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108:うぃんうぃん…?

『おめでとう。私の弟子。このクリムゾンウィザードの教えを授けられた事、誇りに思っていいわよ』


 いや、まあ弟子と言われればそうなんだけどね、うん。

 この一々むず痒くなる言い回し何とかならんのか。


 微妙に靄る感情を持て余していると不意に声のトーンが変わる。


『でも気を付けて。当然魔法の使用はダンジョンも観測している。ダンジョン内で人やモンスターを鑑定しようとすれば、ダンジョンはその価値に気付いてしまうわ』


 そらそうやろね。


 そもそも俺を呼びつけた話に戻ってくるわけだな。

 取り分け厨二女の言う鑑定可能な魔力変質、つまり情報収集に特化した魔力変質は仮に濫用してその使用結果がスキルとして広くばら撒かれれば一番に困った事態になるのはまさに俺たちのようなダンジョンに関して隠し事がある手合いだ。

 俺としても自滅は避けたいのでこの魔力変質の使用方法には注意を払っていきたい。


『さて、この観察力の魔力変質。幾つか使い道があるのだけれど、最も基礎的な使い方はやはり……』

「なあ、結局俺の魔導具のドロップ率についてはいいのか?」


 厨二女の魔力変質の用法についても気になる所ではあるが長くなりそうなのでまずは雑務からだろう。

 しばし固まった厨二女はそうね、と思い出したかのように再動した。いや忘れてたんかい。


『私の弟子なら問題ないわね。グリモワールの写本を用意しているわ。貴方にあげる』


 何その弟子無双。

 一変してのフリーパスぶりに価値観ギャップですっ転びそうなんだが。


 しかし貰えるものは貰う。

 大仰な装丁……よりは若干、いや大分劣る、基部の装飾を鋭意作成中ですといった装いの本を渡される。

 開くと白紙……から魔力が吸い込まれる感触がしてじわりと絵が滲んで来た。

 これは……星コアだな。


『そのグリモワールの写本は貴方が認識している物の情報を提示するわ。読み方は……あぁ、これ。貴方がこの何種類もの召喚石を低魔力濃度でばら撒いたおかげでモンスターのドロップ汚染が起きて軽い騒ぎになっているわよ?』


 ……うん?

 つまり黄昏世界の住人達が各自顕現できるように作った星コア……厨二女曰く召喚石がドロップアイテムとして世界中にばら撒かれていると。


 思い当たらない節がない事もない。

 そもそも魔力ロンダリングのために納品箱を通して作ったアイテムだ。当然のことながらダンジョンの情報ソースとでも言うところには回復薬同様に記録されているだろうし、見れば俺の魔力濃度としてではなく精霊たちの魔力濃度としてこの本には収録されている。

 星コア製作時点ではあいつらのレベルもそう高いものではなかったろうし、魔力を流せば精霊が現れて勝手に戦うというのはまあ使えそうで使えないほんの少し使えるアイテムだ。

 結果としてスキルオーブと同程度という程々のレア枠になってここに書かれているような多くのモンスターとかいう雑な括りの……あぁ意識すれば文字列が変化してクッソ細かい長文になるような多種類のモンスターからドロップするようになったわけか。


「心当たりがない事もないが副産物だな」

『副産物?』


 こちらの話だし確かめが必要な事柄だ。

 そう伝えれば不満そうな顔をしながらも厨二女はあっさりと引き下がった。


 今にして思えば少し前から精霊たちの探索に連れてけ圧が下がっておまけにそれに関連した問いかけに対してスラーとエコーが挙動不審になっていたのはこれの事だったのか。帰ったら軽く問い詰めなきゃならんな。


 少し調べる事がある。このグリモワールの写本とやらも詳細を確認して俺の制作物の中で対応が必要な物を調べなきゃならんし、今し方発覚した件もある。


『仕方ないわね。……確かに予習も大事よね、私の弟子。次に訪れる際には基礎を固めておきなさい。ここに来たらそこに居る私のガンドに言えば私に取り次いでくれるわ』


 頷いた厨二女が机の隅に彫像のように佇んでいた烏を撫でる。

 やはりそれもガンドとやら、推定謎変質魔法だったのか。

 それについても聞きたかったがそれ以上にもうそろそろいい時間だ。ぶっちゃけ、眠い。


「あぁ……。こっちも星コアに魔力を流せば俺に伝わる。必要になれば適宜使ってくれ」


 そう言って黄色同調魔力と藍色構造魔力を混成させた同調コアと橙色空間魔力と藍色構造魔力を混成させた空間コアを雑に癒合させた星コアを作り出して放り投げる。

 面倒過ぎて同調核を星形に成形してないから最早星コアとは呼べないが誤差の範囲だろう多分。


 何か忘れている気がしないでもないが必要であればまさに星コアを使って貰えば工房だろうと現実だろうと俺に伝わる。どうであれ致命にはならん。


 一通り確認ヨシして再び前を向けばぽかんと口を開けた厨二女が。

 今までずっと険悪な表情だったから分からんかったけどこうして見るとコイツかなり若い……な?

