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11:ブレイクスルー

名称:回復薬

魔力:10

特徴:命の傷を癒す


 回復薬である。

 俺は回復薬の作成に成功した。

 最高の区切りが付いたところで、いい加減焦れて塩対応になってきたアウレーネを宥めてダンジョンを出る。精製残りの深血色の残渣液が入った壷はあまり動かしたくなかったので作成した装置類と一緒にアイテムボックスの中に置いてきたが、ペットボトル入り回復薬は持ってきた。おそらく大丈夫だとは思うが、まとめて収納して万が一アイテムボックスの中身が全部ロストでもしたら確実に折れる。心が。リスクヘッジと心の平穏も兼ねて最終生成作品だけは手元に置いておいた。


 ガラスコップに注がれた薄く色付いたブランデーを根っこがチロチロと大切そうに撫でている。

 アウレーネは行儀悪く頬杖をついて緩んだ顔でそれを眺めていた。


 これからの方針について考える。

 明日も休日なので朝からダンジョンに潜れる。

 潜って何をするか。

 まずは昨日残したアシ束カラムフィルターを全て精製したい。

 となると回復薬を入れる容器が欲しいな。

 物欲センサーにまとわりつかれるのはゴメンなので容器はこちらで買っておきたい。

 午前中はホームセンターで買い物だな。回復薬以外にも容器類は出来るだけ購入して物欲センサーをマネーパワーで殴り飛ばしたい。


 その後はどうだろう。

 回復薬という納得いく成果が出たのでこれを納品箱に納品してどうなるかテストしてみてもいいかもしれない。

 他には魔力回復薬の製法の検討と、回復薬の改良、その前に回復薬の有効期限の確認も必要か。

 そういえばすっかり放置していた喰投猿の埋蔵金についても少し調べた方がいいかもしれない。

 後はブドウ以外の果物類の効能と用法の検討、それから工房の庭先に植えた若枝が……育つかの前にロストしていないかの確認だな。

 優先順位としては精製の続きと若枝の確認と納品、後は流れでといった所か。


 手酌で追加しようとしたアウレーネ人形を抑えて切り上げさせ、俺は灯りを消した。




   *   *   *




 結論から言えば有効期限の確認は簡単だった。翌日ペットボトル入り回復薬をアウレーネに再度解析して貰った所、魔力が下がっていたのだ。期限の確認は十分魔力が下がった所で効力を調べてみればいいだろう。

 俺は午前中に行ったホームセンターで調達してきたボトルに回復薬を精製し終えると、スポイトで同じく買ってきた小型の調味料ビンに分注する。


名称:回復薬

魔力:10

特徴:命の傷を癒す


 昨日持ち帰った回復薬は今朝方魔力が9に減っていたから、思いのほか劣化が早い。結果的に言えばアイテムボックスの中に入れておくのが正解だったか。……まあリスクヘッジって大事だから。


 一つ検証を終えた所でもう一つ。納品テストだ。

 調味料ビン入りの回復薬を納品箱の上に置く。

 回復薬は光と共に消え去って、目の前の灰白色の転移象形が輝き始めた。軽く触れてみると魔力が移動する感触がする。後は念じれば転移が作動するだろう。


――――――ゴトン。


 さて次はと思い巡らせていたら傍らの納品箱から突然重い音が響いてきた。

 フタも継ぎ目もついでに床から動く気配もない謎木箱に少々苦戦した後、昨日オタマ魔石を取り出したのと同様に箱に手を置いて取り出そうと念じると、手元には細長い鉄の板……いや鉄の剣が静かに安置されていた。……物々交換ボックス?


名称:仮称鉄の剣

魔力:5

特徴:魔力を込めると粘り強くなる


 粘り強くなるって事は折れにくくなるって事だろうか。魔力数値が納品した回復薬より低いのが気になるが体積は数倍だし等価交換って事だろうか。

 幾つか浮かんだ疑問点は飲み込む。


「―――つぎにいけってこと?」

「いや、それはどう……いやまぁいいが」


 最低限の優先事項は済ませたし、庭先の若枝は茂っていた。死蔵していたヤドリギの種を一本樹の若枝に再び付けて様子を見ている。上手く発芽すればアウレーネが配下のヤドリギを通して枝に干渉しやすくなるだろう。俺が工房や外回りで作業しているとき、アウレーネの実体、ヤドリギを直接接触させる必要がある農作業はアウレーネ人形が小さい体でフル稼働だったからな。

 ともかく後は流れでいい作業だけなのだからこのまま流されてしまおう。

 俺は探索セットを引き寄せて転移象形に手をかざし、魔力を流して進めと念じた。




 第3階層は、洞窟だった。

 穴の直径は5メートルくらいだろうか。剣の長さであれば2人横に並んで振り回すことも出来るだろう。

 全体的に薄暗いが視界は通る。けれども光源は一切見えない。手をかざしてゆっくり回して見ると床面以外のあらゆる面から薄ぼんやりと光が来ているようだ。壁に手を当てて僅かな隙間を覗き込むと当てた手のひらが弱いながらも光を受けている様子が窺えた。

 俺はホームセンターに行ったときについでに調達したミニ工具セットのハンマーの裏、ピック部分で壁を突いてみる。軽く振られたそれは壁面に当たって、止まった。あたかも振り下ろされてなどいなかったかのようにまるで反動もなかった。

 色々調べてみると、上の階層の謎高度制限や領域端と同じように壁面以上の方向へのベクトルがなかった事になるようだ。壁端で無理に武器を振ろうとするとつるりと滑って危ないな。一番残念だったのがぼんやり光る謎壁の構造物を採取できなかった事だが。

