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111:更夜を越える

「だァ! いい加減ッ! 終われッ!」

「頑張れー」


 君はいいよね。結局相性の都合で工房待機に戻ったから。

 試しにアウレーネに追跡を手伝って貰ったが、コア質のヤドリギが迫っても同様にクソチキンは距離を取ろうとするので総合的に勘案して俺が地道に追跡した方が早いという結論に至った。追跡状況で位置関係が変化する標的相手に定点探査は相性が悪い。


 案の定本宮っぽい場所の隠し水道を抜けた先でスタンバイしていたクソチキンは俺が近付くと再び羽を広げて飛び立った。


 流石にこの状況で巨人状態で徘徊する黒アメーバの相手までしていられないので多少遠回りをした箇所もあったが、クソチキンは問題なく追跡できている。


 ……どちらかと言えば誘い込まれていると言った方が正しいのだろうな。

 着かず離れずの距離を維持し続けるクソチキンは嫌がらせのように黒アメーバなどの障害を擦り付けつつ、宮殿内を飛び回っていた。


 太い梁の間を飛び過ぎるクソチキン……いや、クソ烏の後を追って同調細氷の霧で凍え幽霊を牽制しつつ銀腕を使って梁と梁の間を飛び渡る。


 全周を覆うから積層密度を疎らにしなければならないのであって、指定方向の一部位局所的に展開する分にはミリ単位の分解能にまで赤色魔力レーダーの積層数を増やす事が出来た。


 全周を覆う疎らな索敵レーダーと捕捉した標的周囲に展開する密な追跡レーダーの組み合わせで浮かび上がってきたのはそこそこ大柄な烏だった。


 魔力濃度は高い。手頃な比較対象が居ないから正確には分からないが黒アメーバよりは遥かに上を行っている。

 その魔力の質も高い。幾つかの変質魔力が体内で生成されているようでそれらを使いこなして縦横無尽に宮殿内を飛び回っているようだ。


 これはもしかして、もしかしますかね。


 ふとした気付きは宮殿の中庭を直進してくれるというド畜生ムーブの前に一端脇において、響狼の巣窟を刺激しないようにぐるりと主回廊の梁を回り込んで再び追跡を再開する。




 ド畜生鬼ごっこは主回廊を逸れて少し外れた先でひたすら続く隠し水道の螺旋階段を昇り、がらんどうの大鐘楼の頂上にて終わりを告げた。


 クソ烏が軽やかな羽音を響かせてT字の止まり木の先で羽を休める。


 その反対側にはよく似た魔力と姿をしたもう一羽の烏。


『人よ、人よ。何故進む?』

「「うわ喋った」」


 思わずハモったわ、アウレーネと。

 喋る烏自体は厨二女の所で見ているとはいえ急に喋られると反応に困る。


「そこにダンジョンがあるからだろ」

『人よ、人よ。何故越える?』

「これ聞いてる?」


 聞いてないっぽいね。どちらかと言えばポエムってる気がする。


『主無き世に踏み入る人よ。両の眼で見届けよ。

 主無き世を踏み躙る人よ。両の腕を振り立てよ。

 人よ、人よ。破局を越えて強くあれ』


 一通りポエムを詠い上げると、二羽の烏はふわりと止まり木から飛び立った。




 牽制で放った雹嵐はどちらの烏をも自ら避けるようにしてその乱流をいなされた。

 どうやらこのポエム烏は黄色同調魔力を使って自身近傍の魔力を支配下に置き、魔法の威力を減衰させているようだ。

 二手に分かれて挟み込むように飛んできた二羽のポエム烏に嫌な予感を感じて腰部推進器に橙色空間魔力のスリップ転移まで使って鋭く緊急離脱すれば、二つの金色の閃光が激しく点滅する。


 こいつらもまた同調共鳴使いかよ面倒だな。

 焦点から遠く離れていた分影響はそう大きくはないが、それでも一瞬メタルゴーレムの制御が甘くなった。

 格下階層のハズなんだが全く油断が出来ないってのは辛いね。


 避けられた事を察知したポエム烏たちが周囲に大量の羽根を散らすと―――、上空へ向けて羽根の嵐を噴き上げた。


「わ、壊された」


 高い硬質な音を響かせて天井に貼り付いていたコア質のヤドリギが砕け散る。

 こいつはやり辛いな。

 今までの常套手段だった敵の相手をしている裏で布石を打っていくやり方が、布石にも注意を配られていて通用しない。


 羽根の嵐で壊されて行くコア質のヤドリギでそれでも足掻こうとしたのか上空で生成されたコア質のイガグリ爆弾が弾け、無数の棘が降り注ぐ。

 ポエム烏たちはそれらを丁寧に避け、羽根で弾き、返す気流で天井付近まで舞い上がって最後のヤドリギを砕いた。


 ふむ。付け入る隙は無い事はないがまだ手札が足りないな。

 とりあえず、記憶の片隅に手順を置いてダガーコアを射出し、ポエム烏たちの動きをけん制する。

 天井付近に滞空して何かをしようとしていたポエム烏たちは、ダガーコアを脅威と見てひらりと身を翻して中空へと降りて来た。


 お互いの出方を窺うようにぐるりとポエム烏とダガーコアが鐘楼内を巡る。

 何か手を打ちたいがこっちも中々キャパオーバーに近いのが痛いな。

 ダガーコア二本に加えて地味に赤色索敵レーダーと赤色捕捉レーダーの同時起動が負荷を掛けている。


「任せてー」


 暫しのにらみ合いを破ったのは再度のコア質のイガグリ爆弾だ。

 今度は下から噴き上げるような向きだからか、飛び散らせた羽根で乱流を作る形で棘の勢いを削ぐ。その隙に寄せたダガーコアは狙いが甘いせいか軽く捻るだけで避けられてしまった。


