん。……知らんけど。
『ふうん。アルファさんは魔石炭を何に使うのかしら』
―――誘ってるね。さっきから情報を。
コイツ、胸中に直接ッ。
……冗談はいいとして。アウレーネが胸中でぼそりと呟いた。
うむ、まあ言われれば確かに。
当然紺鉄鋼の素材として使う事は伏せてある。今回は割と直接的に突っ込んで来たが、記憶を手繰れば厨二女には含むような言葉を言われたし、少しずつ余計な事を喋っていた気もする。
またぞろ何かを求めていたりするのだろうか。その……例のアレみたいに。
厨二女が望んでいるものが読めなさ過ぎて思考を打ち切りたいがそういう訳にもいくまい。
「さてね。お前はどんな使い方を思いつく?」
そう混ぜっ返してやれば厨二女はこてりと首を傾げた。上の烏がバランス崩してんぞ。
『そうね。私はガンドになんでもやらせてしまうから、魔石炭を使えと言われてもドイツと同じように燃料くらいしか思いつかないわ。
……でもね。私のガンドは万能なの。それで十分。どんな物にだって、どんな現象にだって変われる最強の魔法よ』
『それ、すごいですよね。クリムゾンウィザードの魔法は何なのですか?』
おっと、勇者氏。ナイスキラーパス。正直俺はそれが聞きたかった。
『ふふん。知りたいわよね。いいわ、私の勇者、それから弟子。……この魔力変質はね。レベルの魔力変質なのよ』
……確かに。
確かに最初の頃レベルとその他のステータスってなんだか連動せずに独立しているなとは思っていた。
しかしまさか魔力変質すら独立して存在する、最早一つのステータスだとは……うん、まあ少しその可能性はあるかもしれないと思っていたがまさかという思いではある。
「レベルの魔力変質ね」
『知らないなら教えてあげてもいいわよ』
教えて欲しくはある。
だが、先ほどから何かを誘うような言い回しが胡散臭くて踏み込むのを躊躇う。
「まどろっこしいな。さっきから何を求めているんだ?」
『えっと……? アルファさん?』
いい加減鬱陶しいので斬り込むことにした。
『そうね……。貴方が作ってきた回復薬やさっきの魔石炭などの魔法の数々……本当に魔法なのか少し気になってたのよね』
うん、訳が分からん。
……う、む。訳が分からないなりに解釈をするなら厨二女はレベルの魔力変質の万能性で全てゴリ押すプレイスタイルを取っているから…………あれか? 前から微妙に違和感を感じていた魔法云々って言い回しは言葉の綾ではなくて。
「俺はどちらかと言えばクラフターだ。素材を元にアイテムを製作している」
『そうだったのね。それで魔石炭の情報化に違和感があったのね』
あーね。レベルの魔力変質とやらで物を作り出していたなら赤色魔力レーダー二種類の様に即スキル化していてもおかしくないはずだ。
少なくともドイツが納品した結果、初めて情報ソースに収録されるというのは非常に遅い。
『スキルではないアイテムはダンジョン内で消滅して初めてダンジョンの情報ソースに収録されるわ。正確に言えばスキルも、だけど』
『そう、なのですか?』
……それは、初耳だな。
『このグラスもそう。ワイングラスのガンド自体は初めて作ったけれど、これが破壊されてその魔力と霊力がダンジョンに取り込まれた瞬間に、スキルとしてワイングラスを生成する魔法、あるいはアイテムのワイングラスそのものとしてダンジョンの情報ソースに収録されるの。
スキルは使うたびに構成されては崩壊してを繰り返しているから言うまでもないわね』
確かに、コア生成のスキルが何故かグリモワールの写本に引っかかってこないなと不思議に思っていた。その割にコア礫嵐のスキルは開発したら即収録されていたりと謎が深かったが、あれは素材として作り出したコアが不要になったら魔力を抜いて吸収していたせいだったのか。
いや、そして。
「霊力とは」
『レベルが齎す力の源よ。そして全ての魔力の根幹。アストラルを生み出す源泉よ』
「勇者氏。解読できる?」
『アストラルはたしかヴァルヘイムの魔法学派の一つでしたね。マジックポイントをとっても使いますが威力の高い魔法が多いので専用のビルドだととっても強いです』
「良し分かった。もう喋らなくていいぞ」
『えー……』
まるで当てにならんという事さえ分かれば後は不要だ。
『ふふっ。私の弟子。聞きなさい。クリムゾンウィザードの教えを。
―――至高の魔法、レベルの魔力変質を得たければ赤の瞳を持って己と対峙しなさい。
己の霊と向き合い、アストラルの囁きに耳を傾けなさい。
その先にレベルの魔力変質はあるわ』
「ゲームの道案内キャラかな?」
スピリチュアルが過ぎる。
『もしかして、その喋る烏ちゃん。導きの北辰烏だったりします? ヴァルヘイムの』
『あら、貴方も知っているのね。私はやり込んだプレイはしていなくて情報を集めるのが主だったけれどアレは好きよ』
『おーやっぱり。会うのがとっても大変なんですけど健気で可愛いですもんね』
『裏で密かに主人公を手助けしたり陰ながら作中で重要な役割を果たしているのよね』
そしてスピリチュアルな内容を飲み込みかねている間に話題が既に転がって、何だろうこれ。ゲームオフ会のノリになっているな?
『ふふん。でもそうね。アルファ。貴方は私の弟子だけれどその目は魔法に向いていない。物を見つめ、物を扱う……。そう、貴方はウィザードではなくアルケミスト。』
「クラフターだが?」
さっきクラフターと言ったが?
『そう、そうね。うん……、いいわ。
この三人、ダンジョンが世界に広がる前にダンジョンを切り拓き、仕組みを作り上げていったこの三人。
魔法の源流、クリムゾンウィザードであるこの私。
先駆の英雄、エメラルドブレイバーのクライグ。
それから万物の紡手、アズールアルケミストのアルファ。
―――我ら原初の三位、プライマルトリニティ。
……そう呼ぶのはどうかしら?』
『おーとってもカッコいいです! エメラルドブレイバー!』
「クラフターだが?」
あ、これ聞いてませんね。疑問符投げかけてる癖して魔女帽子の下の目は明後日の方を見つめて一人悦に浸ってるわ。
その隣では何か装備:バスローブ野郎がエア剣とエア盾を構えてポーズを取って何してんだか。優顔の癖して身体つき引き締まってるから何かギリシャローマ辺りの石膏像的な雰囲気で微妙に似合っているのが釈然としないが。
俺こんな奴らと一まとめにされんの? やだよ?
拙作をお読みいただきありがとうございます。