 まあ厨二女だ。若けりゃ若いほどその傷も浅く済むだろう。


 そんな印象を浮かべながら橙色魔力を展開して同調させ、メタルゴーレムを工房へと引き戻して撤退した。




   *   *   *




 これは……召喚石でしょうか。

 照会を通して情報自体はいっそ一言モノ申したくなるほど……実際に言いましたが……見て来ましたが、実物を見るのは初めてです。

 改めて真実の瞳で内部構造を覗いてみるとその構成精度の高さに驚かされます。耐久力と反応力、耐久力と機動力、それぞれの変質魔力を寸分違わず重ね合わせて構造体を作る。混成魔法という技術は最近知る機会こそありましたが、所詮最初から使えるように設計すれば望むように行使できるダンジョンモンスターの特権だと認識していました。人の身でも使う事が出来たのですね。


 彼……確か勇者さんはアルファと呼んでいたのでしたか。

 アルファさんとの話し合いが穏便に済んでホッとしました。

 最初こそ問題外の訪問方法で致命的な決裂を覚悟していましたが、話し合いだけで十分以上の結果を得られて良かったです。


 彼の力量は想像以上に高かった。

 彼がこちらに送り込んできた鎧……おそらくゴーレムは最初、彼本人かと誤認しました。

 霊力体(・・・)の密度が高過ぎます。

 いったいどのような魔法を使ったら本人と誤認するかのような高密度の霊力体を遠隔にて分離、操作し続けられるのか。

 ある程度の情報は集められる私でも全く推測が付きません。

 仮に彼と戦闘になっていたらまず敗北していたでしょう。


 でもまあ、何はともあれ…………。


 やりましたっ!


 特性:アイスウィザードの標本……。


 そして……命名規則の統一!

 いやあ何故か中間の巻だけ抜けている中古本シリーズを埋めてやったような爽快感が心地いいですね!


 スキルの方のアイスウィザードなら少し霊力を捧げれば幾らでも照会する事は出来るのですが、私がガンドに開発させた他の属性魔法同様に同じタイプの上位スキルなどが枝分かれして出て来た時には結局枝の大本、開発者の命名が優先されてしまうんですよね。

 結局一番は大本の特性から変更する方法が確実なのですが、これが中々難しい。


 ガンドに氷を見せて開発させることは可能なのですが、そうすると何故かアイスウィザードとは別の氷魔法として認識されてしまう。


 類似魔法の重複とかゾッとしますね。


 館の地下で“氷魔法”を開発してダンジョンに触れる事もなく消えて行ったガンドたちの安らかな眠りを祈りましょう。


 ……ふふん。でもいいんじゃないですか。私も。


 ガンドを介さなければクラークすら困惑してフリーズさせてしまう私の話術も、しっかりとガンドを通して会話すれば今回みたいに十分以上、むしろ最高の交渉を結んでくる事が出来るのです。


 つまり、私は声が小さいだけ。


 クラークもタクシーもオフィサーも聞こえていなかっただけなのです。

 決して私が何を言いたいのか分からないという訳ではなかった事は、今回の結果からも明らかでしょう。

 散々駄目だししてくれた教授にこの成果を叩きつけてやりたいですね。……まあもう会う事もないでしょうし会ったとしてもわざわざ手の内を明かしたい相手では誓っても無いので、代わりに脳内教授をペーパーでぶん殴るだけで満足しておきましょう。


 命名規則の統一も狙いの一つでしたが、彼にもそう伝えたように魔法濫用の危険性について忠告したいというのも本心ではあります。

 彼が渡したグリモワールの写本を上手く使ってくれれば広がりそうになっている魔法の中で危険性の高いものをピックアップしてくれる事でしょう。

 もしかすると私の知らない魔法をグリモワールの情報ソース、私のクリムゾンレコードに上げてくれるかもしれません。楽しみが広がりますね。


 そうやって知識を収集してクリムゾンウィザードの地位を盤石なモノとする。

 ふふん。私をフィクサーと呼んでくれてもいいですよ? なんてね。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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