 だがそれだけの時間は稼げた。

 緑色斥力魔力と藍色構造魔力とを混成させた無数の斥力コアが鐘のない鐘楼の広間に渦を作って礫嵐を巻き起こす。

 黄色同調魔力で魔法の制御が相手に乱されてしまうなら緑色斥力魔力を纏えばいい。


 物理的な影響力を増した斥力コアはポエム烏たちを乱雑に打ち据えてその場に縫い留める。ポエム烏たちも散らした羽根で渦を巻いて斥力コアの礫嵐と相殺しているが回避挙動には移れていない。


「レーネ」

「おーけ……いやダメ」


 金色の閃光と共に斥力コアの礫嵐の制御が喪失する。

 大技使って強引に斥力コアの制御を乱してきやがったわこいつら。


『カァァ』

「あ、普通に鳴くんね」


 鳴きもするし喋りもする。そんな器用な奴らはその一鳴きを号令にフォーメーションを取り始めた。

 前衛と後衛と言った所か。

 上空に上がった一羽と反対にこちらの方へ降りて来た一羽。


 低空の一羽の前に橙色空間魔力の薄面が展開される。

 それが緩やかに此方へと射出されて―――。


「おいちょっと待てよ」


 嫌な予感がして緊急回避したものの、それを見越して追尾してきた橙色の薄面に左腕が埋もれる。

 火花が弾けるような感覚と共に、左腕の感覚が喪失した。


 魔力支配が奪われた訳ではない。


 物理的に切断されたのだ。


 重い音が響いて少し離れた場所に浮いていたもう一つの橙色の薄面の下にメタルゴーレムの左腕が落ちる。


 原理の推測は付く。一度は考えたからな。

 だが、実行できるかどうかはまた別だ。思い付きはしても実用性が無いと棄却した案だからこそ。

 転移門を応用した絶対切断。

 これは転移条件と魔力支配の関係から解体用にしかならないと判断した技術だ。


「逆。烏たちの魔力に染まったんじゃなくて、烏たちが私たちの魔力に合わせてる」


 アウレーネに依ればあのポエム烏たちはメタルゴーレムの魔力支配を抜いてきている訳ではなく、転移門自体を俺の魔力の質に合わせてきているらしい。

 七面倒くさい小器用な事してんな。


 だが、結果としては洒落にならない。

 素材の暴力で安全に攻略してきた今までだったが、紺鉄鋼や白輝銅すら抜いてくる攻撃とか自重しろと。


 だが敵の嫌がる事は進んでやるというのが道理というもので、ポエム烏は再び転移切断面を向けて射出してくる。

 咄嗟に橙色空間魔力を緑色斥力魔力で包んだ赤肉メロンを遮蔽に出せば相手の制御が乱されたようでその隙に距離を取る。


 何かないか。

 ダガーコアを寄せればポエム烏が身を捻って射線を避ける。

 詰めに至れる一手を。

 コア質のイガグリが爆ぜればポエム烏が身を翻して距離を取った。


 そのとき、……幻影が脳裏を過ぎった。


 ……いや、脳内麻薬だとか幻覚の類いとかじゃなくマジで視覚に映り込んできているコイツなんなんだ?

 真っ暗闇の中、褪せた色の全身鎧が花弁のような鍔を広げた剣を掲げ上げると、褪せた色の二羽の鳥……ポエム烏たちだろうか。ポエム烏たちがその光に驚いて身が竦んでいる。そんな映像が真っ暗な視界に映り込んだ。……目を瞑っても。


 これは……いや、推測は後でいい。今は攻略が先だ。


 今までポエム烏たちの逃走を警戒して使ってこなかったが、ここで思い切って危険札を切ってみる。


 再び遮蔽に出した赤肉メロンをポエム烏に寄せて圧を掛ける。

 ポエム烏がひらりと身を翻そうとした所で―――。


 赤肉メロンの中に生じた赤金色の斥力焔が煌々と闇夜を追い払った。


『ガァッ!?』


 腹腔の金鱗から斥力焔を供給し、赤肉メロンの中の斥力焔の火力を上げる。

 燃え盛る斥力焔は顔を逸らして目を瞑る黒い大烏を襲い、灼き苛んだ。


 唐突に焙られるポエム烏が金色の光を放って上空へと転移する。

 どうやら天井付近にいるもう片方が救助したようだ。


 予想通りだが効果はある。そして驚くことにポエム烏たちは未だここにいる。

 ボスだからだろうか。

 仕組みはよくわからないが灯りを付けた瞬間に羽音を立てて飛び去っていたはずのポエム烏は光を受けて虚を突かれてもなお、逃走せずに戦意を漲らせている。


 仕組みは分からなくても有効であるならば活用しない手はない。

 

 なおも煌々と焔を燃え上がらせる赤肉メロンを天井へと持って行けば、それを嫌ったポエム烏たちが下へと降りてくる。

 すかさず駆け寄る俺の姿をポエム烏たちが視認して―――。


 花弁の鍔を咲かせた曙光の輝きが、ポエム烏たちの翼を止め。


 その切先が停止する二羽を縫い留めた。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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