 ともあれ、入り口で出来る検証はそろそろ切り上げてもいいだろう。

 俺たちは改めて曲がりくねった洞窟の先に踏み込んだ。




 ファーストコンタクトは猟犬だった。チワワサイズの。

 見た目はこうシュッとしているのだが如何せんガタイが良くない。

 筋力も見かけ倒しなようでそこまで速くもなく、タイミングを合わせやすい速度で迫って来たのでバックラーで薙ぐと叩いた後に鉤爪が引き裂いて、光の泡になって消えていった。あっけない。

 そういえば貰った鉄の剣を使い忘れた。必要になればその内出番が来るだろう。

 ドロップは魔力1の魔石だった。ヤゴやボグハンドは魔力2,3だったぞ。敵強度下がってるな?

 首を傾げながらくねり、時折枝分かれする道を進んで仮称チワワハウンドを片付けていく。レアドロップの小さな牙と相変わらず某金字塔RPGが引っ張ってきたパチモン臭い宝箱の中にあった魔防の手拭いをリュックに放り込んで先へ進み……。


「……これは流石に今までとは毛色が違わんか?」

「かいだんねー」


 通路の奥には転移象形ではなく階段がぽっかりと口を開けていた。




 ……バリアフリー化はよ。

 俺はガタガタ揺れるキャリーカートを宥めながら何とか下の階層に降りきった。

 今までずっと平面移動だったから忘れていた。しかし現状キャリーカートをオミットすると支柱に結わえたマジッククレイハンドや鉄の剣、呪物しっぽフレイルと腕のバックラーとかなりの重装備が一気に両手に圧し掛かる。

 装備の厳選は……無理だな。戦うだけなら盾と剣でいいだろうが、探索と収集もしたい。キャリーカートをどう階段適応させるか考えた方がいいだろう。


 はてどうしたものかと思案を巡らせながら先に進んで、出会った次の住人は緑色をした小人だった。

 うん、ゴブリンだね。

 ゴブリン属ゴブリン科ゴブリン的なゴブリンオブゴブリンがてってってと貧相な足を動かして棍棒を掲げて迫ってくる。バックラーを構えて鋭く踏み込んで間合いを詰めた後、チワワハウンド同様に薙ぐとやはり鉤爪に引き裂かれて光の泡になった。

 魔石の魔力は1、ゴミめ。だがクラフトベンチ操作で湯水の如く使うので回収しない選択肢はない。

 特筆する事もなく探索を進めて、俺たちは次の階段を見つけた。ちなみにゴブリンのレアドロップは小指サイズの鉄片だった。




 対策はバッチリである。

 俺はソリに変形させたマジッククレイハンドを元の安定感のあるメイス状に戻してカートの支柱に結ぶ直す。カートのタイヤを包むように、階段の歩幅を超えるようにソリを作ってやれば重力が自然と階下へ運んでくれた。勿論長柄はしっかり握って速度を殺しながらだが。

 登りは知らん。帰りの俺が何かしら考えてくれるだろう。

 ともあれ階段を降りて目に映る景色は……変わり映えしない洞窟だ。

 流石にこう……、飽きてきた。面倒だからパパッと解決出来る策を考えたい。

 攻略の鍵になるのは索敵。手札にはアウレーネが喰投猿戦前に使った光のヤドリギの分枝を介した魔力感知があるが、あれは視認範囲にしか飛ばせない。飛んだ先では周囲に潜んでいる敵を感知することは出来るがその範囲は限定的だ。流石に折れ曲がった通路の先までは感知できない。

 視認範囲内に飛ばして目を……違う、そう。


「レーネ。魔力のヤドリギは、殖えるか?」

「まりょくをすえないと大きくなれないよ?」


 条件次第だが構うまい。

 俺はアウレーネともう少し条件を詰めると、開発に取り掛かって貰った。


 洞窟を進んだ先の分かれ道。手前に居たチワワハウンドとゴブリンの散歩連れを光に返した後。


「頼むぞレーネ」

「ふふーん♪ぶらんでーぶらんでー♪」


 帰還後の酒造りを確約させたアウレーネが上機嫌に手をかざす。

 強い光を放つ光弾の周りに淡い光がまとわりついて、生じた光の目玉焼き、あるいはカエルの卵が分かれ道の先の壁に向かって放たれる。

 くねった道の先に着弾した光弾は、放たれた光の強さから比べれば存外慎ましいヤドリギを芽吹かせて。


「みちがつづいてる。こびとだけ」

道の先に(・・・・)飛ばしてくれ(・・・・・・)

「おーけー」


 通路の先に芽吹いた小さなヤドリギの一角から咲いた小さな花が強い光を放つ実を付けて、淡い光のジェルが優しく保護すると、ひゅんと通路の先へ消えていった。


「わかれみち」

「方角は?」

「まっすぐととちゅうでみぎに枝分かれ」

「両方に飛ばしてくれ」

「まかせてー」


 連鎖するヤドリギの索敵弾が種を作成できなくなる頃。雑に組み上げた脳内枝分かれマップ上では宝箱の位置と、どちらかと言えば今しがた連鎖索敵弾を飛ばした方とは別の分かれ道に近い位置に階段を発見した。

 もう一方の方にも同様に連鎖索敵弾を放ってもらい、繋がっている個所を整合して……。

 俺たちは最短経路で宝箱を回収して階段を降りた。宝箱の中身は魔力2の鉄の短刀だった。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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