105:白紙配送の絡繰り
名称:招待のスキルオーブ
魔力濃度:10
魔力特徴:招待
謎の小包には雑に梱包された緩衝材の中に詰められた紫色のスキルオーブが入っていた。
うん、どう考えても怪し過ぎる。
怪し過ぎるが、それ以上にマズいのが既に大幅なアドバンテージを取られてしまっている事だ。
俺が、……例の特性を開発したという事が知られていて。
そして自宅の住所がバレている。
これだけでもう俺に対しては生殺与奪権を握っているに近しいマウントが取られている。実際にやろうと思えば社会的に殺す事は可能だしな。
これに対抗するためには相手の情報が必要だ。
欲を言えば生殺与奪状態から相互確証破壊くらいまでアドバンテージを取り返したいところだが。
その唯一の手掛かりとなる情報源を見遣れば、丁度ウヅキが顔を上げた所だった。
「やはりこれは同じ。精霊というより魔法ですね」
「やっぱそうか」
緑色斥力魔力と藍色構造魔力を混成させて作った不透のコア質籠の中には一羽の烏が収まっていた。
宅配業者がこの小包を届けに来たときにその肩に止まっていた謎の烏だ。
受領するのを見届けるとどこかへと飛び去ろうとしていたので咄嗟に構造風で乱流を作って制御を乱して捕獲した。
小包同様にどう考えても怪しい烏、当然のことながらただの烏ではなく魔力を持つ、むしろ魔力で構成された身体だという事をアウレーネが見抜いて急遽魔力対策の不透籠を作成して収容し、工房まで持ってきた。
構造風の乱流の中に閉じ込めていた際にはそれなりに暴れていたものの不透籠に収容してからは一転して微動だにしなくなった怪しい烏に違和感が一層増していたが、先ほどのウヅキの見立てによればやはり生物というよりは魔法が生物を模しているといった形に近いらしい。精霊タイプのモンスターでしばしば見られる奴だな。
ほぼ白紙の小包と宅配業者の肩に止まっていた魔法烏。問題はどのような関連を持っているかだが。
「んー。魔力変質はありそう。けど私が知ってる奴じゃないねー」
アウレーネの見立てではどのような魔法なのか詳しく解析する事が出来ないようだった。
今まで見たことが無い存在だからな。取っ掛かりも無ければ推測のしようがない。
「これは……、私と少し似ている所がありそうですね。存在骨子に働きかける……いえ……、囁きかける、でしょうか」
考えあぐねていたらウヅキの方から意外な情報が飛び出て来た。
ウヅキと似ている。つまりは精神に働きかける能力を持っているらしい。
となるとあの宅配業者も暗示というか催眠というかその手の類を受けていたのかもしれない。
ほぼ白紙のシールから何かを剥がすような真似をしていたのも、宅配業者にはそれが正規の伝票に見えていたのだろう。
そして肩に止まっていた烏は存在しないものとして知覚外に押しやられていたのかもしれない。
「今もずっと、囁きかけていますね」
「……何も聞こえんが」
……マジ?
詳しく聞いてみれば烏自身を意識外に追いやるような精神への囁きかけは先ほどからずっとしているらしい。
それにしては最初に見た時からずっと変わらず違和感を放ちまくっているように見えるが、ウヅキいわく魔力濃度が違い過ぎて精神にまで届いていないのだろうとのこと。
あーね。
不透の魔力籠で捉えられるという事は俺の魔力濃度以下、つまり俺のレベルよりは格下という事だ。
魔力によって精神に働きかけるのであれば大半の魔法のようにレベル差による影響度の強弱があるのだろう。
宅配業者の若いのが覿面に効いて俺には全く効果がない訳である。
ともあれ小包を運んできた方法については推測が付いた。
次は俺を探知した方法か。
俺、尾崎とは宅配業者が言っていたが小包にはアイスウィザードとしか書いてない。
そもそも俺個人がバレているのであれば正規の伝票を使って送り主の空欄は暗示で騙しつつ送ればいいだけの話なので、発送時にはアイスウィザード=尾崎幻拓というのはバレていないはず。……だと思いたい。
まあこういう手掛かりがまともにない状態で最悪を想定し続けていたら埒が明かないのである程度は期待込み、確度半々って事で三割くらい信用して次に進めよう。
発送時に正確な情報が分かっていないのであれば、正確な情報を逐次調べながらここまで辿り着いたのだろう。
つまり、こいつの調査能力という事だな。
……思考の隅に這い寄ってきた懸念はある。
あるにはあるが、それはまだ先の話だと思っていた。
「他人のステータスの鑑定……」
「ぽいねー」
まじかー。まーだろうね。
生き辛い世の中になったもんだ。
流石に他人のステータスを盗み見る事が出来るようになってしまったら俺の異常さというのはもろに露呈する。
先送りにしていたが身の振り方も真剣に考えた方がいい時期にきているのかね。メンドイ。
それは後で考えるとして、この魔法烏、いや烏魔法は特性アイスウィザードの情報を鑑定しつつ宅配業者を催眠して小包を運ばせた。
恐らく方法としてはこんな所だろう。
で、肝心の対策な訳だが。
「なあレーネ。俺たちで分かる魔力変質は無かった、んだよな? 反応力の魔力変質も?」
「そだよー? 普通の白いのじゃない魔力はあるけど分からない」
ふむ。
それに加えて先ほどの行動を振り返れば……。
まあ一つ、思いつかない事もない。
* * *
湖を望む館は、静かで合間にふと外を眺めるだけでも心が凪いでいくようです。
湿気こそ私にとって大敵ではありますが、彼らも私のプレゼントを上手く活用しているようです。今年の夏はより一段と過ごしやすい。
憧れのマイ図書館はやはり素晴らしいですね。
一儲けしてから背伸びして買った甲斐がありました。
惜しむらくは禁書庫と少し距離が離れてしまっている事ですが、まあ甘受しましょう。あそこは生活するには少し騒々しい。
生活の場としては適さない禁書庫前ですが、それでも禁書庫は私にとって大切な場所です。
こちらも少し冒険してアパートメントごと買い上げましたが必要経費でしょう。
……アイスウィザードさんに招待状を送ってから一週間になります。
少し遅いですね?
やはり国外への郵送だからでしょうか。一応ガンドには航空便に乗るように伝えておいたのですが。
そのとき、羽音がして見上げれば窓越しの空に黒い烏、私のガンドが帰って来るのが見えました。
やっと帰ってきましたね。招待状も無事届けられたようです。
さっそくガンドを回収したら禁書庫へと向かいましょうか。
そう思って差し出した手の上で、私のガンドは―――。
爆発しました。
『よぉ。ファッキン招待状を送ってきたのはお前か?』
拙作をお読みいただきありがとうございます。